子守唄を神様に   作:レヴィ

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デアイ

「またここか」

 

 ベッドに横たわっていた筈なのに、周囲は青々とした草原が広がっている。

 

 おい、今の季節は冬だぞ。家があるこの辺一帯は高原に近く、冬は雪で閉ざされた世界だ。遊牧民もこの時期はまだ暖かい標高まで下りているが、私は面倒だから下りず、一人寂しくドーム型の世界に引きこもっている。大丈夫、外は一面雪しかないから誰にも見られないし、ドームの中は私の支配下だから周りも気にせずにチートを使えるわけだ。

 ちなみにチートと言っても、なにもかもできるわけではない。私にできるのは万物の生成である。そう作り出すことしかできないのだ。つまりはだ、どっかの誰かさんが謳うような全知全能あるいは最強というわけではない。しかし、識っていれば生成できるわけでそれに制限はなく、空間、時間も食べ物も生成できる。時間や空間を拡張すれば異空間の生成や時間の緩急は思いのままである。

 ただ、生成できるといっても空間や時間といった概念はともかく、生ものである動植物は発生させることができるのみ、つまり植物を生成しても種しかできない。育てるのは自分でやるしかないのだ。時間を早めれば良いじゃないかないかって思われるだろうけど、土に生えていない芽が枯れるように、しっかり栄養のある土に埋めないと植物は成長しない。というわけで、日がな一日畑を耕して種を生成して撒いて、時間を生成して早めるを繰り返している。閉ざされた空間なのだから尚更これをやるしかない。

 

 そんな面白みのない生活をして、現状がこれである。慣れたいや、慣れてしまった様子で若干死んだ目で顔を横に向けると同じく草原の上で寝そべる男性の姿があった。

 

「・・・太上老君、いや老子。別に誘うのは良いんですが、こっちの都合とか考えてくれませんか。いや暇なのは確かなんですが」

 

 正確にはお昼寝しようとベッドに横になった瞬間これである。さて、目が覚めたときはどれだけ時間が経っているのか心配で仕方ない。声をかけたは良いが、目を薄っすらと開けてこちらを見る三大仙人の一人である太上老君は、手足が見えないくらいにダボダボなナイトキャップのようなフード付きの服に寝ぐせの付いた髪を草原に吹く爽やかな風に靡かせながら静かに目を閉じていった、おい。

 

「一瞬、返事が面倒くさいとかそんな目で見てから寝るな、怠け者」

「何か引っ張ってきたんですか、怠け者の貴方が珍しい・・・って」

「「どちらさまですか?」」

 

 ちなみにこの時の初対面の印象は互いに、なんか面白そうだったらしい。失礼な、しかし、道化師・派手・くいだおれ人形で容姿の説明がつく彼を見て面白そうなんて思う自分も大概である。現実世界の自分は季節のせいで半強制的な引きこもりだ。娯楽に飢えているのも仕方ない。

 そんな彼とのファーストコンタクトだが、自己紹介は大事である。ついでに敵意がないことを伝えることを忘れずに。

 

「いわゆる天然道士ですか。それなのにここまで力が整っているのは珍しいですね」

「なんとなくできてたっていう方が正しいです。必要に駆られて」

 

 十歳くらいのただの子供が一人で生きていける程、この世界は甘くはない。この独特なセンスの持ち主である申公豹もそれはわかるらしく、なるほどと返すだけであった。

 

「しかし、それだけでは、・・・認めたくないですが三大仙人の一人であるこの人がわざわざ夢に招く理由には足りない気がしますが」

 

 スヤスヤ眠る太上老君を挟み、こちらを向く眼光は鋭い。おのれ太上老君、私もそちら側にいきたいぞ。この申公豹は原作でもだがどちらかといえば戦う理由や謎の美学が関わらければ好戦的な性格ではない。トリックスターといえば聞こえは良いが、要は良くわからない人物でもある。年齢も四千越えで最強の道士とも呼ばれており、主人公のライバルみたいな立ち位置だ。関心を持たれたら面倒だけど、敵意を持たれたらもっと面倒である。

 

「―――まあ、今は機嫌が良いのでよしとします」

「はあ」

 

 それはありがたいことで。しかし、傍から見てこの三人の様子はシュール以外のなんでもないんだろうな、とふと思う。片や派手な道化師、中央は寝ている大きなこども、片や死んだ目をしている女である。ここが夢の中で良かったなぁ。

 

「なんとなくですが、懐かしいというか大らかな気分になれるんですよ、貴女の傍は」

「・・・ソレはアリガトウゴザイマス」

 

 年頃の女として素直に喜べないが、悪い印象じゃないのは良かった。良かったけどさ、その気分とやらはオカンやら母親に抱くべきじゃないですか、道士さま。

 

「ああ、そういえば彼が言ってた最適というのはこれのことですか」

「彼、というと太上老君がですか?」

「はい、これどうぞ」

 

 といって、軽い感じで渡されたのは痩せている一匹の白い子猫だった。・・・ホワット?

 

「私の騎獣である黒点虎の妹だそうです。ただ、身体が弱いらしく長らく仙人界で眠っていたそうです。流石に眠るのも限界になり、目覚めたのですが今後は短い生を生きるしかないと黒点虎が嘆いていたので私が太上老君に相談したら、最適な育てられる人材がいると聞きまして」

「で、それが私と」

「・・・どうやら貴女の気が特殊なのか、周りの生物も活性化するようですよ」

 

 ほらご覧なさい、といわれて猫に視点を戻すと白猫はこちらを一心に見つめていた。心なしか痩せ細っていたはずの身体は丸みを帯び、まだ震えている足で私の手の上で精一杯立っていた、しかもか細いが声も聞こえる、・・・アンビリバボー。

  

「我は白額虎」

「おお、しゃべった」

「力ある霊獣ですからね、ちなみに黒点虎もしゃべりますよ」

「我は弱く立つことすら儘ならず。しかし我は誇り高き霊獣である」

「・・・初めて話すのを見ましたが、これ、黒点虎が見たら泣きそうですね。口調とかいろんな意味で」

「感激屋さんなんだね、黒点虎って。それで、どうしたの白額虎」

「貴女を主と仰ぎたい。名を、賜りたい」

 

 どうやら、懐かれたようです。

 

「これ、主になって良いと思いますか申公豹さん」

「というより、主にならなければ必然的に白額虎は長く生きられません。さっきまで起きることすらできなかったのですよ」

「・・・おかしいですね、凡人を自称しているのですが」

「貴女みたいな凡人がそこらへんにいたら、もっと楽しそうですが」

 

 そう言いつつ、口元だけ笑みを浮かべる申公豹。確信犯か、畜生。

 

「―――答えを」

 

 と、文字通り捨てられた子猫の目でこちらをみるな白額虎、罪悪感が半端ない。正直、このまま主になると必然的に黒点虎並びに申公豹と縁ができるので原作に巻き込まれる可能性が高い。関わりたくないがそれはずっと昔に諦めているので、気が向くままに自分の好きなようにやろうとは思っている。

 しかしだ、最強の霊獣の実妹で、身体が弱いという白額虎を引き取り、私は育てられるだろうか。というより、私は異常性を認識しているからそれに巻き込むのもどうかと思う。霊獣だし、しゃべれるし、私の孤独感を埋めるにはとっても都合はよろしいが、それでも―――。って、おい申公豹、こちらの苦悩する様子を見て笑うな、プククとか漏れてるぞ。

 

「駄目、ですか。我のような脆弱さでは役立たないと」

 

 ヤメロ、私を見つめるな。情に訴えるな。おい、申公豹。黒点虎が嘆きますね、とか私を悪者に仕立て上げるな、原典のお前も大概だぞ。あーもう。

 

「黄祷暁、です」

「え」

「私の名前です。できれば祷暁と呼んでもらえると助かります」

「祷暁、さま・・・」

「いや、さまはいらない」

「祷暁さま、いえ主さま。この白額虎、霊獣としてしっかりと努めさせていただきます」

 

 キラキラとした目でこちらを見つめる白猫。うう、良かったですね白額虎とハンカチ(どこから出した)で目元を抑える申公豹だが、せめて涙くらい出せ。

 

 そうして、白猫が一方的に騒いでいると、煩いと大きな子供(太上老君)が呟き、一気に現実世界も戻された。本当にこれが用事だったわけね。そうして、いつもどおりのベッドで目を覚ますと、お腹の上に先ほどまで見ていた白猫が転寝ていた。・・・太上老君の夢ってどこまで現実に影響を及ぼすのだろうか。

 

 そんなこんなで白額虎との一人と一匹の共同生活がスタートするわけだが、私の生活をみて元々高かった尊敬が崇拝の域に達し、何故か無意識空気清浄機なのか私の傍では病弱な白額虎はぐんぐん成長して、1か月後には見事黒点虎なみの大きな白虎へと変貌を遂げてしまった、何故だ。

 そうして白額虎が私を乗せて空中散歩できる頃には、ちょうど散歩していたのか黒点虎&申公豹に出会い、一悶着あるわけだが、これはまた別の話に。とりあえず、私のボッチ生活はピリオドを迎えて、色々な厄介事に原作開始までに巻き込まれる発端ともいえる出来事だった。

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