転生、という言葉がある。
死んで別の世界で生まれ変わる、という事だ。
ボクはその転生者だ。学校から帰ってる最中で車に跳ねられて死亡し、気が付いたらカルデアにいた。最初はなんだかよく分からなかったが、どうやらデミ・サーヴァントの被験体として選ばれたようだ。
他にもう一人被験体はいて、そいつはマシュ・キリエライトという女の子だ。なんかボクの双子の姉らしい。最初は戸惑ったが、でも姉らしいので、とりあえず生まれ変わってからずっと姉として慕って来た。
で、魔術師としてとりあえず優秀な人材は今日から、初のレイシフト実験だ。そんなわけで、ボクはとりあえず一人で部屋でのんびりしている。
すると、ウィンっと部屋の扉が開いた。
「おかえりー」
「ただいま、マロ」
入って来たのは姉のマシュだ。双子なんだから当然だけど、ボクの外見はそっくりだ。………胸以外は。なんでボクの胸囲は成長しないんだろうなぁ。前世でも成長しなかったのに………。
マシュはベッドでゴロゴロしてるボクの隣に座って、ペットボトルを差し出した。
「どうぞ。ご注文のコーラです」
「ありがと」
さっき、じゃんけんで負けた方が飲み物を買って来るっていうゲームしてた。
買って来てもらった飲み物をもらい、一口飲んだ。すると、ふわっとふかふかした生き物がボクの肩に乗った。
「あ、フォウさん。いらっしゃったのですね」
「前々から思ってたけど、フォウさんって事は2と1はあるの?」
「………はい?」
「なんでもない」
「………マロはたまにわけのわからないことを言いますね」
というより、ギャグが周りに伝わりにくいだけです。前生きてた世界でもこんな事あったわ。
フォウがボクの頬を舐めてきた。ペットボトルのキャップにコーラを注いで、フォウの口元に差し出した。
「はい」
「フォウ!」
ペロペロとコーラを飲み始めた。ほんと可愛いなこの生き物。
「本当にフォウさんはコーラが好きなんですね」
「フォーウ」
「これ、動物が飲んでも平気なのかね」
「フォウ⁉︎」
「さぁ?でも大丈夫でしょう、多分」
「フォウ!フォーウ!」
「………フォウさんが何かを訴えていますが」
「いや俺からあげた覚えはないし」
そんな話をしてる時だ。ピクッとフォウが首を上げた。で、「フォウ」と鳴くと部屋を出て行った。
「ちょっ、フォウ?」
「何かあったのでしょうか………」
「追ってみる?」
「うん」
姉妹仲良く手を繋いで歩き始めた。とりあえずマシュの後ろに続いて歩いてると、途中で人が倒れてるのが見えた。赤い髪の女の子だ。
「………え、事件?」
「何かあったのでしょうか」
「ダイイングメッセージとかないかな」
「縁起でもないこと言わないで下さい」
そんな話をしてると、フォウが倒れてる女の人の頬をペロッと舐めた。
女の人は目を覚ましたようで身体を起こした。
「………今、頬を舐められたような………」
あ、起きた。すると、マシュは隣に膝をついて女の人に声をかけた。
「………あの、朝でも夜でもありませんから起きてください。先輩」
出た、謎の先輩呼び。ボクも最初会ったときは先輩呼びされたわ。まぁ、妹だからって事でやめてもらったけど。
「ここは……?」
女の人はボヤけた顔でマシュを見上げていた。
「はい。それは簡単な質問です。たいへん助かります。ここは正面ゲートから中央管制室に向かう通路です。より大雑把に言うと、カルデア正面ゲート前、です」
カルデア正面ゲートっていうと………ああ、この人もしかして最初のアレに引っかかったのか。
「アレでしょ、おねーさん入館する時のシミュレートを受けたんだ。霊子ダイブは慣れてないと脳に来るからね」
「………あれ?同じ人が、二人?」
「あ、ボクはこっちの双子の妹なんだ」
「へぇ、双子さんなんだ」
「初めまして、先輩。私はマシュ・キリエライトです」
「ボクはマロ・キリエライト」
「………マシュマロ?」
「「違います」」
言うと思ったよ。ボク達の母さん絶対ふざけてるよね。会ったことないからいるのかどうか知らんが。
「ああ、そこにいたのかマシュマロ姉妹」
後ろから声が聞こえた。振り向くと、レフ・ライノールがニコニコと微笑みながら立っていた。
「ダメだぞ。断りもなしに移動するなんて………おっと、先客がいたんだな」
「「マシュマロ姉妹はやめて下さい、レフ教授」」
いや本当にやめて。マシュはマシュマロかもしれないけど、ボクのはマシュマロにもならないから。
が、ボクとマシュの抗議をまるで無視して、レフ教授は自己紹介した。
「私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だ。君の名前は?」
「あ、はい。私は藤丸立花と言います」
「藤丸さん、か。召集された48人の適正者の最後の一人というわけか」
ふーん、この人が?マヌケな顔してるなー。
「じき、所長の説明会が始まる。君も急いで出席しなさい」
「説明会………?」
「そうだ。ようは組織のボスから浮ついた新人たちへのはじめの躾って奴さ。所長は些細なミスでも許容できないタイプだからね、ここで遅刻でもしたら一年は睨まれるぞ」
「説明会まであと5分か………。ボク達が案内するよ。行こうマシュ、立花」
「はい」
「うん」
とりあえず走り始めた。
++++
説明会で、立花が全力の平手打ちを喰らい医務室に運ばれた。その間にボクとマシュはレイシフトの準備だ。
隣のマシュはAチームの中でも首席で超優等生、それに引き換え、ボクはそこまで成績は良くなかった。いや、それどころか下から数えた方が早い。
だから、マシュと同じチームでぶっちゃけ超助かる。その分、ボクは楽出来るから。
「いよいよですね、マロ」
「そうだね。早く終わらせて家で寝たい」
「まったく………。最近、ダラけ過ぎですよ」
「良いんだよ、仕事中はハキハキしてるし」
「そういう問題では………まぁ良いです、もう」
そういえば、マシュは随分と立花という女の子を気に入ってたなぁ。ハッキリと先輩、と呼んだのはボクの次に初めてじゃないだろうか。それに、ボクも今や先輩とは呼ばれなくなった。いや、ボクの方から呼ぶなって言ったんだけどね。
「ねぇ、マシュ」
「? なんですか?」
「立花のこと気に入ったの?」
「はい。………なんといいますか、かなり人間らしい方?でしたので」
「そうなの?」
あんま人を見る目とかないからそういうのわからないんだよな。
「まぁ、それならこれ終わった後で話しかけてみりゃ良いよ。良い人そうなら、多分友達になってくれるさ」
「そうですね。その時は、一緒にマロも来てくれますか?」
「良いよ」
まぁ、ボクも友達が出来るのは嬉しいしね。何となく、ボクとマシュは周りから浮いてるし。
そんなことを考えてる時だ。爆発音が聞こえた。そして、それと共に爆風が管制室を襲った。
「! マシュ!」
「えっ……?」
慌ててマシュの腕を引っ張り、庇うように抱き締めて覆い被さった。直後、ズシンと背中に大きな衝撃が響いた。それと共に、ズボッとお腹の方で何かを貫く音が聞こえた。
「ケホッ、ケホッ……!い、一体、何が………!」
マシュが咳き込みながら呟いた。その真上で、ボクも大きく咳き込んだ。直後、ビチャビチャっと口から血が吐き出され、それがマシュの顔の真横に落ちた。いや、飛沫が少しだけ頬に飛んでいる。
「ま、マロ………?」
「………ま、しゅ……」
ああ、さっきの後は何かと思ったらあれか。何かがボクの背中を貫いてるんだ。だから今、血を吐いた。
「マロ⁉︎だ、大丈夫ですか⁉︎」
「……だいじょうぶに、みえるのかよ………?」
すごく痛いし苦しい。これなんでボク生きてるんだろうか。身体を物が貫通するのってこんなに苦痛なものなんだな。これは死ぬし、何なら早く楽になりたいとすら思ってしまう。
だけど、目の前のマシュはそんなボクを見てとても辛そうな顔をしていた。目尻には涙なんか浮かべているしね。そんなマシュの姿を見ると、意地でも死にたくなくなる。
すると、ウィンっと扉の開く音がした。誰かが入ってきたのか?と思うと共に、出入り口は無事である事を察した。
「……マシュ、逃げて………。ボクはどの道助からない……」
「なっ、何をバカなことを言ってるんですか!そんな事出来るわけがありません!」
「………いいから。ボクは、もう死ぬ……。さっき、入口の開く音が聞こえた。……ケホッ、ケホッ!……まだ、出入り口は作動してるって事だよ。………そこから、逃げられる………」
「っ……で、ですが……!姉として妹を置いて逃げるわけにはいきません!」
「マシュ………!」
ていうか、瓦礫を支えてる状態もそろそろキツくなってきたし……!他に生存者はいないのか?その人にマシュを連れてってもらうしか………!
「マシュマロ………?」
声が聞こえ、振り返ると立花が立っていた。相変わらずの呼び方だったが、今は気にしてる余裕はない。それよりもマシュを連れて行く事を頼む事が先だ。
「立花、ちょうど良かった………!ボクの下、から……マシュを連れ出し」
「先輩!マロを助けて下さい!」
「分かった!」
えっ、そ、それはどっちの「分かった」なの………?
不安は的中し、立花はマシュをボクの下から引き摺り出すと、ボクの上の瓦礫を退かし始めた。
「なっ、何してんの………?」
「決まってるじゃん、助かるんだよ。マシュ、手伝って!」
「は、はい!」
こいつら話聞いてた?
「ボクの事は、良いから!……多分、脾臓のあたりに鉄骨が突き刺さってるんだよ!ボクを置いて先に」
「マシュ、せーので行くよ」
「はい」
「「せーのっ!」」
「いや、聞けよ話!」
なんで助けようとするんだよ!ボクはもう助からないのは見れば分かるだろ!ボクなんかのために………!
二人が力を入れて瓦礫をどかそうとした直後だ。機械音声が鳴り響き始めた。
『システム、レイシフト最終段階に移行します。座標、西暦2004年。1月30日、日本、冬木市』
! このままレイシフトするつもりか?明らかに異常事態だ。
さらに、異常事態は続いた。カルデアスが真っ赤に輝き出し、機械音声が再び声を発した。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを観測します。近未来百年までの地球において、人類の痕跡は発見できません』
なんだって?どういう意味だ?
『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』
どういうことだ?何が起ころうとしてる?何も分からないまま、プシューッと扉の閉まる音がした。
『中央隔壁、封鎖します。館内洗浄開始まであと180秒です』
「! と、扉が………!」
だから逃げろって言ったのに………!
奥歯を噛み締めてると、マシュがボクの手を握るのを感じた。反対側の手は、立花が握っている。こんな時に何やってんだ?と、思ったが、とてもその手が暖かいような気がした。
「………二人とも?」
「大丈夫です、マロ」
「うん。もう、逃げられなくなっちゃったから」
「い、いやっ……それ、全然大丈夫じゃな」
「3人とも、これで一緒です」
いや、こんな事で一緒とか言われても………!だが、封鎖された以上は確かに諦めるしかない。まったくバカな姉と友達だ。いや、さっき出会ったばかりで友達ですらないかもしれない。ボクなんかを助けて、一緒に心中なんてバカげてる。心底呆れる。
………でも、死ぬ時まで一緒にいてくれるのは、少し嬉しかった。前に死んだ時は、たった一人で勝手に事故ったから。これから死ぬというのに、変に穏やかな気分だった。前の時とは違って。死ぬことに慣れたのかな。
すると、さらに機械音声が何か喋り始めたが、ボクはもう気に留めなかった。
『適応番号48、藤丸立花をマスターとして再設定します。アンサモンプログラムをスタート。霊子変換を開始します』
直後、ボク達は揃って意識を失った。