輝子「こ、こんばんわ……尊敬する人は森喜作、星輝子です」
小梅「輝子ちゃんに呼ばれてきました……白坂小梅です」
輝子「今日は皆が茸の面白さに触れて、少しでも興味を持ってくれたらな、と思って講義をしにきました……今日のお題はこちら」
『ドクササコ』
輝子「……初回でこれは、ちょっとどうかと思うけど」
小梅「そうなの?」
輝子「うん……ドクササコ、漢字で書くならば毒笹子。その名前から分かるように、キシメジ科Paralepistopsis属の毒キノコだね……長い間特徴的に最も矛盾がないハイイロシメジ属とされていたけど、2014年に行われた分子系統的研究によってParalepistopsis属に移されたんだ……フヒ」
小梅「そうなんだ……」
輝子「日本では北陸・近畿・山陰地方の日本海側を中心に秋季の竹やぶや笹やぶ、まれにコナラなどの広葉樹林やスギ林に分布してて、長らく日本特産種であるとされてたけど、韓国にも存在することが分かってるよ……」
小梅「それで、このキノコにはどんな特徴をしてるの?」
輝子「うん……かさは径5~10cm程度、中央がやや盛り上がったまんじゅう形から展開して、すみやかに漏斗状に窪むよ。あと、平滑で粘性はほとんど無くて……橙褐色ないし帯赤黄褐色、あるいは赤みの強いクリ褐色を呈し、乾時には多少とも光沢をあらわすんだ。あと、かさの周縁部はゆるく波打つとともに往々にして浅い裂け目を生じ、幼時には内側に強く巻き込んでおり、条線や条溝を生じない――」
小梅「えっと……?」
輝子「――分かりにくかったら、中央から割った時の断面が、Tの字からYの字のようになる、かさの表面がベタつかない、褐色のキノコ、とだけ覚えたら良いぞ……」
小梅「えへへ……ありがとうね、輝子ちゃん」
輝子「フヒ……続けるぞ。肉は薄い色で、白からクリーム色、黄褐色を帯びるそうだ。あと、変色性にも欠き、やや強靭な繊維状肉質で裂けやすく、味もにおいも温和だな」
小梅「へ、変色性……?」
輝子「傷をつけたり裂いてみたりしたときに、肉の部分だったりひだの部分が、変色するキノコがあるんだ……その性質を、変色性と呼ぶぞ……」
小梅「そうなんだね……」
輝子「ひだは幅狭い、柄に直生ないし垂生して、ごく密で淡いクリーム色から次第に黄褐色を帯びる。柄は上の部分と下の部分で太さが同じ、または基部がやや膨らみ、表面はかさとほとんど同色をとるな。中が空洞だけど比較的じょうぶで縦に裂けやすく、基部はしばしば白色かつ綿毛状の菌糸に包まれてるぞ」
小梅「えっと……見た目としては、結構普通のキノコ、って感じなのかな?」
輝子「そうだな……」
輝子「次に、ドクササコの中毒症状についてだけど……」
小梅「輝子ちゃん、どうしたの?」
輝子「此処から先は強いグロ描写が含まれているから、覚悟のある人だけ見てくれ。本当に、危険だからな……」
小梅「念押しするほどなんだ……」
輝子「……もういいか? まだ見てる人は、覚悟ありと取るからな? 分かった、まず、毒成分から言っていくぞ」
小梅「う、うん」
輝子「ドクササコから最初に単離された毒成分は、ヌクレオチドに属するクリチジンだ。4-アミノキノリン酸と5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸とに酵素が働いて4-アミノニコチン酸モノヌクレオチドとなり、さらに脱リン酸およびアミノ基還元を経て生合成されるもの、と推定されているな……この毒成分は、マウスに対し50mg/kgを腹腔内注射で投与すれば7~10日、100mg/kgでは15~25時間で死亡する事が確認されているぞ」
小梅「わっ、強い毒なんだね……」
輝子「次いで単離された毒成分としては、非たんぱく性アミノ酸の一種であるアクロメリン酸、および、クリチジル酸。その他にもスチゾロビン酸や、スチゾロビニン酸などの毒成分を確認されているそうだ」
小梅「それで、食べたらどうなるの……? やっぱり、死んじゃうのかな?」
輝子「ドクササコを食べると、1~7日ほどの潜伏期間ののち中毒症状が発生する……ただ、キノコ自体の致死率は極めて低い、というか無いね」
小梅「あれ、そうなの?」
輝子「潜伏期間を明け、現れるのは――手足など、体の末梢部分の灼熱感、そして激痛だ」
小梅「……え」
輝子「四肢の末端や鼻端などが、まるで発赤するのともに、火傷をおこしたように腫れ上がり、激痛を引き起こす。この痛みは、『赤焼した鉄片を押し当てられるよう』や『熱した鉄串で刺されるよう』と形容されるほどのもので、これは肢端紅痛症と同じ症状らしい」
小梅「そ、それは怖いね……」
輝子「この激痛は1ヶ月、長ければ2ヶ月ほども続き、ときには患部に水泡を生じて、重症の場合は末梢部の壊死・脱落をきたす。でも、一般的な毒キノコの中毒症状である、消化器系の症状はまったくなく、体温・脈拍などの変化もほとんど起こらない。そして、血圧や血液中の白血球数なども正常なままで推移する……つまり、この毒キノコは激痛くらいしか、症状がないんだ」
小梅「い、1ヶ月も……!」
輝子「この激痛は昼夜関係なく、毒が抜ける1ヶ月ほどの間は常に痛みを与え続ける。だから、毒その物の致死性は無いにも関わらず、この毒キノコの死亡率は高いんだ。激痛を緩和するために患部を水に浸し続けた結果二次的に感染症を起こした者、激痛によって引き起こされる睡眠障害に起因する衰弱死した者、そして痛みから逃れるために自殺した者……」
小梅「解毒剤とかは、ないの……? あと、鎮痛剤とか……」
輝子「解毒剤はいまだに作られてないよ。そして、鎮痛剤もほとんど意味をなさない……この激痛は現時点では局所麻酔による硬膜外神経ブロックくらいしか実用上で有効でないとされているな……」
小梅「生き地獄を体現したようなキノコだね……」
輝子「そう……だから『地獄もたし』と呼ばれたりもするんだ」
輝子「今日の講義はここまで。この話で少しでもキノコに興味を持ってくれる人がいたら……う、うれしいな……」
小梅「今日は怖い毒キノコの話だったけど、次は毒じゃない、食用のキノコらしいよ。それじゃあ、ここまでお付き合いいただき……」
「「ありがとうございました」」