ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第10話

「美紀~そっち何かあった~?」

 

「ううん、特には……う、蜘蛛の巣……」

 

ゴミ箱をひっくり返したかのように埃っぽい部屋の中、愚痴をこぼしているのは祠堂圭と直樹美紀の2年生コンビだ。

ここは学校の3階にあった資料室。今朝、たまたま倒した「やつら」のうち一体がこの部屋のカギを持っていたので入れるようになったのだが……

 

「先輩……ちょっと窓開けても良いですか」

 

「そうだな、ごほ、流石に、これは……」

 

資料室の中は埃っぽいだけでなく、本棚がひっくり返っており、足の踏み場もないくらい本やファイルが散らばっている。

何か役に立ちそうなものでもあればと思っていたが、あるのは学校の生徒数が書かれたかたっ苦しい資料や昔の卒業写真などのアルバムばかりで役に立ちそうにない。

 

ガララと美紀が窓を開ける音が聞こえる。

少しは綺麗な空気が入ってきた……気がする。

 

「……それにしても、大したものは無さそうだな」

 

「そうですね……せめて食料などあれb」「あ!」

 

圭が何かに気が付いたらしい声を出したので、美紀と二人、顔を合わせると身を乗り出して覗き込む。すると、くるりと振り返って見つけたものを勝ち誇るように見せつける。

 

「見てくださいよこれ!」

 

「えっと、DVDケースか?」

 

圭が見せてきたのは、どこでもあるような黒いDVDケース、しかも、タイトルは巡ヶ丘高校第32期卒業生……卒業DVDというやつで、今時珍しくもない。とてもじゃないが、そんなに声を出して喜ぶような代物ではない気がするが……。

 

「……有名人でもいるのか?」

 

「ふふふ、そう思うじゃないですか?」

 

パカっとケースを開けると、ちらっと、こちらを一度見て、DVDケースの中身を出す、かと思えば、またちらりとこちらを見て、手を引っ込める。……良いからはやく。

 

「じゃーん!見てくださいよこれ!」

 

そういって圭が勝ち誇るようにして取り出したのは一枚の色のついたDVD……って、これ

 

「映画のDVDじゃないか」

 

「そうなんですよ!しかもこれ、私が見たかったやつなんです!」

 

「どうして卒業DVDのケースにこんなものがあるんでしょう……?」

 

「……きっと誰かがケースでカモフラージュしておいてたんだろうな。何時でも見れるように」

 

「そうですね、まるで、先輩のえっちな本みたいですね」

 

……最近美紀は太郎丸の一件があったからか、機嫌が悪い。

 

「じゃあ、上映会だ!!」

 

「うお!」「きゃ」

 

「ゆ、ゆき先輩!?」

 

ばっと俺たちの間に立ち上がると、元気いっぱいにそう叫んだ黒い猫帽の丈槍由紀。

今日は、佐倉先生と授業をやるみたいなことを言ってなかったか?

 

「ふふーん!今日は上映会だね!夜になったら、みんなでポップコーン食べながら映画を見るの!部屋をうんと暗くして本物の映画館みたいに!」

 

「おー!それ、最高です!」

 

「……それは良いですけど、先輩、今日は授業を受けるって言ってませんでした?」

 

「今はちょっと休憩~。ねぇねぇ、けーちゃん!それってどんな映画~?」

 

「えっと、私も見たことないんですが、なんか泣けるって噂でしたね~」

 

「ほんとー!たのしみ~!」

 

「はぁ、全くもう、圭もゆき先輩も……」

 

何て言いながらも、美紀のやつも映画が楽しみなのか、口元は笑っていた。どうやら今日上映会とやらをするのは確定らしい。……久しぶりに笑顔を見せてはしゃぐ3人を見て、少しほっとした。救助の来る気配もなくて、最近はちょっと空気が悪くなってきていたからな。……さて、使えるDVDプレイヤーはどこの教室にあっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐねぇ、こと、佐倉先生の許可も無事に降りたので、俺は恵飛須沢と二人、職員室にあったプロジェクターとネットにつながらないノートパソコンを運び込む。

てっきり、教室にあるテレビを使うのかと思ったが、由紀のやつが、どうせならうんと大きい画面で見たいというので、先生の助言でプロジェクターを使うことにしたのだ。

 

「なぁ神谷、これ、どこへ持って行くんだ?」

 

「物理実験室か、化学実験室が良いかな、あそこは遮光カーテンだし」

 

「あー、そういえば……」

 

そういって、手もとに持っているノートパソコンを眺める恵飛須沢。その調子は普段とあまり変わりないように見える。

 

「映画、あんまり好きじゃないのか?」

 

「……別に、普通だよ。ただ、あんまり見に行く機会がなかっただけで」

 

「へぇ、恵飛須沢くらい可愛けりゃ、デートで行ったりしてそうだけどな」

 

「ぇっ!?」

 

「あ、太郎丸」

 

廊下の先から走ってきたのは、何か銀色の物を咥えた太郎丸と、それを追いかける由紀と若狭。

それにしても、若狭が走ると、バインバインとそれはその、凄い(語彙消失)。上も暴れていて凄いがひらひらと揺れるスカートはもう少しで見えてしまいそうな緊張感があってそれはそれで……痛っ!

 

ガツーンとあまりの後頭部の衝撃に、頭の中は一瞬真っ白になり、機材を落としそうになった手に力を入れて慌てて持ち直す。……隣に居た恵飛須沢にいいチョップをもらったらしい。にしても、少しは加減というものがあるだろう、意識が刈り取られるかと思ったわ!

 

「いってぇ……何するんだよ、急に」

 

「……ばか」

 

ぷいと顔を背ける恵飛須沢。なんだよ、急に……。

拗ねてる顔はちょっと可愛いが、まだ頭がジンジンしていてそれどころじゃない。本当に、じわじわ痛みが……あぁ……。

 

と、そんなやり取りをしているうちに、太郎丸のやつが通り過ぎて行ってしまった。

後ろからやってきた由紀と若狭が息を切らせながら俺たちの前で立ち止まる。

 

「はぁ、はぁ……早いなぁ太郎丸」

 

「なぁ、どうしたんだ、りーさん?」

 

「うん、太郎丸が、ポップコーンの材料を持って行っちゃって……」

 

「ぽっぷこーん?」

 

「映画と言えば、ポップーンだよ~!」

 

えへんと見かけのわりにそこそこ大きな胸を張る由紀。

ポップコーンか、久しく食べてないな……おわ!

今度は急に手もとが重くなった。

 

「おい、恵飛須沢」

 

「なに、ちょっと捕まえてくるよ」

 

そういうと、俺の持っていたプロジェクターの上にノートパソコンを乗せて、屈伸やストレッチを始める恵飛須沢。どうでもいいが、走るつもりならその重たいスコップは置いて行けよな……。

 

「よーい、どん!」

 

速!

そう思ったころには、既に恵飛須沢の背中は小さくなってきていた。若狭や由紀も口を開けて驚いている。かと思えば、また走って戻ってきた……手元には、抱えられた太郎丸……。スコップを持ってあの速さとは……、

太郎丸が咥えているのは、銀色のアルミ鍋というやつに入った家庭で作るタイプのポップコーンだった。包装された状態ではあるが、太郎丸の牙が中身に少し食い込んでしまっている……そんな太郎丸を、恵飛須沢は抱えたままげしげしと頭を乱暴に撫でる。

 

「全く、どうしてポップコーンなんて盗んだんだ?太郎丸―」

 

「太郎丸も食べたかったんだよね~」

 

今度は由紀に頭を撫でられるとくぅんと情けない声を出す。こいつは結構賢いんだよな、こちらの言うことをきちんと理解してるみたいだし、危険な1階にはむやみに近づいたりしないし……やつらが入り込みそうになった時はすぐに俺たちを呼んでくれたりもした。ポップコーンがどんなものなのかも知って居たり……は流石にないか。フリスビーとかに見えたのだろうか。

 

「……まあ、塩やキャラメルなんかを使わなければ、太郎丸が食べても問題ないし、これは太郎丸の分も作っちゃおうかしら」

 

「本当!?りーさんさすが~!」

 

「あ、もう、由紀ちゃんったら……」

 

ぎゅっと、若狭に抱き着く由紀。二人は、こうしてみていると仲のいい姉妹のようにも見える。それを微笑ましそうに見つめる恵飛須沢は……どっちかと言うと、お父さんとか、お兄ちゃんとかそういうポジションだろうな。

 

「恵飛須沢って、やっぱモテそうだよな?」

 

「は、はぁ……!?な、何言ってんだよ、お前!?」

 

ああ、主に女の子に、モテそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンと膨らむポップコーンに驚く太郎丸になごんだりしながら、夕方、俺たちは物理実験室に集まった。

物理実験室は大きな机がいくつも並んでおり、中々見ごたえがありそうだった。

先生がスクリーンを降ろして映画を見れるようにセッティングしていると、さっそく今日作ったポップコーンを持った由紀が一番前へと陣取った。

 

「丈槍さん、ちゃんとまっすぐスクリーンに映ってるかしら?」

 

「大丈夫だよ!めぐねぇ!」

 

「だから私はめぐねぇじゃなくて……はぁ、それじゃあ、みんな座ってね」

 

「みーくん、隣座って!」

 

「え……まぁ良いですけど……」

 

ぞろぞろと、セッティングを見守っていた皆も自分の席を探して移動し始める。俺は……そうだな、前ってガラじゃないし、後ろの扉の近くにしておくか、もしも「何か」あった時にも、すぐに対応できるしなぁ。

 

後ろの席にあった、一番端っこの丸椅子に腰かけると、すぐ隣に圭がぽんと腰かけてきた。それも、これだけ椅子があるのにわざわざ真隣にだ。

 

「ふっふっふ」

 

「な、なんだよ、不気味だな」

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか♪」

 

妙にご機嫌な圭がニコニコと笑みを浮かべるのを気味悪く思っていると、前の方に座っていた美紀がジト目でこちらを見ているのに気が付いた。別に、お前から圭を取ったりしないっての。

 

 

 

「……」

 

「くるみちゃんくるみちゃん、そんなとこに立ってないで、隣、座ってよ~」

 

「え、あ、ああ……」

 

「それじゃあ、電気を消すわね」

 

ぱっと、電気が消えると、部屋の中には、プロジェクターのうっすらとした光だけが映るようになった。前に座っている由紀たちや、若狭と佐倉先生の後ろ姿も、灰色に光って見える。

 

「うわぁ、すごい!わくわくするね!」

 

「そうですね、結構雰囲気が出てます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口にポップコーンを放り込み、さくっと噛むとほどよいバターの甘みが口の中に広がっていく。それをぽいぽいと口に詰め込んでいると、少し喉が渇いてきたので、珍しく許可のでた貴重な炭酸飲料を口いっぱいに飲み込むと、乾いた喉を、冷たい炭酸がはじけるように潤していく。

 

映画は、犬との共存をテーマにした恋愛映画だった。

初めは、主人公の男性が寒さに震える子犬(シュナウザー)を拾い、その犬をかわいがっていると、たまたま近くに住んでいた傷心の女性と会話するきっかけとなり徐々に仲が発展していく……といったような、まぁよくある内容だなと思った。

 

「この犬、ちょっと太郎丸ににてますね」

 

「そうか?全然犬種が違うだろ」

 

映画の犬は黒いシュナウザーで、太郎丸はスタンダードな柴犬だ。ちっとも似ていない。

 

「なんとなく、雰囲気がですよ」

 

「まぁ、どっちも賢い犬だろうけど」

 

 

 

 

 

 

(恵飛須沢くらい可愛けりゃ…デートで……)

 

(全然内容が入って来ない。あの馬鹿が変なこと言ってきたせいだ…)

 

「……あたし、ちょっと、トイレ」

 

「……」

 

「……」

 

(って、由紀も美紀も真剣に見てて聞こえてないか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

トイレにでも行っていたのか、廊下へと出ていたミス・シャベル、もとい恵飛須沢のやつが後ろの扉をそっと開けて部屋に入ってきたかと思えば、そっと俺の隣に丸椅子をおくと、おもむろに腰を下ろしはじめた。

 

「なぁ誰、あの女の子?」

 

「あぁ、主人公の妹だって」

 

「ふーん、なんか、どっかで見たことあるよな」

 

「最近売れてた女優だろ?」

 

「え、ああ、そうだったっけ」

 

『お兄ちゃんが女の人と知り合っただなんて信じられないよ』

 

……なんで自席に戻らないんだろうか。

どうやら、恵飛須沢はそこに腰を落ち着けたらしく、そのあとも、ぽつぽつと俺に感想を求めてきたり、持っていたポップコーンを取られたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今まで、ありがとう……お前は、死んでからもずっとボクのそばにいてくれたんだね……』

 

『わん』

 

ぐすぐすと、物理実験室には、女子連中のすすり泣く声が響く……。

 

「ぐす……ぐす……」

 

横目で見ると、圭も目を真っ赤にして、持っていたハンカチで目元の涙を拭っている。

……こういう動物系は、最後に死んじゃうんだろうなぁ、とある程度覚悟してみるものの、やっぱり実際その場面(シーン)になると、くるものがあるよな……。って

 

「……」

 

恵飛須沢のやつが机に突っ伏したまま動かない。

お前、この名シーンを見逃すつもりかよ。

 

「……」

 

しょうがないな。

圭にばれないように、ポンポンと、背中を軽くたたいて起きるように促す。いくら合わない映画だったとは言え、このシーンを見ないのは勿体なすぎる……何度か背中をぽんぽんしてみたが、恵飛須沢は起きる気配が……。

 

「ぁ、ありがとぅ……もう平気だ」

 

「……え?あ、あぁ」

 

なんだ、起きてたのか。

って、酷い顔だな……まさか、机に突っ伏していたのは、泣いてたからなのか……。興味がないどころか、号泣するなんて感情移入しすぎだろう……。

ただ、ぐいっと手の甲で涙を拭ってにへらと笑う姿には、不覚にもドキリとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はわたしが太郎丸と寝る!」

 

「あ、ズルいですゆき先輩!おいでー太郎丸~♡」

 

「……ぅぅ~……わふ」プィ

 

「えぇー……ぇー……」

 

夜。夕食の時間は映画の話でもちきりだった、やれ、主人公の男が少し優柔不断すぎるとか、女のヒロインが尻軽っぽいとか。まぁそういう他愛のない話だ。だが一番の話題は何といっても犬だった。犬が着ていた服が可愛かったとか、子犬時代のブルブル震えてお風呂に入るシーンが良かったとか。

 

そうすると、自然と今一番最も身近な犬である太郎丸に注目が集まる。

急にみんながちやほやし始めるので、太郎丸自身何が起こっているのかわからなくて困惑しているだろう。今も、誰が太郎丸と寝るのかということで争奪戦が起きている。

 

「わかったわ、じゃあ、こうしましょう!太郎丸が今から一番に寄っていった人の布団で今日は寝るということで!」

 

「のった!」「異議なし!」

 

となると、由紀・佐倉組と、若狭・恵飛須沢組と、圭・美紀組になるわけだが……。

 

「おいで~太郎丸~!」

 

「太郎丸くん、かも~ん!」

 

「いつもご飯をあげてるりーさんですよ~」

 

「りーさん、それはズルいような…」

 

「……」

 

お、俺のところに来たぞ。

え~とか、なんで~とか、ぶーぶーと不満の声が飛んでくるが知った事ではない。

 

「まぁ、そのうち熱も冷めるだろうよ」

 

「くぅん」

 

……俺の枕元で引っ付いて眠る太郎丸。

そうでもないようを装っているが、内心、めっちゃうれしかった。

 

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