PMC探偵・ケビン菊地  鉛の刻印   作:MP5

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 新しく人員を増やす場合、防衛省に届け出なくてはならない

 民間人に危害を意図的に加えた場合、罰金等厳しい罰が下る


4話  厄介事

 村岡の汚職の詳細が事務所に届く。赤尾からは多額の現金を受け取る代わりに住所と顔写真が載った非行少年の名簿を渡し、太田には前科持ちでもできる仕事を紹介する傍ら、許から多額の賄賂を受け取っていたことが発覚、しかし、首が回らなくなった許から賄賂が入らないとわかった彼は南村を雇い、日を分けて二人を排除しようとしたことが発覚した。

「頭おかしいんじゃねぇか?」

「それにしてもよく警察官になれたわね」

「高校以降は全部裏口入学だってよ。バカだけど親父さんの威光でOKが出たんだって」

「大丈夫かしらこの国?」

 さあなと返事し、R5を手に構える。

「でもまともな人間がいれば、意外にまわるもんさ」

「そうね。事務所も直ったし、営業再開といきましょ」

 そう言いながらPCで事務仕事に戻る宏美。

「お客さん来ないわね。必要あったのかしら私達?」

「どうだか。南村や赤尾みたいなのがいたんだ、行政に頼るより俺達の方が執行力があると思うぞ」

「物理的に?」

「それもあるけど、俺達の扱う案件って血生臭かったり、大規模な部隊が必要だったりって、金が掛かる。少しでも節約して一般人に金払わせようって考えもあるんだろう。まぁ戦闘なんて起きない方がいいけどな」

「そうね。・・・ねぇ話変わるけど、人員増やしてもいいんじゃない?ここには警察系の人間がいないわ」

「なるべくアメリカ人は控えてくれ。損害賠償額が報奨金を大きく上回る刑事を知ってる」

「ど、どんな人よ?」

「その男はモップや柱時計といった身の回りの物を武器に使って、数多くの敵を倒してきたんだ。人間だけじゃなくて大蛸やロボットも」

 

「何それこわい」

「彼はひと呼んでダイナマイト刑事。この業界では関わってはいけない人物の一人だ」

 宏美は野蛮な怪物を思い浮かべるが、見た目はハゲかかった普通の中年である。しかし、女房や娘に逃げられたことによって荒んでいたり、任務中しょっちゅう爆発を受け服が焼ける等不運の塊であることはケビンはあえて言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ケビンは身体を伸ばすと釣竿ケースにR5をしまい、それを持って外の空気を吸いに出る。先日銃撃戦があったにもかかわらず平和に日々を過ごしている人々が通勤通学等、様々な理由で行きかっていた。

(もし全員こんなに平和なら、俺達も必要なかろうに)

 気晴らしに駅前まで歩くことにする。バスターミナルがあり、忙しそうに乗り降りする様はどこの国も似たような雰囲気だった。もっとも、ロサンゼルスでは窓から入ろうとする変な輩がいたのだが。駅を通り、向かったのは戦場になった北口周辺。冷たい雨が降っていたこの地は現在、暖かい日の下で嘘のように人でいっぱいになった。

(この町に銃声は似合わん)

 事務所に帰ろうとしたその時、東京で会ったA-RISEの3人組に会う。

「あれ、どうしたんだ君達?」

「あ!探偵さんだ!」

「ホント!?あ、ホントだ!」

「お久しぶりです、探偵さん。私達プロのアイドルになって初めてのロケでして、ちょっと下見を」

「元気で何より。俺はこの町に異動になったんだ、まあ大人の事情ってやつだ」

 ちょっとした昔話をしていると、マネージャーらしき男性が現れる。

「あのぉ、プライベートの彼女達と話すのは」

「マネージャー。この人、スクールアイドル時代の恩人なんだよ」

「恩人?」

「俺はトライデント・アウトカムズ日本支部長、ケビン菊地だ。よろしく」

 名刺を取り出し、それを彼に渡す。

「?こんなゴッツイ人と仲良かったなんて、初耳だ。どんな会社です?」

「アナコンダ事件を解決に導いた特別警備会社って言ったらわかるか?」

「・・・あ、もしかして前線で指揮を執ってた」

「それが俺だ、あの後結構大変だったけどな」

 ケビンは爽やかな笑みを浮かべるが、内心不審に思っていた。現れるタイミングが良すぎるからだ。

「俺からもいいか、マネージャーはこの子達のプライベートも見るのか?」

「い、いえそんなことは」

「ならいい。アンタも他の用事があるんだろ?」

「・・・先方との会議がありました!失礼します」

 男は北へ走り去る。見えなくなったところで3人に目線を戻す。

「すまんが事務所に来てくれ、気になることがある」

 

 

 

 

 

 

 3人を連れて帰り、事務所にあった探知機を取り出す。

「これってなんですか?」

「すぐに終わる」

 彼女達に触れないかギリギリの位置で隅々までかざすと、ツバサの腕時計に反応する。

「これは誰からもらったんだ?」

「ファンのプレゼントです、ちょっと大きいと思ったんですがデザイン気に入っちゃって」

「すまんがそれを外して俺に渡してくれ、この機械は発信機を見つけ出す探知機だ」

 ツバサは驚いた様子で時計を外し、ケビンに渡す。事務机に置き、小さめの工具を取り出し時計を裏向きにする。すると、時計の裏ブタが何かで開けられた痕跡を見つけ、それをマイナスドライバーで開けると、部品とは関係ないパーツを見つけ、ピンセットで取り出し蓋を閉じた。形状から盗聴機能があることがわかった。

「秋葉原の裏電気街で売ってそうな発信機だ。誰がつけたかは断定できないがこれで大丈夫だ」

 3人とも顔面蒼白になっている。

「この時計どうする?安全は保障するよ」

「・・・」

「怖いのはわかってる、重々承知だ。だが疑心暗鬼じゃファンのみんなが心配する」

「わかりました」

 腕時計を手に取り左手につける。

「探偵さん、こんな形でなんですが、私達の警護を依頼していいですか?事務所だと面倒なことになりそうなので個人で依頼します」

「・・・わかった、報酬はあとで計算するとして契約書にサインしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 セダンで彼女達が泊まっているホテルに送ることにした。ロビーで焦りを生じているマネージャーを見つける。

「どうしよう、腕時計に発信機入れたのはいいけど心配だ。守らないといけないのに・・・」

「おい説明してもらおうか。これについて」

 小さなビニール袋に入れた発信機を見せ、鬼の形相でマネージャーを尋問する。

「あ、アンタ、これって!?」

「ツバサちゃんの腕時計に仕掛けた発信機だ。どうして仕掛けた?」

「しゃ、社長が命じたんだ!事務所の方針で見えないように発信機つけて、いつでも駆けつけられるようにって」

「プライベートは邪魔しちゃダメだろ、特に女の子はデリケートだ、ノイローゼになってもいいってのか?」

 鬼気迫る彼を前に降伏することにした。

「彼女達は稼ぎ頭です、そんな金のなる木を野放しにできない!」

「だったらもっと大事にしてやれ。彼女達を金のなる木と呼ぶな、人間なんだぞ。俺達と違って泣いてくれる人がいるんだ」

「じゃあどうやって守ったらいいんですか!?」

「こればっかりは俺達がいても限度がある。最後は自分の身は自分で守らなくてはいけない、それも忘れたのか?」

 思った以上に冷静に答えるケビン。殺伐した空気にツバサが口を開く。

「探偵さんの言う通りです、守られてばかりじゃダメだと思います。この仕事が終わったら社長に直訴しようと思います」

「な、何を言うんだい!?そんなこと認められるはずがない!」

「私もツバサに賛成です、アイドル以前に一人の女の子なんですよ」

「同感だ。監視されてるようで気味が悪い」

 3人の目はまっすぐマネージャーを見ている。

「・・・わかった、止めはしない。ただし、僕は協力しないよ」

「お前はいてもいなくても一緒だろ。俺も一緒に話に行くぜ、あの類の連中は嫌いだが交渉方法はわかってる」

 番組のロケが終わり、一緒に東京の芸能事務所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所に着き、その足で社長室へ向かう。眼鏡を掛け、威厳のある女性とボディーガードなのかハゲかかった頭の中年アメリカ人男性がいた。ケビンはその男の顔を見て驚きを隠せなかった。

「き、貴様は!?」

「よぉサンフランシスコで会ったなケビンボーイ。いやぁカワイ子ちゃん連れてきて何があったんだ?」

「ミスターブルーノ、彼女達を忘れたの?ウチの事務所の子達よ」

 この男はブルーノ・デリンジャー。通称ダイナマイト刑事と呼ばれた伝説的かつ危険人物である。そんな男が何故、この日本にいるのか疑問に思ったが、まずはツバサ達の案件を伝えることにした。

「俺はトライデント・アウトカムズの菊地と申します。早速ですがここに発信機兼盗聴器があります。何故彼女に仕掛けたのか聞きたい」

「・・・確かに、私が命じて取り付けさせたものです。ですが卑しい理由があって仕掛けたわけではありません。綺羅さん、探偵さんに数日前の事件を話したかしら?」

「実は、ロケの数日前、帰宅途中に変態に襲われたんです。幸い通行人に助けられたんですが、翌朝にはポストに盗まれてた下着が入ってたんです」

「まさか、犯人の声を聴くために発信機を?」

「不覚でした。綺羅さんに相談を受けた私はマネージャーを呼び出して、すぐに取り付けを命じました。おかげで変態は襲い掛かって来なくなり、通常運行になったんです。それに気がついてしまったのなら、方法を変えるしかなさそうですね。探偵さん、そこにいるブルーノと組んで彼女の警護を」

「警護は受けますが、彼とは到底組めません。彼が何者かご存知です?」

「アメリカで刑事をしてて検挙率が一番だった方でしょ?」

「・・・なるほど、ご存知なさそうなので説明します。彼が関わった事件は100%報奨金よりも損害賠償額が上回るんです。行政ならともかく、一企業が払える額ではありませんよ」

「具体的にどのくらいですの?」

「1回の捜査で被害額140億ドルです」

 その額を聞いて失神してしまった。ケビンはブルーノを見る。

「この国にアンタがいるのが不思議だよ、アメリカに帰ったらどうだ?」

「女房と子供に逃げられて、定年退職。なのに撃たれて殴られて吹っ飛ぶ・・・最悪だよ」

「・・・もはや突っ込む気も起きんが、アメリカから追い出されたみたいだな」

「使えるものは何でも使っただけなのによぉ、何でそんなに掛かるんだよ」

「アンタが手あたり次第武器に使うからだろうが!」

 結局、被害額を考えてブルーノはこの仕事に参加しないことになった。ひと安心したケビンは宏美に連絡し、彼女達を事務所上の空き部屋に避難させることにした。




 さすがにブルーノだけはレギュラー登場無しの方針です


 次回、新隊員登場

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