PMC探偵・ケビン菊地  鉛の刻印   作:MP5

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 アナコンダはどのように勢力を伸ばしたか

 金と薬で餌付けしたのだ


12話  金色の始まり

 外は豪雨であった。行き交う人々が傘を差し、それぞれ目的地へ急ぐ。そんななか、傘はおろか合羽すら来ていないみすぼらしい格好の男が人々をかき分けるかのように走って行く。彼の5メートル先には黒スーツの男二人が追いかける。男が派手にこけたかと思えば黒スーツが力づくで押さえこみ、迎えの車に入り、何処かへ去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、水路に土座衛門になった男が発見され、地方新聞のトップニュースになった。

「この記事は?」

「公には借金まみれのサラリーマンだけど、本当の姿は内閣府が派遣した諜報員よ。多くの通行人が連れ込まれたのを見て、犯人達の身元がわかったのはいいんだけど、拘置所で服毒自殺。被疑者死亡で書類送検よ」

 沼津署の菊地署長とケビンが署内の署長室で仕事の話をしていた。

「っで、どこの連中だったんです?」

「ドラード・ティブロン。マレーシアに本部がある、かのアナコンダの隷属下だった組織よ。元老院の一人が彼らの手に掛かって始末されたって情報もあるわ。任務はドラード・ティブロンのアジトの捜索及びメンバーの逮捕、不可能なら射殺しても構わないと政府から許可が出てる。任せたわよ」

「了解。生きてたらまた」

 部屋を出て帰路の途中、宏美から電話がかかる。

「どうした?」

「夕ご飯のおかずは買ってきた?そろそろ作んないとないわよ」

「あぁすまん、これから買って帰る」

 

 

 

 

 

 

 夕食後、宏美に依頼のことを話す。

「ドラード・ティブロン?っていうのが新聞に載ってた犯人グループの正体ってホント?」

「俺の知っている限りだと、日本語に訳すと金のサメ。元は石油を狙う海賊で、アナコンダは彼らを買収する形で隷属させた。奴が乗りつけて来た船もドラード・ティブロンが手配したって話だ。ボスのハンマーヘッドはマレーシアにはあまり帰国せず、何処かの国にいるらしい。顔も幹部の一部しか知らない」

「うーんなんだか手強そうね。でも不思議な点もあるわ、どうしてアナコンダが入ってきたのがわかって、ハンマーヘッドが入国したって情報がないのかしら?」

「確かに不可思議だ。これからの調査で発覚するだろう」

「そうね。明日、エドワーズにも伝えるわ」

「そうしてくれ」

 テレビをつけると薄い白髪の老人が自分の持論を展開し、司会を困惑させていた。精神を鍛えるためには極限状態に追い込む必要があり、そのためには周りの人間がどんな手段を行使しても構わないというものだった。

「リンチにしか聞こえんな。レンジャー精神と大違いだ」

「仲間を見捨てない、死んでも祖国に連れて帰る。きれいごとだけど私は好きよ」

「なんだか赤尾に似てる。こいつも有事には隅っこに隠れて震えてるんだろうな」

「あの老人、群島旅人って人ね。平塚で全寮制フリースクールを営んでいる教育者よ。近所じゃ評判なんだけど自殺者が毎年現れてる。でも行政からは注意だけ。問題を抱えている子が復帰してる事実があるからなの」

「・・・調べてみたいが、今はティブロンが優先だ」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日9時。捜査のため宏美とともに近所の聞き込みをしていると、非常に機嫌の良さそうな主婦に会う。こちらが挨拶すると、まるで作ったかのようなハイテンションで返してきた。聞き込みが出来そうにないので、近所の人に聞いてみたところ、かなり荒れてた不良息子が群島のフリースクールに入ったかららしい。しかし、何時引っ越したかは知らないようだ。

「ケビン・・・」

「ここじゃもう仕事にならない、一回帰ろう」

 一旦事務所に戻り、諜報員の集めた資料のコピーを読み直す。群島が経営している、深島海洋スクールに取材と称し潜入していたのを発見した。教員こそ全員免許を持っているものの、教育者というよりも拷問者の目に近かったと記されていた。

「何故そこに?」

「ケビン、私が取材で行ってみるわ。警護を任せていい?」

「あぁ。任せてくれ」

 取材の許可を電話で取り、明日することになった。取材用のカメラに紙とペン、護身用にT62スタンガンと催涙スプレー、通信用タブレットをカバンに入れた。

 

 

 

 

 

 

 深夜、二人は車で近辺まで行く。有料駐車場に車を止め、徒歩で入り口付近まで行き死角で張っていると、殺人事件で使われた同じ車種のバンが大急ぎで西に向かって走って行くのが見えた。すれ違う瞬間、ケビンが隠し持っていたカメラ付き発信機を、相手から見えないように投げて取り付ける。

「車に戻って見てみましょ」

 映像を見ると、民家の前に停まり黒装束の男が数人降りて玄関を開け、侵入したかと思えば布団に巻かれた人間を担ぎこんでいくのだ。それを無造作に投げ入れ、家の主人であろう女性に一礼し、車を走らせた。女性は胸をなでおろしている。

「・・・なんてこと、誘拐!?」

「これが奴のやり方か。その諜報員は確か最初、スクールの実態を探るために派遣されたんだよな」

「でもどうして沼津で?」

「潜伏していたが、見つかって殺された。おっそろし」

「何を見たのかしら・・・臭いのはわかったけど」

「ロンドンより治安が悪いのがわかるような気がする」

 

 

 

 

 

 

 翌日昼。宏美が取材から帰ってくる。予想通り浮かない顔をした。

「ケビン、今まで取材してきた人で最も恐ろしいかも」

「何があった?」

「彼は教育と暴力は同義語って思ってるみたい。殴られた側は殴った側よりも強くなれるって本気で思ってる・・・ねぇケビン、あなたはどう思う?」

「暴力か。要は飲んだくれクソ親父でも親は親だから子供ぶん殴ってOKって屁理屈に似てるな。彼は随分と臆病なのがわかる」

「それって?」

「ある将軍は戦地に派遣された。そこでは、味方劣勢にもかかわらず精神論しか言わない曹官による理不尽な暴力がまかり通っていて士気が非常に低かった。彼はまず曹官連中に精神論だけでは絶対に勝てないことを説明し合理的に考える方法を教えた。兵士にはどんな質問も良しとし、必ず疑問に答え、成果を正当に評価した。すると軍は纏まりだし劣勢を跳ね除けるほどになった。しかし、将軍を気にくわない連中は戦が終わると勝手に離れて行って、他のところで暴虐の限りを尽くしたが誰一人として尊敬する者はいなかったと言う」

「暴力では成長しないって例え話ね」

「上に立つ人間は部下のことをしっかり見なくてはいけない、思考停止になってはいけない、怒りに飲まれてはいけない。それを理解しているのか甚だ疑問だな」

「取材って意味じゃ失敗だけど、調査って意味じゃ成功ね。この後どうする?」

「一度事務所に戻ろう。ここの卒業生を調べ聞き込みをする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾行に注意を払いながら帰還し、著名なフリースクール卒業生にアポを取ろうとするが誰一人として取材に応じない姿勢だった。他の線も探るが浮かんでこない。

「どうするのよ、ここで行き詰ったら沼津の大惨事が再び起こるかもしれないわ」

「スクールの卒業生がダメか・・・なら、宏美の他にスクールを取材した記者を当たろう。何か知ってるかもしれない」

 数時間後、一人のルポライターがケビンと会って話したいと名乗り出た。

「明日11時に十千万で会う・・・か。宏美も行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間通りに車で向かう。しかし、予想だにしない事態が起こっていた。3階にある部屋から轟々と燃える炎を消防が放水し消そうとし、救急隊はせわしく動き、旅館の主である女性陣は呆然と見ていた。

「な、なによこれ!?」

「火災か、都合が良すぎる。高海さん達に宿泊名簿を見せてもらうか」

 ケビンは名簿に目を通す。日本人しか宿泊しておらず、かつ今日チェックアウトしてる人間はいないようだ。

「ルポライターを名乗る客はいたか?」

「はい、金城様のことですね。実は、出火元が金城様が泊まっていた部屋からでして・・・どうしよう・・・」

「(俺達と話しようとするタイミングに火災か。不自然だな)監視カメラの映像は生きてるか?」

「それが・・・どさくさに紛れてサラのディスクにすり替えられてたみたいでして」

「カメラ映像を盗む、ねぇ・・・高海さん、不審な人を見てない?」

「うーん・・・そういえば、異様な雰囲気のお客様がチェックインしてました。確か、10時20分にチェックインした平塚様・・・見当たりませんね」

「手持ちはなんだったか覚えてるか?」

「ジェラルミンケースを握ってました。でも、目つきが営業マンには見えなくって」

 ケビンは彼が放火犯と確信。カメラ映像は別に待機していた人間が逃げる客に紛れて盗んだと推理する。

「鎮火したみたいだな。金城氏は今どこに?」

「見当たりません・・・まさか」

 突然、スマホが鳴りだした。非通知であったが、一応出ることにする。

「なんだ?」

「お前が会おうとした金城、彼はもう黒こげだ。一足遅かったな」

「誰だ?」

「ハンマーヘッドっと名乗っておこう」

 変声機を使っているのか、性別がわからない。

「貴様は何が目的だ、アナコンダの復讐か!?」

「ボスの復讐?いやいや、美しい世界にするのが目的だ。力が支配する世界をね」

「・・・脆いな」

「な!?」

「仮にアンタが支配して、他の連中が貴様を殺したら、納得するか?」

 返事が返って来ない。

「NOと受け取らせてもらう、さっさとこの国から消えろ。忠告だ、アナコンダのように甘くはないぞ」

 電話を切り、高海に視線を戻す。

「高海さん、旅館を焼いたのはドラード・ティブロンっていう犯罪組織だ。彼らがこの町に来たってことは、またしても街が火の海になる。もし彼らかもと思ったら俺達に連絡をよこしてくれ、対処する」

 こうして、ドラード・ティブロン事件が幕を開けた。

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