ガゼルマンがミスターノアから離れ、リングのコーナートップへとジャンプした。リングロープの反動を利用しながら、背面からガゼルマンが宙返りするように飛んだ。
『ガゼルマン! ラ・ケブラーダだ! しかし、勢いがつきすぎて、ミスターノアの頭上の上を飛んでいくぞ!』
「友の応援で気合いが入ったようだが、入りすぎたようだな」
「こいつが自爆技だと思ったら大間違いだぜ!」
ガシィ
ガゼルマンは落下しながらも、両の足をミスターノアの首にひっかけながら、両の手でミスターノアの脚をつかみ、そのまま自分とミスターノアごと体を反転させた。
「ガゼルの鮭狩り!!」
ガァン
ミスターノアの頭がリングに叩き付けられた。この技はセイウチンがかつてバス・ザ・シャワーを倒した必殺技サーモンスプラッシュそっくりであった。セイウチンが喜ばしい顔をしている。
「おお! オラの技だ! ガゼルマンが使ってくれて嬉しいだよ!!」
「ぐうう!!」
ミスターノアは、先程ガゼル・ブランディングで頭を叩き付けられていた分、今の攻撃で、より頭部の怪我が酷くなり、頭部から大量の出血が見られる。
「そろそろ貴様の快進撃を終わらせてやろう! 魂の手刀!!」
バシィィィン
ミスターノアの強烈な手刀がガゼルマンに直撃した。ガゼルマンは手刀が当たる寸前に、両腕をクロスしてガードはしたが、あまりの威力に体が吹っ飛んだ。
「ガゼルマン! ガードはしましたが、自身の体が勢いよく吹っ飛んだ! このままリング外へ一直線か!」
しかし、ガゼルマンは吹っ飛ばされながらもにやりと笑っている。
「万太郎よ、お前の技を使わせて貰うぜ!!」
ガシィ
ガゼルマンは自身の体がリング外に出る寸前で、両腕でリングロープを掴んだ。リングロープはどんどんのび、やがて弓矢の如く、勢いよく元の形に戻る。
ギュウウウン
ガゼルマンはリングロープの反動を利用して、勢いよく自身の体を発射させた。目標はミスターノアである。
「なにぃ!?」
ミスターノアはガゼルマンの体を受け止めようとする。
「食らいやがれ! 逆襲の肉弾!!」
ドゴォォ
ガゼルマンの頭部がミスターノアの腹にささった。
「ぐほぁ!」
その状態で両者の体がリングロープまで飛んでいった。
ミシィィ
ガゼルマンの強烈な人間ロケットにより、ミスターノアの後頭部、腰、ふくらはぎにリングロープがくいこんだ。多少の違いはあるが、それは万太郎の必殺技マッスルミレニアムに類似していた。それを見た万太郎は驚いた。
「凄いよガゼルマン! こんな形で僕の技を使うなんて!」
「当たり前さ! 俺はNo.1の男なんだからな!」
ガゼルマンが技を解くと、ミスターノアがダウンした。
『ガゼルマン怒濤の必殺技のオンパレード! ついにミスターノアがダウン! これで、人類の未来のかかった試合も終わりの時が来たか―――――っ!!』
しかし、ミスターノアは立ち上ってきた。
「流石に、身体のダメージも限界の域まで来たようだ……次で出す技に、私は全てをかける!!」
ミスターノアは目に止まらぬ速さでガゼルマンとの間合いを潰し、左手刀をガゼルマンの首に直撃させた。
バシィィィ
「がはぁっ!」
「最後はこれでいかせてもらうぞ!!」
ギューン
それはジェロニモを倒した
『ミスターノア! ガゼルマンの首に左手刀をひっかけたまま、空中へ上昇! そのままガゼルマンの首を狩るように、左手刀を落とし、リングへ落下していくぞ!!』
ゴオオオオ
ガゼルマンの体に凄まじいGがかかった。脱出しようにも体が動かせない。ガゼルマンの諦めの考えが出た。
(すまねえなアダムス、もう少しでお前のかたきとれそうだったが、無理みたいだ……)
カァァァン
ガゼルマンの脳裏に閃きが生じた。このピンチを脱する方法を考えついた。
「さあ、お前も帽子男の元へ送ってやるぞ」
「アダムス……お前の死は決して無駄にはしないぜ!」
カアアアア
ガゼルマンの体により強い金色の発色が現れた。ガゼルマンは最後の力を振り絞り、ミスターノアの左腕に三角締めをかけた。
「悪あがきか? 最後まで試合を諦めない姿勢は評価してやるぞ」
「ぬおおおおお!!!」
ガゼルマンの気合いの声が響く。そして両者の体がリングに勢いよく落ちた。
ズドォォォォン
砂埃がまたも舞い、両者の姿がよく見えなくなった。
『さぁ勝ったのはミスターノアか! はたまたガゼルマンが逆転の技を決めたか!!』
砂埃が消え始め、リングにおける両者の姿がはっきり現れた。ガゼルマンがミスターノアに三角締めを決めながら、フランケンシュタイナーを決めていたのだ。
「まさか……こんな結末になろうとはな……しかし、亡くなった友の技で決めるとは……さすがNo.1の男だ……」
そう言って、ミスターノアは意識を失った。
カン カン カン カン
「わあああああああ!!!!」
会場に高らかにゴングが鳴り、観客からけたたましい歓喜の声が鳴り響いた。ガゼルマンが右手をあげて、顔にはクールな笑いが見えた。
『ガゼルマンついにやりました!! 誰もこんな展開を予想していませんでした!! これはもはや歴史的勝利といっても過言ではないでしょう!! これで人類の未来は救われたのです!!』
バタン
ガゼルマンが突然リングに倒れた。
「ガゼルマン!!」
ドドドド
過去の世界から帰ってきた万太郎達がリングのガゼルマンにすぐに駆け寄った。万太郎が一番先にガゼルマンの元へ駆け寄り、表情を見た。
「ガゼルマン……」
ガゼルマンの目が朦朧としていた。それはすぐに死にゆく者の目だと直感的に判断できた。万太郎の目には自然と涙が浮かんでいた。他の仲間もガゼルマンの状態と、万太郎の涙から全てを察した。
「泣くんじゃねえよ皆……」
ガゼルマンが今にも命絶えそうな弱々しい声で喋った。
「ガゼルマン! もう無理して喋らなくても良い! 楽にあの世に逝ってくれよ……」
「俺は散々笑い者にされてきた男さ……だからよ、俺の死を笑ってくれよ……」
「笑えるかよ!」
テリー・ザ・キッドが涙しながら怒りの声をあげる。
「今日のお前は今まで一番格好良かった! そんなてめえを笑う奴がいたら、俺がぶん殴ってやるよ!!」
「ありがとうな……キッド」
「ガゼルマン先輩!」
今度はジェイドが涙しながら、自身の思いを話す。
「初めて闘ったときは正直情けない先輩だと思った! でも、今のあなたは本当に素晴らしいと思う! だからこそもう一度闘ってみたいんだ! 頼むから死なねえでくれよ!」
「俺もお前にリベンジしたいと思っていたさ……でもすまんな、お前の願い……叶えられそうにねえや」
その答えにジェイドの涙がより一層あふれた。
「ガゼルマン、君が笑われて死にたいというのであれば、仲間としてその願いを叶えてあげたい」
万太郎が涙を流しながらも、笑いの表情を作ろうとした。
「ガゼルマンのガの字はナイスガイ~♪」
万太郎がカルビ丼音頭のリズムに合わせて、ガゼルマン音頭を歌い始めた。周りの仲間、そして会場の観客も一緒に歌い始めた。
「ガゼルマンのゼの字は絶好調~♪」
ガゼルマンの表情に安らかな笑みが浮かんできた。
「ガゼルマンのルの字はルックス良い~♪」
途中嗚咽で歌えなくなる者も出てきた。
「でもね~♪ 弱い♪」
歌が終わる頃には皆が泣きながらも笑顔を作っていた。
「これで……あの世へ逝けるぜ……」
ガゼルマンがそう言うと、目を閉じ、全身に力のない状態となった。呼吸音も心臓の音も聞こえない。彼は息絶えたのだ。
「うああああ――――――っ!!!」
万太郎は大量の涙を流しながら叫んだ。もちろん万太郎だけでない。新世紀超人達や会場内の多くの観客や超人がガゼルマンの死に涙した。
誇り高き鹿男散る……