ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第11話

コンビニの薄暗い店内。目視できるのは、フロアの先に見えている、もはや店員だったか客だったわからないあいつらが……2体。

 

目の前にいた恵飛須沢からアイコンタクトが送られてくる。こくっとうなずき、落ちていたカップ麺を拾うとドリンクの入ったガラスケース目掛けて、投げつける。すると、「あいつら」がパン!というカップ麺の当たった音に反応し、背を向けた。

 

「っ!」

 

その隙をついて、飛び出すと俺はバッドで、恵飛須沢はシャベルであいつらの後頭部を……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩たち、息がぴったりでしたね」

 

店内のあいつらを一掃し終えると、物陰に隠れていた美紀が姿を現す。

やや興奮したよう両手をグーにして、俺と恵飛須沢を交互に見ている。

 

「そうか?」

 

「はい、目を見ただけでお互いの考えていることがわかっているような、そんな感じで……阿吽の呼吸と言うやつでしょうか?」

 

「まぁ、あたしとこいつは乗り越えてきた死線の数が違うからな」

 

そういって、恵飛須沢は俺の肩に背伸びして肘を乗せると、歯を出しながら得意げに笑った。

確かに、俺と恵飛須沢はもう何度あいつらと戦ってきたかわからない。はじめこそ、戦うことに躊躇し、時には嘔吐してしまうようなこともあったが、ほかの皆にこんなことをさせたくないという気持ちの方が強く、次第に、あいつらを倒すことに抵抗がなくなっていった。それに、恵飛須沢が隣に居てくれるというのも大きいだろう。彼女のタフさには何度も助けられている、きっと俺一人では、今頃何かが壊れてしまっていたからもしれない……。だけどうぬぼれでなければきっと彼女も同じことを考えてくれているはずだろう、そう思えるからこそ、信頼できる。

 

「まぁ、相棒ってところか」

 

俺のぽつりと呟いた一言が聞こえていたのか恵飛須沢は間抜けにもぽかんと口を開けた。トレードマークの八重歯が良く見える。

 

「相棒?……へへ、そうだな、相棒か!」

 

そう言葉を繰り返しながらバシバシと親戚のおばちゃんのように強く背中を叩いてくる恵飛須沢。痛い。背中をさすりながら恨みがましく恵飛須沢を見たが、俺と目が合うとにっとご機嫌に笑うだけだった。……なんだか怒る気は失せてしまった。

 

「あの、そろそろ物資を詰めませんか?いつまた奴らが来るかもわかりませんし」

 

「っと、そうだな。あまりのんびりもしてられないか」

 

「……見張りはあたしがやっとくから、二人で持っていくものを選んでくれ。何かあったら、呼びに来る」

 

「わかった」

 

やや緊張感の戻った話し合いもすぐに終わる。美紀と一緒に陳列棚に並んでいる物資の選定しながらぽいぽいと持ってきていた大きめの白い袋につめていく。そう、今日俺たち3人は、初めてのおつかい……もとい、学校の外への物資の調達にやってきていた。

誰が行くかとか、いっそ全員で行くかなど揉めたのだが、先生には学校に残ってもらい、一番戦闘力のある3人がそのまま外に出ることにしたのだ。

美紀は、戦闘経験こそあまりないが、運動神経はほかの4人よりも良い。もちろん、単純な力なら大人の佐倉先生の方が上だろうが、とっさにあいつらに出会った時に必要なのは、あいつらを倒す力ではなく、あいつらから逃げる脚力なのだ。それに、俺たちがいなくても、先生がいてくれれば学校は、大丈夫だ。

 

ガサガサと陳列棚を漁る。ドリンクもいるな、後は佐倉先生にも……別になんでも構わないのだが、気分的に高いものを詰めていく方が背徳感が高めでワクワクする。コンビニから堂々と盗みを働くなんて、こんな時じゃないと出来ないだろうし。

 

「先輩、そういえば、由紀先輩が大和煮が食べたいって……」

 

「大和煮か……あるかな」

 

「あと圭はそろそろ別のCDが聞きたい~って」

 

「はは、アイチューンカードなら山ほどあるんだけどな」

 

「ふふ」

 

冗談を交えながら缶詰やカップラーメンなどを詰めていくが、これは……結構な重さになりそうだ。試しに持ってみるが、両手で持って何とかって感じだ……できればもっと持っていきたかったが……荷物が重くて身動きが取れず、あいつらに……なんてのはシャレにならない。諦めた方がよさそうだな。ふと美紀の方を見ると、何かを美紀がじっと見ている。

 

あれは……化粧品や美容品か……俺の視線に気が付いたのか美紀は慌てて首を振る。

 

「いえ、行きましょう、先輩。今は生活には必要なものが最優先ですから」

 

「……そうだな」

 

そういって、恵比寿沢の元へと向かう美紀。ふと目に入ったのは、落ちている大きめのビニール袋……ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさい!」

 

そういって一番に走り寄ってきたのは由紀だった。

そして、同じくらいにしっぽを振った太郎丸。圭や若狭、佐倉先生もそれに続くように近づいてくる……。よかった全員無事だったか。

 

「太郎丸~。圭たちを守ってくれてありがとね~♪」

 

「わふ……」

 

美紀の猫なで声に、お前のために守ってやってたんじゃないとばかりに、顔をそむける太郎丸……美紀、灰になりかけてるぞ。

 

「あれ、くるみちゃん、お土産は?」

 

「あ~お土産な……」

 

ちらっと、目を合わせてわざとらしく残念な顔を作る。すると、みるみる若狭たちの顔も曇っていく。

 

「あなたたちが無事だっただけでも先生は「ほら!こんなに!」はぅ!?」

 

先生が慰めの言葉をかけようとしたときに、美紀と一緒にドアの後ろに隠してあった大きな麻袋を取り出して見せると、わぁとみんなから歓喜の声があがった。これを背負ったまま階段上るのが一番きつかった。そのままガラガラっと中身を「学園生活部」のテーブルに広げていく。

 

「あ!赤いきつねにどん兵衛も!さっすが美紀~わかってる~」

 

「ちょ、圭、近いって……もう」

 

「大和煮~!!」

 

「よかったわね、由紀ちゃん」

 

がやがやと、皆が持ってきた商品を見て喜びの声を上げる。ついでに。

 

「ほら、これはおまけだ」

 

「え?」

 

そういって背中に隠していたビニール袋を机の上に出すと、あ!!と圭や若狭の目が輝く。取り出したのはブランドものとは程遠いコンビニの化粧品やシャンプーなんかだが、今使ってる米のとぎ汁よりなんかよりは百倍ましだろう。声が若干高くなり、食料そっちのけで早速何があるかを物色しはじめた。

 

「あの、先輩どうして……」

 

「ん?……まぁ、こういうのって、必要最低限、食べていくものがあればいいってわけじゃないだろ?たまには、こういう何気ないものがないとな」

 

それに、これだけ喜んでくれると重い思いをして、肩に食い込ませた甲斐があったというもの。俺の話を聞いた美紀も理解はしてくれたのか、そうですね。と優しく微笑む。

 

「そうそう、何気ないもの、これとかな」

 

そういって、今度は、恵飛須沢が服をペロンとまくって腹の中からコンビニで取ってきたらしい漫画本を取り出す。俺や美紀がそれを見て驚いたのに、更に気をよくして人差し指で鼻をこする。

否、俺が見ているのは、恵飛須沢の「白いおヘソ」だった。健康的で、ほどよく腹筋がついていて……恵飛須沢の白いおヘソをじっと見ていると、気が付いた恵比寿沢が顔を赤くしながら漫画本で叩いてくる。あれ、そんなに痛くない。

 

「先輩のえっち」

 

美紀から絶対零度の瞳を向けられる……こっちの方が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「神谷君……学校の周りはどうだった?」

 

ワイワイとハシャグみんなを遠巻きに見ていると、佐倉先生が小さな声で訪ねてくる。

 

「あまり良くはなかった……ですかね。バリケードを見かけたりはしましたが、大抵は破られた後で……まぁ、この辺については後で皆を交えて報告します。でも今は……」

 

つかの間の休息でもいい。皆の楽しそうな顔を眺めていたかった。

嬉しそうにチョコレートを見つけて天高く掲げる由紀に、未だに、美容品の使い方を考えているらしい若狭や圭。太郎丸と戯れる美紀とくるみ……。

 

「そうだ、実は先生用にもお土産が……」

 

「え?何かしら……」

 

まだ少し重い袋を持ち上げると、ビニールに入った銀色や金色の缶を4つ……。すると、みるみる佐倉先生の目が輝いていく。が、んんっと咳ばらいをしていつもの優しい笑顔を浮かべる。

 

「駄目よ、神谷君、こんなもの学校に持ってきちゃ、それに、未成年でしょ?これは……先生が没収します」

 

「はぁ、まぁもともとそのつもりでしたけど」

 

小躍りしそうなほどに袋を高々と持ち上げるとぎゅっと抱き寄せる佐倉先生。

 

「~♪」

 

「あ、めぐねぇもお菓子?」

 

「そう、おつま……ど、どんなお菓子があるかな~って、うふふ」

 

「?めぐねぇご機嫌だ~」

 

スキップしながら由紀に交じって晩酌の魚を探す佐倉先生。いつもは訂正しているめぐねぇ呼びも、ここまでご機嫌だと気にならないらしい。先生には、いつも苦労をかけてるからな、大人が一人ということもあって、これからどうするかとかとか、日々やることがないとメリハリがつかないからと授業してくれたり……。色々と。

 

パイプ椅子に腰掛けると、肩の力が抜けていく。しかし……良い報告ばかりでもない。

 

まず、学校の周りには、ろくに生存者はいなかった。

もしかしたらどこかに避難していて、上手くやり過ごしているのかもしれないが、それ以上に、突破された後、のような場所が多かった。

それに……以前、由紀と夜に出たときにも見たが、車が玉突き事故でも起こしたのか、車が建物に突っ込んでいたりかと思えば、やつらを巻き込んで……。

 

コンビニもあまり荒らされてなかったところを見るにもしかしたらもう、この辺りには……。

 

「かーくん!こっち来てよ~!お菓子じゃんけん!」

 

「負けませんよ!先輩!」

 

笑顔で由紀や圭が俺のことを呼んでいる。

こういう日が、いつまでも続けばいいと、そう思っていた。

 

 

 

 

しかし、幸せはそう長くは続かないものだった。

それを痛感したのは、とある「雨の日」のことである……

 


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