星輝子と学ぶキノコ講座   作:一反目連

5 / 29
4時限目 「輿水幸子とPhallus indusiatus」

輝子「こ、こんばんわ……尊敬する人は森喜作、星輝子です」

幸子「フフーン、ついにカワイイボクの出番ですよ、輿水幸子です!」

輝子「今日も皆が茸の面白さに触れて、少しでも興味を持ってくれたらな、と思って講義をするぞ……今日のお題はこちら」

 

『キヌガサタケ』

 

輝子「これも、キノコの中では比較的有名な方だと思う……」

幸子「いえ、名前すら聞いたことないんですけど……あ、比較的ってそういうことですか?」

輝子「まあ、キノコについて調べたことのある人なら知ってる程度、かな……フヒヒ。キヌガサタケ……漢字で書くなら衣笠茸。スッポンタケ科スッポンタケ属の食菌だな……」

幸子「ふむふむ……」

輝子「梅雨時期および秋に日本全土、主に竹林で発生するキノコで……まれに広葉樹林でも発生するよ。国外では中国、北米、オーストラリアなどでも確認されているんだ……」

 

輝子「このキノコの姿はその『衣笠』の名が表す通り、綺麗な白いレース状のかさのようなものを広げているんだ……」

幸子「へえ! それは凄いですね……でも、かさ『のようなもの』ってどういうことですか?」

輝子「フヒ……実は、その白いレース状のものはかさではなく、正しくは菌網と呼ばれる附属器官なんだ。キヌガサタケのかさと呼ばれるものは、その菌網より上部にある釣鐘状の部分で……これは、形がかさの形をしてないから、慣例的にかさではなく頭部と呼ばれることが多いね……」

幸子「……少し紛らわしいですね」

輝子「うん……因みに、今では正式・学術的な用語ではなくなってるけど、一般的な『かさ』や『ひだ』を持つ普通のキノコ類とは異なる特徴を示す、このキヌガサタケのようなキノコを腹菌類(ふっきんるい)と呼んだりするよ……」

幸子「へえ、そうなんですか」

輝子「フヒッ……話を戻すね。キヌガサタケの頭部は釣鐘型で……菌網の部分は柄が限界まで伸長してから広がるんだ。そして菌網が広がりきると頭部は自己消化を始める」

幸子「じ、自己消化ですか……!?」

輝子「このキノコは自己消化によって、胞子を含んだ帯オリーブ褐色の粘液を作り、それで頭部を覆うんだ。もちろん、その目的は胞子を分散させるためなんだけど……通常のキノコと違うのは、その粘液は悪臭を放つってことなんだ」

幸子「えっ」

輝子「その臭いはしばしば『糞便のような臭い』と形容され、ハエなどの虫を呼ぶんだ……」

幸子「待ってください! 食用のキノコの話ですよね、これ!?」

輝子「うん、そうだけど……」

幸子「なんで食べ物の話で糞便なんて言葉が出るんですか、もしかしてボクがおかしいんです!?」

輝子「そう言われても……事実、このキノコはそういう悪臭を放ち、それで呼んだ虫に胞子を運んでもらうようにしてるらしいから……」

幸子「うう……いきなりボク、挫けそうなんですけど」

輝子「が、頑張れ……? あ、柄の色は白く、基部には白いツボと呼ばれる部分があるぞ。あと、柄の長さ、菌網の直径ともに30cmに達するくらいには大きいぞ……」

 

輝子「このキノコの食べ方の話をするぞ……」

幸子「本当に大丈夫なんですよね!?」

輝子「だ、大丈夫だから……中国では基部のツボを除去して、頭部の粘液化した部分を洗い流し、乾燥させたものを使っているみたいだ……スポンジ状の柄と菌網を食用としていて、スープの具材や蒸し物に使ってるみたいだな……フヒ」

幸子「洗い流すということは、悪臭は……」

輝子「ない、な……そこは安心して良いぞ」

幸子「良かったです……」

輝子「中国の西太后はこのキヌガサタケなどのキノコ料理を好んだ、なんて話もあるんだ……他だと漢方薬にも使われていて、その場合は竹笙(チューション)と呼ばれるぞ……」

 

輝子「このキヌガサタケ……実は、ものすごい早さで成長することで有名なんだ」

幸子「そんなに早いんですか?」

輝子「うん……キヌガサタケは幼菌のとき、白い外殻に包まれてるんだけど……その外殻が割れてから、どれくらいで柄が限界まで伸長し、菌網が広がりきると思う?」

幸子「えっと……1日、とかですか?」

輝子「残念……実は、数時間もあれば広がりきるんだ。柄の伸長速度は1mm~4mm/分、菌網の伸長速度も1mm~3mm/分ぐらいとされているんだ」

幸子「……早くないですか?」

輝子「だから、『ものすごい早さ』って言ったんだ……1975年、平凡社刊の『世界大百科事典』には、植物世界中一番成長の早いのは、このマントの伸びる速さであるといわれている……なんて記されてるくらいだからな。だから、図鑑に出てくるような綺麗な形のキヌガサタケを見れるとは、菌網が広がりきってから数十分から数時間だけ……それ以上の時間が経つと萎れてしまうんだ……」

幸子「そう、なんですか……」

 

輝子「このキノコは西欧ではその優雅な見た目から、『キノコの女王』と呼ばれるんだけど……ヨーロッパにはいないみたいなんだ。そして、中国では高級食材として親しまれているんだけど……北タイでは幽霊キノコ、なんて扱いで食用扱いはしないみたいなんだ……」

幸子「たしかに、見た目は綺麗ですもんね……これで、悪臭を放たなければ……」

輝子「因みに、日本の一部ではレッドデータリストに収録されているんだって……」

 

輝子「今日の講義はここまで。この話で少しでもキノコに興味を持ってくれる人がいたら……う、うれしいな……」

幸子「今回は食菌の話でしたけど、次は危険な毒キノコみたいですよ! それじゃあ、ここまでお付き合いいただき……」

「「ありがとうございました」」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。