深夜、沼津の高速道路で事件が起きた。先の事件の判決で終身刑を言い渡された赤尾功男の乗る護送車が何者かに襲撃され、随伴する警察官も攻撃された事件が起きた。任務に就いていた全員が死亡し、襲撃者の一人も交戦中に死亡した。この事はケビンの耳にも入っており、銃器のスペシャリストとして、川中から事件の資料を渡された。
「犯人側死傷者は国籍不明の東洋人の女性。左手にPPKが握られていており、発砲した痕跡がない・・・」
「菊地さん、彼女は何故赤尾を襲ったのでしょうか?」
「おい、俺は魔法使いじゃないぞ。証拠写真を見るとだが、右利き用の銃を左手に握ってるなんて、緊急時か素人しかしない。彼女は一番下っ端だったってことがわかる」
「?右利き用?」
「今でこそ左利きの兵士向けに作られたものがあるけど、基本的に銃は右手で使用するんだ。銃口を左に向けたこの証拠写真のPPK、赤い点の部分がセーフティーになんだ。だから右手で使う」
「左手だといちいち持ち替えなきゃいけませんよね?」
「・・・お前さ、一応刑事だろ?多少知識入れとけ」
呆れた顔で資料を机の隅に置き、Px4のメンテナンスを始める。
「っで、どうして俺を雇ったんだ?無しでも調べればどんな相手かわかるだろう」
「5.56NATO弾のライフル銃を使用してることが分かっています。ただ、変なんです。パーキングエリアに捨てられていた銃のライフルマークを調べたんですが、どれも一致してないんです」
返事をせず黙々とPx4のメンテナンスを終える。
「武器はなんだ?」
「FAMASです。科研の話ですが、外見は汚れてはいたけど、どれも撃ったことない新品同様だと」
「・・・お前刑事辞めた方がいい。そのFAMASは予め泥とか付けてあたかも使ってきたって見せかけて捨てたダミーだ。敵はまだ持ってるし、野外での襲撃、俺ならM16かサブマシンガンを使う。ヤクザも旧式なら持ってるからな」
「!?」
「Nシステムは調べたんだろ?不審車両は?」
「犯人の乗るバンとクラウンが映っていました。ですが、盗難されたものだと判明しています」
(車盗んで武器を持っている組織。何故5.56NATOを?AKの方が安上がりだし、警官相手ならサブマシンガンでもいいハズ。この襲撃事件、何かおかしい)
テレビを点け、ニュースを見ると、今度は機動隊の武器が紛失していることが話題になっていた。あまり気に留めず、今の事件に集中することにした。
(おかしい点を整理しよう。まず、襲撃する理由がわかっていない。赤尾は確かに海外マフィアや麻薬カルテルと繋がっていたが、別口に供給を切り替えれば問題は解決。彼にこだわる必要はない。よって、救出が目的ではない、では何が目的か。おそらく口封じのために派遣したんだろう。それについては情報が入り次第、考察するとして・・・次に使用した武器だ。わざわざ手に入りにくい西側武器を使っている・・・これは潤沢な資金があり、整備された環境があるという証拠になる。金のない連中なら、たった2ドルのAKを使うだろうし、相手もバカじゃないから襲撃には慎重になる。第3に、素人が混じっていたこと。彼女が誰なのかによっては事情が違ってくる。まずは調べるしかないな)
許可を得るために捜査一課に連絡をする。しかし、調査許可が下りない。なんでも、上の人間が自分達を警戒しているらしく、合同捜査が許されないらしい。
「(・・・川中は下っ端だし、どうにかしたいな。勝手に動くわけにはいかんし・・・よし)おい、俺に情報横流ししろ」
「え?でも、私の立つ瀬が」
「いいのか、武装した連中が街で暴れたりしたら、示しもクソもねぇ。それともう一つ、この事件を担当する捜査チームのリーダーは?」
「元警視庁の村岡警視正です、アナコンダ搬送任務でSATの指揮していた」
「なんだと!?」
彼とは会ったことがある。エリート出身でアナコンダ搬送任務を指揮した男だった。性格も嫌味一色で搬送任務失敗を自分達に擦り付けようとした、人間としても下の下の存在だ。
「(ってことは、私情で俺に捜査させない気だな)署長は?」
「現在、ロサンゼルス出張中です」
「いつ帰れそう?」
「明日帰ってきますが・・・ただ・・・」
「ただ?」
「時間が23時ぐらいになるそうです」
「マジかよ!?って、どうして細かく知ってんだ?」
「実はその、署長とは仲が良くって、プライベートでは一緒に買い物行ったりしますんで」
「叔母様~!?」
今度は川中が驚き、お茶を入れてきた宏美も驚く。
「えぇ!?お、叔母様!?」
「どゆことよケビン!沼津署の署長が叔母様!?」
「実はその、母さんの妹で、こっちに暮らしてんだよ」
「ハミルトン家もだけど、菊地家もすっごいわね」
家事情が少々わかったところで、ケビンは改めて川中に情報を流すよう指示、宏美には記者として別口での操作を命じた。
「俺は駅や港の監視カメラ映像をもらってくる。各国の指名手配犯を照らし合わせてみよう」
早速行動し、カメラ映像をもらい、事務所で見る。しかし目ぼしい人物がいない。
(特にいないな。あの外国人女性はいったい何者だ?)
川中から電話が掛かってきた。射殺された女性はソ・ヨンファという韓国人で不法入国していたことがわかった。兵役の経験はなく、貧しい家庭で育ったこともわかった。
(不法入国ねぇ。銃を握った経験がなかったとすると、彼女は雇われた可能性がある。襲撃者達は何者なんだ?)
では誰が彼女を雇ったのか、ケビンは2通り考えた。ひとつはヤクザ者が雇ったパターン、この場合、不法入国を手助けした代償で雇われたこととして説明がつくが、わざわざダミーの銃を置くほど金をかける必要はない。しかも警察車両を襲撃するのは非常にリスクが高い。よってヤクザではない。もうひとつは赤尾と交流があった金持ちによるもの。彼が法廷で自分達の不利な発言をされたら困るため襲撃し、あたかも外国人が襲撃したと見せかければ火の粉が飛んでこない。現在のところ、後者の説が有力であると考えたが。
「警察の目を金で買えそうだな。だが、俺達を襲撃したり罠を張ったりしてもいいんじゃないか?むしろ俺達が一番厄介だからな」
前回の事件で、自分達は金では買えないことがわかっている。だとしたら次に狙われるのは自分達のハズ、しかし今のところ攻撃はおろか罠すら仕掛けられていない。
(可能性・・・まだありそうだな)
宏美から電話が掛かってきた。
「ケビン、どうそっちは?」
「収穫無し。そっちは?」
「ダメね。警察に行っても質問は受けないって一点張りよ。途中で川中さんに会ったんだけど、こんな話を聞いたわ。パトカーのカメラ映像がいじってあるみたいなの」
「え?」
カメラをいじっていある。つまり、それを調べた人間を問い詰めればボロが出ると確信する。
「っで、川中さんに何とか出来ないか相談したら、鑑識に友達がいるって言うから明日、ケビンも来てくれる?」
指定された場所、沼津駅北口に向かうと、宏美と川中、そして眼鏡をかけた女性がそこにいた。
「あ、あの、その」
「この子は防人コウ、あがり症で菊地さんみたいな軍人気質が苦手なんです」
「おいおい、なら俺じゃ話が聞けないじゃないか」
防人が首を横に振る。
「き、菊地さん、そそそその、カメラをいじったのは、わ、私」
「?いじるのに理由があるのか?」
「じじじ実は、むむむ村岡警視正からメールで指示されて」
「なんだと!?」
村岡が彼女に指示して証拠をいじる。これは明らかに自分が犯人と言わんばかりだ。
「映像はどこに?」
「こここここに」
ケビンはSDカードを受け取る。
「質問いいか?ライフルマークが調べられていない可能性は?」
「ああああると思います・・・あそこは警視正の息が掛かってて信用が」
途端、セダンが停まったかと思ったら後部座席にいた男が窓を開け、防人にP99を向けた。それに気がついたケビンは左腕で彼女を押し、素早くPx4を抜き、P99を撃ち落とす。セダンが急発進し一目散に逃げた。防人はひどく怯えている。
「大丈夫か?」
「ケガはないわね。奴らはいったい・・・」
「村岡の刺客だろうな。プライドは無駄に高いし、金あるって話だし・・・事務所に来て映像を見るぞ」
P99も回収し、事務所に帰ることにした。
映像を見て納得がいった。襲撃者の持っているライフルが89式であった。ヨンファがまるで映画の登場人物みたいな振る舞いをしたかと思えば、すぐ警官に撃たれて殺される。
(そういや、ニュースで武器がどうこうって・・・89式が奪われていたのか・・・あれは?)
トレンチコートの男がクラウンから降りて来た。護送車のドアを開け、突入を指示、銃声が響いたと思えばすぐに止む。ライトが男の顔を照らすと、そこには黒髪の30後半ぐらいの男が見えた。
(間違いない、村岡だ。奴がリーダーだったのか、しかし赤尾を殺した理由がわからん。よし)
ケビンは地下に向かい、R5とUMP-9を手にする。そして、フラググレネードも取り出し装備した。事務所に戻ると川中が驚き、防人は怯え、宏美は呆れていた。
「き、菊地さんその格好は」
「あぁ気にすんな。ちょっと散歩に行って来る」
「違うでしょ!村岡を殺しに行く格好よそれ!」
「バレた?」
「もう下手な嘘はいいから、落ち着きなさい」
無理矢理椅子に座らされる。
「居場所もわからないのにどこ攻撃するのよ?」
「・・・自宅を襲撃する」
「さっきので自分達が動いたの気づいてるハズだから、向こうから来るんじゃないかしら?」
外から車が事務所前に停まる音が聞こえ、複数の足音も近づいてきた。
「3人とも、上に避難してくれ。俺が全員始末する」
ドアが乱暴に開いたかと思ったら、天井に設置した自動機銃が作動し入ってきた連中がハチの巣になる。遺体を盾に機銃を破壊し、玄関を突破。玄関に入った瞬間、ドアに仕掛けたワイヤートラップが作動しフラググレネードのピンが外れ、パニックに陥った敵は一網打尽になった。
(修理代、コイツらに請求だな)
事務机から身を乗り出し安全を確認すると、今度はフラッシュバンを手に取り、開いた玄関に向かって投げた。ハリセンのような音が聞こえた瞬間、勢いよく走りだし、辺りをクリアリングし武装した敵を排除する。
「やっぱり現れたな、能無しめ」
MP5KA1を右手に握ったままのたうち回る男、村岡がいた。右手を踏みつけ無理矢理武装と解く。
「ぐ・・・貴様さえいなければ、太田一美の事件も赤尾の事件も自殺と被疑者死亡で終わらせたのに・・・」
「明らかな殺人も自殺と被疑者死亡だと?もみ消そうとしたのか!」
「私は本来、こんなチンケな田舎に飛ばされるような人間ではないエリートだ。事件を終わらせ実績を積み、本庁に戻るためなら、手を汚すこ」
聞き飽きたと言わんばかりに頭を踏みつけ黙らせた。ケビンの目には怒りが込み上げていた。
(勝手な理由で殺しをし、身内の銃盗んどいて何がエリートだ。てめぇがしたことは、ただの殺戮と泥棒だ。罪のない外国人雇って自分達に捜査の目を向けさせないようにしたのが失敗だったな)
騒ぎに気づいた住人が電話したのか、パトカーが複数台駆けつけた。ケビンは事情を説明するために沼津署に赴くのだった。
容疑が晴れ、今度は署長室に呼ばれる。そこには中年ではあるが凛々しい表情で座る女性がいた。
「叔母様」
「ケビンちゃん、今回はごめんなさい。村岡をもっと監視していれば、こんなことには」
「いいんです。あとでアイツから事務所の修理代請求しますので」
「これは警察の失態、私達で出すわ」
小切手にケビンの言う金額を書く。
「それにしても、姉さんに似たわね。特に目の感じが」
「母さんに?」
「昔っから行動的だったわ、就職先見つける時も、結婚相手選ぶ時も・・・でも、まさかアメリカ陸軍の大将を選ぶなんて考えられなかったけど」
「まぁアグネッシブでしたね。親父も困ってたし」
「そういうケビンちゃんも、陸軍に就職って聞いたときはビックリよ。その後にあの事故が起きるなんて・・・」
「叔母様、俺は逮捕って形で仇を打ちました。もう言わないでもいいでしょう」
「そうね。思い出話で忘れてたけど、これを受け取って?」
渡されたのは二つのお守り。
「宏美ちゃんとペアで持っとくの。中には厚めの金属板が入ってるわ」
「あ、ありがとうございます」
「ケビンちゃん、もう一人の身体じゃないんだから、無理はダメよ」
「大丈夫ですよ、問題ないですから」
そう言って警察署を後にした。翌日のニュースで村岡の汚職が放送され、彼は実家からも見放された。既に何もかも失った彼は大人しく罪を認め、法の裁きに掛けられることになった。事務所の修繕が完了するまで休みにする方針にした。
ちょっとした伏線回収?