ということで西岐の上空まで移動したわけだが、途中なんだか楽しそうにしてる申公豹とすれ違った。宝貝のおかげで気づかれなかったが。・・・確かこの後、四聖が西岐を襲うということを聞仲に伝えに行ったはず。なら邪魔するわけにはいかない。
「申公豹さまはなんかウキウキされていて気づかれませんでしたが、兄さまは気づいたみたいですね」
「え、そうなの?」
「目が合いました」
あー、千里眼で空間のズレでも把握したか、あるいはシスコンゆえか・・・。
「気味の悪いこと思わないでくださいね、主さま」
そういう君は心を読まないの。
さて、西岐についたのでとりあえず姿を現してから結界を張る。ただ、範囲が広すぎるため薄くしか張れない。考えてもみて、一画とはいえ覆うとなるとまあ直径10㎞くらい。十分厚く張ろうと思うと、さすがに自分の気だけじゃ無理だから周囲の気も使うと、今後の西岐の農作物とかに影響がでる。たぶん周囲は当分枯れた大地になるだろうな。チートといっても規格は天然道士だ、できないことはある。
「すみません、主さま。少し揺れます」
「わかった」
白額虎の言葉に疑問も持たず返事をすると、白額虎の目の前は振り下ろされた三叉の槍。敵対されないために姿を現したのに意味なかったかな。まあ、当てようとは思ってなかったようだが。
「結構やるようじゃな。いや、すまん。敵ではないのだが」
すぐに槍は引かれたが、白額虎はいまだに敵意むき出しに目の前の太公望に唸っている。乗っているのは四不象ではなく犬の騎獣、鞭ではなく三叉の槍を携えた太公望。うん、騎獣に跨るのではなく腰かけているので違和感満載。たぶん太公望なら腰かけるのであれば足組んでそうだな、とかどうでもいいことを考えてしまう。
「いえ、大丈夫です。確かに突然現れたらびっくりしますよね」
先ほどまで隠蔽の宝具を使っていたのだ、彼からすれば忽然と西岐の上空に現れたのだから警戒もする。敵じゃないと認識したのも、西岐で私のことを聞いたのだろう。自慢ではないが、私の様相は西岐の民の大半は知っているだろうし。
「どうやらわしのことは知っておるようじゃの」
ええ、太公望はあなたのことをフェミニストとかおっしゃってました。とかいうとややこしくなるから無言で首肯する。
「そなたはそのまま結界を張っておいてくれ。わしは向こうにいくとする」
そう言って向かう先にはこちらに向かってくる、えっと頭に笠をかぶったマント姿な人物。特徴があるのはありがたいが、やはり仙道は個性的すぎる人物が多いな。
太公望が四聖の一人に話しかけると太公望はその姿を一変した。青い長髪に女性と見紛うばかりの顔に服装も変わる。
「あの方は、まさか楊戩さまですか?」
「知ってるの、白額虎」
騎獣であり、基本仙界に関わりのない白額虎が知っているとは。いったい何処で聞いたのやら。
「兄さまがある種の危険人物とおっしゃってたので覚えています。なんでもあまねく女性を不治の病へ陥れる魔性をお持ちだとか。敵ではないようですが、危険ですので下がってくださいね主さま!」
・・・黒点虎、あんた純粋な白額虎になんてことを。不治の病イコール恋に結び付けてないから、いらぬ誤解を招いているよ。というか、たぶん白額虎に言いたかったんだろうな、仙道と神獣なんだけど。まあ、面白いから誤解したままでよいけど。
私たちより上空にいつ楊戩たちの会話からして、あの笠をかぶった人物は聞仲の配下である九竜島の四聖・王魔と言うらしい。それにしても聞き捨てならない、西岐を滅ぼす―――なんて。なんのために私がここにいると思っているのか。
町の端にある山に王魔の操る宝貝がぶつかると爆発が起きる。山の先端ごと轟音を立てながら町の方に崩落していく、が結界と接触すると時が遅くなったように落下がゆるやかになっていく。本当なら遮断したいとこだが、この薄さならここまでが限界だ。その様子を身構えた住民たちは不思議そうに見ているが、ゆっくりと巨大な岩が落ちて家屋が削れていくのをみると早々に避難を始めた。怪我人は出るかもしれないが、民の犠牲は回避できるはず。
「私は避難誘導に徹するので、ここはお願いします」
「わかりました。なるべく被害は最小限にとどめるのでお任せします」
その楊戩の言葉に王魔は激昂するが、わかりやすい陽動である。
西岐の町に降り立った私は家屋に逃げ遅れた人がいないか走り回ることになる。遠くからある威圧感は感じていたが、でもここで動かないと私は守れない。走りながら家屋の下敷きになって身動きのとれない人や重症の住人の怪我を治していく。
すると、いくつか上空で爆発が起きていたが、途端に止み戦闘をしていた二人が移動していく。それと同時に大気が震えていることを肌で感じとれた。
「来たわね」
「はい、ここより山岳地帯の方角、太公望さま達の元に」
やってきた相手は聞仲で確定だが、まさかここまで圧倒的とは。漏れ出る気で大気を揺るがすとかどこかの戦闘民族じゃあるまいし。
「どうされますか、たぶん太公望さまたちでは・・・」
白額虎の言う通り、今の太公望たちでは太刀打ちできない強さである。原作でもこの出来事は重要であり、敵である聞仲を印象付けるものでもある。私が介入しても防御しかできないし、たぶんなにが変わるというわけではない。西岐の民に犠牲者はないが負傷者は多数に上るし、太公望たちのことは敵ながら義理堅く見逃してくれそうな見込みもある。
ただ、このまま聞仲とは接触せずにいることを考えるとなんとなくわだかまりを覚える。思い出すのは剣を抱えて泣き崩れる母との約束。
―――どうか、どうか私のようにならないで。ただ守られて逃げただけの、なにもできなかった私のように―――
ああ、本当に好きだったんだな、父のことが。思い出して苦笑すると、白額虎に全力疾走してもらう。さて、因縁に会いに行こうか。70年前の、父の仇ともいえる人に会いに。