本社にいるロバートから連絡が来た。なんでも、イギリス支部から1名異動してくるとのことだった。話によると元スコットランドヤードで警部補だった男らしく、それなりに戦闘も経験しているらしい。いくらケビンとはいえ1人で3人を同時に守れない。人員が来るのは非常に大歓迎だった。間に合うかはわからないが。
「明後日の昼間に来るって言うが本当か?」
時計を見ると夜の2時になっていた。少し心配そうな顔をする。
(そういや、直接話したことあんまりなかったな。あの学校だけあって肝が据わってるというか恐れ知らずというか)
当時からあの人気ぶりで、今まで被害が少なかったことに驚く。もっとも、事件の時はμ’sを通じて自分達を頼ってきたのが大きいと思われるが。
(オマルは大丈夫だろうか。過激だからちょっと心配なんだが)
階段を上る音がしたため、恐る恐る移動し音が止まった地点である屋上のドアを開ける。そこにはツバサがど真ん中の位置で体育座りをしていた。
「眠れないのか?」
「はい。強がってみたけど、みんなが襲われると思うと怖くて」
ケビンも近くに座る。
「怖い、か。レンジャー時代の友人も似たような事を俺に漏らしてたっけな」
「軍人さんも怖いって思うことあるんですか?」
「普通の人よりは少ないがな、死を前にしたら誰だってそうなる。ソマリアのテロリスト達を襲撃する任務の時、部下がヘマをして爆弾を起爆させてしまったんだ。近くにいたソイツは即死、離れた場所にいた友人は腹から血を流して俺に助けを求めたんだ。俺も腕をやられてて、片手で治療をしたことを今でも覚えてる」
「その方はどうなったのですか?」
「レンジャーの通信担当になって支援に回ったんだ。俺は傷が癒えると、すぐに復帰したが」
「探偵さん、私達より辛い思いを・・・」
「いいんだ、君達にはこんな恐ろしい思いをさせたくない。そんなことより子供は寝る時間だ」
「す、すいません。もう大丈夫です」
部屋に戻ったことを確認すると、ケビンも自室に戻ることにした。
彼女達の次の仕事は横浜中華街での食レポだった。ケビンもそれに同行し平静を装いながら目を光らせる。
(昨日の彼女の話に出て来た変態の行動だが、何か変だな。襲ったその日に事件現場周辺にいるものなのか?ポピュラーだがツバサちゃんに危害を加えたのが二人いる可能性が高い。最近知ったが、彼女の自宅近辺は街灯が増えてるし、やぶ遅くまで起きてる人間もいる。夜の闇に紛れてなんてできない。複数いるとなると、場合によっては捌ききれないか)
街道を歩いていると、横から上半身裸の男が英玲奈目掛けて突撃し手を掴んだ。とっさにケビンが動き、男を取っ組み合いになるがどうにか取り押さえる。
「何のつもりだ、言え!」
「お、俺雇われたんです。3万円でこの子の手を握れって!」
「なんだと!?」
男を拘束し、番組スタッフに託す。ケビンはある異変に気がついた。
「あんじゅちゃん、ツバサちゃんは?」
「あ、そういえばいない!」
「マネージャーもだ!まさか彼が」
「可能性はあるな。とりあえず車に戻ろう」
連絡を受け、運転席で待機していた宏美は、彼女達から許可を得て服の裏に取り付けたGPSを探知する。
「ケビン、ツバサちゃんは北西に向かってるわ。今現在あんまり離れてないから急ぐわよ」
全員の乗車を確認するとケビンがハンドルを握り、追跡を始めた。助手席に移動した宏美はノートPCで位置を確認する。次第に差がつけられていく。
「え?」
角を曲がり、少し移動したかと思ったら突如、画面から反応が消える。
「大変、反応が消えたわ。遮りそうにないのにどうして・・・」
「金属に囲まれたらGPSは意味を成さない。とにかくそこまで進もう」
近くに駐車し、ケビンは降りるとR5を取り出し探索する。辺りは住宅と空き地がありレンタルコンテナがあった。広さはそこそこあり、8個並んで置いてある。
「南京錠が掛かってるか。むやみに壊せないな」
電話しマネージャーの名義で借りているコンテナを教えてもらう。
(よしここか)
ストックで南京錠を壊し、コンテナのドアを開ける。中には手足を拘束されたツバサと手首を切られ、こと切れたマネージャーがいた。しかし出血量が少ない。
「もう大丈夫だ、ケガは?」
「な、何がどうなってるの!?マネージャーが死んでるし!?」
「ここから脱出だ、説明はそれからだ」
車内まで連れて行き、落ち着いてから話を聞く。マネージャーに誘拐され車のトランクに押し込められ、薬で眠らされ、目を覚ましたらコンテナに押し込められていて彼の遺体も一緒にあったという。
「私はやってませんホントに!」
「落ち着け、たとえやっても正当防衛の可能性が大だ。それに、あの浅い傷じゃ脈を切ってないから死なん。だから出血量がすごく少なかった。彼は別の方法で殺されたんだ、見てみろ」
タクティカルライトで遺体を照らすと手首以外に外傷はない。彼は毒で殺されたのがわかる。
「こんな偽装工作、マヌケが見てもわかる。事情聴取には正確に答えるんだぞ」
容疑が晴れ、事務所に帰るころには暗くなり、3人とも疲れて眠っていた。世間ではカリスマと呼ばれていても、彼女達の寝顔を見れば普通の女の子なのだとわかる。
「ほら、着いたよ」
目を擦りながらゆっくり起きる。
「これから、どうすればいいんでしょうか。またこんな事が起こるのではと思うと、なんだか怖いです」
「引き続き仕事をするさ。今度はヘマをしない」
「それに、近日新しい人が来るのよ。安心してもいいわ」
宏美が奮発して元気が出る料理を振る舞う。
「美味しそうなムニエルですね!」
「へへん、これでも奥さんですからね?」
「どなたかとご結婚を?」
あんじゅが目を光らせている。しかし、ケビンは頭を抱えている。
「俺が彼女の夫だ」
「え?」
「ケビンと結婚したのよ。薬指にリングあるでしょ?」
「あ、今さらですけどホントだ!・・・でも探偵さんはつけてないですよ?」
「この仕事だ、家族が人質に取られない工夫だよ。もちろん俺もリングを持ってる、今は手元にないけどね」
一見、興味のなさそうな顔をしている英玲奈だが、実は一番興味を持っていた。
(旦那様になる男性か・・・やっぱり、探偵さんみたいに動けてカッコイイ人だな。ミコトが惚れるのも無理はない)
「どうしたの?あ、さては新婚さんの妄想してたでしょ?」
「そ、そんなことはないぞ!?わ、私はだな、男性を選ぶのは慎重になった方がいいと思ったんだ。探偵さんみたいな男性って珍しいだろ?」
「確かにね~硬派で一途な感じだもん。仕事に熱心だし優しいし、やっぱカッコイイし」
少々照れくさそうなケビン。
「おいおい、そういうのは本人がいないときに話すもんだよ。照れくさいったらありゃしない」
「あら、ケビンも照れるんだ?」
「俺だって照れるもんさ。母さんはよく人前で熱い抱擁をしてくれたし、親父は軍の仲間に俺の事を自慢してたみたいだし」
久々の大勢での食事にご満悦になり、無事に一日を過ごしたのだった。
真夜中0時。なかなか寝付けないケビンは散歩に出かけることにした。深夜となるとさすがに人通りがほとんどなく、街灯だけが闇を照らしている。駅まで歩くことにしたケビン。
(胸騒ぎ・・・彼女達は安心しているが、どうも引っ掛かる)
「ちょっといいか、そこのハーフジャパニーズ?」
街灯の光に照らされ姿を現す。黒髪のイギリス人にしては少々低い174センチほどの白人男性が声をかけてきた。
「トライデント・アウトカムズの事務所の場所、わかるか?」
「もう営業時間外だ、依頼ならまた今度にしろエドワーズ」
「ひどいな、アフリカ・リビアで俺がお前を救ったの忘れたのか?」
「それには感謝している・・・まさかお前が異動してきたのか!?」
「あぁ。CEOの指示でな」
この男、デビット・エドワーズは元スコットランドヤードの刑事で実戦経験もケビン程ではないがある。彼は大学時代、日本語学部に所属していたため日本語が達者だ。
「昼に来るはずじゃなかったのか?」
「それはロンドンの時刻でだ」
ケビンは本気でエドワーズの顔を殴りダウンを奪う。しかし、何事もなかったかのように立ち上がった。
「迷惑レベルが高いってもんじゃないぞ!深夜に来るバカがいるか、もっと考えろ!」
「すまなかった。時差ボケがまだ残ってるみたいだ」
「カプセルホテルの場所教えてやるから、また朝来てくれ。早速仕事があるんでな」
男二人はここで別れた。