ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第12話

「神谷……神谷……」

 

?そう声が聞こえた気がする。

振り向くと、そこには教室があった。なんの疑いも持たずに扉を開けると、そこにはいつもの騒がしいクラスのみんな。

 

昨日見たドラマの内容を駄弁る女子連中に、新作ゲームのアップデートについて盛り上がる男子たち、そして、俺を見つけて手を挙げてくれて……。

 

「神谷、お前も来いよ……?」

 

「っ!?」

 

ズゾっと、肉が削げ落ちた!!!?

一瞬にして顔がドロドロに溶けていく……!いや、これは、知っている。見たことがある。

こいつら全員……俺が……!

 

「神谷、こっちは安全だぜ?」「お前も……楽に…るぞ?」

「神谷…疲れ…で…ょ?」「ほ……ら、そこに座って、み…なと所…おい……」

 

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「は!!……は!は!は!」

 

起きたとき目に入ったのは天井ではなく誰かの顔だった。

とても心配そうにこちらを見ている、優しそうな女性の顔。手を、握ってくれているのか、何となく暖かい……。荒れた呼吸を整えていると……

 

「母さん…?」

 

「……」

 

そっと、額に手を当てられる。そのままゆっくりと瞼をおとされる。

ひんやりしていて、気持ちがいい。それに、すごく……落ち着くような……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曇った朝の日。

今日は電気が使えない。学園生活部的に言えば、全校停電の日……。

 

「パーン!パーン?パーン♪」

 

「ゆき先輩はしゃぎすぎです」

 

「え?美紀も嬉しくて足ゆらゆらしてるのに?」

 

「ちょ、け、圭!」「みーくん可愛い~」「うんうん、可愛い可愛い~」

 

「う~!」

 

顔を真っ赤にして反論する美紀に対して、しししと歯をだしてねーと顔を合わせる圭と由紀。この二人、意外と気が合うんだよなぁ。

今日の朝食は、このがっこうぐらし始まって以来のパンである。缶ベーカリーとかいうやつでこの前コンビニから持ち帰ったものの一つなのだが……乾パンやお米タイプの非常食と違って、まだ誰も食べたことがないタイプの食料だった。賞味期限は結構長かったが、果たしてうまいのか、そもそも調理もせずに食えるものなのか……?何となく未知の食べ物のような気がして手が付けがたい。

 

「はやく、かーくん開けて開けて~」

 

「あ、ああ」

 

缶のプルトップに指をかけてぱこっと親指で蓋を押し込むと缶は問題なくあいた。中からも腐っているとか、そんな匂いはせず、それどころか……

 

「「「おぉぉ…!」」」

 

「パンの匂いがする~!」

 

「本当だな!これは……パンだ!」

 

たった一つ缶を開けただけで大騒ぎである。皆の分も順番に開けていき、若狭が入れてくれた紅茶と、圭の出してくれたマーガリンで立派な朝食の完成だ。ビタミン剤が少々場違いなきもするが、そんなもの、今更か。手を合わせると、

 

「「「「「「「いっただきまーす!」」」」」」」

 

同時にパンにかじりつき、一斉に目を見開いた。

 

「うまっ!」「本当にパンですね!」「はぐはぐ、うッ!」「ゆきちゃん、ほら紅茶を飲んで…」

 

意外なほどに、パンだ。

食べていたのは黒糖味と書かれた缶のものだったが、味がしっかりついているうえに、しっとりしつつもふんわりとやわらかい。久しぶりの「食べられるパン」の登場に皆、興奮を隠せないでいた。

 

「トースターとかあれば、もっとおいしいかも!」

 

「そうね。今日が全校停電の日じゃなかったら……」

 

「でもさ、このまま食べても十分おいしいって。なぁ、神谷」

 

「そうだなぁ、俺は鍋で煮詰めたほうが…」

 

「え!?」

 

「ははは冗談だ、冗談。ココアにつけたりしても美味いかもな」

 

「な、なんだよ、くく、あはは。そうだな。牛乳とかな」

 

そんな和やかな雰囲気で暫く食べ進めていると、不意に佐倉先生と目があった気がした。

 

しょ・く・い・ん・し・つ

 

「?」

 

「めぐねぇのパン、私のと味が違うね~」

 

「あらあら、それじゃあ少し食べてみる……って、佐倉先生でしょ、もう~」「えへへ~」

 

「でも、味の違うパンの交換ってのは悪くないかもな~。なぁ、神谷!」

 

「ん?あぁ悪い全部食っちまった」

 

「あ!そ、そっか」

 

……今、佐倉先生が、そう口を動かしたかと思えば、また、何事もなかったかのように由紀たちと話し始める。気のせいか?いや、でもそんな雰囲気じゃなかったような……

 

何気なく視線を足元に落とすと、ドッグフードを食べ終えた太郎丸は、けぷとげっぷを出すと欠伸をして気持ちよさそうに眠りについたようであった。今日は悪夢を見た気がするが、何だかほっとする朝の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、来てくれたのね」

 

職員室に入ると、佐倉先生が笑顔で席を立って俺のことを出迎えてくれた。

なんだか、久しぶり感じる学校の空気に思わず背筋を伸ばして、ピンと礼をして職員室に足を踏み入れる。……ここもひどい荒らされようだ。しかし、不思議と教師のあいつらはほとんど見ない。この前の資料室の人くらいで、ほかの人は……。

 

「ほかの子たちは?」

 

「え?ああ、今は、部室でパンに合う料理が何か話してました。俺はトイレってことで抜け出して」

 

「そう……あ、そんなにかしこまらないで、こっちに座って?」

 

「……はい」

 

先生の横にあった灰色の椅子に腰かけると、こぶしを丸めて膝に乗せる。なんだろうか、先生とこうして二人きりで話すことなんてあんまりなかったし……緊張する。意味もなく目を泳がせていると、先生の方から口を開く。

 

「大変でしょう?男の子一人だし……」

 

「え?」

 

予想のしていなかったいきなりの問いかけに対して、どう返していいか返答に詰まる。

男の子一人とは、「アレ」のことを言われているのだろうか?確かにこの女だらけの空間で無防備な若狭のパジャマ姿や美紀のガーターなんかにこう、ムラムラとしてしまったことがあるが、それを女性の佐倉先生にそのまま吐露するというのも……それに、もしかしてトイレで発散した時の匂いがばれているとか……いやでもシャワーに行く前にしてるはずなのに……

 

押し黙っていると、先生は何かに気が付いたのか顔を赤くしながら手をあわあわと振る

 

「え、えっと、男の子はあなた一人だけでしょう?だからみんなどうしても頼ってしまって……外に出るのも危険だったし……そういった矢面に立つのはストレスになったりしないかしらって……」

 

質問の意図が分かってほっとする。同時に、いつものような佐倉先生を見て、心にも余裕ができていた。

 

「……今のところそういったことでストレスに思ったことはないですよ。こんな状況ですし、俺に出来ることなら、何でもします」

 

「そう……」

 

実際、今の生活が始まった時はストレスに思うことは多少あった。なかなか助けが来ないとか、がっこうで戦うやつらのこととか。けれど、それ以上に俺がやらないとという気持ちが強くて、今なら多少の無茶ならどんなことでもする覚悟がある。

 

「あのね。言いにくいことかもしれないけれど…………神谷君はあの中に誰か好きな子は、いるの?」

 

「えッ!!?」

 

思わず目を見開いて佐倉先生を見る。先生もどことなく顔が赤い気がするが、俺の顔はきっとそれ以上に赤い。佐倉先生が、そんな俗っぽいことを?

 

「ご、ごめんなさい。本当は、こういったことは生徒同士の問題だと思うのだけれど……こういった状況でしょう?正直、結構危ういと思うの……」

 

「それは、俺が誰かと付き合ったりしたら、和が乱れる、ってことですか?」

 

「そうね……どこまでかはわからないけれど、今のままでは、そうなってしまうことも……」

 

「……」

 

……実は、俺自身そういう可能性を考慮しなかったわけではない。ただ、あれだけ可愛い子たちが俺なんかにと思うとどうも現実感に乏しかったのだ。それでも他人の口から改めてそう告げられると……

 

「……どうするのが良いんでしょうか、問題になるのなら、俺はここを出ていく覚悟もありますが……」

 

「そんな!」

 

がたっと、佐倉先生が椅子から立ち上がって、こちらの丸めていた拳に手を添えた。冷たくて柔らかい手が甲を滑る。

 

「いいえ!いいえ、そんなこと絶対にないわ!あなたも、私の大事な生徒です!生徒が学校を卒業もせずに辞めるだなんてそんなの……許しません!」

 

「……っぷ」

 

呆気に取られてしまった。どんな説得をされるのかと思えば、頬を膨らませて子供みたいに許しませんと言ってきたのだ。我慢できずに噴き出してしまった。

 

「ひどい!先生は本気よ神谷君!?」

 

「はははは、いや、すみません。つい……俺も、少し自虐的になり過ぎました」

 

俺の言葉を聞いて、ほっとしたように笑顔を取り戻した先生は再び椅子に座ると、今日一番真剣な顔をする佐倉先生。俺もようやく本題なのだろうと思い、唾をのみこみ、背筋を正す。

 

「神谷君。それも重要なことなのだけれど、今日、私があなたを呼んだのは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神谷っ!!!はぁ……はぁ……」

 

「恵飛須沢……?」

 

職員室から出るとほぼ同時に、血相を変えて走ってきたのは茶色いシャベルを持った恵飛須沢胡桃……。いつもとは、焦り方の様子が違う。何か、嫌な予感がする。

 

「どうした、恵飛須沢」

 

「はぁ、ん、正面の、バリケードが破られる!」

 

「な!?」

 

「あいつら、雨に濡れないように、学校の中に入ろうとして大漁に押し寄せてるんだ!」

 

廊下を蹴って窓を見る。気づけば今朝は降っていなかった大粒の雨が大地を濡らしているようであった。そして、それらを嫌がるようにして「あいつら」が校舎へと向かって歩いてきている……まさか、あいつらの弱点は雨?いや、これは……

 

「生前の記憶……?」

 

「生前の?」

 

「あいつら、雨が降ったら校舎に入るっていう生前の記憶があるんだ。きっとそれで……」

 

「……普段校舎にいない奴らもこっちに向かってる。このままじゃ、いつなだれ込まれるか……」

 

少し泣きそうな顔をしている恵飛須沢の両ほほをぱしっと挟むと、ムニムニと動かす。恵飛須沢は驚いたように目をぱちぱちとさせてこちらを見上げている。

 

「ふぁ、ふぁみや?」

 

「しっかりしろ。大丈夫だ。こういう日が来るかもって話は、してただろ?」

 

実際に準備をしていたわけではない。けれど、もしかしたら……なんてことはパトロール中なんかに話したことがあったのだ。

 

「俺たちで守るんだ」

 

それを恵飛須沢も思い出したのか、うん、うんと頷いて、徐々に目にも光が宿っていき、へへっと八重歯を出して笑う。

 

「……え、えっと~。どうかしたの、二人とも?」

 

「あ、めぐねぇ!ここも危ないすぐに上に!」「え、ええ!?」

 

ガシャン!!と派手な音が下の階から次々と響いてくる…!

俺が、みんなのためにできることは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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