憂鬱の千尋   作:遥野みしん

2 / 3


車は右折し、丘を上っていく。上りきって道を少し行くと、男がブレーキを踏み、車は止まった。

道を行くにつれて、木が増えているとは思っていたが、今、目の前に広がるのは山の中にでも入っていきそうな道だった。

「おかしいな」

「おかしいわね」

 男と女は自分たちだけで勝手にうんうん悩んでいるようだった。

「どうしたんですか?」

 千尋が尋ねると、二人は後席を振り返り、いかにも困ったという顔を千尋に向ける。

「いやねえ……見てちょうだい、あの青い家」

 千尋が窓の外を仰ぐと、確かに、一本上の道に青い家があった。

「あそこが私たちの家なんだけど……」

 女は言いかけて、またうんうんと悩み出す。

「こんな道、あったかなあ……」

「あんた、道を間違えたの?」

「いや、いつもの通り……一本道だよ、知ってるだろ」

「そうねえ。おかしいわね。どうなってるの?」

「俺が知るかい」

「うーん……。まあ、戻りましょうか」

「そうだな」

 二人の話がまとまりかけていた時、千尋の目はある物に惹きつけられていた。

 大きな木が、不自然に一本だけ立っている。その木に凭れかかるように古びた鳥居が建ち、木の根本に広がるように、たくさんの四角い石が転がっていた。どの石も上の方が屋根みたいな三角になっていて、真ん中に不思議な空間が開いている。

石の祠……神様のお家。

 千尋はまばたきすると、誰に尋ねるでもなく言った。

「この道の先、何があるの?」

 二人はきょとんとして千尋を見つめ、次には先に広がる木々植物の生い茂る道を見つめた。

「さあ……、俺たちにもさっぱりだ」

 男がそう言ったのをきっかけに、二人は口を閉ざしてしまう。

「ねえ」

 千尋は体を起こし、前に乗り出した。

「行ってみようよ」

「行ってみようって、この道をかい?」

「うん」

「でも、なんか怖いわね……」

「千尋ちゃんは怖くないの?」

千尋は首を横に振った。

「怖くない」

 男はそれを聞くと「よしわかった。行ってみよう」と胸を叩き、ハンドルを握る。

「ちょっと!」

「大丈夫だって。ここは近所だ」

「近所でも知らないわよ、こんな道」

「それが問題なんじゃないか。家のすぐ下の道を知らなかっただなんて」

 女は深刻な目を男に向ける。

「なかったわよ……」

「でも、あるじゃないか」

「だから怖いんじゃないの」

「いや、でも――」

「ねえ!」

 千尋が強い口調で割り込んだ。

「早く行こうよ」

 二人がぽかんとした顔で千尋を見つめる。きっと私が大人しい子どもだと思ってたんだ……千尋はため息をついて、シートに体を預けた。

男がハッとして、言った。

「よし、行こう」

 男が車を発進させる。女は何も言わず、千尋を見ていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。