PMC探偵・ケビン菊地  鉛の刻印   作:MP5

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13話 影が消えた日

 深島海洋スクールに新たな自殺者が出た。にもかかわらず、群島はなんのリアクションもせず書類作りに没頭していた。

(また死んだか。情けない、日本人はもっと正面から立ち向かい魂だけでも生きていける。自殺は逃げだ、この国からゴミがまた消えたのだから喜ばしいが)

 彼の背後にいる群島の秘書に当たる大男も、彼と同じことを考えていた。

「旅人様、授業のお時間です」

「そうかそうか。今日も頑張るとするか」

 キーボードを打つのをやめ、授業をしに向かった。もっとも、授業と言う名の弱い者いじめではあるが。

 

 

 

 

 

 

 ケビンはスクールの周辺情報を調べていた。スクール付近の浜辺は群島の私有地で授業で専ら使うらしく、生徒が殴られる様が時折見られるらしい。防波堤を登って授業風景を見ると、大勢の目の前で手足を縛られた少年が教師に蹴られながら海に入らされ、溺れていくのが見える。とっさに走り出し、少年を助けに行く。

「おい、部外者は出てい」

「黙れ!」

 サプレッサー付きPx4を抜き両足に数発撃ち込むと海に飛び込み、少年を抱えて陸に上がる。気を失ってはいるが、幸い海水はあまり飲んでいなかった。

「困りますね、乱入どころか出来損ないを救い出し神聖なる教師に銃を向けるとは」

 秘書の男と一緒に群島が現れる。

「彼は悪い事をしたから罰を受けていた。問題ないでしょ?」

「やりすぎだ。てめぇがやられたらどう思うか考えたか?」

「さぁ、文句を言わず受けていたでしょう。もっとも、罰を受ける必要がない良い子ですので」

 本能がささやいた。彼は自己愛が非常に強い危険人物、否、獣だと。

「俺の経験じゃあ喚き散らして無様な姿をさらすのが常だがな」

「名前は?初対面の人間に対しては名乗るが礼儀ですよ?」

「生憎だが、貴様に名乗るほど安っぽくはない」

 少年を抱え、セダンに戻って行った。

「日野下。奴を調べろ、それとこの役立たずを退職処分にする」

「承知」

 

 

 

 

 

 

 

 夜。少年をトライデント・アウトカムズの息のかかった病院に連れて行き、事務所に戻ることにした。

(あれが群島か、何人もの人間を殺してきた野郎なのはわかった。秘書みたいな男、奴は確か日系キューバ人のサンズ・ヒノシタだ。元キューバ軍人の彼が何故・・・)

 ケビンはバックミラーを見ると数台の車に尾行されている。

(さしずめ俺の調査だな。周りに何もないし、やるか)

 他に誰もいないことを確認すると、懐からM67グレネードを取り出し、クリップを抜きレバーを押さえ込みピンを抜いて3秒ほど数えてから窓から塵を捨てるように投げる。2秒後に爆発し全ての車を走行不能にした。

「甘いんだよ」

 ケビンが走り去ってから数分後、追っ手は別の誰かに狙撃され車両も爆破されていた。そのうえドライブレコーダーも回収され未解決事件になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 事務所に戻り、記録をまとめる。

(まさか目の前で殺人未遂現場を見るとは・・・それよりもサンズは生粋の軍人肌人間だから合理的に考える脳みそを持ってるハズなんだが・・・戦時中の日本軍教育を賛同するとは思えない)

 本社から送られたサンズの経歴を見る。現在37歳の日系キューバ人。元キューバ陸軍で最終階級は大尉。除隊後は用心棒をしながら観光ガイドをしていたが観光に来ていた群島にスカウトされ彼の秘書になった。口数が少なく理性的な性格で、部下からは慕われていた。

(ますますわからない、彼が何故自分と真逆で危険な男と一緒にいるのか)

 時計を見ると深夜になっていた。ひとまず書類を机にしまい、鍵を閉めようとしたその時、インターフォンがなった。追っ手かもしれないと思いR5を持ち、ドアを思いっきり開けクリアリングする。

「わわっ、ちょっとケビンちゃん!」

「叔母様・・・こんな深夜になんですか?」

 とりあえず事務所に入れ鍵を閉める。

「いい知らせと悪い知らせ、どっちが先がいい?」

「悪い知らせから」

「先日、あのスナイパーが入国したわ。目的は不明だけど、ハンマーヘッドに関係していると思ってもいいわね。前回と一緒で調査妨害もあり得るから気をつけて」

「っで、いい知らせは?」

「ウチの刑事課の人間を応援に回したわ、沼津市での調査に力になってくれるハズよ」

「・・・悪い知らせが強すぎる」

「それはそうと、今日はここに泊まるわね。空き部屋使わせてもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。早々に車で再び平塚に向かう。ケビンは海洋スクールの前を通った時、違和感を覚えた。今までいなかった見張りが二人も立っており、服の下に拳銃を隠し持っているからだ。

(少し遠くに停めるか。爆弾仕掛けられたら困るし)

 少し離れた駐車場に停め、釣竿ケースに竿とR5をしまいサングラスを掛け、波止場まで歩いて行く。風がそこまで強く吹いていないにも関わらず釣り人が不機嫌そうな老人1人しかいない。

「釣れてますか?」

「・・・いや、なにも」

「もし良ければ隣よろしいです?」

「あぁ。構わんよ」

 のんびり釣りをしながら海洋スクールを視察していると老人が話しかけてくる。

「兄ちゃんよぉ、あそこが気になるか?」

「えぇ。悪い意味で」

「そうかワシと一緒だな・・・一昨日孫が自殺したんだ。あの子が亡くなったって聞いてあそこまで来たのはいいが何があったのか教えてくれなんだ。おかしいと思ったワシはコネを使ってあそこに預けていた親御さん達を訪ねてみた。全て任せっきりでな、責任なんて感じなかった。だが、預けていた子供が死んだって親もいた、案の定学校側は教えてくれなかった」

「じいさんは孫を愛してたましたか?」

「あぁ。未成年だが夜遊びする少しやんちゃな子だったが、ワシにだけは懐いていて毎日遊びに来ていた。2日も来なかったから息子夫婦を訪ねたらあそこに預けたって聞いて驚いたよ・・・しかも上機嫌に返事しおって」

「遺体の確認は?」

「ワシがした。息子夫婦はいなかったから勘当したわい」

「なるほど」

「なぁ兄ちゃん、表向き真面目だが裏では悪事ばかりする黒い人間とやんちゃだが本質が優しい人間、どっちがいいか?」

「・・・人を見る目を試されますね。無論、俺は後者が良いです」

「気をつかったか?」

「いえ、本心です」

 先っぽが小刻みに振るえ、竿を立ててリールを巻く。引きが強く、老人が急いでたも網を用意してくれた。

「おぉ良いタイだ。孫がタイ好きだったのを思い出したよ」

「・・・よろしければ差し上げますが」

 内心安心した。彼の狂気に嘔吐感を覚えるマトモな感性を抱いている人間がいることに。これ以上、被害者を出さないためにも事件を解決することを胸に誓った。その時だった、どこからか銃声が響いたのだ。とっさに伏せ、辺りを警戒するが発砲音が聞こえない。数分後、サイレンの音が鳴り響く。持ってきた双眼鏡で様子を見ると、警官たちがスクール内に入って行くのが見える。

(スクール内で事件か・・・お、死体袋発見。誰かやられたか?職員達の様子がおかしいな、変に泣いてやがる

。死人が出ても無関心な連中が泣くのは、おそらく)

 群島が撃たれた。そう確信したケビンは宏美に電話する。

「奴が撃たれた。これから調査に入るため、君も平塚に来てくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンは依頼先である内閣府を通じて捜査に加わった。資料によると真正面から撃たれたらしく、自殺とは考えにくいらしい。遺体の解剖結果から、使用されたのは9mmだとわかった。

(用心深そうなのに校長室には監視カメラもない・・・あっさり撃たれることから、もしかしたらハンマーヘッドではないかも)

 内閣府スパイを殺した時と近い事情があるのでは、ケビンはそう考えた。単刀直入に言えばハンマーヘッド自らが手を下した。

(彼がやられたとなると、一番疑われるのは軍歴のあるサンズだ。彼がわざわざ疑われるようなことをするとは思えないが)

 サンズが職員に呼ばれて側を離れた時に撃たれたことが分かっており、他に出入りしていた職員が4名いることがわかった。

(最初に訪れたのは炊事番の北上、食費削減案を提出しに校長室を出入りしていた。次にやってきたのは事務員の栗森、元プロのヨット乗りだったらしい。給与向上を訴えに行った・・・次が浜竹でコイツは船の整備士か、新しい船購入の見積書を提出・・・そして筑前っていう生徒。叱責を受けるって話だったらしいが、部屋を訪れたら死んでいたって話か)

 時計を見て次の仕事に取り掛かることにした。所有する船を調べてみるのだが、整備士の浜竹は事件に関係ないからと拒否する。

「この船に変なモン隠してってことはないのか?」

「それはない、俺の管理してる船に文句あるのか!?」

「ここの生徒を閉じ込めてリンチしてる可能性もある。それともなんだ、都合が悪いものでもあるのか?」

「くっ・・・あぁ体罰は認めるよ、校長先生は気を失うまで殴って飛沫を拭いてたのも事実だし。だがな、アンタが想像してるものは積んでない。旭先生を退職に追いやったアンタにこれ以上喋らない」

「そうか。ここからは個人の話だ、船を拷問部屋に使われて悔しいと思ったことはないのか?」

「あるよ。でも意識が戻った生徒は生まれ変わったかのような清々しい表情になるんだ、それを見ると文句なんて言えないさ」

「なんだと?」

「先生の愛の鞭は荒れた心を潤す何かがある、ここの卒業生はみんな社会復帰してるのが何よりの証拠だ」

 ケビンは呆れた顔でリストを見せた。

「これに書かれているのは、ここを出た奴らの現在だ。200人中、180人が自殺し、残った連中は裏の世界に踏み入れている。それでも愛の鞭って言えるのか?」

 浜竹は信じられない顔でケビンを見る。

「俺の仲間が生き残った連中の尿を採取して科捜研にて調べてもらったらな、クスリの反応が出ている。つまり、更生なんてしてないしむしろ危険になっている。一部の連中は襲撃しようって話もあった。アンタは騙されてたんだよ」

「そんな・・・嘘だろ」

 信じられない事実に驚愕し固まってしまった。

「おい、そんな暇があったら深夜、ここに来い。俺と一緒に船を調べるぞ」

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