仮面ライダーシーズ   作:べりある

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蜘蛛の糸

『こちらは、緊急警報です。重桜政府軍、デストロイ対策本部より、お知らせします。』

 

『ただ今、ガイエン駅付近にて、デストロイが、出現しております。』

 

『付近の皆様は、お近くの、避難所まで、避難を、お願いします。』

 

『また、付近の駐屯地の、皆様は、出動を、お願いします。』

 

街の中にスピーカーを介した女性の声が響き渡る。人々に伝えるべき事を落ち着いて聞いてもらうためか、その言葉は途切れ途切れだ。その警告を無視してデストロイが出現した地点へ全速力で駆け抜ける男がいた。そう、カイこと仮面ライダーシーズである。

 

(…ここか?)

 

シーズがデストロイ出現場所に辿り着く。午前9時。いつもは通勤する人達で賑わっているはずの場所だが、この時は人どころか鳩すら一匹もいない。道路にも乗用車一つ通らず、飲食店にも客はもちろん、店員もいない。街が完全に眠っていた。

 

だが奇妙なことに、そこには()()()()()()()()()()

 

「デストロイは…どこだ?」

 

そう、そこにはデストロイすらいないのである。

 

「地下鉄駅の入り口は…これか、もしかするとこの中に…?」

 

シーズが地下鉄駅への階段を降りようとしたその時、上空から何者かが迫ってくる気配を感じ取った。

 

「上か!?」

 

シーズが上を見たその時、上空から人間では無い何かが両手を広げてシーズに迫ってくるのを見た。咄嗟に蹴りを放ち迎撃するシーズ。

 

「クギャ!?」

 

蹴りを食らった何者かが地面を転がり、ゆっくりと起き上がる。改めてその者の姿を見てみると、黒く無機質な六つの目に、カチカチと不快な音を立てる虫のアゴ。それが二足で立っている。

 

これが、シーズが戦うことになる怪物の一人、『スパイダーデストロイ』であった。

 

(これが…デストロイ……)

 

スパイダーデストロイがジリジリと距離を詰める。

 

(オメガの話によれば、こいつらはキューブの力を使った人間…でも)

 

(ここで倒さなければ、さらに多くの人が犠牲になるかもしれない)

 

「キシャアア!」

 

スパイダーデストロイが動きを早め、シーズに襲いかかる。その大振りで豪快な動きにはかつて人間であった面影などどこにもない。

 

シーズはそれを躱し、拳を握る。心臓の動悸が早まっていく。

 

「やるしか………ないんだ!!」

「キシャ!」

 

シーズの顔めがけて連続で引っ掻き攻撃を繰り出すスパイダーデストロイ。右から、左から、下から。あらゆる方向からの攻撃をかわし、反撃のパンチをスパイダーデストロイに食らわせるシーズ。

 

「キアっ!?」

 

一瞬怯むスパイダーデストロイに追撃の右回し蹴りを放つシーズ。吹き飛んだスパイダーデストロイの身体が駐輪されていた自転車に当たり、ドミノ倒しのように自転車が倒れていく。

 

「はあっ!」

 

さらに追撃するために、シーズはジャンプして仰向けの状態になっていたスパイダーデストロイの顔面を狙ってパンチをしようとするも、スパイダーデストロイは、突き出すように右足でシーズの腹を蹴り、反撃する。空中でその蹴りを食らったシーズは吹き飛び、四、五歩ほどの距離が生まれる。

 

状況は振り出しに戻る。ジリジリと距離を詰めていくスパイダーデストロイに対し、カウンター攻撃のチャンスを狙うために、距離を離そうとするシーズ。

 

「クアアアアア…」

 

その時、スパイダーデストロイが屈んで、奇妙なうめき声をあげる。

 

(なんだ?)

 

その奇怪な行動に気を取られたシーズはつい立ち止まってしまった。その隙を見計らったのか、スパイダーデストロイが口から白い糸を吐き出した。

 

「なにっ!?」

 

交わす暇も無く、白い糸に簀巻きにされるシーズ。

 

「ま、まずい…!ほどけない!」

 

「キシャシャシャ…!」

 

嗤うような声を出しながら、スパイダーデストロイは口から出ていた白い糸を切り、両手に持つ。それを思い切り振り回し始めた。

 

「うわああああああ!!?」

 

身動きが取れないままビルの壁に、電柱に、信号機にと、次々に叩きつけられるシーズ。最後はハンマー投げのように投げ飛ばされ、簀巻きのまま地面に叩きつけられる。

 

「くっ……!かはっ…!」

 

うめくシーズににじり寄っていくスパイダーデストロイ。その姿は、糸に絡まり弱った獲物を食らわんとする本物の蜘蛛そのものであった。

 

「俺はこのまま…死ぬのか…!」

 

「ハッ!」

 

その時、鋭い斬撃がスパイダーデストロイを襲った。それと同時にシーズの自由を奪っていた糸も解ける。

 

「キシャアアッ!!」

 

スパイダーデストロイの右腕が切り落とされ、切断部分から白い血が流れる。残った腕で止血を試みるも、一向に止まる気配はない。

 

「な、なんだ!?」

「まだ貴方に死なれる訳にはいかないんですよ、『仮面ライダーシーズ』」

 

シーズの背後にいつのまにか、猫のような頭、コウモリの黒い羽とフクロウの白い羽で一対となった不安定そうな羽を生やし、尻尾の先端が蛇の頭を模した、いかにも『化け物』といった姿の者が立っていた。

 

「新手のデストロイか!?」

「分類としてはそうなりますね、ですが安心してください。」

 

身構えるシーズをなだめるデストロイ。その声は女性のものであった。

 

「私は貴方の味方でございます。」

「……」

「信じられない、といったところでしょうか。まあいいでしょう、貴方に一つアドバイスを。」

 

デストロイが2個のキューブをシーズに投げ渡す。

 

「うおっと!?」

 

ギリギリのところでキャッチしたシーズがデストロイに視線を戻すと、もうデストロイの姿は消えていた。

 

「迷いを捨て去ることです。平和とは、何かの犠牲の上に成り立っているのですから……」

「おい!待ってくれ!どこかにいるんだろ!?姿を見せろ!」

「…また後で、挨拶に伺います」

 

投げ渡されたキューブを見ると、それぞれ『トンボ』と『炎』が描かれていた。

 

「カイ!無事か!?これ使エ!」

 

そこに、シーズを追っていたオメガがやってきて、一個のキューブを投げ渡す。

 

「オメガ!?なんでここに!?」

「いいから使え!そいつに効くはずだ!」

 

オメガに手渡されたのは『刀』が描かれたキューブ。

 

「迷いを捨てされ…か」

「キシャあああああアア!!」

 

スパイダーデストロイが怒りに満ちた叫びを上げながら、シーズに突進する。シーズはそれを躱しつつ、シーズドライバーのレバーを上げ、キューブを入れ替える。

 

『DRAGONFRY』

『SLASH』

『FIRE』

 

「……あれ?カイの奴、いつのまにあんなキューブを?」

 

「…やってやる!」

 

CCC(シーズ)!RIDE A CHANGE!』

 

その時、カイの身体から赤く燃える炎が発生する。その温度は、周りの風景が歪んで見えるほどであった。

 

「うおっ!?カイ!?大丈夫か!?」

 

嗚呼、カイの決意虚しく、炎で自滅してしまったのかと思われたその時。一閃が炎を切り裂いた。

 

赤き具足、赤き鎧、赤き籠手。四枚羽のトンボの意匠を凝らした兜を付けた鎧武者、シーズが現れる。

 

「キシャアア!」

 

スパイダーデストロイは怯むことなくシーズに突進を仕掛ける。それに対して、シーズは持っていた剣『カットラスラッシャー』を構える。

 

「ハッ!」

 

しかし怒りゆえか、攻撃の動作が更に大振りになっていたスパイダーデストロイは隙だらけであった。それを見逃さずに必殺の剣裁きをお見舞いするシーズ。斬撃のたびに、スパイダーデストロイが白い血をアスファルトに落とす。

 

片や素手の上に片腕を失った状態。片や武器待ち。攻撃のリーチは段違いであり、スパイダーデストロイは、有効打をシーズに与えることが出来なくなる。

 

「グギギ……クシャアアアア!!」

 

スパイダーデストロイがまた口から糸を吐き出す。しかし、鎧から炎が吹き出し、糸を焼き尽くした。

 

…重桜が戦国と呼ばれる時代であった頃、トンボは、その獲物を捕らえる必殺の動きから『勝虫(かちむし)』と呼ばれ、験担ぎとして戦場に赴く武者達に愛されていた。

 

今再び、勝虫の眼が勝利をもたらさんと煌めく。

 

「…これで、終わりだ!」

 

CCC(シーズ)!RIDE A BREAK!』

 

カットラスラッシャーの刀身に炎が宿る。シーズはそれを思い切り横に振り抜き、スパイダーデストロイの身体を一閃した。

 

「グギヤアあああ!?ぅうう!ああああああ!」

 

スパイダーデストロイの身体が燃え上がる。シーズが姿を変えた時とは違い、今度は本当に身体を焼き尽くしていく。熱と焼ける痛みに苦しみもがくスパイダーデストロイであったが、次第に動かなくなってゆく。

 

「あ……りが……………と…う…………………」

「!?」

 

搔き消えるようなか細い声に、シーズは驚きスパイダーデストロイが『いた』位置に目をやるが、そこには灰と蜘蛛の絵が描かれたキューブが残っていた。

 

「おつかれっ!カイ!いつのまにあんなキューブ持ってたんダよ!?」

「………ああ、そうだね。」

 

駆け寄って労いの言葉をかけるオメガ。だがそれに対するカイの反応は淡白なものだった。

 

「…なあ、この蜘蛛のキューブ、持って帰っていいかな?」

「お?もちろん!帰って赤石に見てもらえば、スラッシュのキューブみたいに、新しいキューブを開発出来るかもしれないからな!」

「……ありがとう」

「さ、帰ろうぜ!」

 

 

 

 

 

『こちらは、重桜政府軍、デストロイ対策本部です。』

 

『本日、ガイエン駅前に出現していた、デストロイの、駆除に、成功しました。』

 

『このデストロイ出現による、死傷者は、出て、おりません。』

 

「死傷者0人かー、お手柄だなカイ!」

「…うん」

「なんだよー、もっと喜んだっていいと思うぜー?…あ、ひょっとしてデストロイが元人間なのを気にしてるのか?」

「いや…デストロイって何の為に人間を襲うのかなって…」

「ああ、早い話が反逆だな。」

「反逆?」

 

 

「おう、反逆。なんで自分たちは人間より優れた能力持ってんのに人間に従わないといけないんだー、っていうワケだな」

「たったそれだけで、人間を殺そうとするのか?」

「争いって結構単純な理由で起こるぜ?アイツが気に入らないーとか、俺が信じてる宗教の方が崇高だーとか。ハタから見るとバカみてーだけどよ。」

「……そっか」

 

(でも、本当にそうなのか?)

 

(もし、その理由で人間を襲うのなら、なぜあの蜘蛛のデストロイは()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

(あの街の様子だと、人が完全に居なくなってからしばらく経っていたはずだ、それなのに何故あそこに留まった?俺や政府軍という人間が来るのを待っていたのか?)

 

(そしてあの『ありがとう』の意味は?)

 

 

 

 

 

(『デストロイ』って……なんなんだ?)

 

 

 

 

 

 

カイ達が帰路に着いていたちょうどその頃、どこかの建物の中にて、男女四人が集まっていた。

 

「これで、『0』が脱落しましたか…」

 

眼鏡のズレを直しながら携帯ゲーム機ソフトを遊ぶ青いスーツの男性が他人事のように言い放つ。

 

「まあ、彼はとんだ甘ちゃんでしたよねぇ。『83』、『354』」

「………なあ、その他人を『人間仕留めた数』で呼ぶクセやめねえ?」

 

赤いジャケットを羽織り、耳にそれぞれピアスを3個もつけた女がうんざりしたように言う。

 

「私は他人の名前を覚えるのが苦手なんです」

「よく言うぜ。眼鏡かけてるくせによ」

「君も人を見かけで判断するその癖、直した方がよろしいのでは?」

「よけーなお世話だ『92』」

「おや、意趣返しとは。」

「ケッ、テメーは趣味わりーんだよ。」

 

「けんかはぁ、よくないよぉ?」

「気にすんなって、アタイらは別に喧嘩してるワケじゃねーからよ」

「そうですよ『354』、貴女が気にすることではありません。」

「よかったぁ。」

 

安堵する表情を浮かべる白いウィンドブレーカーを着た女。おっとりとした喋り方だが、青いスーツの男が言う呼び方が確かなら、殺害数はこの中で一番多い。

 

「ねえねえ、ひとりたらないよぉ?」

「アイツまたどっかで油売ってんのか?」

「『43』にも困ったものです…無駄だと分かっているはずなのに、まだ『アレ』を続けているのですか。」

 

「フン…ま、いいさ。アタイらデストロイの目標、忘れてねーだろーな?」

「えぇ、人間どもを殺し尽くし…!」

「じぶんたちのたちばを…わからせる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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