子守唄を神様に   作:レヴィ

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残酷描写ありです、苦手な方はスルーでお願いします。


キロ

 

 時は流れ、幽閉生活も中頃を過ぎたであろう今日この頃。日がな一日、会話か読書、瞑想するかで過ごしている姫昌と私たちです。いや、それやっているのは姫昌だけか。

 

「それにしても姫昌、いつまでここにいるつもりなの」

「紂王の許しを得るまで」

「はあ、やっぱり律義というか、ここまでいくと頑なね」

「主さま、自分の事は棚に上げていませんか」

 

 一人と二匹は今日も今日とて幽閉されています。最近では幽閉生活の慰めとして飼われていることが周知されてきた鳥こと祷暁と猫である白額虎ですが、正直暇で仕方ないです。仙道がまったくここにはいないと知った今では、私は時々マイホームに帰って畑を弄る毎日ですが、代わり映えのしない生活というのは予想以上に精神にくるらしく、姫昌の白髪が目立ち始めた。そろそろ潮時だろう。

 

「ねえ、姫昌」

「どうした」

「もしここから出れば結果、貴方とあの子の死が回避できるって言ってもここを出ないの」

 

 そのうち、例の事件は起こる。あの真面目な伯邑考の事だ、姫昌が捕らえられていると知っていれば必ず来る、忠告してもそれは変わらないだろう。実の父の言ったことも捻じ曲げてくるくらいだから、その頑固さはこの父親譲りだ。

 その言葉に姫昌は目を見開くが、その驚きとは裏腹に穏やかな口調で諭すように話し始めた。

 

「私は西伯候であり、その責務がある。紂王に物申したのだ、極刑にならないのは破格の扱いだ。何より、友である其方を脱獄を助けたという汚名を着せるつもりはない。・・・ありがとう、祷暁。わかっているというのは酷ではあろうが、見守ってほしい」

 

 そういわれてはどうにもできないと私は悟った。こういうときに動ける人は羨ましい、私は彼の言葉を捻じ曲げたくないという気持ちが勝ってしまった。長年、見続けたせいだろうか、その生を、意志を全うしてほしいと願うのは我儘だろうか。

 

「はあ、姫家は貧乏くじを引きすぎ。こんな便利な私がいるのに使わないなんて」

「友であるからこそ、ですよ」

「はいはい、わかってますよ。で、さっきから聞き耳立ててるそこの人、さっさと入ってきたら?」

 

 話し始めてからだろうか、様子を伺うように出入りする戸の横壁に佇む人の気配があった。仙道のようだが、整っていない気なので、天然道士か未熟な道士くらいなのだが、その気が大きすぎる。只者ではないことは確かだ。

 その呼びかけに反応したのか、大柄な人影が木でできた頑丈な扉を開けた。目に入る金髪と無精ひげの快活そうな人相、妲己よりこちらが来たかと内心思った。

 

「姫昌どのがご乱心したと聞いてな。関わった者として心配して様子見に来たわけだが・・・、とんだ鼠が入ってみたいだなぁっっ!」

 

 ―――振り降ろされたのは武成王、黄飛虎の棍で、とっさに鳥から人に戻り、咄嗟に青龍偃月刀の柄で防いだ。なぜこの武器かっていうと、言ってしまえば父の形見です。これ普段使いには大きすぎるし、いくら天然道士としてこれくらい(20㎏ほど)は軽いとはいえ私みたいな女子が振り回して良いものではない。

 咄嗟だったため、足元にある机が凹んだが岩を砕く一撃を防いだにしては犠牲は少ない方だと褒めてほしいくらいだ。しかし、防いだと分かるや2撃目の横払いが来るとは流石は武成王、容赦ないなぁと思いのほか冷静に判断していたら、姫昌が机を大きく叩いた。

 

「やめんかッッ!!!」

 

 相当な気迫で持って放った言葉は私たちを止めるのに十分だった。

 ついでに武成王の後ろで爪を振り下ろそうとしている白額虎も止まった。その爪は一本一本が太刀のようになっており、以前偶然出会った妖怪仙人が細切れになり思わず手を合わせてしまったのは記憶に新しい。その爪が武成王の頬に刺さり、血と共に汗も一筋流れた。

 

「武成王、その者は長らく共にいる私の友だ。そして、白額虎もおさめてくれるか、彼は悪いものではない」

 

 武成王は静かに構えを解き、私が力を抜くとやっと白額虎も爪をおさめたが、毛を逆立て威嚇は止めていない。主人思いの霊獣で私は幸せだなっといけない思考が逸れた。凹む机の上からするりと降り、武成王の正面に立つ、見上げる彼は警戒をやめずにこちらを見ていた。青龍偃月刀、長いから青龍刀で良いやを床に静かに横たえ、目を見ながら口を開いた。

 

「私は姫昌の旧友である天然道士の祷暁と申します。この頑固者が幽閉されていると聞いて付き合っている次第です。そして、名高い武成王で知られる黄飛虎さまにがこの友を救ったと聞きました。ご無礼をお許しを、そして感謝を」

 

 ゆっくりと頭を下げれば、姫昌と白額虎から驚きの声がした。おい、お前たち、私だって頭は下げるぞ。恨みがましく頭を下げながら二人を睨みつけると、頭上から噴き出す声がした。

 

「ぶ、はははっ。姫昌どの、俺の心配は無粋だったみたいだな」

 

 豪快に笑い、痛いほど背中を叩くそれは体育会系によくあるようなフランクさだ。よくよく話せば、市中に姫昌が慰めに動物を飼ったは良いが、人間に話しかけるような口調のため遂に狂ったかと噂が広まっているようである。それを心配した黄飛虎が様子見に来てみたが、なんか動物が話しているし、妲己の回し者かと思ったらしい。それはそれで物理で話をつけるものどうかと思うけどね。そうして黄飛虎のフランクさも相まって、話が弾んでいるとふと黄飛虎が青龍刀を見やった。

 

「ところで、その青龍偃月刀どこで手に入れたんだ?」

「あー、継いだものって言った方が良いかな」

「なら、俺ん所の関係者か。それ、黄家の家宝の一つで、確か曾爺さんの義兄弟が持っていったって聞いたが」

 

 ・・・よし、整理しよう。私の母はいわゆるシングルマザーで私を産む前に父親は既に他界していた。そして、この青龍刀は父親の形見で、なにやら母の家から譲り受けたと聞いた。父親は当時の皇帝の寵愛から母を逃そうと身体を張り、自害したらしい。そして、重要なのが、私の姓は黄である。そして母からはその家は兄が継いだと聞いた。

 思い当って頭を抱えると、飛虎は訝しげにどうしたんだと目線をこちらにやる。たぶん、嘘言っても勘づきそう、だって黄飛虎だもの(確信)。

 

「・・・あー、初めまして従弟違殿」

「は?」

「私は黄祷暁で、貴方の曾おじい様の妹の娘です。よって、私たちの関係は親戚と思われます、どうぞよろしく」

「・・・マジか」

 

 白猫となった白額虎と戯れていた姫昌も固まる事態となった。そっかぁ、黄家の姫君か、母様。そりゃ、仙人骨に恵まれてるわ、山奥で暮らせるわ、にしては所作に厳しいわけですな。・・・姓が黄っていうことで嫌な予感がしてましたが、産まれたときから原作巻き込まれフラグはあったわけですね、トホホ・・・。

 このあと、黄飛虎の尋問に会い、んじゃあ妹分だなといわれ、実年齢を言うと驚かれて、じゃあ姉貴分だなと明るくいわれた私はどうにでもしてくれと遠い目をしてしまった。

 

 

 そんな日々も過ぎて、来てほしくない時が来てしまった。

 

 懐かしい気配を近くに感じて、姫昌に声をかける。わかったと目を閉じて静かに座している姿は覚悟を決めたような面持ちだ。彼には話した、そのうえで離れていてほしいと言われてはどうすることもできない。そっと、白額虎と共にその場を後にした。向かうのは朝歌だ。朝歌に彼がいることは気配でわかる。誕生にまで立ち会ったのだ、その気配が薄らいでいるのもよく分かった。

 

 夕方には朝歌に着き、禁城の外れを宝具で姿を隠しながら進んでいった。血なまぐさい牢屋の一室に彼はいた。四肢はなく磔にされても尚、息が微かにあるようだが致死量は超えている。牢の扉は空いていたため、そのまま入るが進むたびに水音が跳ねるように音が鳴るのが煩わしい。近づいてそっと顔に手をそえるがその人肌はすでに冷たく無機物を触っているかのようだ。その霞む目はこちらを映さず、焦点は合わないが、それでもそっとその身体を抱きしめた。

 

「帰ろうか、伯邑考」

 

 この時、幻聴であろうか仕方のないな、姉さんはと聞こえた気がした。

 

 そしてその息が途切れると同時にその体から魂魄が抜け出て、天井を突き破って月明りの空へと向かった。それを見送り、躯を抱きしめながら私は牢屋に火を放った。放ったといっても、床に広がっている赤に火がついただけの話だ。燃え盛る火は私には移らず、ただその痕跡を失くすかのように燃えている。

 

「あらぁ、火事かと思ったけど違うのねん」

 

 その声に思わず殺気が漏れたのだろう、妲己の動きが少し止まった。

 

「怖いわねぇ、初めて見る顔だけど・・・、どこかで会ったかしらん?」

 

 たぶんそれは母の事だろうとあたりを付けたが、そんなことはどうでも良い。そっと抱いていたものに念じて異空間へと送る。故郷の地に還した方が良いだろうから、姫昌が西岐に戻ったら葬儀でも執り行おうと思う。でも―――、

 

「無視するのん、酷いわねぇ。ああ、彼が言ってた姉さんってあなたの事ねん。ずっと唸りながら言ってたわ、父上、母上に姉さんって。もう、叫び声も上げないで耐えているから楽しくて楽しくて」

「ねえ」

 

 私の心も―――、

 

「あらん、やっと反応してくれたわね」

「囀らないでくれる?」

 

 限界だったみたいだ―――。

 

 その夜、禁城の外れに大穴があいた。妲己は無事だったらしく見回りをしていた兵も無傷であったが、その場を切り取ったかのように寸断された家屋と地面は誰しもが気味悪がった。

 その後私は、馬を引き連れ西岐へ戻る姫昌に追いついて、無言で付き添った。関所を越え西岐に入ったときに一言だけ私が彼を弔おうと言うと、彼は無言で涙を流した。私の前で涙を見せたのは、これが最初で最後だった。




書いてて思った、温度差に風邪ひきそう。
ちなみに主人公と黄家の関わりは最初から決めていました。あれだけ家族想いの一族は姫家除いていないので、ちょうど時期も時期で妲己活躍のときにも関わっているし、案外因縁は深いです。
あ、妲己嫌いじゃないよ。ただ欲望に正直な人?という印象が強いです。
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