魔法使いは黒猫に横切られる   作:鴨鶴嘴

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勝手にメアレス外伝 Ⅰ

 夢幻(ムゲン)でもがくアキレスが 亀を追い越した

 

 悲しみのまにまに(ぬる)い涙 糸を紡ぎ

 

 想いを強さに変える 優しい魔法

 

 羽ばたくアゲハ 今フロンティアへと至る

 

 人と夢の 天と地の

 

 交差する 黄昏(たそがれ)で──リフィル.

 

 

 ガス灯の下、石畳には裸のトランクケース。ハーディ・ガーディの突き刺さるような音色がこの空間を縫い止めてしまったかのように支配していた──事実、吟遊詩人の演奏を耳にした多くの人が、それぞれの営みのスピードを緩めていた。

 

「〈ロストメア〉だな」

 

「はい」

 

 ボーイアルトなその声は、先ほどまで詩を歌っていたものだ。ラギトは、孤児院に寄った帰り道に心がざわめくその音を耳にして、ガス灯にその身をぶつける集光性の虫みたく、吸い寄せられた口だった。

 トランクケースには硬貨が投げられて、足を止めていた人々は、波打ち際の足跡のように消えていく。

 

「黄昏時に門を目指さないあたり、この前の事件か」

 

「ええ……僕は人を励ます夢〈ソングメア〉、似非物の〈ロストメア〉です」

 

「似非物、か。身に覚えのある響きだ。さておき、そろそろ帰してもらおうか」

 

 ラギトは黒い鎧でその身を包み、暴力的な魔力を開放する。

 ──瞬間。

 今まで絶対の整合性を保っていた“世界”に歪みが生まれ、油の上を燃え広がる炎のように”世界”が破れていく。

 やがて幻は消え、頭上には黄昏前の空が戻った。ラギトの足元には糸の切れた傀儡のように横たわる人々の姿が無数にある。思っていたよりもずっと、多くの人質が集められていたらしいとようやく気付き、歯噛みする。

 

「強引な人だ……」

 

 〈ソングメア〉は手のひらを一定のリズムで叩いて鳴らしながらラギトに向かって“一直線”に近づく。足元の人々を踏んでも意に介さないその様は、ラギトが無言のまま全力で殴りかかるのに十分な条件足り得た。しかし、〈ソングメア〉の鼻っ面目掛けて振り抜かれ、顔を突き抜けた拳には手応えが無く──即座に視覚情報を切り捨てたラギトは直線的な勢いを回転に変えて、裏拳と同時に鎖を展開した。今度の手応えは、あった。だが浅い。

 

「イテテ……流石は最強と言われるだけはありますね」

 

「そこかッ!」

 

 四方から一点への、不可避な鎖の高速収束。

 

「〈変調(モデュレーション)〉」

 

 敵影無しを知らせる鎖同士がぶつかり合う金属音が甲高く響き渡った。そして先ほどからの違和感の正体に気づいたラギトは鎖を棄てて門、〈デュオ・ニトル〉へと走り出した。

 その速さはラギトの“20秒前から”門に向かっていた〈ソングメア〉を容易く追い抜いて行った。

 

「化物め……アレは人間を辞めているのか」

 

 一度目の、夢が現実になる門を越える挑戦を挫かれて、走るには重いからと置いてきた演奏道具のハーディ・ガーディを〈ソングメア〉は取りに戻らざるを得なかった。

 

 ◆

 

 人を励ます夢である〈ソングメア〉は、元は新聞に載っていた歌劇団の広告を読んだ青年が、実物を観ることが叶わなくとも記事の比喩表現から想像を膨らませて出来た、ささやかな夢だった。

 その夢が〈園人〉によって無理やり〈ロストメア〉化され、夢を狩られること無く身を潜めている内に、青年が風邪を患い、咳を繰り返す内に喉を潰してしまったのだ。

 微熱の布団の中で、深く静かな絶望。青年は誰にも夢を告げずに、その夢を諦めた。

 乾いた口笛は、高らかに響く。

 

 心に負った傷を癒すのは、時間と音楽。人を励ます夢である〈ソングメア〉には、自身の生み出す音楽で、人の体感速度を遅らせる能力を持っている。その能力で〈ソングメア〉の演奏を聞いたものは時間の流れを錯覚、整合性のとれた幻に囚われ、演奏を聞き終える頃には肉体と脳とのギャップでエラーを起こし、眠りにつく。

 後は誰も追い付けない速さで、門を潜って夢を叶えるだけのはずだった──ラギトというジョーカーが現れなければ。

 ラギトはかつて、二頭で互いの尻尾を噛むウロボロスのように〈ロストメア〉と喰らいあったことで、〈ロストメア〉の能力への抵抗力が一段と高い。

 そんなラギトでさえも、全力で20秒までしか視覚のギャップを埋めることしか出来なかった。だが、自身の肉体は完璧に制御しているようなので、油断はならない手合いだ。特に、自分は戦闘向きではないし、全力で門の防衛、時間稼ぎに入ったラギトを突破するには、より強い演奏の力で、脳と肉体でエラーをさせるしかなかった……例え、抵抗力の無い一般人が巻き添えで廃人になってしまおうとも。今日叶わなければ、明日は来ないという胸騒ぎがしていた。

 急がなくては──ハーディ・ガーディに手を伸ばし、その甲を撃ち抜かれた。

 

「───ッ、くそがァ!?」

 

「命中かしら?我が腕ながら、私っていい勘してる~♪」

 

 派手な銃で手遊びしている長身の女に殺意を高めていると、路地から詰め寄ってくる影を認めて冷静さを取り戻す。

 

「コピシュ〈湾刀〉、〈細剣〉」

 

「アイアイ!」

 

 何故か無手で駆けてきた男が何事かを喚ぶと、瞬時にその手には武器が握られて、無策の体当たりが細剣での突きに変化する。

 唇を濡らし、口笛を吹く。

 

「〈柏一葉〉     ~~♪」

 

 柏の葉を吹き飛ばすかのような荒々しい口笛は、聞いた者の思考を乱して遅く──

 

「だりゃあッ!!」

 

 細剣の突きを躱した後の、本命の湾刀の素早い切り上げが胸に縦の傷をつくる。白いシャツに血の染みが広がっていく。

 

「殺  っ  た … あ   ら   ?」

 

 この男、ゼラートに〈ソングメア〉の能力は確かに効いていた。今まさに、目の前でゼラートの動きが遅くなっていくのだから。

 ゼラートの湾刀の一太刀が途中で鈍らなかったのはただ、ゼラートの中で『相手を斬る』という行為は『相手を斬る』で完結する。それだけのことだった。

 そして──

 

「繋げーー〈秘儀糸〉」

 

 膝をついて頭を垂れ、動く事が出来ない自分に、屋根の上から朗々と魔法の詠唱が聴こえてくる。

 

「修羅なる下天の暴雷よ、千千の槍以て降り荒べ!」

 

 自身の能力が解けていると気付いたのは、今更だった。

 眩い光の雷槍から、目を背けて。

 貫かれて焼かれる痛みを抱いて、〈ソングメア〉は光の粒子になった。

 

 ◆◇◆

 

「ちょうどいいところに〈黄昏(サンセット)〉。友人からの手紙をわしが預かっていたところでな。これを渡そう」

 

 アフリト翁が机の上にありふれた便箋の手紙を置くと、私は隙間に入れた〈秘儀糸〉で手紙の封を切った。そもそも、私の友人に手紙を寄越すような質の人、いたかしら……?

 

「私宛に仕事以外の手紙?どこの馬鹿かしら。どれ、差出人は……懐かしい名前ね」

 

「そうかい。そうかい。嬉しい名前が、あったのかい」

 

「……ええ、そうね」

 

 ふぉふぉふぉ……とアフリト翁は妖しい笑みを深めた。紫色の煙を出す煙草を、美味そうにプカプカしながら──




息抜きにメアレスの詩を書いたら、短編になってた。
後15万積まなきゃ(使命感)

スザク side.H シナリオツリーだけは出来てる。いつか書こう(リロデ続編来たら本気出すホントホント)
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