ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第5話

「先輩、や、やめましょうこんな……」

 

「シーッ……静かに」

 

するすると、4階の外廊下からザリガニ釣りをするように、ビニールひもに括りつけた水入りのペットボトルを垂らしていく。その下階には、あいつらが2体ほど徘徊しているのを確認済みである。

 

「……」

 

ピクピク、とヒモを引いてペットボトルを動かしてみるが、下のやつらはまるで見えていないのか、何の反応もなく素通りしていく。

 

「……目が悪いみたいだな、動くものに、なんでも反応するというわけでもなさそうだし」

 

「……」

 

不安そうに俺の服を摘まむ美紀、それとは対照的に、圭はきょろきょろと、辺りの警戒を行ってくれている。結構、肝が据わっている。

 

「ちょっと試してみるか」

 

「試すって……」

 

ぱっと手を離すとペットボトルが手すりにぶつかり、ガス!と鈍い音がする。

すると、さっきまで見向きもしていなかったあいつらが一斉に手すりへと集まってくるのがわかる。2階にいるやつも、反応しているようだ。

 

「どうやら音には反応するようだな。それも、結構よく」

 

「あ、危ないですよ」

 

「どうしてあいつら同士、干渉しあわないんだろうな」

 

落としたペットボトルを引っ張り上げ、ピクピクと揺らしてみるが、あいつらは先ほど音がした方をきょろきょろとみているだけで、ペットボトルが見えていない……。人間は視認できるが、物に対しては疎いのだろうか?

 

「……次は、パンツでもつるすか」

 

「え!?ぱ、パンツ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、何回か実験を行ったが、やつらは思いのほか、知能が低く、身体能力も低いようだった。

まず5感だが、聴覚以外はほとんど役に立っていないように思う。

目は動くものすら見えていないようで相当近くに物がないとわからない。最悪ぶつかったりしているようであった。嗅覚もないのか、においのついた衣服やその他諸々にも一切反応しなかった。味覚や触覚については、まぁ別に良いだろう。

 

ただ、どういうわけか、人に対しては五感以外の何かで居場所を探っているような気がする、それがフェロモンやオーラと言われる類の物なのかはわからないが、やつら同士が干渉しあわないのはそういう事なのではないかと思う。

 

知能も低く、段差や障害物がとにかく苦手そうだった。音を立てれば何にでも反応して、扉に対しても、基本叩き続けることしかできないようであった。もちろん、窓なんかはそれで簡単に破られてしまうので、それで侵入されてしまえば終わりだが、それがわかっていれば対策も立てられるというもの。

 

思っていたより強敵ではないと思う。もちろん、一発でも噛まれたらお陀仏なので決して油断できる相手ではないが……。

しかし、この程度の相手なら、装備を固めた自衛隊や警察がすぐに制圧、救助にこれそうなものだが……それができない、何かほかの問題があるのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の早朝4時に、ここを出ようと思う」

 

夕方、二人に対してそう告げると、二人は少し意外そうな顔をした。

 

「えっ、もう出るんですか?」

 

「ああ。下にはやつらが集まり始めているし、このまま籠城していたらライフラインや食料が切れた時点で詰んじゃうからな。食料も残っているうちに、早めに脱出した方が良いだろう」

 

「……次の目的地は、学校、ですよね?」

 

「そうだ、ここから15分ほどかかる……早朝であれば、あいつらの数も少なくなるだろうし」

 

今朝、圭と話していた生前の記憶があるものだとすれば、せいぜい学校にいるのは監視の用務員くらいで、生徒や先生は皆帰っているはずである。もちろん、そうでない可能性もあるが……なんとなく、確信があった。

 

「もちろん、学校が崩壊していて無理だとわかったらここに引き返してくることになるだろうから、その覚悟はしておいてほしい」

 

二人はお互いの顔を見合わせてから、黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、これも持って行っていいですか」

 

「ドライバーか……良いんじゃないか?何かあれば使うかもしれないし。ああ、いちいち許可なんか取らなくても、好きなものなんでも持って行ってくれ」

 

部屋の中を漁りながら準備を進める。使えそうなものを持って行くというのも、意外と難しい。食料と武器になりそうな木刀や物干しざお、包丁とかはともかく、調理用具とか生活用品とか……そういえば、新品の石鹸があったな、ああいうのは持っていた方が良いだろうな……すっと立ち上がると洗面所の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ほほう、これはこれは……」

 

「け、圭、やめなよ」

 

ん?二人がベッドの方を向いて何やらこそこそと話をしている。

一体何を見つけて……!!?

 

「あ!それは」

 

おいバカやめろ!マジで!!

本棚の普通の本の後ろに隠してカモフラージュしてあった「押しかけメイドさん、24時間ご主人様と〇〇で××…」が発見されていた!

慌てて圭の見ていたものをひったくる。

 

「ち、違う!これは先輩がお土産などと言って渡してきたもので……」

 

今の時代、パソコンでそういったものはいくらでも調べられるのでおかずといえばそちらが主流、なので、先輩から土産でというのはまぎれもない事実なのだが、二人がそんなことを知る由もなく、こ、このままでは、今まで築き上げてきた頼れる先輩の像が台無しである。

 

「大丈夫です!男の人って、こういうの必要なんですよね!」

 

「……先輩は、メイドが好みなんですか?」

 

なぜか赤い顔をしたまま良い笑顔をした圭とおずおずと上目遣いにこちらを見る美紀。

あいつらと初めて対峙した時以上に、冷や汗がすごかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、いくぞ」

 

午前4時、ゾンビが集まっている気配はない。

ゆっくりとドアを開けると、白んだ空に、独特の霞がかった空気。怖いくらいの静寂がそこにはあった。

 

「……」

 

大きく息を吸い、二人に目配せすると、ゆっくりと、音をたてないように外へと出る。

そして、そのあとはドアをゆっくりと戻し……ドアノブをゆっくりと戻す。

 

手すりから見える下の方には、やつらが数体うろうろとしているのが目についた。

よくよく見れば、着ている服や、身に着けている装飾品に見覚えがあった。やはり、ここに住んでいた人たち……なのだろう。帰ってきたは良いが、部屋に入れなかったのか?

 

……視線を戻し、二人にアイコンタクトを送るとゆっくりと階段を降りていく。

5階、4階……と、来たところで、階段に一体、「やつら」が居るのがわかった。

 

階段の真ん中でちょうどうつぶせになって寝そべっているが……寝ているのか、死んでいるのか、判断がつかない。

いや、そもそもこいつらは寝たりするのだろうか?

……何にせよ、階段の真ん中で寝ていて邪魔である。

 

「……」

 

ここで、大きな音を立てるわけにはいかない。

ゆっくりと、寝てるやつの隣の開いているスペースに足を差し込み、階段を降りていく。今にも、起き上がって足を掴まれ噛みつかれるんじゃ、と思うと心臓がうるさいくらい鳴り響き始めたが、焦らず、ゆっくり……

 

「……」

 

どうにか、俺が通り終わったのを見ると、後ろの二人が俺に倣ってついてくる。

初めに圭がゆっくりと階段を降りはじめ……通り抜ける。

 

圭が通り終わったのを見て、美紀が意を決して足をやつらの顔付近に差し込んだ……その時!!

 

「はぁぁ……!」

 

「っっっっっ!!!??」

 

足元のそいつが、息を吐いた。起きたのか!?

美紀はその息が足に掛かると、叫びそうになった衝撃を咄嗟に口を手で覆い防ぐが、顔が歪み、今にも泣き出しそうになっている。

そのまま、焦る気持ちもあるのだろう、ゆっくりと、足を進め、最後は落ちるように俺の元へと飛び込んできた。

がしりと、それを受け止めると、美紀がぎゅっと服を掴む。

 

「ふぅ、ふぅ……ふぅ、ふぅ」

 

……追って、こないな。

 

「……よし、大丈夫だ、大丈夫、気が付いてない」

 

「…………し、死ぬかと……」

 

「美紀~!すごい、頑張ったね」

 

「うん……」

 

ひそひそとなるべく小さな声を出しているが、こんな声を感づかれてもまずい、再び階段を降り始めた……3階、2階、1階……と、外へとつながる玄関口には、3体ほどのやつらがうろついていた。玄関口は場所も狭く、正面突破も難しいだろう……

 

「ど、どうしますか、先輩」

 

「……こういう時には、こうするんだ」

 

予め、ポケットに忍ばせていた小皿を取り出すと、入口から少し遠い場所に向かって、小皿を投げる。

 

パリン!

 

と、音が鳴ったと思えば、それと同時にあいつらが皿の鳴った方へと一斉に群がり始める。

それにしても、やはりこれだけ静かだと音が響くな。

 

「今のうちに……」

 

ゆっくりと、あいつらに気が付かれないように歩みを進める。

外へ……外へ……はやる気持ちを抑えて……足を動かし、俺たちは、無事地上へと出ることがきできた。

 

 

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