事件から数日後、浦の星女学院は平穏だった。今回の事件とは全く接触がないためだ。ロバートはケビンから送られた報告書を読み終え一息ついた。ドアのノックを聞き、客を通した。
「理事長先生、遊びに来ました!」
「やぁ。受験勉強は捗ってる?」
「う・・・ぜ、全然」
「まぁ予想通りさ、僕が君の歳の頃は身体を鍛えてたしね。もちろん、軍に入るためさ」
「そうだった!今日は先生の昔話を聞きに来たんだった!」
「その約束は覚えてるよ。そうだね、僕がまだ中佐だった頃、アフリカ・ソマリアで墜落したアメリカ軍人救出作戦の話をしようか」
2000年代初頭の冬。非公式の作戦が実行された。内容は敵に撃墜されたヘリのパイロット、ローガン軍曹を救うものだった。非公式のため支援はほとんどなく、ナイフ以外の武器は現地調達だった。最低限の装備で敵地に深夜の海から潜入した。仲間はたった3人、ロバートと冷静なゴーギャン、そしてサバイバルが得意だったJF。
「?先生、JFって?」
「あぁすまない、JFっていうのは頭文字から取った呼び名だ。ジャック・フランカーって名前だったからJFさ、アメリカじゃよくある話さ」
いるであろう、敵陣地の明かりはドラム缶に入れられた焚火だけでそこまで明るくなく、見張りも欠伸をしており、一人になった時を見計らい仕留め、装備を奪う。遺体をドラム缶に入れ捜索に戻った。
「先生って何が得意だったの?JFって人はサバイバルが得意って話でしたし」
「僕は尋問と隠密行動。ゴーギャンは狙撃、ロバートは投擲が得意だった。実際にポイントマンは僕だったし」
陣地を制圧し、一軒一軒調べる。壺に頭だけ出ていたローガン軍曹を発見し確保した時には身体は既にボロボロで歩くのがやっとの状態だった。JFが肩を貸し、他のメンバーが護衛する。気づかれたのか、外からハインドの飛行する音が聞こえる。身を低くし、安全を確認するとハンドサインで指示を送るの繰り返しで回収ポイントの海岸へ着く。しかし、大勢の敵が待ち伏せしており、こちらに向かって乱射してきたのだ。
「どうして気づかれたんですか?」
「僕が思うに、生き残ったのがいたんだと思うんだ。冷静な判断を下したことで僕達を追い詰めたんだ、基本がなってるよ」
敵の攻撃はすぐに終わる。迎えに来たモーターボートに装備してあったM2ブローニングの掃射で敵は総崩れ、生き残った敵を始末して無事ボートに乗った。急いで撤退し、沖に停泊してあった空母に帰還した。
「詳しくは話せないけど、こんなことがあったよ。あの後二日休暇をもらって仕事に戻ったんだ。いやぁ上陸作戦なんて久しくやってないよ」
「ローガン軍曹はそのどうなったんですか?」
「彼は病院に運ばれて1ヶ月で復帰した。今は確かシールズの教官してるはずだよ」
「すごーい先生!映画みたい」
「映画のようにカッコよくないよ、その間に何人の人間を始末したか・・・」
暗い表情をするロバートを見て気まずくなる。
「ご、ごめんなさい」
「もうそろそろ下校時刻だ、早く帰らないとお姉さん方に怒られるよ」
「・・・あ!先生失礼します!」
元気よく飛び立ちたのを確認すると、本業の資料を確認する。それにはドラード・ティブロンの末路を記した報告書もあった。
(もうこれでアナコンダ派は事実上消え失せた。あの子達には申し訳ないことをしたな)
机に飾られている入隊の際、兄弟で撮った写真を見る。
(彼はもう大丈夫、安心して眠っておくれ)
その頃、ケビンはR5をいじっていた。暗い青の迷彩を塗装しかと思えばストックの素材を以前よりも少し重いものを使用し反動制御しやすくする。試しに数十発撃ち込み、感覚を確かめるとマガジンを外しコッキングして弾を抜いた。
「ケビン、客人だ。お前に話があるらしい」
エドワーズに呼ばれて事務所に行くと、千歌をより小さくしたような少女がソファに座って待っていた。
「ここの支部長を務めています、菊地です」
「はじめまして~高海千歌の母です」
場は静まりかえっていた。あまりにも衝撃的な事実に、メンバー三人は同じタイミングで驚いた。
「「「え!?」」」
「?どうしました?」
「え、えぇ。十千万の修繕費はウチが払うことになってますが」
「いえ、そうではなくて~七月に千歌達が海の家を手伝ってくれるんですよ~でも、この前の件で危ない予感がするから~雇おうと思いまして~」
「それはボディーガードってことで引き受けてよろしいですか?」
カレンダーを見るが七月まで二か月ぐらい先である。まさか事前予約してくるとは思いもしなかったが、ケビンは冷静に返す。
「その件については七月入ってからお伺いしてもよろしいですか?まだ時間がありますので」
「はい。そのつもりですので・・・そう言えば~ひとつよろしいですか?監視カメラの映像を盗んだのは、ドラード・ティブロンの一味だったのですか?」
「奴らの倉庫にDVDを見つけました。今現在、警察が押さえて解析中です」
「そうですか~ではこれで」
高海母はさっさと事務所を去って行った。
「こりゃ・・・衝撃だな」
「えぇ。遺伝子ってすごいわね」
「それよりも、麻薬ルートを潰せたのは大きかったな。しばらく大仕事はないだろうよ」
「まぁ確かに大仕事はないだろう。だが、護衛や人物捜索、浮気調査といった探偵業があるから油断はしないように。そういやエドワーズ、月輪氏の浮気調査はどうなった?」
「・・・あ、いけね!行って来る!」
エドワーズは急いで飛び出していく。
「ふぅ。俺が非番に近いのが不思議だ」
ポストを開け、手紙が無いか見る。一通の便箋が入っていた。北海道函館から手紙が届いていた。鹿角理亞からだった。札幌から元々住んでいた函館に帰って学校生活を満喫しており、姉の聖良は地元の大学へ進学し、血生臭い事件の渦中にいたとは思えないほど平穏に暮らしているらしい。変わったことはドミニクも引っ越してきており、時折遊びに来るらしい。
(ドミニクが越した理由が彼女達の監視だなんて口が裂けても言えないな)
手紙を机の引き出しにしまい、椅子に寄りかかると電話がなった。それを宏美が出る。
「はい、トライデントアウトカムズ。菊地ですか?」
「代わりました菊地です。・・・はい、はい・・・詳細は事務所を訪れてから伺います。では失礼」
「?男性の声だったけど、どなた?」
「地方開発支援委員会の会長さん。講演会で警護してほしいってさ、今から行って来る」
「ここ最近物騒だし、武器持っていけば?」
「リボルバーだけは持って行くよ」
こうしてまた、悩める依頼人のもとへ向かっていく。己の信念を胸に。