ご都合主義的がっこうぐらし! 作:ハイル
キーンコーンカーンコーン……
授業も終わり、席を立って伸びをする。テスト期間ではなく、目立った学校行事もない。
今日も何もない平和な一日だった……。
鞄を持って廊下に出ると、少し前を歩いていた見知った顔がこちらを向いた。
「あ、神谷君!」
腰まで伸びた茶色い髪にたれ目と目元の黒子が色っぽい美人、若狭悠里。
落ち着いた雰囲気と大人っぽい仕草から、男子からはもちろん、女子からの人気も厚い同じ学年の生徒である。
「ん、若狭か。これから屋上?」
「うん、いつもの園芸部。結構みんな大きくなってきたのよ?そろそろ収穫できるかも」
「へぇ、それは楽しみだな」
「収穫するときは、また呼ぶから……一緒に手伝ってね?」
そんな人気者の彼女と知り合ったのは、何だったか、意外と何気ない出会いだった気がするが……まぁ大したことじゃなかっただろう。
「雑用でよければ、好きに使ってくれ」
「クス、うん頼りにしてるわ。それじゃあ、またね。神谷君」
「うん、また」
が、そんな彼女と面識が出来て、少しは何かあるんじゃないかと期待していた時期もあったが……彼女とはいい友達って感じでそんな気配は全然ない。
彼女ほどの女性なら冴えない俺なんかよりも良い人がいるんだろうしなぁ……。
「あ!先輩!!」
「……お、お疲れ様です」
下駄箱の所で振り返ると、そこには見慣れたワインレッドの瞳に茶色の肩にかかるくらいの髪をハーフアップにした快活っ子と、青色の瞳でパールホワイトのショートヘアーをしたクール系女子がそこにはいた。今日はよく後ろから話しかけられる。
「ん?おー、二人とも今から帰りか?」
「はい!今日は新作のCDが出る日なんです!」
「ああ、圭が好きだっていってたあの」
この二人は、祠堂圭と直樹美紀。巡ヶ丘高校の2年生で俺の一年後輩にあたる。
二人に出会ったのは、確か去年の夏だったか、ガラの悪い奴らに絡まれていたところを、たまたま通りかかった俺が助けに入ったのが始まりで……あれ以来、妙に懐かれてしまった。
苗字で呼んでいたのに、名前で呼んでほしいとか言われたり……少しまだむず痒い。
「あ!先輩も一緒に行きませんか?」
「え?俺も?」
「そうしたら、美紀も喜びますから、ね、美紀」
「え!?えっと、私は……その」
「もう、なにをもじもじしてんのさ!いつもはもっとはっきり喋れるくせに、このこのー」
「ちょ、ちょっと圭~!」
相変わらず仲が良いなぁ……。
「そうだなぁ……折角のお誘いだし、一緒させてもらおうかな」
「本当ですか!やった」
パンと手を合わせて嬉しそうにしてくれる圭、俺が付いて行くって言っただけで、どうしてそう嬉しそうなのか。
「そんな大げさな……」
「いえいえ、先輩が来てくれると財布が大助かりですよ!」
「はは……そういうことか」
冗談です冗談、何て言って頭を掻いている彼女。明るく、ちょっと調子に乗るところもあるが、その明るい笑顔は見ているこちらも元気になれるような、そんな魅力的な笑顔だった。
「行くのは近くのショッピングモールだろ?」
「はい、以前先輩ともご一緒したあそこですよ」
あそこは映画館もついている大きなショッピングモールだ。暇を潰すにはうってつけだろう。
「あ!後、途中でゲームセンターに寄ってもいいですか?」
「私は、別に良いけど……」
俺も構わなかったのでうなずいて見せると圭の赤い目に闘志の火が宿る。
「よーし、先輩!覚悟してくださいね!今日こそ倒して見せますよ〜!」
「まだまだ後輩には負けられないな」
「こっちは、必殺技を考えてますから」
「そういって、前は美紀が抱き着いてきて俺の動きを止めるとかいうずるだったろ」
俺と圭が言っているのは、巷で有名な格闘ゲームの事で、前の対戦では、圭の指示で美紀が俺に抱き着いて操作を妨害するという作戦をとってきた。おかげで、集中できなかったが、最後の方は、なんだかんだ美紀と二人で圭を倒したんだっけか。
「うぅ、そ、その話はもう……」
「まだまだ、秘策はありますからね、ふっふっふ」
そういって、楽しそうに俺を指さす圭。おでこが、輝いて見える。
何気ない会話、何気ない人間関係、なんだかんだ言って、俺は結構今の学校生活が気に入っていたりする。
そう、そしてこれからも……
……ァー
ん?
ショッピングモールへと続く道の途中、あと少し、という所で、耳の中に変な異音が聞こえてきた気がする。
何だろう、あのカエルを引きつぶしたような声は……
「どうかしたんですか、先輩~?」
「いや……何か聞こえなかったか」
「え?……いえ、特に何も……」
耳を澄ませる、確かに聞こえた。それにぐちゅぐちゅと、何か噛潰しているような……路地の方か?
「あれ、ほんとだ、何この音……」
「……あっちだ」
「あ、ちょ!先輩!」
嫌な予感がする。
何だ、向こうに何かあるのか?
路地を進み、もう一つ向かい側の通りに出るとそこには
「……!?」
辺り一面の、赤と茶色。ひどい生ごみみたいな腐敗臭にアンモニアのような匂い、それにこの茶色の、糞の匂いが混じってそれはもう酷い匂いだ。
その先には、ぐしゃぐしゃと道路のど真ん中で「何かが」「何かを」貪っているのが目についた。なんだ、あれは……
「……う!!」
「せ、先輩!急に走り出すから、びっくりして……うわ、ひどい匂い……」
「先輩?……!!?」
「ぐぁ……?」
ギョロンと、こちらを見る「何か」。
飛び出した目玉に、血色のない青い顔。そして真っ赤な口元には先ほどまで貪っていたであろう、そう、「人間の手」がくわえられている……
ずぞっと、その「何かは」指を啜ってこちらを見、粘液だらけの口元を開く。
「……っ!」
「「きゃ、きゃあぁぁアアア!!」」
絹を裂くような圭たちの悲鳴。
どこかで、日常が崩れ去る音がした気がした。