ご都合主義的がっこうぐらし!   作:ハイル

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第9話

「みんな、少しいいかしら」

 

生徒会室で夜ご飯であるレトルトのカレーを食べ終わるころ、若狭が神妙な面持ちでこちらを見た。声のトーンからして真剣な話であるとわかったからか、由紀のやつも珍しく背筋をピンと伸ばして姿勢を正している。

 

「明日から、皆で部活を始めようと思うのだけれど……そのどうかしら?」

 

「「部活!?」」

 

そう大きな声を出したのは由紀と圭。美紀は二人に挟まれていたため、耳を抑えて顔を顰めている。部活……部活かぁ。佐倉先生は後ろでニコニコと微笑んでおり、既に話を受けていたことがわかる。それにしても、なるほど、部活か。

 

「ええ、ただ過ごすより、目的があった方が張りが出ると思って」

 

「うん!賛成!すっごく賛成!」

 

「部活って……どんな部なんですか?」

 

「それはね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…きて、ねぇ起きて、かーくん!」

 

「……ん?」

 

朝、か……?

ぼーっとした頭で薄緑色に光る時計を見ると、時刻は、午前3時……朝日を見るにしても、早すぎる時間帯だ。

 

「……トイレ?」

 

「ううん、違うよ」

 

目元をもみほぐしながらそう尋ねてみると、あっさりと否定する由紀。

じゃあ、何でこんな時間に。

 

「あのね、外に行きたいんだ」

 

「外?……外?」

 

少しずつ、覚醒していく頭の中で、由紀の言葉を反復させる。外、外、トイレじゃないし、購買、でもない。じゃあ、うん?まさか。

 

「学校の外か?」

 

「うん」

 

ぎゅっと、俺の服を掴む由紀。

なんで急にそんなことを……そう思ったが真面目に言っていることくらい雰囲気でわかる。

それに、彼女は頭はあまりよくないが、何の考えもなしにそんなことをいう人物でないということも知っている。

 

「……恵飛須沢を起こそうか?」

 

カーテンの向こうで寝ているであろう恵飛須沢の方を見る。

放送室で皆で寝る都合、それぞれのスペースにはカーテンで仕切りがつけられるようになった。圭と美紀、佐倉先生と由紀、若里と恵飛須沢、そして、俺といった具合に仕切られている。余談だが、カーテンにはそれぞれの名前の付いた看板(圭と美紀作)が付いており、それぞれの部屋って感じが出ている。

 

「ううん、すぐそこ、だから……」

 

不安げに瞳を伏せる由紀。いつも元気な彼女らしくない……。

 

「……わかった、行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護身用のバットを持ち、放送室のドアを開けて、廊下へと出る。

夜の学校というのは、いまだに何か出そうで心臓によろしくない。いや、何か出るのか……。

後ろを見ると、由紀がいつもの制服を着て、心配そうに俺の服の袖を掴んでいた。

 

「よし、いくぞ」

 

「……う、うん」

 

 

 

 

 

 

バリケードを二つ超えて、階段を降りていくと、一階の廊下が見えてきた。

時間が時間だけに、やつらがすぐそばにいるという気配はない。気配はないが、油断はできない。それに、ここから先へは、ライトを使うと相手に気が付かれてしまう。わずかな月明りだけが、頼りだった。

 

「……」

 

静かに歩みを進めると、途中、やつらが居るのがわかった。また、下駄箱の方だ。あいつらは、何時も帰りもせず、うろうろしている気がする。

ポケットに入っていた小銭を投げて気を引くと、由紀の手を握り、一気に駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な月だった。

 

白んだ空気に、雲も出ていたが、月は、丸々と輝いていた。

久しぶりに出る学校の外は、いつもとは違う、どこか新鮮な匂いがすると思った。

 

「外に出たけど、何か、探してたのか?」

 

「うん、えっと、こっち!」

 

先ほどまで後ろから小さくなってついてきていた由紀が前を歩き始める。これだけのリスクを背負わせたのだ、大したことのないことであれば、説教の一つでもしてやらねばならない。

 

「……どこかなぁ」

 

正門を出て、キョロキョロと辺りを見回し始める由紀。

本当に、どこまで行く気なんだ、これ以上学校を離れると……と、そこでキャン!と何か、動物が鳴くような声が聞こえてきた。

 

「いた!あっち!!」

 

「お、おい」

 

ばっと、道路を横切って駆けだし始める由紀のあとを追う。途中、車が民家に突っ込んだような形跡があったり、親子連れらしきやつらの屍があったりしたが、由紀はそれらには目もくれず、走り続ける。

 

「勝手に行くと、危ないって……」

 

「あ!見てほら!」

 

路地を曲がったところで、由紀が何かを指さしたが暗くて何も見えない。ポケットに入っていたスマホを取り出し、懐中電灯のアプリを起動すると……

 

「わん!」

 

「うわ!!」

 

しまった!飛び掛かってくる「何か」に対して咄嗟に、バットを構えようとしたが、携帯電話を持っていたため、うまく持つことができなかった!由紀だけでも!そう思い盾になるように前に出る。でもこれは、噛まれる!!

そう思った時だった。

 

 

ペロリ

 

 

ざらりとした舌が頬を舐めた。ついで、少し獣臭い口臭が、鼻を衝く。この独特な匂い……持ち上げてみると、犬だった。

 

「やっぱりいたー!」

 

「お、おい、待て由紀」

 

舌を出して尻尾をぶんぶんと振る犬にスマホの懐中電灯を当て、隅々まで見回してみる。

血が付いている……が、こいつの血……というわけではなさそうである。首元を見ると、首輪が付いており、そこには銀のタグで「太郎丸」と書かれていた。

 

「も、もう良いかな」

 

「ああ……太郎丸だそうだ」

 

「そっか!太郎丸!太郎丸……良い名前!」

 

「……」

 

クルクルと太郎丸を抱えて回る由紀を見て、ふぅと力が抜けるのがわかる。

急に出たいなどと言い出すから何事かと思ったら、犬だったのか……。

 

「ありがとう!かーくん!かーくんがいなきゃだめだった!」

 

「え?……あぁ、まぁ、気にするなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと、生徒会室に顔を出すと、ぱちりと電気が付いたのがわかる。

見ると、パジャマ姿の若狭が仁王立ちしているようであった。顔は笑顔だが、何とも言えない凄味を感じる……!

 

「……こんな時間に、どこに行っていたの?」

 

「いや、その、散歩?」

 

「へぇ~?」

 

こええええ!

怖い、怖すぎる!いつもニコニコと優しそうな笑みを浮かべているその細い目から見せる眼光が、鋭すぎて殺されそう。

 

「わん!」

 

「あら?」

 

「あ、太郎丸!」

 

「太郎丸?」

 

ピコピコと尻尾を振っている柴犬が若狭周りをクルクルと回る。若狭がしゃがみ込んで眺めようとした、そのときだ。

 

ペロっと犬が、若狭の胸を舐めた。揺れた。

もう一度言う、胸舐めて、揺れた!

 

「ん!?ゆきちゃん、ど、どうしたのこの犬」

 

「お外で見つけたんだ~、ね、飼ってもいい?」

 

「え、そ、そうね~……」

 

心配そうにこちらを見る若狭。ああ。

 

「大丈夫、噛まれた形跡はなかったよ」

 

そういうと、ほっとしたように、太郎丸の頭を撫でる。にしても、先ほどの光景は素晴らしかったな、暫く、俺の脳内フォルダの中に保存させてもらおう……。

 

「まずはめぐねぇに相談してみないと……」

 

「うん!あ!何か犬でも食べられるものってあるかな」

 

「それなら確か購買にドッグフードが……」

 

チラリと、こちらを見る若狭。

分かったよ、お犬様のために取りに行けばいいんだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わんこ?」

 

初めに起きてきたのは美紀だった。

部屋にいる俺たちに気が付いているのかいないのか、まっすぐに寝ている犬の元へと駆け寄ると、屈んで首をコテっと倒して、わんこ~?などと呼んでみている。めっちゃ可愛い。

そんな美紀の気配に気が付いたのか、太郎丸が目を覚ます。

 

「あ、あ、ご、ごめん、起こしちゃった?」

 

のそのそと、起き上がり、くぁっと伸びをすると舌をちろっと出して、尻尾を振る太郎丸。

それを見た美紀ときたら、目が、もうハート型になるくらいデロデロであった。顎のところをナデナデとしながらいつもより優しい声を出す。

 

「かわいい、どこから来たの?」

 

「すぐそこだよ!みーくん!」

 

「うわああああ!!」

 

後ろから突然由紀が現れ驚いた拍子に、太郎丸に張り手をくらわす美紀。

太郎丸はきゃんと、小さな声を上げて美紀が開けていた教室の扉を通って出て行ってしまった。

 

「……あ、太郎丸~待ってー!」

 

「……わ、私、なんてことを…………は!」

 

ばっとフリーズしていた美紀が振り返ってこちらを見る。すると、俺と若狭が椅子に座って紅茶を飲んでいたのにようやく気が付いたらしい。

 

「お、おはよう、美紀」

 

「…………見ました?」

 

「わんこ~だ何て、可愛かったわ、美紀さん♪」

 

「っ!」

 

いつもはクールな美紀が、耳の先っぽまで真っ赤に染まる。そして、そのままふらふらと立ち上がると生徒会室を出て、バタバタと放送室の方まで駆けだした音が聞こえる。あれは、布団の中に入って悶えるパターンだな……

 

「クス、美紀さんって、可愛い子ね」

 

「……あんまりいじると根に持つタイプだぞ」

 

「そう、気が合いそう」

 

若狭は耳元の髪をかき上げて、静かにカップを傾けていた。

 

 

 

 

 

その後、佐倉先生からは無事に太郎丸を飼う許可が出た。しかし……

 

「あはは、カワイイ~」

 

「本当だな、へへ」

 

「……」

 

そっと、圭と恵飛須沢の撫でている太郎丸に近づく美紀、が。

 

「あ」

 

美紀が近づくと、プイっと背を向けて今度は佐倉先生の元へと逃げるように移動する太郎丸……そう、美紀はあの平手打ちが効いたからか太郎丸にすっかり嫌われたようだった。

 

「みーくん、大丈夫大丈夫!」

 

「だ、誰のせいですか!」

 

「!わんわん!」

 

ばっと、美紀と由紀の間に入って吼える太郎丸。どうやら、二人が喧嘩をしていると勘違いしたようである。いや、どちらかというと、美紀が怒鳴ったから由紀をいじめていると思ったのかもしれない。

 

「あ、いや、これは、太郎丸……」

 

「……」

 

ぷいっと、太郎丸は教室を出て行ってしまう。

しゅんと寂しそうにしている美紀の方が、まるで小さな子犬のようであった。

 

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