仮面ライダーシーズ   作:べりある

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ハンジョウデパート

「え?デパートに行く?」

 

ここは一人の人間と一人の艦船少女と一人のセイレーンが住む赤石家。コンロの火に熱されたフライパンの上でもやしと豚肉を菜箸で踊らせながら、カイが赤石に問いかける。朝食を作っているらしい。

 

「そうにゃ、こないだのアレで入った金がまだ残ってるし、折角だから買い物だにゃ。」

 

赤石が言う『こないだのアレ』とは、シーズが朱雀と相対したあの日のことを指す。それから2ヶ月が経過したが、その間デストロイが出現した事も無く、人々は不気味なくらい平和な日々を過ごしている…。

 

「あ、そろそろ火止めるにゃ」

「えっと、逆に回すんだっけ」

「そうにゃ」

 

赤石の指示通りに、カイはコンロのスイッチを左に回す。青い炎が消え、ジュウジュウといった音も鎮まっていく。後は、緑色の猫の顔(よく見ると目の所が『¥』になっている…)が淵に描かれた皿に盛り付け。これで赤石家の朝食は完成する。

 

「おーい、おせーぞ!こっちは腹減ってンだよー!」

 

テーブルに突っ伏したオメガが駄々っ子のように喚く。両手に一本ずつ箸を持って、貧乏ゆすりしたりしていて行儀良さをカケラも感じられない。

 

「あのにゃあ、お前も少しはカイを見習って手伝ったらどうにゃ!」

「嫌でース、朝飯前に余計なエネルギー消費したくあリませーん」

「ぐぬぬ…」

「分かったらとっとと盛れー!ハイ、メーシ!メーシ!メーシ!メーシ!メーシ!メーシ!」

 

宴会でやる一気飲みコールのようなリズムで朝食を要求するオメガ。図々しいにも程がある。

 

「カイ!オメガの分の飯少なくしろにゃ!」

「オイ、そりゃねーだろ!カイー?お前はそんな事しなイよなー!?」

「はあ、朝っぱらから賑やかなんだから…」

 

騒がしいようで、穏やかな朝の風景。

こんな日常をこのまま送っていたい、カイはそんな事を考えながら、皿をテーブルに運ぶのだった…。

 

……………。

 

 

 

ハンジョウデパート一階の監視カメラ室。壁に備え付けられた無数のモニターには、このデパート全5階の至る所を監視するカメラの映像が送信されてくる。

建物内で事件が発生した所をカメラが捉えると、すぐに各階の警備員に通達、全員出動する決まりとなっている。

 

「ふんふんふふ〜ん♪」

 

開店2時間前のこの時間、モニターの光だけが唯一の光源となっているこの部屋を一人の少女が鼻歌を歌いながら回転イスに座っている。

この少女は、デストロイの幹部的存在『四神』の一人『白虎』。

タバコを『食べる』、異常な食事を行う者である。

 

「相変わらずイカれた食生活してんネェ、お嬢ちゃん?」

 

背後から声を掛けられ、振り向く白虎。

そこに立っていたのは髭をぼうぼうに生やし、レンズが丸いサングラスをかけ、黒い山高帽を被った怪しい男。

夏場だというのに上着の上に茶色のロングコートを羽織っていてとても暑そうな恰好をしているが、本人は全く気にしていないかのような表情である。

 

「あっ、げーくん!」

「その呼び方はよしてくれって」

 

仲間に会えたことを子供のように喜ぶ白虎と、苦笑いしながらそれを拒絶する男。側から見れば父親と娘のようである。

この男も同じ『四神』の一人、『玄武』。

白虎は、持っていた箱から一本のタバコを取り出して玄武に差し出す。

 

「げーくんもこれ、どう?」

「…食えってのか?」

「うんっ!」

 

満面の笑みで肯定する白虎に、顔をしかめる玄武。

 

「それはちょっとオッサンにはきつ…」

 

玄武が言い終わるより早く、部屋の照明が一斉に点く。

不思議に思った彼は振り返って部屋の入り口に視線を向ける。

 

「君たち、そこで何をしてる!?」

 

部屋の入り口に立って叫んでいるのは、堅物そうな顔付きの中年の男。ワイシャツの胸ポケットに『HANJOU』という店の名前と、『田中』という名字が書かれたネームプレートがとめられている。

どうやらこのデパートの職員らしい。

 

「ここは職員以外立ち入り禁止だ!早く出ていきなさい!警備員を呼ぶぞ!」

 

不法侵入者二人を指差して、怒鳴る職員男性。一方、侵入者達の方はというと、白虎は御構い無し、といった態度でタバコを二本取り出し、食べる。

玄武の方は軽く舌打ちした後、コートのポケットに手を突っ込み職員の方に歩み寄っていく。その威圧感たるや、そこいらのチンピラとは比べものにならないレベルであった。

 

「ひっ…だ、誰か!誰か来てくれっ!」

 

誰もいない廊下に向かって、助けを求める職員の男。

 

「呼んだって誰もこないと思うよー?」

「なにっ!?」

「それよりおじさん。()()()()()()()?」

「え?」

「あ?オイお嬢ちゃん、それどーいう…」

 

白虎の問いが持つ意味を、職員の男はおろか、仲間の玄武すら測りかねていた。だが次の瞬間、職員の身体に異変が起こる。

 

「あ…?か、カ、カユい……ど、どこもかしこもカユいぞ……?」

 

突然ワイシャツの上から、腕を掻き毟る職員の男。その手には()()()()()()()()()()()()が肌を覆い尽くしていた。やがてその点は彼の顔すらも覆い尽くしていく。

その姿はもはや人間と呼ぶには異常すぎるまでになっていた。

 

「か、かゆい!かゆい!なんだこれは!!」

 

増え続ける赤い腫れ、増していく痒みとこの現象に対する恐怖。

彼は堪らず床に転がりだし、痒みを誤魔化そうとする。

 

「だ、誰か!誰かいないのか!誰か!だれか!ダレカ!」

 

狂ったように他の職員を呼ぼうとする男。やがて赤い点がブクブクと肥大化していく。

 

玄武が目を丸くして状況を見守る中、白虎はくすっ、と笑っていた。

 

「あああああああああぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

恐怖の絶叫と共に、男の全身から血が噴き出す。白かったワイシャツが真っ赤に染まり、床のパネルに大きな血溜まりを作り出す。

壁に飛び散った血も、奇怪な模様を描いた後、重力に逆らわずに垂れていく。

 

「…今の、お嬢ちゃんがやったのか?」

「いいえ、わたくしの力でございます、玄武さま…」

 

また背後からの声を聞いて、振り返る玄武。いつのまにか白虎の後ろに執事のように佇む男がいた。彼が身につけたスーツは白と黒のストライプになっており、一目見ただけだと囚人服と見間違えるかのようなデザインであった。

 

それにしても、この男は『入り口はドア一つ、身を隠せる死角も無い部屋』にどうやって玄武に悟られる事なく侵入する事が出来たのだろうか?

 

(コイツ…かなりのやり手か)

 

どうやら玄武は侵入のカラクリを見破ったらしく、感嘆の息を漏らしてサングラスをかけ直す。

 

「紹介するね!げーくん!この子は『モスキート』、今日の主役だよ!」

 

 

 

 

……………。

 

午前9時、ハンジョウデパート開店。買い物目当ての主婦たちが一斉になだれ込む。

今日は新装開店記念セールというわけで、全商品の値段が30%オフという大安売りなのもあり、主婦達の目には殺気と言っても過言ではない闘志が宿っていた。

 

入口の自動ドアを抜けた先に客を出迎えるのは、鏡のようにピカピカに磨かれた床や壁。

噴き出る水が清らかな音を奏でる噴水。

「利益」「祝福」といった花言葉を持つキャベツのような可愛らしい花、「葉牡丹」の形をあしらえた電灯が等間隔に並び、開放感溢れる吹き抜け構造。

 

カイは新たな世界にたどり着いたかのように目を輝かせる。

 

「すげぇ………」

「感心するのもいいけど、ここに来た本来の目的を忘れるんじゃないにゃ」

「分かってる、買い物の荷物持ちと…『何かあった時』の護衛でしょ」

「よくできましたにゃ」

 

上りのエスカレーターに乗って、階層をまたぐ度に、立ち並ぶ店が変わってゆく。一階にはカフェ、二階には靴屋や服屋などのファッション関係の店が並ぶ。そこでカイは、ある親子二人の会話を耳にする。

 

「ママ!これ着てもいい!?」

「こらこら、帰ってからにしなさい」

「じゃあ早く帰ろ!」

「あ、待って!走っちゃダメ!」

 

男の子の活発な足音がカイに迫り、彼の右足に勢いよくぶつかったところで止まる。

 

「あっ!大丈夫かい?」

 

尻餅をついていた子供に、手を差し伸べるカイ。

その子の手は、全身スーツの五人組が描かれたTシャツの脇腹部分を掴んでいた。

日曜朝にテレビで放送されている特撮番組『消防戦隊 ゴーファイア』のグッズTシャツだ。

憧れのヒーローグッズであるTシャツを母親に買って貰えた歓喜からか、目の前でそれを掲げるようにしながら走っていたのだろう。その子供の視界にはTシャツの中のヒーローしか映っていなかったはずだ。

 

「うん、ごめんなさい…」

 

悪い事をしてしまった、と自覚したのか、その子は青菜に塩を振るがごとく、元気を消失してしまっていた。

 

「す、すいません…!」

 

その子の母親が顔を真っ青にしながら、カイに頭を下げて詫びる。真面目な人なのだろう、その性格が遺伝したのか、それともこの親の教育が良いのかは分からないが、子供も自発的に頭を下げて詫びる。

 

「いえいえ、大した怪我も無いようで良かった。これからは気をつけるんだよ?」

「うん……」

 

すっかり先程の活力を失ってしまった少年。それを元気づけるために、カイは、Tシャツに描かれているヒーローについて話してみることにする。

 

「そのヒーロー、好きなんだね」

「…!うん!ゴーファイアはね、かっこいいんだ!カジファイアーをやっつけるところとかね、すごくかっこいいんだよ!ぼくね、おおきくなったら、ゴーファイアか、しょうぼうしになるんだ!」

 

急に目を輝かせて、言葉の洪水をカイに向かって浴びせかけてくる少年。その勢いたるや、3倍もの背丈があるカイを若干怯ませるほどであった。

 

「そっかそっか!でも、お母さんを困らせると、その…ゴーファイアにはなれないかもしれないから、きをつけるんだよ?」

「うん!」

 

まだ4、5歳程度とみられる子供の目線に合わせるように、しゃがみこんでから忠告をする。その後、子供は手を振りながら、母親の方は軽く頭を下げながらカイと別れる。

 

「迷子にならないように気をつけるんだよー!」

 

「さっきの人、ゴーファイアのレッドに似てたね!」

 

カイは、そんな声が聞こえた気ような気がした。

 

「…あれ?赤石さんは?」

 

…そして、いつのまにか自分が迷子になってしまった事に気づくのであった…。

 

 

……………。

 

 

「それで、私が連絡を入れるまでの10分の間、デパート内を彷徨っていたのにゃ…いやあ、悪い事したにゃ」

「ホントに参りましたよ…勝手にどこか行っちゃうんだから」

 

ハンジョウデパート4階、飲食店が立ち並ぶフロア。その中にあるファミリーレストランで一息つくカイと赤石。

ちなみに、注文したものはドリンクバーのみで、料理は一切頼んでいないハタ迷惑な客となっているが、現在時刻は午前10時45分。

開店直後を狙っていたために、二人が座っている席以外はガラ空き、店側としても追い出す理由が無い。

赤石はここまで計算づくでやっていたのだが、カイは全く気づいていなかった…。

 

「それで、何を買ったんですか?」

「新しい工具と、カイ用の服と…それと少女漫画二冊にゃ」

「少女…漫画?」

 

カイは、自分が知らないところで、カイ(自分)用の服を買われていた事も気になってはいたが、色恋沙汰には全く興味が無い赤石が男女の恋愛描写が多い少女漫画を読む事が、一番気になった。

赤石は、書店の名前が書かれた紙袋から、購入した漫画を取り出し、購入のワケを説明する。

 

「これは私の元同僚が書いた漫画なんだにゃ」

「へえ…この、『ケイボレン』って名前の人が?」

「それはペンネーム、本名じゃ無いにゃ」

 

彼女はそう言うと、椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。視界の中でシーリングファンがゆっくりと回っていた。

 

「そいつは少女漫画が大好きで、終戦後に自分の手で少女漫画を描きたいが為に、ユニオンから日本にわざわざ移った変人なんだにゃ」

「ユニオンって、夜見川さん達の出身地…」

「そうにゃ、ユニオンの漫画界は複雑な事情があるからとか言ってたにゃ」

「……元艦船少女にも色々な人がいるんですね…それ、読んでみてもいいですか?」

「どうぞにゃ、作者(ソイツ)は色んな人の意見を聞きたいって言っていたし」

 

赤石の了承を得て、漫画を受け取り、パラパラとページをめくっていくカイ。

 

「…目がデカくないですか?この漫画」

「少女漫画、特に小学生向けのヤツはほとんどそうだにゃ」

 

……………。

 

一方、赤石家では…。

 

「チクショー!アタシも行きたかったなー!デパートー!」

 

パソコンのディスプレイの前で干物のように突っ伏し、後悔の叫びをあげるオメガ。彼女はセイレーン故、見つかったら即通報、軍隊が群れをなして寄ってくるために、お留守番を赤石達に命じられたのだ。

 

「赤石の事だから、お土産なんて期待できねーよーチキショー!」

 

自分以外誰もいない家の中で喚き散らすのも、体力を無駄に消耗する上、虚しいだけであると気づき始めたオメガは、姿勢を戻し、パソコンのキーボードで何かを入力し始める。

 

「…ま、今はコイツの完成を急がねーとな」

 

ディスプレイの中には、緑色の線のみで構成された『何か』の図面が映し出されていた…。

 

……………。

 

午前11時半、レストラン内に客が増え、店員が自分達を見つめる目が心なしかキツくなっていると感じた赤石。

 

「よしっ、じゃあそろそろ帰るかにゃ」

 

椅子の下に置いていたエコバックを肩に下げ、立ち上がる赤石。

 

「待って、今いいところだから」

 

それとは対照的に、漫画に釘付けになってその場を離れようとしないカイ。

 

「お前結構その漫画にハマってるにゃ?」

「漫画を読む事自体、初めてだからかな…?でも、帰ってからでも読めるし、いいか」

 

彼が本を閉じ、席を立ったその瞬間。

 

 

 

 

「嫌ァアアアアアアアア!!」

 

ランチタイムに差し掛かったデパート内の空気をつんざくように、悲鳴が響き渡った。カイも、赤石も、他の客も、店員も…その場にいた全員が悲鳴の方向を向いた。

 

「さっきの声、何?」

「何だ?何かあったのか?」

「テ…テロとか!?」

 

ざわめきだす客達。

 

「…赤石さん、安全の為に他のお客さんをこの店から出さないようにしてください」

「…行ってくるんだにゃ?」

「ええ、支払いは頼みました!」

 

言うが早いか、カイは悲鳴の発生源を辿るためにレストランを飛び出す。辺りを見回しながら歩いていくと、吹き抜けで下の階が見える場所に辿り着く。

 

「!?」

 

その時、視界の端、下の階層の場所に異常な物が映った気がした彼は、すぐさま手すりから身を乗り出して、下の階の様子を伺う。

 

 

 

 

大人の女性一人と、子供一人が、血溜まりの上で横たわっていた。

 

それを遠巻きに見つめる野次馬達。

 

「そんな…!」

 

カイはその二人に見覚えがあった。

 

(うそだ、嘘だ!)

 

遠目で見ても、カイが先ほど出会った親子に似ていると分かった。

ヒーローが大好きな少年と、その母親に、とてもよく似ていた。

 

(何かの間違いであってくれ!)

 

階層を下る度、野次馬達の声が徐々に耳に届くようになってきた。

 

「きっと、デストロイの仕業よ…」

「あ、あ、あの人から…急に、急に、血が………!!」

「ここ最近は平和だと思っていたのに…」

 

何度か転びそうになりながらも、階段を駆け下り、一階に辿り着くカイ。

 

それと同時に、カイはその目に、重く、辛く、変えられない真実を、その目に叩きつけられる事となった。

 

その二人は確かに、彼が先程出会った親子だったのだ。

全身から血を吹き出し、おどろおどろしい血溜まりを作っている。二人とも怯えたような表情のまま、死んでいた。

少年が目を輝かせて、母親に買って貰えたことを喜んでいたヒーローTシャツにも、大量の血が染み込んでいる。

 

 

「……!……………!!!」

 

言葉にならない怒りが、両腕を伝わっていき、握り拳を震えさせる。

 

『ゴーファイアはね、かっこいいんだ!』

『ぼく、大きくなったら、ゴーファイアか、しょうぼうしになるんだ!』

 

明るい未来を歩むべきだった小さな命と交わした、会話の記憶が、脳の中でカイを責め立てる。

あの子を守るのは、『ヒーロー』のおまえだったはずだと。

あの子はきっと、死の直前に、何度もヒーローの助けを求めていただろうと。

 

その時、カイの懐にあった通信用キューブ『PHONE』が振動する。取り出し、人差し指でキューブの面の一つをタップする

 

 

 

「カイか!?たった今、そのデパートにデストロイの反応があった!」

 

聞こえてきたのは、かなり焦った様子のオメガの声。

 

「気をつけろ!かなり反応が弱くて、赤石のレーダーでも一瞬しか捉えられなかったみたいだ!敵は潜伏能力が高いらしい!」

「ああ…分かった」

「…カイ?おまえ…」

 

これ以上なく低いトーンで応答するカイに、オメガは心配になって声を掛けようとしたが、その暇も無く、カイは通信を切る。

 

 

 

「どこへ隠れようと…絶対に殺す」

 

カイの目には、真っ黒でありながら、真っ直ぐな殺意が宿っていた…。

 

『LOCUST』

『KICK』

『WIND』

 

「変…身……!」

 

『CCC!RIDE A CHANGE!』

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