ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第6話

「……本当に、やつらは少ないみたいですね」

 

「普段だったら、私だってこの時間家で寝てるよ……」

 

ようやく見えて来た学校の正門。

しかし、ゾンビたちの姿はそれほど大したものではない。ぽつぽつと、グラウンドに何体かいるみたいだが、こちらに気が付いたところで距離的に追いつかないだろう。

 

「……まずは、3階を目指そう。上の階ほど、あいつらの数は少ないはずだからな。もし、万が一校舎内で奴らに鉢合わせたら、絶対に戦おうとせず逃げること。基本的に、何かを遠くに投げて音を出して気を引いた隙に逃げる。良いな?」

 

「はい!」

 

「わかりました」

 

圭と美紀、それぞれに目をやるが、二人の瞳には緊張こそあれ、この間のような恐怖の色は宿っていない。あいつらに対する実験やここまでの道中でも上手く切り抜けられたことなどが自信につながっているのかもしれない。

俺の手には木刀、彼女たちはそれぞれ包丁と鋏を持っているが、基本戦わせるつもりはない。ポケットに小物をいくつか忍ばせてあるので、それを使って相手の気を引いているうちに逃げるようにしている。

物干し竿の先端に包丁でも付ければ使えるんじゃないかとも思ったのだが、でかすぎて脱出の際、どこかにぶつけて音が鳴り、かえって移動の邪魔になりそうなので置いてきたのだが……やはりリーチがある武器は一つくらいほしかったなと今更になってから思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっと、手を出して二人を制する。

グラウンドを抜け、下駄箱からホールを覗き込んでみると、3体ほど「あいつら」がうろうろとしているのが目についた。制服を着ている……ということは元ここの生徒、必ずしも全員が家に帰ったりするわけではないのか……

 

ポケットから10円玉を取り出し、ホールの奥に向かって投げ飛ばすと、チャリンチャリンと、音が響き、その音に釣られてあいつらが移動を開始する。

 

ばっと、外へと飛び出し、階段へとむか……!!!!

 

「うわ!!」「キャア!!!」

 

ぬっと、男子トイレから姿を現した「あいつら」に驚きの声を上げてしまう!さっきの音を聞いて、個室のやつが出てきてしまったらしい。それと鉢合わせたのだ。

 

「グガア!!」

 

ぬらりと、大きな口を開くと、噛みつこうと手を伸ばしてきたので、咄嗟で木刀を盾にしてガードすると、バキバキ、と噛みつかれた木刀が軋む!

 

「!」

 

相手が噛みついてきている隙に、腹部を思いっきり蹴り飛ばすと、踏ん張る力がないためか相手は素直に後ろによろめき、倒れてしまう。コレがある、いくらあいつらの動きが遅くても、一発でアウトなのだ。不意打ちには十分注意しないと……。

 

「先輩、後ろから!」

 

!さっき驚いたときの声で気付かれてしまったのか、ホールに向かっていた3体ほどがこちらに近づいてくる。

 

「急ごう、部屋から出てくる奴には気をつけろ!」

 

女子トイレの向こう、階段を上る。

一段一段が、普段上っていた時よりも高く感じる。俺が踊り場へたどり着いた、その瞬間!

 

ゴロゴロと、「黒い塊」が上の階から転がってくる。

 

咄嗟に二人をかばって手を出したが、塊は踊り場の壁にぶつかってべちゃりと音を立て動かなくなる。見ると、あいつらが重なって、気味の悪い物体に慣れ果てている、階段を降りようとして失敗したのか……?

 

「びっくりした……今のうちに早く……」

 

と声をかけたとき、圭の顔が引きつっていることに気が付いた。

 

「どうした、圭?」

 

「すみません、驚いた拍子に、足、捻っちゃって……」

 

「圭、肩かして……」

 

すっと美紀が圭の肩を持つ。……圭の怪我も気になるが、階下を見ると、あいつらが集まってきている、今はとにかく上の安全な場所へ……ん?

 

バリケードがある!まだ、作りかけだが、教室の机を何段か重ねて作ったバリケード。これは、まさか……生存者が上にいるのか?

 

 

 

 

 

圭と美紀を手助けしながらバリケードを乗り越え、やってきた3階。見える範囲にあいつらは一体も居なかった。それと同時に、この階に生存者がいる確率が高くなったといえる。もちろん、既に、どこかの部屋で全滅している可能性もあるが……いや、考えるのはよそう。

 

辺りを確認しながら、ゆっくりと歩みを進める。

そこで、生徒会室、と書かれた一室があったので、そっと扉を開いてみる……中には、誰もいないな。二人を招き入れると、美紀が圭を近くのパイプ椅子へと腰かけさせる。

 

「圭、足、見せて」

 

「うん……」

 

圭の黒いタイツが脱げると、そこには白い足に似つかわしくない、赤い大きな腫れものができていた。ちょっと捻っただけ、と言っていたが、どうやらその程度の怪我ではなかったらしい。我慢していたのだろう。美紀が触れると、うっと悲痛な声を漏らす。

 

「すみません、私、いきなり足手まといに……」

 

「なに、こうして3人とも生きていたじゃないか。怪我はしたけど、噛まれてないし、何の問題もないだろ」

 

「でも……」

 

「私も、圭が生きていてくれて、それだけでうれしいよ」

 

「先輩、美紀……」

 

美紀がそういって圭の手を握ると、表情はいくらか柔らかくなった。

怪我なんて、あいつらになるのに比べたら安いものだ。

 

辺りを見回す、筆記用具にノート……使ったと思われる血痕のついたタオルに、カンパンの空き缶か……間違いなく、最近誰かが使ったものだろう。

……こういった極限状態の際、人と人との衝突というのは一番厄介である。先住民たちに俺たちが受け入れてもらえるかどうかだが……。

 

「ちょっと、周りを見てくる。多分、先客がいるだろうし」

 

「え?先輩?」

 

ペットボトルの水で圭の足を冷やしていた美紀が心配そうにこちらを見る。

 

「そんな顔するなって、すぐに戻ってくるから」

 

ガラリと、ドアを開けた。

 

「っ!」

 

「っと!?」

 

目の前に、黒い猫っぽい帽子、ピンク色の髪に同じ色の瞳をしていた小柄な少女が立っていた。制服を着ているということは、俺たちと同じ、巡ヶ丘高校の生徒なのだろう。ちょっと酸い匂いがした。

 

「あ、え、あのあの……」

 

「ごめんよ、こんな時間に勝手に入って。決して怪しいものではないから」

 

「う、うん……」

 

ピンク髪の少女はぽかんとした様子で俺の事を見る。言ってから思ったが、怪しいものではないっていうのは、大抵怪しい奴が言う言葉である。失敗した。

少女は少し落ち着いたのか、今度は身を乗り出して後ろを覗き込むと、圭と美紀とも目があったようだ。

 

「初めまして祠堂圭、巡ヶ丘高校の2年生です!」

 

「えっと、直樹美紀……です。2年生です」

 

「……ド、ドウモ……3年の丈槍由紀、です」

 

二人の自己紹介を聞いて、ぎこちない自己紹介で返すピンク髪の少女。

 

「3年…よろしくお願いしますね、由紀先輩!」

 

「!!」

 

圭のその言葉を聞いて、フリーズしてしまう丈槍由紀。てか、同い年だったのか……てっきり年下なのかと思ったが……。

 

「圭、先輩にいきなり、下の名前だなんて……」

 

「え~?でもその方が距離は縮まるでしょ?」

 

二人の会話もなんのその、ワナワナ小刻みに震えだす丈槍由紀に、どうかしたのかと声をかけようとした、その時だ。

 

「めぐねえ!りーさん!くるみちゃん!!大変、大変、大変だよ!!!?私が先輩で、後輩で、大変だよ!!」

 

ドタン、バタバタ!とはじけるように駆けだし、すぐ隣の放送室へと駆け込むとここまで響く大きな声を出す丈槍由紀。さっきまで、ずっと静かだったからきーんと耳に響く、キーンと。

……まぁ悪い娘ではなさそうだったで安心する。圭はその様子を見てあははと、笑顔を浮かべて脱力していたが、美紀はうるさそうに耳を塞いであいつらに聞かれたら……と不満そうだった。

 

 

 

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