特別警備会社は重火器(グレネードランチャーやロケットランチャー等)を所持してはいけない
特別警備会社は他業種も運営する場合、別に許可が必要
ナイフ等、殺傷力の高い刃物は原則禁止
夜の19時。ケビンは事務所でストレートティーを飲みながらテレビを見ていた。『未来は高校で決まる!熱血講師・赤尾功男の教育論』という、彼が独自の教育論をゲストに熱く語る番組だった。彼によると不登校の原因は自分自身に隙が生じるため、何かに熱中して取り組めば外部からの批判は聞こえずらくなるというものだった。ゲストからの質問にも応じ、持論を熱く語った。番組の最後に赤尾自身が運営する、全寮制の高校、昇学園の宣伝をし、番組が終わるとテレビを切ってソファーに寝っ転がる。
(くだらね。全員が全員、集中して一つのことに取り組めるわけがない。昇学園って噂だが何人も自殺者が出てるって話じゃないか。校門には被害者の会って連中が待ち構えているって話だし・・・こんな連中とは、関わりたくないな)
事務所のドアが開く音が聞こえる。気だるそうに身体を起こし、客人を通す。
「開いてるぞ、入れ・・・な!?」
その客人はボロボロのブレザー制服に身を包み、顔や手先が真っ赤に腫れあがっていて今にも倒れそうになっていた17歳ぐらいの男子高校生。ケビンは3階の自室に担ぎ込み、ベッドに寝かせた。
「おい、しっかりしろ。何があった!?」
「た・・・助けて・・・殺される・・・」
「殺される、どういうことだ!?」
彼は意識を失うように眠りについた。ケビンは棚にあった軍用栄養剤入り注射を彼の首元に打ち込み、他にも外傷がないか調べてみる。腹部や胸部に痣があり、明らかに階段から落ちたものではなく、誰かに殴られたような痕だった。首にも誰かに絞められた手痕が残っている。
(彼の身体付きからして、お世辞にも喧嘩慣れはしていない。まるで拷問を受けていたみたいだ・・・とりあえず、身分証がないか見るか)
ポケットから財布を抜き、健康保険証を見る。名前は津島煉と書かれていた。保険証と財布を戻し、制服のズボンに記されてある刺繍を見る。
(これは・・・昇学園・・・だと!?逃げ出してきたのか。傷からして、このまま返したら危険だな、しばらく俺のところで泊めるか)
下から呼び鈴が聞こえる。ここから動くなとメモを残し、3階のドアの鍵を閉め、下の事務所に降りた。
「やぶ遅くすいません。昇学園で教師をやってます、水戸島と申します」
水戸島と名乗る、作り笑いをする中年ハゲの男が立っていた。
「ご用件は?」
「実は生徒を探してほしいのですがね、彼です」
水戸島は写真を取り出し、ケビンに見せる。津島の写真だった。
「最近どっかに消えてしまってですね、困ってるんですよ。真面目な生徒だったのに」
「心当たりはありますか?」
「いやですね、実家にも問い合わせたのですが帰っていなくってですね、心配なんです。早く見つけないと安心出来ないというか」
ケビンは不信感を募らせる。この男は全く彼の心配をしていない、むしろ見つけ出したら彼に危害を加えるのでないか。そう思いながら依頼内容を聞く。
「報酬は50万あります。探していただけませんか?」
「・・・残念ですが、他の依頼を受けておりまして、受けることが出来ません。プロは基本、依頼を二つ同時に受けませんので」
すると、先ほどまでの低姿勢から一転して激しい激昂をみせた。
「この私が仕事をくれてやるんだ!縦に首を振れ!・・・って」
冷静にPx4を抜き、彼の眉間に突きつけると再び大人しくなった。
「癇癪持ちに仕事もらえるほど困っちゃいないんでね。さっさと失せろ、さもなくば」
恐怖のあまりに事務所から勢いよく出て行く水戸島。消えたことを確認すると、Px4をしまう。
(自分より弱い相手にはさっきの態度だろう。クズが)
しばらくして宏美が買い物から帰ってきた。先ほどまでのことを話す。
「津島って子がこの事務所に来て、今匿ってるってこと?ケガの状態は?」
「入院してもおかしくないレベルだが、病院に担ぎ込めば間違いなく学園の連中が動く。彼の命が危ない」
「そうね、昇学園って確か、不登校とかヤンキーだった子が入る学校よね?なんだか気味悪いわ、ホームページ見てくれる?」
ホームページを見ると、人里離れた場所にある、東京の下町と呼ばれる地域よりも広い土地に綺麗気な校舎に笑顔を見せる学生の写真、理事長の赤尾の挨拶などが見られる。
「もしも本当にホームページ通りの学校なら、彼のようにボロ雑巾みたいな事にはならないハズだ。あの癇癪持ち、少々気になるし」
「明日オープンスクールみたいね。駅でバスが出てるみたいだから取材ってことで潜入してみるわ」
「そうしてくれ。俺は彼から話を聞く」
自室から何か動いた音が聞こえる。ケビンはドアを開け、中を確かめる。
「おい、大丈夫か?」
「・・・ここは?」
「トライデント・アウトカムズ。一応、近所じゃ有名な特別警備会社だ」
「何ですかその、特別警備会社って?」
「いわば、民間軍事会社さ。アナコンダ事件は知ってるか?」
津島は首を横に振る。
「高校1年の頃からあの学校に入ってて、隔離されたような生活を送ってきました。テレビも、新聞も、インターネットすら取り上げられます。あそこは監獄です、暴力と権力が支配する、地獄そのものなんです」
「・・・そうか、しばらく俺達が君を匿おう。俺はケビン菊地。よろしくな」
手を差し出すと、怯えるようにベッドの隅に逃げる。よっぽど心身にダメージがあるようだ。
「す、すいません・・・」
「なに、気にするな。明日知り合いの医者を呼んで診てもらう、心配するな、口の堅い男だ」
翌日、宏美はフリーの記者としてオープンスクールに参加する。バスに乗り込み、校門の前に着くと、大勢の生徒が大声で出迎えてくれた。
(ば、バスに乗ってても聞こえるほど大きな声ね・・・これじゃ逆に迷惑よ。これがこの学校の普通っていうなら、世間じゃ異常ね)
バスが停まり、熊谷と名乗るガタイの良い先生が校舎内を案内する。掃除が徹底しており、チリ一つない。しかし、窓の向こうに見える寮について伺っても無視してガイドを続けていた。
(質問に答えない・・・益々怪しいわ。グラウンドの野球部の子なんて、よく見ると足を引きずってたし、女の子は口が笑ってても目が笑ってない。何よりも廊下や教室に必ず赤尾氏の写真と熱血って大きな文字が飾られてあった。気味悪いわね)
一通りオープンスクールのカリキュラムが終わり、宏美は案内役の熊谷に呼び出された。
「どうですかウチの学園は。みんないい笑顔でしょ?」
「えぇ綺麗な学校ですこと(まるで宗教団体じゃないのよ)」
「柔道、空手、放送で賞をもらってますし、生徒もみんな真面目です。最初こそクセがありましたが、朝の掃除でみんな心が磨かれ、授業では集中し部活は全員参加。自然に良い子に育ちますよ」
「素晴らしいことですわ(洗脳レベルねこりゃ・・・)」
「記事も良いものを書いてください。いつでも生徒募集中です」
「わかりました。私からもいいですか?寮の中もお見せいただけません?」
すると、表情が曇った。
「プライベートまで覗くのですか?」
「いや、その、学生の話も聞こうかと」
「ボクが話したことが全てですよ。取材しても同じことが返ってくると思いますので」
「そ、そうですわね(何かあることは確かね)」
帰る前に近隣の住民に学園の事を取材する。返ってきたのは近所迷惑レベルの大きな声と怒号が一日中聞こえ、時折、脱走する生徒もいるというものだった。しかも多くが連れ戻されていくという。
(先生の写真を見せても、やっぱりいい顔してないわね。異常としか言えないわ)
持参していた隠しカメラの映像をケビンと津島と共に見る。
「ぐ、グリズリーが案内を!?」
「あの先生の名前か?」
「あだ名です。アイツ、授業中に気に入らないことがあると、女子でも構わず柔道技掛けてくるんです。外面だけですよ良いのは」
「そう言えば困ったことがあったら相談してもいいって威勢よく言ってたけど、結局のところ、そんなことしなさそう?」
「はい。テキトーに丸く収めて、問題をもみ消すんです。卒業生の多くが洗脳されてて、今も俺を探してると思います。見つかったら最後、殴られて蹴られて、気を失っても続けます、親と俺達の前で」
「・・・CIAの拷問なんてカワイイレベルだな。っで、君は一人で脱走を?」
「友人もいましたが、見つかってしまって身を挺して俺を逃がしたんです。必死に逃げて逃げて・・・路地裏で隠れてたら外国人が俺に話しかけてきて、ここを紹介されました」
「外国人?」
「僕がここを紹介したんだ」
黒人の男が現れた。彼はロバート・ハミルトン、ケビンの叔父にしてトライデント・アウトカムズのCEOである。
「別件があったから一緒に行けなかったけど、無事辿り着いたんだね」
「はい、ありがとうございました」
「もう知っていると思うけど、あの学園は異常だ。ハッカーチームの報告によると、教員免許がない連中が教鞭をとっているのが確認できた。そして、赤尾は心理学のスペシャリストで掌握術の天才。脱走を経験した一部の卒業生が未だに彼の命令を受け動いている。それと、君に残念なお知らせだ。友人が学園近辺の山奥で遺体で発見された。死後二日だから君を逃がしたその日に亡くなったってことだ」
津島は糸の切れた操り人形のように力無くうなだれ、大粒の涙を流した。宏美はティッシュを渡し、鼻をかませる。
「(人を殺しといて何が教育だ、何が熱中だ。テロリストと変わらないじゃないか。だがどうすれば敵に引導を渡せるのか・・・)CEO、一緒に動画を見ていきません?」
最初から映像を観察する。すると、創立者の銅像の床を映したところでストップする。
「床に擦れた跡がある。妙だな」
「ケビン、この銅像の下に何かがあるかもね。どうする?」
「作戦を決行しましょう。CEOは彼を頼みます、宏美はいつも通り運転を。俺は学園に潜入する」
移動中の車内で学園の地図を頭に叩き込み、R5とサイガ12、Px4を装備する。
「ケビン、もし何もなかったらどうするの?ただの不法侵入よ」
「銅像プラス台座は非常に重い。そんなものがちょっとやそっとじゃ動かない。絶対にある」
「信じるわよ、その言葉。でもどうやって動かすの?」
「学園関係者に聞けばいい、何か仕掛けがある。津島君の情報だと泊まりの先生もいるって話だ」
「まっ、まさか・・・危ないと思ったら逃げるのよ」
「そうヘマはしないさ」
車が停まり、ケビンはR5を手に学校の壁を登って潜入する。サプレッサー付きPx4に持ち替え、身を低くし隠れながら生徒のいる寮付近まで移動する。怒号と悲鳴が聞こえ、しばらくすると電気が消えた。足音が聞こえなくなったと同時に開いてる窓から潜入し、寮を管理する先生のいる部屋まで移動した。
(この部屋だけ電気がついてる)
そっと引き戸を開け、中を覗く。そこにはグリズリーと呼ばれた熊谷の姿があったが、他に誰もいなかった。
(さてと、やるか)
背後から忍び寄り、右のコメカミに銃口を突きつけ左腕で首を絞める。
「騒ぐな、騒いだら撃つ。銅像の動かし方を教えろ」
「お、お前のような不審者に」
左腕に力を入れ、強く絞めながら撃鉄を降ろす。
「わ、わかった話す。教員カードとパスワードがいるんだ、俺のを教えるから助けて・・・」
「嘘だったら真っ先に殺す。最後だ、嘘じゃないな?」
「い、イエス・・・」
パスワードを覚えた直後、グリップで後頭部殴り、気絶させた。銅像まで戻り、差込口らしき場所に教員カードを入れると画面とキーボードが出てくる。そこに先ほどのパスワードを入力すると、銅像が後ろに動き、地下への階段が現れた。R5に持ち替え、アタッチメントとしてハンドガードの右レールに取り付けたタクティカルライトを点け、地下室へと進む。
「宏美、やはり地下があった。奥に部屋がある」
「カメラの映像もバッチリよ。でもどうしてそんなものが?」
「さぁな。言えるのは由緒正しいってのは上っ面だけで、ホントはヤバい連中ってことだ」
「そうね・・・ケビン、私はいつでも突入可能よ」
「突入なんてさせないさ」
ドアの前に到着し、耳をすませる。水戸島の声が聞こえる。
「津島と只川にここの秘密を知られました。バレるのは時間の問題かと」
「津島はどこだ?あのクソが、地面を這ってでも見つけ出せ!」
「場所はわかったのですが・・・少々厄介な連中のところでして・・・トライデント・アウトカムズの事務所に逃げ込みました」
「クッ、あのPMCか。金を積んで渡してもらえ!」
声に聞き覚えがあった。あの赤尾の声だったのだ。ケビンはフラッシュバンを手に取り、ドアを少し開けそれを転がす。光ったと同時に突入、警備兵全員を射殺し、クリアリングをし安全を確保した。
「俺達は金では動かんぞ。特に悪党のじゃな」
「き、貴様は!?」
「よう先生。この地下畑は何だい?」
部屋には農業施設でよく見るプランターに足をつけたものがあり、土にはキノコが生えている。その形状をみたケビンは怒りを覚える。
「ヨーロッパ産の毒性の強いマジックマッシュルームか・・・とんでもねぇ野郎だぜ」
「ど、どうやってここが!?」
「先生脅したら素直に教えてくれたさ。もう、お前らは教壇に立てない。残念だったな」
「くっ、死ね!」
水戸島が懐からトカレフを抜いたがすぐに狙い撃ち、水戸島の脳天も撃ち抜いた。
「な・・・なんなんだいったい!?下っ端教師も役に立たんしここはバレるし殺されそうになってるし・・・た、助けてくれ!死にたくない!」
「お前が殺してきた生徒達も同じこと思っていたんだ。だがな、お前はそれを無視し続け何食わぬ顔で命の火を消してきた。お前のような奴が教鞭なんて取るんじゃねぇ!」
土下座した赤尾の顔面を勢いよく蹴飛ばし気絶させた。
「こちらケビン、首尾は?」
「警察に映像を送ったら動いてくれたわ。あとは任せていいんじゃない?」
「一応、正当防衛だよな?」
「当たり前でしょ。相手は極悪人なんだから」
朝刊には赤尾の逮捕が1面を飾った。その後の調査により、多くの教師が教員免許無しで教鞭を取っていたことが発覚、生徒及び卒業生の一部がマジックマッシュルームを摂取していたこともわかった。外部に売り出す目的と指導に使っていたことも明るみに出た。これにより事実上廃校が決定し、被害者家族達による集団訴訟が行われた。生徒達は自宅近辺の公立高校に転入し、暴力の無い平和な時間を過ごしているという。
「学校経営よりもキノコ栽培で稼いでいたそうよ。芋づる式に検挙されるわね」
「津島君も治ったし、もう誰も彼を襲いはしないさ」
事務所に客人が訪れる。津島と見たことがある小柄な少女の二人だった。
「この間はありがとうございました。何と言うかその」
「良いんだよ。俺は仕事をしただけさ」
「さっすが探偵さんズラ。でも、疲れてますね?」
「俺は人間殺して平気な奴が嫌いなんだよ」
少女こと国木田花丸は、名物のっぽパンをケビンに差し入れる。
「あぁありがと。おやつに食べるよ・・・っで、どんな関係だ?」
「マルは喜子ちゃんの代わりに来たズラ。煉君は喜子ちゃんの従兄弟なんです」
「・・・喜子?」
「津島喜子。Aqoursのメンバーであり、俺の従姉妹なんですが、その、彼女は恥ずかしがり屋でして」
「ふーん・・・そろそろ昼だし、飯食いに行くか?」
4人で昼食を食べに行くことにした。その時の津島の顔はどこか楽しそうだった。