PMC探偵・ケビン菊地  鉛の刻印   作:MP5

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 特別警備会社は無闇に銃を突き付けてはいけない

 民間人を救う義務がある

 内閣及び防衛相の厳しい審査のもと、合格して初めて営業許可と殺しのライセンスを得る


1話  最悪の再会

「異動ですか?」

 トライデント・アウトカムズのCEO、ロバート・ハミルトンから直接言い渡された異動命令。なんでも、東京周辺が平和になり、兵士も多いため、東海地方に事務所を置くのが理由らしい。言い渡された褐色肌の男、ケビン菊地は日本支部長を務めている。

「あぁ。この前のアナコンダ一味による一件で関東の守りだけじゃなくて、東海も固めたいって防衛省の頼みもあってね」

 アナコンダ事件。東南アジアの麻薬王、アナコンダが起こした事件。世間知らずな学生をはじめとした連中に試験薬を渡し、暴動を起こさせ、効果を研究していた。薬を飲んだ人間は眠ったような感覚に陥り、どんなに大人しい人間でも一瞬にして犯罪者に変え、効果が切れれば一切の記憶が消えるという悪魔の薬の実験。最終段階に彼らに武器を持たせ沼津で銃撃戦を繰り広げたがケビン率いる作戦部隊によって鎮圧され、彼もまた逮捕された。しかし、何者かによって狙撃され、事件は被疑者死亡で幕を閉じた。

「もう事務所あるから宏美ちゃんと一緒によろしくね」

「彼女もですか?」

「奥さん置いて転勤なんてできないでしょ?陸軍時代にもそんな人いたの忘れた?」

「た、確かにいましたが・・・」

「弾薬移送と引っ越し屋の手配は終わったから、まぁ気にしないでね」

「・・・失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 異動先は、アナコンダ事件が起きた沼津。寒い雨の中、銃撃戦が繰り広げられていた街はすっかり元に戻り、日常に戻っていた。駅から南に向かって歩いた先に8階建てのビルがある。中は以前の事務所と内装は変わっておらず、地下には射撃場と訓練場があった。

「3階には俺の部屋、4階は宏美の、それ以上は空き部屋か。窓も防弾仕様に耐震バッチリ・・・」

「もう驚かないわよ。それよりもケビン、仕事は来るのかしら?」

 小柄ながらスタイルの良い女性、菊地宏美。旧姓は小畠で彼女とは夜の音ノ木坂学園で出会った。現在は結婚し仕事のサポートをしてくれる。

「最初は猫探しのようなものからだろう。まっ、俺は近所に挨拶してくるよ」

 そう言うと引っ越し屋からもらった蕎麦を手に外を出た。

(こんな感じで事件に遭遇したことあったっけか)

 近所の挨拶を終え、事務所に戻ると、懐かしい面子が事務所を訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おやいらっしゃい。俺の事務所の場所、よくわかったな」

「ロバートっておじさんが教えてくれたんです、探偵さん」

 オレンジのショートカットが似合う少女、高海千歌がさっそく事務所のソファでくつろいでいる。

「千歌ちゃん、探偵さんも困ってるんだし、もう帰ろ」

「アポ取ってないのに、よく来ようと思ったよね」

 彼女と同い年の渡辺曜と桜内梨子が呆れた様子で連れて帰ろうとしていた。

「まぁ初日で仕事なんて来ないから別にいてもいいよ。せっかくだし、何か飲むかい?」

 3人ともオレンジジュースが欲しいらしく、ケビンは3個あるグラスと冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。

「おまたせ、その後はどうだ?」

「はい、ラブライブの本戦まで行きました!」

「結構進んだよね」

 和気あいあいの様子からかなり充実した高校生活だというのがわかる。

「楽しそうで結構。素晴らしい青春のようだな。俺の高校時代なんて、剣道だけだったんだけどな」

「探偵さん剣道してたんですか?ボクシングとかだと思ってました」

「ひどいな千歌ちゃん。ボクシング部なんてなかったし、本格的な剣道家目指してたことがあったんだぞ」

「でもどうして探偵になったんですか?」

「・・・話せば長くなるな。だから代わりに陸軍時代の話でもいいか?」

「陸軍?」

「元々アメリカ陸軍特殊部隊75レンジャー連隊の伍長だった。って言ったら信じる?」

「軍人だったってことは想像できますけど、アメリカに渡ってたなんて初耳です」

「国籍が違う両親を持つ場合、子は18を境に自分で戸籍を決めるんだ。俺は高校時代のある事件で無力感を覚えて、アメリカに渡って軍に入ろうと考えた。反対した親父に思いっきりぶん殴られて吹っ飛んで殴り返して・・・どうにか認めてもらった。今思えば最初で最後の喧嘩だ」

 彼の父親がどういう人物か知らない彼女達はケビンをさらにゴツくした姿を想像する。

「事件っていうのを後日聞くとして、最初はどこに配属されたんですか?」

「ジョージア州のフォート・ベニングって場所だ。そこで空挺資格とレンジャーとしての基礎を覚え、中東に派遣され任務に就いた。敵の要所の偵察や背後から空挺降下し有利な展開を作るのが任務だ」

「「「うわぁ・・・」」」

 想像以上に過酷な任務に就いていたことを容易に想像できる。自分達が思っている以上に目の前の男は戦線を潜り抜けているのだ。

「まぁいろいろあるんだよ。親父と母さんが死んでから除隊して荒んでた時に叔父貴にPMCにスカウトされ、アフリカの前線だったり南アメリカの要人護衛、アトランタに事務所を置くチャイニーズマフィアの殲滅作戦・・・軍の頃より忙しかったと思う」

「ず、随分とハードな・・・」

 左手に付けてある腕時計の時間を見て穏やかに帰るよう諭す。

「もう時間だ。これから仕事があるんだ、続きはまたね」

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。依頼人の所有するヨットがある港までセダンを走らせる。そこには宏美が一足早く待機していた。

「ケビン、まずはこの記事を読んで」

 手渡されたゴシップ誌の記事に赤い丸で囲んである箇所を見つけ、その内容を見る。ショートヘアの女の写真が載っている。

「か・・・カズ・・・」

 その内容は太田一美という殺人の前科持ちの女性が持っていた拳銃で自殺というものだった。場所は水神社付近の川沿いで深夜3時ごろだったため目撃者はいなかったらしい。

「俺の同級生だ、まさかその依頼人って」

「私だ菊地君」

 ヨットから白髪の目立つ壮年の男性が現れる。

「カズのお父さん」

「罪を償うよう彼女を導いた君がこの町にやってきたって聞いてな。彼女は拳銃自殺をしたって話なんだが、腑に落ちんのだ。何故って彼女は出所後、真面目に働いて婚約者もいたからだ。その彼も事件を追ってる。婿だけに苦労はさせたくない、しかし身体も昔より不自由だ。だから頼む、真実を見つけて欲しい」

「・・・わかりました、その依頼を受けます」

 ケビンは宏美と共に自殺現場まで向かった。

 

 

 

 

 

 

 現場に着くころには既に暗く、月も出ていたが、窓の明かりがあるため人がいることがわかる。

「物音が聞こえたって話だったな。一つはバンっと明らかな銃声、もう一つはプシュってくぐもった音。連続で聞こえたって記事には書いてあったっけか?」

「そうね。ケビン、どう見る?」

「検死体も見れれば見たいが、捜査資料も見たい。だが、もしゴシップ誌が本当なら少なくとも銃が2丁あったってことは確かだ」

「え?」

「もし1丁だけだといちいちサプレッサーを付けたり外したりしないとダメだからさ。意外と時間掛かるんだアレ」

「でもケビン、それだと複数人いるってこと?」

「普通なら、2人以上犯人がいないと不自然に見えるが、そうじゃない。西部劇を見たことない?2丁拳銃なら一人でも反抗が可能だ。だから人数だけは確定できない。もっとも、2丁拳銃は非現実的要素だけどな」

「・・・もうここで捜査するのは無理ね。事務所に戻りましょ?」

 車を走らせ事務所に戻るとレディーススーツ姿の若い女性が玄関前に立っていることが見えた。

「あの、トライデント・アウトカムズの事務所はこちらでしょうか?」

「そうだが貴女は?」

「沼津署の川中蛍と申します、アナコンダ事件での活躍は伺っております」

「・・・俺としては、あまり関心出来ん事件だ。賑わう街を戦場にしたことは詫びる」

「あなたのおかげで死傷者が一人も出なかったのですから、むしろ一市民として感謝しています。それよりも、仕事の話をしませんか?」

「?」

「太田一美の自殺について」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所に通し、事件について聞いた。なんでも、上の人間が自殺として処理したいらしいが川中だけは納得がいかず、第三者の協力が必要と独断で決めケビンを訪ねたのだという。

「これが資料です。私がデータをコピーして奥様にもわかるように書き直しました」

「見せてもらう」

 死因は心臓に9mmに1発のみ。他に目立った外傷はない。弾丸のライフルマークから太田の持っていたCz75と別のものだと判明済み。近所の人間によると銃声が2回聞こえ、くぐもった音が聞こえた後、5秒後通常の発砲音が聞こえたと書いてあった。

「なるほどね」

「こう書かれると自殺にしか見えないわ」

「・・・すいません」

「銃の写真はないか?」

「これが、写真です」

 写真に写ったCz75を見る。ゲームやアニメで見られるごく普通のデザインに、違和感を覚えた。

「この銃が凶器か・・・そうかもしれんがおかしいんだ」

「え?」

「やはり銃が2丁ある。なくなったもう一方が凶器だ」

「サプレッサーって、つけるのに時間かかるって話よね?」

「あぁ。カズは思ったよりヤバイ道を歩いてたかもな」

「どゆことよ?」

「おそらく、裏の人間かもな。彼女は暗殺者として生きてたかもしれない」

「え!?」

「こんなに閑静で人が多い場所で音のデカイ銃使うことはない。仮に使うならサプレッサー付きを使う。彼女の銃が奪われて、次の殺しが来る」

「どうすんのよいったい!?」

「川中さん。敵の目星は?」

「それがまだ、顔が割れてなくて」

「・・・とにかくだ、宏美は俺とツーマンで行動。川中さんは署に戻って普段通り捜査してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンと宏美は太田一美を徹底的に調べた。彼女は出所後、スナック等で働き、普通の生活を送っていたがスナックのママが変死、その直後に婚約者になる男と出会い、ほぼ毎日深夜になってから出かけ朝に帰るようになったらしい。

「別の店で働いているのかしら?」

「彼女がどんな行動したかによって、だ。まずはスナックに行こう」

 繁華街に足を運び、彼女の足取りを調べた。華僑系マフィアが巣食っているエリアの蜃気楼というホストクラブに向かっていたと話を聞けた。危険を予想し、宏美を安全な場所に移動させ、ケビン一人で店に入った。店内は黒いスーツを纏った若い男達がたむろしていた。

「おい、外人さんの来る店じゃねぇぞ」

 金髪のホストがケビンの胸倉を掴もうとした瞬間、左ストレートが炸裂し気絶。異様さを感じた連中は声が出ず戸惑っていた。

「太田一美について聞きたい。誰と会っていたかだ」

「し、知らねぇよそんな女!」

「お前らじゃ話にならん。オーナーか店長を出せ。さもなくば」

 コートの下に隠していたレミントンR5を取り出し、それを構えた。

「ここで戦争を起こす」

 騒ぎを聞きつけたのか、奥の部屋から落ち着いた雰囲気の男が現れた。

「若いのがご無礼をおかけしました。ケビン菊地さん」

「どうして俺の名を?」

「この町であなたの名前は有名ですよ。そんな事より一美さんについて話を聞きたいのでしたね、彼女は確かにこの店に来てました。しかし、遊びに来たわけじゃないんです。オーナーから仕事をもらいに来たんです」

「仕事だと?」

「はい、取り立ての仕事です」

「つまり、彼女は客のツケを回収する仕事をしていた。殺されたあの日も?」

「えぇ。ですが、あの日は少し事情が違っていました。それは」

 今度は玄関からケビンより頭一つ分大柄な男が現れた。

「南村姫乃はこの町一の悪女。踏み倒すためなら殺しすらする危険人物、だからワシは銃を持たせた」

「お、オーナー!?」

「カズミは殺しをしたことがあるって耳に挟んだんでな、大丈夫だと思ったんや」

「・・・お前は許浄。上海で巣食っているマフィア、黒蛇の幹部だな」

「流石はケビン菊地。ワシを知っとったか」

「大鳳と称されたアンタほどの剛腕が、どうして南村に苦戦してんだ?」

「それなんじゃがな・・・相手の方が上手だった。彼奴は元外人部隊の手練れ、そう簡単には顔を明さん。店に来るときも仮面を取らなんだ。だが電話番号だけは明かしたからそれであの場所に呼び出したんや」

 仮面。写真の情報があまり意味を成さないという暗示には十分だった。だが、疑問があった。何故彼女は金に終着があったのか。外人部隊となると稼ぎも良かったハズである。何より、仮面をつける意味が分からなかった。

「その銃、サプレッサー付きか?」

「あぁ。それしか持っとらんでな・・・まさか、あの女に持ってかれたか?」

「そのまさかだ」

 許浄の顔に憂いが見える。

「浅はかやった。またワシは無駄な血を流してもうたわ」

「・・・この町に飛ばされたのはそれが理由か」

「ただの恥さらしや」

「何も恥とは言ってない。この一件、俺に任せてくれないか」

「任せたで、アイツはワシらの敵やからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵は銃を持っている。元外人部隊となると一筋縄ではないと判断したケビンは事務所に戻り、Px4からM629リボルバーに持ち替え、UMP-9も取り出した。相手も完全武装している可能性を見据えてのことだった。

「ず、随分と重装備ね」

「敵が殺しに掛かるなら、こっちもそれ相応にするもんさ。っで、何か収穫あったか?」

「そうね。仮面の下を見たって目撃者がいたわ」

「聞かせてくれ」

「あの蜃気楼って店を離れて、近くにホームレスのたまり場があるんだけど、そこで仮面を外して何食わぬ顔でどっか行ったって」

「どんな顔だったんだ?」

「・・・それが、妙なのよ」

「妙?」

「太田一美そっくりって話よ」

「どういうことだ?」

「わかんない。仮設なんだけど、ホントに彼女死んだのかしら?」

「・・・そういや、検死の結果がまだだな。この前の大学生殺人のように歯形が違ったってケースかもな」

 宏美はPCで外人部隊経験者を検索する。しかし、個人の情報となるとセキュリティーが複雑になり、いくら彼女でも突破は不可能だった。

「ダメね、とてもじゃないけど私の力じゃ」

「・・・それがダメなら他力本願だ」

 ロバートに電話する。内容を伝えると、すぐさま培ったツテに探させた。すると、該当人物のデータが載っている電子メールが受信する。

「コードネーム・クマノミ。元フランス外人部隊。強姦の罪で不名誉除隊後、性別を変えフリーの用心棒をしていたが、現在は日本の沼津に潜伏し詐欺師として暗躍。彼女と関わった人間の多くが不審死しており、接触の際は武装するように・・・彼女、ということは元男で整形手術でカズに似た顔になったってわけか」

「接触方法はないのにどうするのよ?」

「ふぅ・・・あぁ、考えがある。携帯番号あるんだろ、俺達以外の人間に掛けさせて釣り上げる」

「変わってるかもしれないわよ」

「カズが生きてる時まで使われていた。もう変わってる可能性もあるかもだが、面白いことも書いてるぞ」

「?電子機器の扱いに難有りな模様・・・何と言うか、その、珍しいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦当日。黒澤金剛の秘書、三上を借り、彼に電話してもらい呼び出すことに成功。陰で張っていた宏美の合図でケビンがT62スタンガンを手に背後から忍び寄りクマノミの首筋に電流を流し気絶させることに成功。捕縛し、彼女を警察に引き渡す。その頃には証拠資料が集まっており、クマノミは観念するしかなかった。殺害理由、それは未だ完済していない手術代のため、そして取り立ての女が自分に似ていて恐ろしくなって撃ったと証言した。それを知ったケビンは怒りを押し殺し、警察署を後にした。

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