仮面ライダーシーズ   作:べりある

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血染めの都

「…………お前は………逃げろ…!」

 

やだ。

 

「俺は…ユニオンの軍人だ。国民の為に戦うのは俺の仕事だ!」

 

やだよ。

 

「……幸せにな」

 

置いていかないでよ。いやだ。いやだ。待ってよ。一緒に逃げようよ。あなたがいなくなったら………

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

「………またあの時の夢か」

 

最悪の寝覚めを迎えた峨山。額に滲んだ汗を拭いても、心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。婚約者を失ったあの時の光景は今でも忘れられない。

あの時、もっと自分に力があれば。それか、一緒に逃げていれば。後悔の念は、身体への負担となって襲いかかる。

 

(身体が重い…)

「冷華ちゃん、大丈夫?」

 

六波羅が顔を覗き込んできた。どうやら、この二人は同じ部屋で一緒に生活しているらしい。

 

「いえ…心配いりません。」

「ほんと?今日の朝ごはん当番、代わろうか?」

「いいえ、本当に大丈夫ですので…」

 

(休んでいる暇なんて、無い。私は一刻でも早く、あの人の為に…)

 

 

「ああ!クソ!」

「どうした?」

 

一方、洗面所。夜見川がT字カミソリ片手に、顎を大事そうにさすりながら慟哭する。

 

「ほら見てくれよ藍田く〜ん!髭剃りに失敗しちまった!」

 

 

寝ぼけ眼を乱暴に擦りながら、藍田が言われた通りに夜見川の顎を見やると、『赤い血』が小さく滲んでいた。力を入れすぎたのだろう。

 

「また力入れすぎたのか?そんなに失敗すんなら電気シェーバー使えよ…」

「ああ今日は絶対に悪いことが起きる〜!」

「たかが髭剃りに失敗したくらいで大げさだなお前は…」

「藍田君、甘く見てはならんよ!悪い事というのは立て続けに起こるもんだ!しかも段々大きくなっていく!こういった小さな出来事から負の連鎖は続いていき…」

 

夜見川が長々と演説しているのを他所に、藍田は水道から流れ落ちる水を両手に一定量汲み、自らの顔に当てる。

 

「……まあ、それはともかくとして。気になることができたのだよ」

「あぁ、『デストロイの血の色』の事か?」

「そう、血の色だ。我々も同じデストロイだが、この国の奴らとは違って赤いままだ、ご覧の通りね」

 

そう言って夜見川は出血した箇所を人差し指で触る。そして、血のついた指の腹を見て顔をしかめる。ほんの僅かでも血を、その上自分のものを見るのはいい気分のしないものであるのだろう。

 

「この国のヤツは確か『黒』だったか?」

「ああ…何度も見てきた、『黒』だったな。ところが、カイ君が倒したスパイダーデストロイとやらは『白い血』だったらしい」

「…ああ?オイ、それどういう…」

 

「藍田さーん!夜見川さーん!ごはんできたよ!」

 

話が佳境に入ってきたところで詩音が洗面所に乱入してきた。

 

「だそうだ、続きはご飯の後でしようか」

「……だな」

 

 

 

デストロイ殲滅部隊、別名夜見川新聞社の本日の朝食は白飯、大根と昆布としめじの入った味噌汁、卵焼きと、ザ・和食と言うべきラインナップだ。特に卵焼きは高い寿司屋で出てきそうなくらい形が整っている。

 

「お、卵焼きがある。ちゃんと僕の分は甘いだろうね?」

「ええ、全員の好みは把握していますので」

「しっかしすげーなこの卵焼き、寿司屋に弟子入りしたのか?」

「ふつうに作るのもつまらないと思ったんですよ」

「もぐもぐ…………あっ!いただきます!」

「既に何口か食べた後に言わないで下さい詩音」

「じゃあ……いただいて、ます?」

 

ビルの地下室に作られた部屋で、戦士達が朝食を摂る。光がほとんど差さないこのような部屋でも、雰囲気は和やかだ。

だがその平穏を打ち砕くかのように、テーブルの上に乗せられたキューブから音が鳴る。赤石達に渡した通信用キューブと同じものだ。一回キューブの一面を押すと、相手の声を聞くことができる。もう一回同じ場所をタップすると通話を終了する。トランシーバーのようなものだ。

 

「はい、こちら夜見川新聞社だよ〜」

『あっ、夜見川さんカ!?』

「その声はオメガくんかい?どーしたの慌てて?」

『デストロイが出タ!昨日よりもずっと多い!』

「なに?」

 

夜見川は自分以外にジェスチャーで指示を送る。三人は黙って頷くと、立ち上がりそれぞれ準備を始める。

 

「よし、事情は分かった。カイ君はいるかい?」

『それが、今家のすぐ外で戦ってる!』

「なんだって?今街中でバイオコマンド部隊が警戒を行なっているはずだぞ?サボってるのか?」

 

「……!夜見川さん!しーっ!」

「えっ?」

 

六波羅に促され、会話を止める夜見川。耳を澄まして聴いてみると、何者かがカン……カン……と階段を降りてくる音が聞こえる。

 

「聞こえた?」

「ああ…お客様にしては慎重すぎるな、重桜人特有のケンキョさって奴か?」

「どちらかというと後ろめたい事があるから足音を潜めているように聞こえますけどね…」

「という訳だ、こっちもあまりいい状況とは言えない、通信は切るが、勝手な真似はするなとカイ君に伝えてくれ!」

『分かっタ!気をつけてな!』

 

ブツッ、と通信が切れる。

 

「さて…仕事開始だ」

「ああ…朝飯邪魔した罰、しっかりと受けてもらうことにしよーぜ」

「まずはビル内の侵入者ですが…侵入者の姿を確認するには、侵入者が階段降りてからすぐの突き当たりを曲がってくる必要があります、詩音!」

「まかせて!」

 

詩音は怪人態であるホークデストロイに変身すると、姿勢を低くし、何かを感じとるかのようにじっとその場を動かなくなる。

 

「どうですか『風の流れ』は?」

「…人間が出せる形じゃないね。触角とか、角とか、尻尾とか…『人間が持っちゃいけない形』をしてる」

「団体か?それともお一人様か?」

「まって藍田さん…ウン、三体いる。先頭は蟹みたいな硬い甲殻を持ってて、それに続くように一列に並んでる。あたしの銃じゃ効果が薄いかも」

 

敵の情報を一つずつ読み取っていくホーク。その時、それまで鳴っていた足音が止み、代わりにガリガリガリ…と壁を引っ掻いているような不快な音が響く。

 

「こっちから視認できないギリギリの所で鳴らしてるみたい。鳴らしてるのは一番後ろの奴」

「我々を誘い出そうという算段か…手慣れているな。既に人間を何人か殺しているとみた」

 

どうしたものか、と夜見川は左手の人差し指と中指の二本指で自らの顎を撫でる。

 

「ハッ、確かに普通の人間なら引っかかるかもな?」

「でもあいにく…ここに『普通の人間』はいません」

 

藍田と峨山がそれぞれの怪人態、ベアデストロイとキメラデストロイに変身する。

 

「ああ…彼らにとっての不幸は『そこ』だな」

 

それに合わせて夜見川もレイヴンデストロイへと変身する。

 

「…いくぞ、皆」

 

作戦開始の合図と共にホークは自分の体色と似たような翠色のハンドガンを構える。怪人態の時だけ出せるホーク専用の武器だ。その形は蓮根のようなシリンダーを持つ回転式拳銃(リボルバー)と酷似していた。

 

「……」

 

狙いを『壁』に定めて引き金を引くホーク。発砲音が鳴り響き、弾丸が発射され、壁にぶつかる。

 

「グッ!?グギギイイイアッ!」

 

物陰から赤い蟹のような甲殻を纏ったデストロイが倒れこみ、その姿を見せる。壁に当たった弾丸は、跳弾して丁度甲殻を纏っていない部分に当たったらしく、そのデストロイは傷口から黒い血を流していた。

 

「『狙い通り』!藍田さん!今だよ!」

 

『狙い通り』、そう、ホークは跳弾を完全にコントロールし、隠れていたデストロイに攻撃を仕掛けたのである。通常、不確定要素が多すぎる跳弾をコントロールして命中させるのは『不可能』とされているが、彼女はそれをやってのけた。神業と言うべき射撃能力である。

 

「よっしゃあ!!」

 

ベアがその走りで小さな地震を起こしながら倒れたデストロイに追い討ちを仕掛ける。

 

倒れたデストロイを助け起こそうと、別個体のデストロイがひょっこりと姿を現わす。だがそれは悪手であった。山のような体躯をしたベアが飛び上がり、豪腕を振りかぶる。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

振り下ろされた巨腕の鉄槌が二体のデストロイに命中する。その身体は黒い血を流しながら粉微塵…とまではいかないが、その身体に限界を迎えさせるには十分だったらしく、断末魔を上げる暇もなく灰とキューブを残して絶命する。その床には大きなヒビが入っていた。

 

「キイッ!?ギアアア!!」

 

二人の仲間のあっけない死を目の当たりにした三体目のデストロイは、一目散に階段を駆け上がって離脱を図ろうとするが…。

 

「残念、逃がしません」

 

背後から胸部を小太刀で貫かれ、一瞬血を吐き、絶命する。仕留めたのはキメラデストロイだ。彼女は右手に握った刀をヒュッ!と風切り音が聞こえる勢いで振った後、布で刀身を丁寧に拭く。

 

「……夜見川さん!このビルにはもういないみたい!」

 

ホークがまた風の動きで敵を索敵する。

 

「よし、外に出るぞ!カイ君の救援に向かう!」

 

階段を駆け上がる夜見川達。

 

「藍田さん、カイ君大丈夫かな!?」

「簡単にくたばる奴じゃねえだろ、アイツは!」

「心配なら早く走る事です、詩音!」

「そういうことだ、ほら、急ぐぞ!」

 

入口の扉に辿り着き、勢いよく飛び出た四人。叶う事なら外は平和であってくれ…と誰もが思っていた。だが、現実は悲惨なものであった。

 

虫、魚、鳥……あらゆる動物の特徴を持ったデストロイが何体も、何体も、獲物を探すようにうろついていた。そのデストロイ達は夜見川達がビルの中から出てくると、一斉に振り向き、夜見川達を捕捉する。

 

「はは…勘弁してくれよ、この世の終わりか?」

「ああ…朝の髭剃り占い、当たってたみたいだな夜見川?」

「冷華ちゃん、これ、いくら稼げると思う?」

「……100億『ドル』は貰わないと割に合いませんね」

まっしぐらに突っ込んでくる敵達。まず、ベアとキメラの二人が迎え討ち、それをレイヴンが援護する。レイヴンが持っている杖も怪人態の時のみ出てくるようで、先端から弾丸を発射できる仕組みになっているらしい。

 

「六波羅君!赤石君と連絡を取ってくれ!熱烈歓迎を受けてそっちにまだ行けそうに無いってな!」

「はい!」

 

ホークは先程連絡に使ったキューブを取り出す。

 

その時、ベアは向かってきた敵デストロイ二体の頭を掴み、肩ぐらいの高さまで持ち上げる。

 

「ガッ!ギィ………」

「グググ……」

 

足をばたつかせたり、腕を振り回したりして抵抗する敵であったが、その抵抗むなしく、ベアは二体の頭同士をぶつける。

頭部への衝撃によって抵抗をやめ、だらりと掴み上げられる二体は、そのままベアに道路の上に投げ出される。

その後、ベアはガードレールの柱部分を踏み台にして飛び上がり、その二体に対してボディプレスを仕掛ける。体長3メートルはあろうかという巨体の熊が行うボディプレス。その後、ベアは攻撃の手を緩める事は無く、両手を組んでハンマーのように振り下ろし、敵デストロイの頭を砕く。黒い血が流れ、アスファルトに染み込んでいく。

 

「悪いな、てめえら相手にお行儀よく戦ってる場合じゃねえんだ」

 

一方、キメラはスピーディに、かつ正確に敵の首元に狙いをつけ、小太刀で斬りつける。刀身を拭いてる暇が無いほどに刀は敵の血を浴び続ける。

 

「さあ、次に死にたいのは誰ですか?」

 

デストロイ殲滅部隊、その先鋒として場数をこなしてきた藍田、峨山の二人を突破できる有効な手立てを持っていない敵達は、一体、また一体と倒されていくものの、その数は一向に減る気配がない。

 

「カイ君の方は片付いたそうです!」

「ご苦労だ六波羅君!僕らももうすぐ片付く!」

「へっ、見ろよ。敵さんが逃げ出してるぜ?」

 

戦闘能力の差を見せつけられた敵デストロイ達は走ったり、飛行したり、各々の手段で逃走を図る。

気づかぬうちに、道路が、ビルの壁が、電話ボックスが、電柱が、ガードレールが、敵デストロイの血で塗りたくられていた。

夜見川達が追撃を始めようとしたその時、何処からか黄色い触手がベアに向かって伸びてくる。

 

「藍田さん!危ない!」

「なんだと!?」

 

ホークの警告は既に遅く、触手がベアの右腕にぶつかった途端、刺されたような痛みがベアを襲う。

 

「グアアァァァァッ!?」

 

その触手の先端には日本槍の穂先のような突起が付いていて、それがベアの右腕を突き刺したのだ。

 

「藍田さん!」

「泣きそーな声出してんじゃねえよ詩音!この触手がどこから来てるか探せ!」

 

ホークに檄を飛ばすベア。本来ならこの程度の触手など引きちぎれるものだと自負しているベアであったが、その腕に力がほとんど入らない。その上、呼吸も荒くなり、吐き気も催してきた。その苦痛はあまりにも大きく、思わず膝を地につけるほどであった。

 

(チクショウ!神経毒を送り込んでいるのか!?)

「……!居ました!あそこのビルの上!ここからじゃあたしの跳弾でも狙えません!」

 

索敵を終えたホークが道路を挟んだ向かい側にあるビルの屋上を指差す。たしかにベアに突き刺さっている触手がその方向から伸びて来ているのがわかる。

だが敵自身は死角にいるため、その姿は見えない。

 

「だったら!」

 

緑色の羽を羽ばたかせ、上空へと飛翔するホーク。

だがその瞬間、ベアを襲ったものと同じ触手が道路のアスファルトを突き破って『9本』生える。

 

この時を待っていた、と言わんばかりに。

 

「えっ…?」

 

この場にいた誰もが敵の真の能力を見破る事が出来なかった。

 

だが、まさか『触手をどこからでも生やす』事が可能などと、誰が想像できるだろうか?

 

「詩音!」

「六波羅君!」

「避けろっ!詩音!」

 

三人が叫んだところでもう遅い、咄嗟に回避できるほどの俊敏性をホークは持ち合わせていない。ベアはその身体の頑丈さと、自身を襲った触手が一本だから何とか持ちこたえる事ができた。だが、そのような頑丈さはホークには備わっていない。

9本の槍がしなやかに迫る。

ホークは、『六波羅詩音』はここで終わってしまうのか。

 

『DRAGONFRY』

『SLASH』

『WIND』

 

『CCC!RIDE A CHANGE!』

 

どこからかバイクが走る音が響く。

 

バイクに乗っていた『それ』は、まず座席部分に立ち、それから思い切りジャンプする。

 

『CCC!RIDE A BREAK!』

 

「どりゃあああああああ!!」

 

その者が刀を振るうと、触手が全て切り落とされる。触手の根元部分は、痛みを感じたのか激しく波打った動きをし、やがて萎れた植物のようにへたり込む。先端部分はというと、こちらも水から引き上げられた魚のようにアスファルトの上を跳ねまわった後、動かなくなった。

 

「遅くなりました!大丈夫ですか!詩音さん!」

 

緑の甲冑に身を包んだ鎧武者、シーズが救援に来たのだ。

 

「あ…あはは、ちょっと腰抜けちゃったかも」

「ったく、来んのがおせーぞ…!」

 

「シギャアアイイア!?アアアアァァアァア!?」

 

敵の本体と思しき甲高い悲鳴が飛び散る。

 

「どうやら本体にもダメージがあったみたいですね。夜見川社長とカイ。トドメを刺しに行きますよ」

「はい!」

「六波羅君はここで藍田君の手当てをしてやってくれ」

「わかりました!藍田さん大丈夫?これ引っこ抜くね!」

「いでででででで!もっと優しく引っこ抜けよ!」

 

シーズ、レイヴン、キメラの三人がビルの屋上にひとっ飛びする。そこにはクラゲの傘のような頭部を持ち、全身が黄色いデストロイ、ジェリイフィッシュデストロイが悶絶していた。

 

「ガアアアアアッ!?キュルルルルルラ!」

 

よく見れば頭部から触手が10本生えているが、その長さ、形は何かに斬られたかのようにバラバラだった。

 

「頭部の触手…なるほど、先程斬られたからああなったと考えるのが妥当ですね」

「早くトドメを刺そう、デストロイの回復力は侮れない」

「はい!」

 

『CCC!RIDE A BREAK!』

 

シーズが必殺技の態勢に入り、キメラとレイヴンが各々の武器を構えたその時であった。

 

いきなりジェリイフィッシュデストロイの身体が発火したのだ。

 

「ガアアアアア!?ギュルアアアアアア!!!」

 

ジェリイフィッシュの黄色かった身体はたちまち黒焦げになってゆき、不快で不気味な香りが焼けた身体から漂ってくる。

 

悲痛な叫び声も、喉まで焼かれてしまったためか、風が通り抜けるような音になって行き、やがてピタリと止んでしまう。

シーズ達はこの唐突で凄惨な光景を、ただただ息を飲んで見守るしかなかった。

 

「しくじったら『死』、最初にそう言ったよなジェリイフィッシュよお?」

 

上空から女の声が聞こえ、三人は一斉に空を見上げる。

 

そこにいたのは、真紅の怪人。背中に燃える炎のような翼を持ち、真っ赤な身体とは対照的な青い瞳を持った鳥の怪人。

いや、ただの鳥ではなく伝説上の生物『不死鳥』とも呼ぶべき佇まいであった。

芸術的とも言うべき美しさを持ったその怪人は、音を立てずに屋上に降り立ち、さっきまで燃えていたジェリイフィッシュの身体を踏みつける。

 

「よお、やっと会えたな?『シーズ』」

 

この時を待っていた、とでも言いたげな口調で怪人はシーズを見つめる。

 

「この辺でやたらガンバッてる奴がいるって聞いたから、来てみればとんだ大物発見…軍の連中より楽しめそうだ」

 

「ッ!カイ!気をつけてください、こいつはっ!」

 

キメラが警告しようとした瞬間、不死鳥の怪人は急接近してキメラの腹に蹴りを入れる。

 

「なっ!?」

 

瞬間移動とも言うべき速さに、キメラは反応を許されず、その体を屋上から落とす羽目になった。

 

「だが、余計なエキストラがいるようだな…」

 

「速い…!?」

「峨山君っ!クソオッ!!」

 

レイヴンは杖銃を構え、不死鳥の怪人に光弾を撃つ。

 

「中々いい弾じゃねえの。でも高速(おせ)えよ」

 

キメラに仕掛けた時と同じように、凄まじいスピードで接近し、蹴りを放ち、屋上から落とす。

 

「さあ、これで舞台は整ったぜシーズ?」

「お前…よくも二人を!!」

「安心しろよ、死なねえように手加減はした。落下地点の仲間にうまく助けてもらえる位置に落としたしな。アタシは1日に10人しか殺さねえ主義だ。」

「1日に…?」

「そう、『自分ルール』って奴だ。無闇やたらと殺しまくるんじゃあなく、『殺し』にルールを作ってる。立派なもんだろ?」

「ふざけるなっ!!」

 

憤るシーズ。カットラスラッシャーを強く握り、その怪人の首を狙う。

 

「おっと、待てって!今お前と戦う時のルールを決めているところなんだからさ…」

「ッ!」

 

シーズの激しい剣さばきを余裕そうにかわす怪人。

 

「まず一つ目、『戦う相手の名前を覚える』、だが一方的に名乗らせるのは不公平だな。」

 

「アタシは『朱雀』。お前ら人間の敵デストロイの一人で、軍の連中には『四神』って呼ばれてる…名乗ったぜ。お前の名前を教えてくれよ?」

「お前に教える必要なんてない!」

「お前にとっちゃそうでもアタシは必要なんだよ…マ、いいか!二つ目のルール!」

 

シーズの攻撃をかわし、喋ることしかしなかった朱雀がいきなり回し蹴りを放ち、シーズが持っていたカットラスラッシャーを弾き飛ばす。その後朱雀は右足を抱えるように上げ、その膝を指差す。自分の足を強調するかのように。

 

「アタシはお前に蹴りだけで勝つ」

「……!なめるな!」

 

『SPIDER』

『KICK』

『WIND』

 

『CCC!RIDE A CHANGE!』

 

手から高強度かつ強粘着の糸を出すことができる『SPIDER』のキューブをベースとしたフォームに変身するシーズ。ウルフデストロイにやった時と同じように、糸で拘束してから必殺の一撃を食らわせる算段だ。

早速、シーズは糸を伸ばす。朱雀は糸の性質を知ってか知らずか、糸に対して右足の回し蹴りで応戦する。糸は朱雀の右足を見事に捉える。

 

「へえ…中々やるじゃねえか」

(引っ張って、攻撃の間合いに入れた後に一撃を入れれば…!)

「でも残念だったな?」

 

シーズはこの後思い知る事になる。何故このデストロイが重桜の軍人達に四神と呼ばれ恐れられているのかを。

 

「フッ!!」

 

朱雀は右回し蹴りのモーションを続行する。縛られた状態がウソのようなパワー。その余りのパワーに、逆にシーズが引っ張られ、スキを晒してしまった。

 

「オラァッ!!」

 

フリーになっている左足でスキだらけのシーズの左肩あたりに蹴りを命中させる朱雀。シーズは吹っ飛び、糸が引きちぎれる。

 

「ぐああああっ!」

(チッ…ちょっと狙いがずれたか、ホントは顔面にぶち込みたかったのによ…)

 

不満そうに言葉をこぼす朱雀。だが朱雀の蹴りは強力なのは間違いなかった。キメラデストロイとレイヴンデストロイを一撃でビルから落としたその威力は、確実にシーズの左肩にダメージとなって襲いかかっている。これがもし朱雀の狙い通りに顔面に当たっていたらどうなっていたのだろうか。

 

「くっ!」

 

『LOCUST』

『KICK』

『WIND』

 

『CCC!RIDE A CHANGE!』

 

だが、恐怖している時間はシーズに残されていない。すぐさまキューブを入れ替え、姿を変える。

 

「さっきのはスパイダーデストロイの力…お前殺したデストロイの力を使えるのか?気に入ったぜ!戦うごとに強くなる…アタシ達と本質は同じってワケか」

「戦うごとに…どういう意味だ!」

「お前知らなかったのか?デストロイは人間を殺すごとに、体内に内蔵されたキューブがその能力を強めてくれるんだ…だからアタシ達は人間を殺す。人間への復讐心で戦ってる奴もいるがな」

 

さらに朱雀はこう続ける。

 

「だがな、アタシはそいつらとは少し違う。何故なら『殺し』にルールを設けているからだ。何でもありっていうのは確かにやりやすい。だが、そこに制約が加わることによって、戦いは次の段階に進める…」

「ルール無用の戦いは単なる獣と一緒だ、そこにルールが加わる事によって初めて『人間』の戦いになる。でもルールが加わったところで、人間は縛られるばかりで成長できない。それじゃダメだ」.

「アタシはさらにその先…ルールによって進化する『デストロイ』の戦いを求めた」

「そしてアタシは、ルールに則った殺しを行った結果さらなる力を得た。制約に縛られた状態でも殺しができるようキューブが適応したのかもな」

 

戦闘中にも関わらずべらべらと喋る朱雀。この間にもシーズはパンチとキックを繰り返しているが、全てかわされてしまっている。先ほどのダメージが残っており、それをかばいながら戦っているせいでもあるが、それ以外の要因がある事をシーズは理解し始めていた。

 

(コイツ…強すぎる…!)

 

「センスあるよな…お前。なら薄々分かってんじゃねーのか?今のお前じゃアタシに勝てないって事くらい」

「だからって、逃げていい理由にはならない!」

「いいねえ…お前と戦ってると『アイツ』を思い出すぜ。でもそろそろ遊びは終わりにしねーと戦いに『失礼』だ。」

 

それまで楽しげだった朱雀の声のトーンが急激に下がる。

シーズにとっての地獄が始まる…。

 

「ラアッ!」

 

剣豪が振るう刀のように鋭い回し蹴りがシーズの左大腿部に襲いかかる。

 

「……ッ!?」

「オラオラどうしたぁ!」

 

シーズが声にならない悲鳴を上げている隙を見逃してくれるほど朱雀は甘い奴ではない。

回し蹴り、膝蹴り、蹴り上げ、後ろ回し蹴り、踵落とし…蹴りのオンパレードの開幕である。

こうなってしまうともうシーズに回避する暇も無い。完全に朱雀にされるがままである。

 

「カハッ、カハッ!グッ………」

 

二、三歩後ずさるシーズに追い討ちをかける朱雀。時計回りに回転し、右足の裏でシーズの腹を思い切り蹴りつける。プロレスにおいて『ソバット』と呼ばれる蹴り技だ。

シーズはそれをまともに食らい、屋上のタイルを転がり、大の字になって倒れる。

その時、シーズの変身が解除される。本体の尋常ならざるダメージをシーズドライバーが感知すると、キューブの力を制御する事が困難となり、自動的に変身を解除する仕組みになっているのだ。

 

(ま……まずい…俺の事は殺さないと言っていたが、敵の言う事だぞ…信用できるはずが無い…!)

 

起き上がらなくては。そう何度も脳が全身の筋肉に命令を出しているが、身体のダメージは相当なもので、首を動かすのが精一杯だ。

朱雀が一歩ずつ歩み寄ってくる。『死』が歩み寄ってくる感覚に襲われるカイ。

だが、この後奇妙な事が起きる。

 

「なんで……お前が……!」

 

カイの顔を見るなり、信じられない事実を突きつけられた、と言わんばかりに混乱し始める朱雀。その後朱雀はカイの胸ぐらを掴む。

 

「ふざけんじゃねえよ!なんで…なんでお前がシーズになってんだよ!!」

「『なんで』…?何の事を言ってる?」

「とぼけんな!お前は…!」

 

その時、発砲音が響き、一つの弾丸が朱雀の羽を貫く。

 

「カイ君!大丈夫!?」

 

ホークデストロイの救援だ。

 

「し、詩音さん…」

「チィ、新手かよ…こんな時に!」

 

ホークがもう一度銃の引き金を引き、弾丸を発射する。だが弾丸は朱雀に当たる事は無かった。

朱雀の身体から突然凄まじい炎が発せられ、弾丸がそれに溶かされる。鉄が焦げた匂いが立ちこめる。

炎が消えたその時、朱雀の姿は忽然と消えていた。

 

「カイ君!しっかりして!」

 

ホークが降り立ち、デストロイ化を解除してカイに駆け寄る。

 

「詩音さん…夜見川さん達は…」

「安全な所にいるよ!それと、さっき赤石さんから連絡があった!デストロイが街からいなくなったって!」

「そう…ですか…よかった…」

 

カイの瞼が閉じる。

 

「カイ君っ!?………気絶してる」

 

27XX年5月13日、『四神』と呼ばれる上位種と共にデストロイが大量発生したこの日、出動した重桜政府軍の人間のみで200人余の死傷者を出した事件が起こった。この時間は重桜史上最大最悪の事件として語り継がれる事となる…。

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