ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第8話

ジャーーー!!

 

「……ふぅ」

 

朝。トイレから出た俺は、すさまじく晴れやかな気分であった。

ここ最近ストレスになるようなあいつらとの戦いが続き、ろくな食べ物も食べてなかったが、昨日は購買に残っていた消費期限の近い食材を若狭や圭が大量に料理してくれ、久しぶりに満足のいく食事をとることができたのだ。

 

そして、腹がいっぱいになると、出るものも出る。

先ほどはなかなか長期に及ぶ戦いをトイレで繰り広げていたが、長期戦であるにもかかわらず、勝つことはわかっていたような、そんな余裕のある気分が良い消化試合であった。戦いが終わった後、流すのが少し勿体ない気分になったくらいである。

 

凄まじい達成感があった。この、達成感を誰かと共有したくなったのだが……

 

「先輩、おはようございます」

 

生徒会室に顔を出すと、美紀が一人、パイプ椅子に腰かけ本を読んでいた。

 

「おはよう、美紀。今朝は何の本を読んでるんだ?」

 

「これですか?デセプション・ポイントという本です。地球外生命体の化石が発見されたという知らせを受けた主人公が……」

 

うん、美紀相手には流石に、今朝の俺の爽やかな気分を話すことは出来なさそうだな。

美紀は、図書館が使えるようになってからというもの、この通り本の虫になってしまった。もちろん、優先的にやることや、誰かの手伝いなども進んでやってくれるが……。

まぁ嬉しそうに本の内容を話してくれる彼女の姿は、嫌いじゃない。

 

そう、俺たちがここ、巡ヶ丘高校で暮らし始めて。かれこれ10日間が経っていた。

 

俺は恵飛須沢と一緒にやつらを倒し、2階を制圧した後はバリケードを補強したりしながら、行動できる範囲を増やし日々の生活基盤を強化していった。まずはどんな施設が使えるのか、また、残っているもので使えるものはないか、何日分くらいの食糧が残っているのか……やることは山積みであった。

部屋や廊下も、はじめ吐き気を催すほど無残なものであったが、皆で掃除をして、少しは、見れるようになってきた。ようやく、安定してきたのだ。生活的にも、精神的にも。

 

「先輩?」

 

「ああ、聞いてるよ。それで、面白くて昨日は眠れなかったと?」

 

「そ、それはその、はい。続きが気になってしまって……」

 

「そうか。でも、身体に悪いから、ほどほどにな」

 

「はい」

 

にこりと笑う美紀、こんな爽やかな空気なのに、大の便の話は出来ないよなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、神谷君。おはよう」

 

「おはよう、若狭」

 

屋上にやってくると、菜園の世話をしている若狭の姿が目に付いた。今朝から軍手をして、無駄な雑草をむしっていたらしい。手伝おうかとも思ったが、そろそろ終わりだったらしく、すでに若狭は花壇の一番端までやって来ていた。

 

「今朝も良い天気ね。これなら、今日もシャワーを浴びられそうだわ」

 

「そうだな」

 

学校の電気は有限である。

太陽光からの発電に頼り切っている現在は曇りなどの日は極力電気を使わないように取り決めた。その為、シャワーを使うにしても、電気が十分に貯まる晴れの日しか使えないのである。男の俺はともかく、女の子には少々しんどいことだろう。

 

「……あら、神谷君、何か良いことでもあったのかしら?」

 

「え?……どうして」

 

「う~ん、何だか、普段より嬉しそうな顔してたから、かな。何かあったの」

 

「ああ、いや、大したことないんだけど……」

 

と、そこまで言いかけて、思い返す。

彼女は、俺の大の便の話を聞いてどういう反応を示すだろう。

 

相手がどんなあほなことをしても笑ってくれるような男友達ならともかく、相手は今も俺の言葉をにこりと微笑みながら待ってくれているような美少女・若狭悠里である。

 

「まぁ、大したことじゃないよ」

 

「えぇ~、気になるじゃないの、ね、何?」

 

「なんでもないって。それより、何か手伝えることってあるか?」

 

「そうね……じゃあ、一緒に水やりを手伝ってくれないかしら」

 

上手くはぐらかしたと思ったが、そのあとも手伝いをしながら、今朝どんないいことがあったのか、7回も聞かれた。若狭は気になることに対しては結構、ねちっこいタイプであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに一人くらい男が居れば、今朝のあの感動も、何の気なしに話せるのだろうが……そうか、女子しかいないものな……。

 

「おい、ぼさっとするな、どうしたんだ」

 

「いや、悪い。ちょっとな」

 

やつらの相手は基本、俺と、それからこの恵飛須沢のやつとで受け持っている。

恵飛須沢は、強かった。その抜群の運動神経と奴らに対しても躊躇なくとどめを刺せるタフさを持っており、俺が長い得物で奴らを取り押さえたり、転ばしたりした隙に、恵飛須沢がとどめを刺すという戦い方で、やつらを撃退していた。

 

購買に置いてあったさすまた……これが、また使える武器だった。奴らのリーチ外から取り押さえられ、かつ、やつらの知能ではうまく抜け出せないものだから、拘束性も高かった。

おかげで、二人でなら2階を制圧することも可能になり、その後、バリケードを作って美紀達でも行き来ができるようにまでなった。1階まで行ったこともあったが、流石に制圧……するのはまだまだ難しいと感じた。倒しても倒しても、外から新しいあいつらが湧いてくるのだ。できるとしたら、せいぜい、夜に行って1階のどこかの物資をとってくることくらいだろう。

だが、今のところ、魅力的な施設が1階にないのもあって、制圧の予定はない。2階、3階でも十分に生活ができているが……と

 

「いたぞ……一体。バリケードを壊そうとしてるな……」

 

「……」

 

だっと、恵飛須沢がバリケードの机に飛び乗る。こいつ、倒すつもりか!っていうか、何か言えよな、本当。俺は恵飛須沢が机に乗って構えたのと同時に、ポケットに入れていたコインをわざと床に落とす。

 

すると、注意がバリケードから、バリケードの向こうにいた俺の方へと移り……

 

「……ばいばい」

 

その隙に、反対側に飛び降りた恵飛須沢が、スコップを振るってその首を跳ね飛ばす。

血潮に濡れる、恵飛須沢の服と顔……いくら見ても、見慣れない光景だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵飛須沢は、あまり笑わないやつだった。

由紀に色々とちょっかいをかけられたときなどは、少し柔らかい表情をするが、少なくとも、俺と二人でいるときに彼女が笑ったところは見たことがない。

 

「バリケードの補強はこんなもんか……また針金やら取りに行った方が良いな……」

 

「……」

 

無口で頼りになる相棒ではあるが、こんなことではこの先、思いやられ「なぁ」

 

「ん?」

 

「お前さ、なんか、言いたいことでもあるのか」

 

「な、何が」

 

「いや、なんか……そんな顔してた」

 

……驚いたな。俺になんか無関心だと思っていたが……。

それにしても、困ったぞ、それって、多分、俺が今朝の事を考えていた時のことだろう?今朝の事って言うと、大の便が快適だったというあれである。

 

「言えないなら、別に良いけど……」

 

だが、口数の少ない彼女が折角切り出してくれた一言なのだ、ここで言わないわけにはいかないだろう。見ると、彼女は凄く真剣な顔をして俺の言葉を待っているようであった、やはりここは言った方が良いな……。

 

「いや、実は今日、すげー大量のう…こが出てさ」

 

「……は?」

 

「だ、だから、すげー、腹の調子が良くて大量の…んこが出たんだよ」

 

「……」

 

「……」

 

静寂、無音。

恵飛須沢は豆鉄砲を食らったがごとく、口を開けてポカンとしている。やはり、言った後に、すごく後悔した。なんで俺はこんなあほらしいことを彼女に真実を打ち明けるかのごとく話してしまったのかと。

 

「ぷ、くく、ふふふ、あははははは!」

 

「お、おいバカ!笑うなよ」

 

「あは、あははは!だって、お前、すごい真剣な顔して、う…こが出たんだ。なんて、あは、あはははは!」

 

なんだ、何なんだ。

初めて見る大笑いだった。彼女は、俺の大の話を聞いて爆笑してくれたようだった。確かにコレが、俺の求めていた反応ではあるが、なんか、ちょっと違う。

 

「おい、笑いすぎだぞ」

 

「あはははは!」

 

「お、おい!あいつらが集まり始めてるって!」

 

ぐおおと、周りにあいつらが集まりだしたのでマジで焦っていたが、その間も彼女は腹を抱えて笑いっぱなしであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、今日はどうだった」

 

次の日、彼女の方から声をかけてきた。

 

「どうって、何が」

 

「うん?調子は良かったのかって事さ」

 

暫く考えてから、意味を理解した。

まだ昨日の事を言っているのか。っていうか、もしかしてこいつそういう話が好きなのか?

 

「あぁ、まぁまぁだったな」

 

「そっか」

 

そういって、優し気に笑う。何が彼女をここまで変えたのかわからないが、それから恵飛須沢胡桃は良く笑うようになった。

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