車は右折し、丘を上っていく。上りきって道を少し行くと、男がブレーキを踏み、車は止まった。
道を行くにつれて、木が増えているとは思っていたが、今、目の前に広がるのは山の中にでも入っていきそうな道だった。
「おかしいな」
「おかしいわね」
男と女は自分たちだけで勝手にうんうん悩んでいるようだった。
「どうしたんですか?」
千尋が尋ねると、二人は後席を振り返り、いかにも困ったという顔を千尋に向ける。
「いやねえ……見てちょうだい、あの青い家」
千尋が窓の外を仰ぐと、確かに、一本上の道に青い家があった。
「あそこが私たちの家なんだけど……」
女は言いかけて、またうんうんと悩み出す。
「こんな道、あったかなあ……」
「あんた、道を間違えたの?」
「いや、いつもの通り……一本道だよ、知ってるだろ」
「そうねえ。おかしいわね。どうなってるの?」
「俺が知るかい」
「うーん……。まあ、戻りましょうか」
「そうだな」
二人の話がまとまりかけていた時、千尋の目はある物に惹きつけられていた。
大きな木が、不自然に一本だけ立っている。その木に凭れかかるように古びた鳥居が建ち、木の根本に広がるように、たくさんの四角い石が転がっていた。どの石も上の方が屋根みたいな三角になっていて、真ん中に不思議な空間が開いている。
石の祠……神様のお家。
千尋はまばたきすると、誰に尋ねるでもなく言った。
「この道の先、何があるの?」
二人はきょとんとして千尋を見つめ、次には先に広がる木々植物の生い茂る道を見つめた。
「さあ……、俺たちにもさっぱりだ」
男がそう言ったのをきっかけに、二人は口を閉ざしてしまう。
「ねえ」
千尋は体を起こし、前に乗り出した。
「行ってみようよ」
「行ってみようって、この道をかい?」
「うん」
「でも、なんか怖いわね……」
「千尋ちゃんは怖くないの?」
千尋は首を横に振った。
「怖くない」
男はそれを聞くと「よしわかった。行ってみよう」と胸を叩き、ハンドルを握る。
「ちょっと!」
「大丈夫だって。ここは近所だ」
「近所でも知らないわよ、こんな道」
「それが問題なんじゃないか。家のすぐ下の道を知らなかっただなんて」
女は深刻な目を男に向ける。
「なかったわよ……」
「でも、あるじゃないか」
「だから怖いんじゃないの」
「いや、でも――」
「ねえ!」
千尋が強い口調で割り込んだ。
「早く行こうよ」
二人がぽかんとした顔で千尋を見つめる。きっと私が大人しい子どもだと思ってたんだ……千尋はため息をついて、シートに体を預けた。
男がハッとして、言った。
「よし、行こう」
男が車を発進させる。女は何も言わず、千尋を見ていた。