ドラード・ティブロン事件から2週間。犬探しや祭りの警備、千歌への英語の授業といった平和的な仕事ばかりで戦闘がない日々が続いた。とても喜ばしいことではあるが、エドワーズは刺激が足りない様子だった。
「おい。今日の仕事は?」
「事務処理だよ、今日依頼ないし」
「安い仕事バッカリじゃ、飯食えねえよ」
「大型の仕事なんてあんまり来ないもんだ。そんなのバッカリだったら身体持たないぞ、弾薬代高いし」
「・・・しゃあねぇ、寿司でも食いに行きますか」
昼飯として寿司を食いに出かけたエドワーズ。近くの回転寿司店に入ろうとするが定休日で、仕方なく小さな食堂に入る。ケビンが出歩いているときに一緒に入ったことが一度だけある、馴染みがあるわけじゃない店だ。しかし、そこの主と40終盤ぐらいのレジのおばちゃんは彼をよく覚えており、時々おかずをサービスしてくれる。
「あらエドワーズちゃんじゃないのよ、お父ちゃん!」
「よぅエドちゃん!俺が勝手に作っていいか!」
彼には選ぶ権利はない。そのため、食べなれない漬物や生卵が置かれていることもある。もっとも、その二つはおばちゃんが勝手に食べてしまうので気にしてはいない。
「あの、俺に選ばせ」
「今日美味そうなアジ手に入ったからアジフライでいいか!」
「は、はぁ・・・」
出来立てのアジフライ定食を食べ終えた時、店の電話が鳴る。おばちゃんが電話に出て応対していると、いつもの元気が消え、絶望を味わったかのような表情で受話器を置いた。
「おいなんだよ」
「み、美鈴が、重傷で病院に・・・」
膝をつき大人げなく泣き出した。その様子を見ていたエドワーズはごはん茶碗を置き、おばちゃんに近づく。
「いつもじゃないとはいえ、飯を食わせてもらってる身。よかったら俺に話していただけませんか?」
電話の相手は総合病院の医師。彼によると全身に暴行を加えられ意識不明の重体らしい。発見された場所は繁華街の路上で通報者曰く、ボロ雑巾同然の格好だったそうだ。
「内容はわかりました。次に美鈴さんのことについて」
「娘はよぉ、年頃らしく学校で友達と一緒にいることが多かった。俺はもちろん、母ちゃんにすら不愛想になっちまって・・・髪も染めて派手な化粧に露出の多い服、文句言えねぇよ」
「なるほど。夜遊びもしてたってことですね」
「朝帰りもざらだったよ。エドワーズちゃん、お願いよぉ娘の無念を晴らしてくれよ!」
「わかりました。お嬢さんの無念は晴らします」
律儀に会計を済ませ、事務所にいるメンバーに事情を話した。
「年頃の少女が何者かに襲われ病院送りか。よし、宏美は病院に行って状態把握、俺とエドワーズで聞き込みをする。念のためハンドガンを携帯する。あぁ、宏美はスタンガンな」
二人は繁華街に入ると別れて捜査した。その結果、彼女は友人数名と行動しており、ホストクラブの梯子をしては踏み倒していたらしい。最近ではブラックリストに載り入れなくなったかと思えば小遣い稼ぎのため、美人局をして詐欺同然の行為を繰り返していたという。
「ここまでやられりゃ殴られて当然だが、意識不明になるまで襲うか?」
「さぁな。それより、友人とやらの行方がわかっていないのが不思議だ、ホストクラブで顔写真を見せてもらうか」
顔写真を受け取ると、今度は彼女達が通っている高校へ向かう。ちょうど下校時間になっており帰宅中の生徒に聞き込みをする。テストの成績と態度が悪い不良グループではあったが決して喧嘩やカツアゲをするようなことはしておらず、濡れ衣を着せられることが多かったという。
「濡れ衣?」
「ここだけの話なんですけど、ウチの生徒会長って真面目そうに見えて裏では結構えげつないって話です。この前なんか、レッテル貼られた1年女子を73のじいさんとラブホで寝かせたって話もあるんですよ」
信憑性は低い話だが、美鈴のスマホが見つかれば証拠になり得る。しかし警察の情報によると、彼女の持ち金とスマホが持ち去られており、データは絶望的だった。
「なぁケビン、他のメンツのもないのか?」
「ないってさ。一度、被害者の容態を見に行くか」
搬送された病院へ足を運ぶ。病室の前の椅子に座っていた宏美によると回復傾向にあるらしく、3日あれば意識が回復する見込みらしい。
「なぁ、彼女は何故、美人局なんてしたんだろう?そんなことしてりゃ、いつかこうなるかもって予想できるともうんだが」
「スマホ使って写真収めてりゃそりゃね」
「何か知ってそうな男達はどうなんだ?」
「一部は出頭して事情聴取受けたけど、アリバイ有りよ。ホスト連中も全員シロって」
「ん、誰か来たようだ」
学ランを着た眼鏡を掛けた少年が紙袋を持って彼女のいる病室に行こうとしていた。ケビンは彼に声を掛けた。
「今ちょっと疲れて眠ってる。荷物は預かっておくぞ」
「僕、偶然彼女のスマホを拾ったんで届けに行こうと。申し遅れました、武藤です、彼女と同じ学校に通う生徒会長をやっております」
ケビンは改めて彼を見る。確かに背も真っ直ぐに伸びこちらを真っ直ぐ見ている。しかし、違和感もあった。何故彼が行方不明のスマホを持っているのか。そして、袋を持っている右手が緊張しているのか。
「もういいでしょうか。直接届けたくて」
「だめだ、女の病室に入って何するかわからん。渡しておいてやるから帰れ」
「そこをなんとか」
目で合図すると、エドワーズは背後からの手刀で気絶させた。紙袋の中を調べてみると、スマホを括り付けた簡易爆弾が見つかった。近くを通った医師にハサミを借り、爆弾を解体する。
「バイブレーションで起爆するタイプだな。このガキ、取り調べが必要だ」
「このスマホ、彼女のものよ。友達と家族の宛先があるし、母親とのやる取りもあるわ」
「今頃バイブレーション機能があるスマホねぇ。珍しい」
「さて、コイツを事務所に連れ帰る。尋問内容を転送しておくように」
武藤は目を覚ますと、手足を縛れ暗い場所にいることに気がついた。闇から何者かの声が聞こえる。
「これから質問する内容に全ていいえで答えろ。答えたら帰してやる」
ボイスチェンジャーで声を変えたケビンが落ち着いた声で質問した。
「美鈴という生徒を妬ましいと思っていた」
「いいえ」
「模範的な生徒で注目の的だ」
「いいえ」
「夜の繁華街を歩いたことがある」
「いいえ」
「スマホは偶然拾った」
「いいえ」
「売春斡旋をしたことがある」
「いいえ」
「・・・これで最後だ、人を殺したことがある」
「いいえ」
しばらくの沈黙が場を支配する。武藤は縛られたまま動けず、数分経たないまま狼狽しはじめた。
「おいさっさと解放しろよ!お前俺が誰だかわかってんのか!市議会議員の武藤の息子だぞ!父さんの力があればお前達なんかイチコロだ!そうかわかったぞ、お前ら食堂に雇われた殺し屋だな、なぁそうなんだろ!娘を殺そうとした俺が憎いか!爆弾も売春も襲撃も俺がホストやチンピラといった仲間作ってやったんだ!いい気味だぜ、俺のテリトリーに入ったのが悪いんだ!」
明かりが点き、目を瞑る。目をゆっくり開けると、サイガ12を持ったケビンが武藤の足に狙いを定めて立っていた。手で合図してから口を開けた。
「お前、議員の息子だからといって無罪になると思ったか?親父さんにはもう報告しておいた。そうしたらな、更生させてほしいってな。返答次第じゃあ足が吹き飛ぶことになる、全てを捨てて大人しく刑期を全うするか、この場で失血死するか選べ」
「けっ、そんな脅し」
左肩に照準を移し、戸惑いなく発砲した。轟音と共に大きい風穴が空き、悶え苦しむ。傷口を踏みつけ抑え込んだ。
「次は狙う。悪いな肩撃って」
「ひ、ヒヒヒヒヒヒヒ・・・」
声が出ない状態で頷いた。ケビンは医療用モルヒネを打ち痛みを抑え簡易処置を施した。
「よかったなスラッグ弾で。通常の散弾なら腕が吹っ飛んでた・・・って聞こえないか」
恐怖のあまりに気絶した彼を担ぎ上げ、待機させていた輸送車に放り込んだ。
(さて、どうしたものか。許に頼むか、仕方ない)
二日後、事件は解決に向け大きく前進した。意識が戻った美鈴からの証言と街の監視カメラの情報、嘘発見器のデータを元に武藤の仲間達全員を逮捕、その中に彼女の友人も含まれていたのだ。この事件を機に未成年による犯罪でも減刑されることはなくなったという。