子守唄を神様に   作:レヴィ

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ちなみ私は姫昌が2番目に好きです。(突然の告白)


ユウリ

 

「あー、淀んでるわー」

 

 数年前より妲己が再び宮廷に姿を現した。名君と謳われた紂王も妲己の術中に嵌り、意のままに操られる傀儡となっている。ここは紂王直轄の場所とはほど遠いが、近づくと膨大な妖気と微かな腐臭が朝歌から漂ってくるので、国が乱れているのは確かだ。

 自宅周辺は亜空間になっているので、よっぽど高位の仙人や申公豹のような道士が来ない限りはこの場所の平穏は保証されている。しかしだ、密かに会いに行っている旧友が最近宴のため、朝歌に向かうと言っていた。止めた方が良いと止めたが忠義に篤い彼のことだ、どうせ原作通りに紂王を諫めようとするだろう。長子である伯邑考もこれには頭を抱えていた。と言っても、ここで行かなければ紂王の不興を買うことになる。本当に権力とは面倒くさいものだ。

 

「白額虎、一緒に行ってくれる?」

「はい、主さま。いつでもどうぞ」

 

 白額虎もこの50年ほどで精神面も成長したらしく、川に溺れるようなことはなくなった。時々、躓いたりとドジをかますことがあるけどそこは個性としておいておく。能力面は兄である黒点虎と並ぶくらいにはなっているが、なにせ元は病弱のため体力面では劣るので、黒点虎が最強の霊獣というのには変わりはない。そして、数十年前からは私と離れても体調を崩すことはなくなったので、自由に散歩できることは本人が一番喜んでいた。すいませんね、元来引きこもりなんで。

 

 そうして、白額虎に跨り到着したのは何もない草原に一際大きい岩がある場所、以前には羌族の村があった場所だ。他者にはただの草原だろうが、見る人が見れば惨劇のあった場所でもあり、故郷であるともいえる。まあ、遊牧民である彼らに永住する土地という観念は薄いかもしれないが。

 

「そういえば、邑姜(ゆうきょう)も大きくなりましたね」

「まあ、あれだけ経てばね」

 

 

―――――あれは何年前だろうか。

 

 いつも通り、夢の中で強制的に呼び出された太上老君が突然迎えにこいといわれた。溜息を吐きながら気配を辿ってみれば、山岳地帯のなかで羊に囲われ寝ていた。それは予想通りといえばそうなんだが、その腕に赤子が抱かれていなければの話である。

 スヤスヤと眠る乳のみ子は艶のある黒髪に襤褸のような布を巻かれてはいるが、健康的な顔色で太上老君の無駄に長すぎる袖口をはむはむしていた。大きい赤子が本当の赤子を抱いている姿はここが草原でなければ平和な光景であるが、今はただただシュールである。

 

「で、どこから拾ってきたんですか、その子は」

「ぐう」

「眠ってないで、説明して。呼び出したのは貴方でしょうが」

「・・・託された、この母親に」

 

 寝ぼけ眼で覚醒したが、寝起きにしては明瞭な口調で話す彼は珍しく浅い眠りを続けていたようだ。時々うつらうつらをしていたが、話を聞くとどうやら死に間際の母親に無理やり腕に抱えさせられ、この子をお願いと笑顔で言われた後、この場を立ち去ったらしい。強しというが厳かだな、その母親。こんな怪しい人物に子供を託すなんて。

 

「で、どうしろと」

「この子は羌族(きょうぞく)、安全な地が必要だからお願い」

 

 どうやら、この怠け者も託された(強制)身としては育てる気のようである。怠惰の権化であり、時間のほぼ、いや99.9%くらいを夢の中で過ごしている彼がこんなことをするなんて、申公豹が聞けば黒点虎から落ちるくらいには驚愕するだろう。そんな私だって原作を知ってなければ何かを作る拍子に手を滑らせてブラックホールくらい作るくらいと例えるくらい有りえない事なのだ。なので、その話は快諾しよう。しなければ、なんか人間として終わってしまう気がする。

 

「はあ、こんな願いを叶えるのは老子くらいですよ」

「ありがとう」

 

 そうして、思考を巡らすと以前見つけた物理法則をやや無視している土地を思い出した。気紛れに何十年前に人狩りから助けた村人を一気にそこへ飛ばしたことがある。少し経って行ってみればえらく順応して独自の文化を作り上げている彼らには呆れたが、それこそ女神のように自分が讃えられたのにはドンびいた。

 そこへ老子と赤子を案内し、謎の崇拝を受けていることを利用して老子だけではそのうち子育ても面倒くさがるからその子を育てるように村人にも説明した。そうして何年か経ち赤子が大きくなり独り立ちする頃には、老子は桃源郷から下界に降り、残っていた羌族を率いて村を作ったとその子から聞いたのには再度驚いた。

 

「しかし、主さま。あの時のことは私も覚えていますが怠惰スーツはやりすぎかと」

「行くたびに数年の汚れを落とし、服を繕う苦労に私が参った結果だから見逃して」

 

 原作でもあったオーバーテクノロジーで、最強宝具ですら弾く作中最強防御力といわれる怠惰スーツであるが、そりゃ壊れないという概念を持つもので作ればそうなるだろう。それを作ったくらいだろうか、邑姜を連れてここへ来たのは。彼女にとっては何も知らない場所ではあるが、ここに花を添えて祈りを捧げていたのは感慨深いものがあった。

 

「さて、捕まっているだろう姫昌のとこにでも行きますか」

「よろしいのですか、主さま。確か、女狐やら暗君がいるとかで、朝歌へ行くのは避けていたみたいですが」

「まあ、面倒事に巻き込まれるのは嫌だけど、旧友が話し相手もいないのがずっと続くのはちょっとね」

 

 姫昌が幽閉されるのは7年間である。その間、何もせずにただ傍観するのは無しとして、ただ会いに行くというのもやりづらい。考えてみて、友人が出れないのに悠々と出入りできる自分はさぞ滑稽にみえるだろう。しかし、その友人はたぶん自分からは出ていかない、頑固だから。なら、自分も一緒にいるしかない。

 

「白額虎、あなたは西岐か桃源郷、いっそ申公豹のとこでも行っていいのよ。あそこに行けば限りなく拘束される。もう妲己は私のことも知ってるだろうから、そうおいそれと動けなくなる。そうすれば私は兎も角、あなたまで不自由をかけることになる」

 

 生まれつき病弱で外に焦がれていたため、今になり縛りつけるのは憚られた。しかし

その問いに白い霊獣はゆっくりと顔を横に振るった。

 

「いいえ、私も連れていってください。主さまに仕えると決めたのは私であり、何より傍にいたいのです。会ったときのような寂しい目はもう見たくないですから」

 

 この子には私のことを全部話した。その上で今生はずっと傍にいると言い切った子だ。決意は固いだろう。

 

「・・・そっか、じゃあ行こうか」

 

 頑固な友人を持つと大変だよね、と笑って二人で姫昌が幽閉されている羑里(ゆうり)の邑に向かった。

 

一見貴族、いや豪族の屋敷といった度合いが相応しいか、荒涼とした土地にある塀に囲まれた広めな敷地内には兵が寝泊まりするであろう宿舎が大きい分、味噌簿らしさが明け透けに見てとれる。しかも、敷地の壁は人の丈より高く出入口や敷地内には兵が闊歩して物々しさを漂わせており、近くに家屋がない分時より道行く人は恐々とこの牢獄を避けて通っていた。

 

「また物騒なところにいるなぁ、姫昌は」

 

 その牢獄の遥か上空、雲の切れ間に白額虎に乗りながら祷暁は目を細めた。現在この二人は指定した人物以外には姿を隠し、防音、果ては気配まで遮断する宝具(祷暁ちゃんお手製)を使っているため、二人の姿はあからさまに透けており、向こう側の景色が見えるほどだ。ちなみに使っている互いの姿かたちや声は普通に見聞きできる。しかし、この宝具はその人物を空間から切り取っているようなものなので、空間把握に優れる宝具などには効果がないのが残念である。

 

「で、主さまどうしますか。このまま行ってもここには仙道は居ないみたいですし、見つかることはないと思いますが」

 

 そう、周りにいるのは一般兵であり、妲己が関わる妖怪仙人らしきものはいなかった。国を背負っている姫昌の性根から言って脱出しようとは考えなさそうだが、もう少し戦力になるマシな奴らをつけてはどうかと思ったが、こちらには好都合である。

 

「ただこのまま行っても、何もない空間に話しかける姫昌ができあがるだけだから、もう少しどうにかしたいなぁ」

 

 仙道が関わっていないとなると、傍目から見ればただの痛い人物である。友人としてはなんとかして避けたい。そう、なにもない空間で話さなければ良いのだ、なにかこう話しかけても誤魔化せるような、幽閉されてても存在が許されるような・・・あー。

 

「よし、鳥になりますか」

「なんか、それだけ聞くとおかしい人物みたいですよ、主さま」

 

 仙道なのだから姿かたちをかえるのはお手の物、いや、変化の術が使えるのは片手に数えるくらいで、多くは妖怪仙人くらいだがそこは置いておく。白額虎は白猫になれるし、動物なのから多少声をかけても怪しまれない。え、幽閉されているのだから、動物一匹入れないってか、周囲に暗示をかければ大丈夫でしょ。まあ、女狐が見に来る可能性もないわけではないが、それは許容範囲だ。

 

 そうときまれば、認識阻害の宝具を発動させながら姫昌が幽閉されている建物へと向かい、こっそりと格子一つ分の紙を破った。この時代硝子とかはないから外から日光を取り入れるには、窓板を開けるかこうして紙を貼り障子のようにするしかない。防犯を考えれば雑と言えば雑と言える。

 鳥になり部屋を覗くと中はがらんどうで、必要最低限の物しか置いていない。そこに姫昌は中央にある椅子に座っていた。目を閉じて、幾分か疲れているようにも見える。試しに普通の鳥のように鳴いてみる。すると、音に気付いてゆっくりと目を開いてこちらを見る。意志の強い温かな眼差しは変わっていないようで、少し安心した。

 

「おお珍しい、お客人かな」

 

 笑い皺を携え、穏やかな物腰は動物相手でも変わらないようだ。ふと心笑うと、静かに羽を動かし、姫昌の前にある机の上に降り立った。視界の端で白猫になった白額虎も部屋に入ったが、その後毛づくろいをする姿はとても霊獣に見えない(誉め言葉)。

 姫昌の方をじっと見つめるとなにかに気づいたように、彼は苦笑した。

 

「まったく、私の友人は心配性ですね」

「・・・いつ気が付いたの」

「姿は目に鮮やかな色鳥ですが、目は変わっていませんよ」

 

 今の私の姿は、頭は黒で羽は緑、腹が朱色というグラデーションでサイズは雀程度だ。ケツァールを参考にしたのは言うまでもない、雌の方だが。だが、目は元のままの金色なので、気づいたとのこと。付き合いも短くはないので余計かもしれないが。

 そうして会話をしている姫昌の顔は優し気に緩んでいたが、挨拶が終わると途端に真剣な顔になった。この切り替えの早さは為政者として評価するべきところだろうか。

 

「祷暁、私は紂王の反感を買い、ここに幽閉されているのは知っているね」

「知らなければここに来ない」

「そうでしょう。私はそれを承知の上でここにいる。貴女は、縛られて良い人ではない」

 

 それは人格、能力のことも差しているのだろう。主に西の邑で色々やらかしているのは否定しない。自由気儘にマイペースな私がここにいるのは苦痛だろうとも示唆しているのだろう。

 

「それも承知でここに来た」

「しかしッ」

「姫昌、君は私より早く逝く。私は天然道士だから、長命は確実だ。だから、短いからこそ、一緒にいたいというのは我儘かな」

 

 それこそ、彼がいるときは本当に好き勝手していた。

 彼の領地に無許可で水脈を探して池を作ったり、彼の二人目の子が産まれたと聞いたときは、その母に許可を取って姫昌には知らせず一人目の子と一緒に白額虎に乗り冒険した。そういえば、いつだか大量の難民を引き受けたときは、自分たちの食料を減らしまで引き受けていたから本人を叱りつけて、子供にはもっと食わせろと畑を私自ら耕していた。チートも使っていないのにめちゃ豊作だったから、姫家総勢で収穫祭をやったこともあった。思い返せば、なにやってんだろう私って・・・。

 そうして、回想とともに自分の行いに後悔を滲ませていると、黙っていた姫昌が急に大笑いし始めた。外にも聞こえたようで、気が触れたかとか役人さんが言ってますが良いのですか、姫昌さんや。

 

「いつも突拍子のないことをして皆を驚かせているが、なにかを想って行動するのは変わらないな」

「成長しない私ですみませんね」

「いや、それに救われる自分もいた」

 

 懐かしむように目を閉じる彼は、来る前の疲れた様子ではなくいつもの、西岐でみる姿だった。

 

「いつまでかわからないが、付き合ってくれるか?」

「勿論ですとも」

 

 そう和やかに話すころには、いつの間にか白額虎は小鳥の私を包むようにして寝そべり、欠伸をしていた。彼の幽閉されている7年間を原作では記されていなかったが、一人座る椅子の傍らに鳥と猫を追加してほしい。彼は少しは穏やかに微笑んでいるだろうから。




追記:シリアスブレイクな独白
祷暁「しかも、ここなら姫昌を独占できる。子供がいっぱいできてからかまってくれないんだもん。旦(周公旦)はお堅いし、伯邑考はまだ良いとして、発(姫発)はおふざけがすぎるからこっちがストッパーになるしかない。末の雷震子は可愛いけど仙界に行っちゃうしで、豊邑にいってもつまらないんだもん」

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