Fate/EXTRA──But.Blue ENEmy   作:むい

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プロローグ

 男の話をしよう。

 

 目にする前から、男は殺意に溺れていた。

 疼く傷は不変なれ。心の底から上澄みまで、荼毘にも伏せぬ死の紋様。

 欠落だ、と他は皆目、否定する。

 欠落だ、と男は唯一、肯定する。

 

 白の外衣は不朽不滅。

 微睡む(まなこ)を見開くその奥に、在るのはただただ空虚のみ。

 他人の秘密は蜜の味というが、さて──

 

 男は『他人』など、見ていたのだろうか。

 

 戦争孤児。

 そんな過去から、男は戦争を憎んでいた。

 

 けれど、ただ憎んでいたわけではなく。

 その欠落がもたらす意味(モノ)を理解していた。

 故に男は考える。

 

 ──然るに、現在の世界はどうだろう。

 

 文明が臨界を迎え、停滞し始めた。

 思想が退廃を迎え、無為と化した。

 

 悲嘆と共に、男は叫ぶ。

 

 ──人間が、この程度であるはずがない!

 

 欠落によって、欠落以上のモノを獲得・創造できるのなら。

 より大きな欠落を以て、臨界を打ち破るのみ。

 

 男は奇跡の杯を以て、世界を改変せんと暗躍を始めた──……

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 少年の話をしよう。

 

 目を逸らす、失った日常の話を。

 目に焼き付いた、繰り返す後悔の話を。

 

 少年は非常に聡明だった。

 解のある問いに間違えたことなどなく。

 故に、正解だけが求められる世界に飽きていた。

 

 考えるまでもなく答えがわかる。

 見るでもなく全貌を知り得る。

 聞くまでもなく意図を理解できる。

 

 そんな世界に、未知も未練もあるはずがなかった。

 ならば無意味に耐えきれず、『わかりきった世界』から消えようと思い立つのは、当然のことだろう。

 

 けれど。

 ただひとりの少女が、それを阻んだ。

 

 よく笑う少女だった。

 そして、何もできない少女だった。

 

 彼ができることの大半に、彼女は躓く。

 彼の行動を、彼女は制しきれず。

 彼のためを思った行動も、意図を読まなかった彼は拒絶した。

 

 それでも。

 ひとりきりだった彼の世界に、小さな幸福は静かに積み重なっていった。

 

 当たり前のように過ぎる時間と、かけがえのない幸福を。

 彼は完全には理解しきれていなかった。

 

 彼は自身のことで手一杯だったのか。

 そもそも、彼女に踏み込めなかったのか。

 

 彼女がひとりで抱えていたモノに触れることはなく。

 

 故に、当然のことか。

 彼女は、ある夏の日に。

 

 

 

 彼の前から、姿を消した。

 

 

 

 投身自殺だったらしい。

 彼女の遺体を、彼は直視できなかった。

 その後、一時は思ったこともある。

 

 ──なぜ、いなくなってしまったのか。

 

 いくら問うても、解は出ない。

 過程は澱のように溜まるばかりだった。

 

 ──考えてみれば、はじまりから不自然ではなかったか。

 

 彼女が彼を止めたことも。

 彼女が彼を唯一、気にかけていたことも。

 ずっと、彼女の目には──……

 

 彼はそれから、様々な感情を孕み始めた。

 

 彼女のことを忘れたように泣く級友に。

 彼女のことを忘れたように笑う周囲に。

 

 そして彼は、とじこもった。

 彼女(きみ)過去(温度)を忘れないように。

 

 約束された未来を捨てて。

 未来(そんなもの)より大切なモノを失った後悔を。

 過去(あんなこと)になってしまった後悔を抱き続けるために。

 

 どうして、と。

 ひとりで抱えていたモノを。

 ひとり流した涙の理由を。

 彼は、自身を罰し続けた。

 

 以降、2年に及び。

 目に焼き付いた、覚めない夢を見る。

 

 奇妙な隣人に悪戯され、騒がしい日になったり。

 寂寥な隣人に関係なく、息を止めてしまったり。

 

 あの暑い、夏の日を過ごしたりしながら──……

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 少女の話をしよう。

 

 目つきの悪い、素直になれなかった昨日の話を。

 目を疑う、駆け抜ける少女の話を。

 

 少女は、目つきが悪かった。

 太陽(カミサマ)を睨みつける程に。

 

 けれど、それは彼女のせいではない。

 ましてや睡眠不足や不摂生のせいでもない。

 

 彼女は、ある病に。

 突発的に睡魔に襲われ、決して抗うことが出来ない病に──侵されていた。

 常に眠気と倦怠感に苛まれていて、その瞼はいつでも重かった。

 

 しかし、彼女のことをよく知らない衆目は言う。

 呟く。避ける。罵る。告げる。

 

 誰のせいでもない責任を押し付けられ。

 いつしか、彼女は耳を貸さなくなった。

 

 喧騒で満たされる学舎でさえ、彼女は普通で居られない。

 その病への対処として、隔離された。

 

 故に彼女が学友と呼べるのは『ひとり』だけ。

 彼女よりも深刻な病を抱えた、彼。

 

 彼女と彼は、互いを唯一として認識していて。

 その関係が、彼女と彼は心地よかった。

 

 そして。ここでもまた、別れは訪れる。

 

 彼女がくだらない見栄を張った直後だった。

 

 

 

 彼が病の発作を起こし、倒れた。

 

 

 

 彼女は自責の念に駆られ、彼への感情を募らせる。

 その感情の正体を、その頃の彼女は知る由もなく。

 彼女の唯一の友人だった少女の後押しで、やっと自覚した。

 

 自覚の後は、即断即決。

 彼女は駆け出す。

 終わるセカイを駆け抜け、彼の元へと走った。

 

 

 

 彼への想いを告げるために──……

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 最初に異変を感知したのは、意外なことに感覚器官を持たない彼女だった。

 

「……ご主人。何かおかしくないですか?」

 

 聞こえていないのかと思い、2・3回同じ言葉を繰り返す。

 しかし、問い掛けに応じる声はなく、それどころかポケットに突っ込まれたままの暗闇しか感知できない。

 

「ご主人? ……聞こえてますか?」

 

 と。急に視界が開け、彼女は宙空に放り出された。

 

「────っ!?」

 

 そして、彼女は──自らの目で知覚する。

 

 一般宅では考えられない規模の廊下。

 まばゆい白の壁と、廊下に掲げられた掲示板。

 

 それだけではない。

 意識を向けるだけで、遠くの風景まで知覚できた。

 購買や迷宮、旧校舎、保健室、エトセトラエトセトラ。

 これらの要素を含む複合施設を、彼女は一つしか知らない。

 

 即ち、学校。

 

 それも、若干古めかしい設備から見るに、此処が21世紀なものかも疑いたくなる。

 そして、それを踏まえた上でいくつかの疑問が浮かぶ。

 

 此処が現実(画面の外)だとすれば。

 精神体の彼女がなぜ学校に居るのか。

 

 此処が非現実(画面の奥)だとすれば。

 ここまで鮮明で雄大な──目が覚めてから感じたことがない程の知覚(刺激)は何なのか。

 

 とにかく、彼女は『冴えない彼』を探し始める。

 自分の入った端末を持っていた彼なら、此処に居るかも知れないから。

 

 無人の学舎を、青い雷光が駆け抜けていった。




次回「もう一度、前を向いて」

ご意見・ご感想、お待ちしてます。


■「はじめまして」の方は、こんにちは。
 「お前か!」という方は、お久しぶりです。
 来たる8月15日にカゲプロの二次創作を投稿するため、1ヶ月かけてダラダラとプロットを立てました。
 楽しんでいただけたら幸いです。

■前作からお付き合いいただけている方はご存知だと思いますが。
 ……私、嘘予告と守れない宣言ばっかりしてるんですよね。
 なので、この投稿後は前作の終結を優先して書きます。
 これだけは誓って本当ですので!
 こちらから読んでいただいている方には申し訳ないのですけれど、しばらく更新が停滞します。
 ……具体的には、8月中は更新できないんじゃないかと。多分。

■前作で凝りたので、締め切り的な発言は控えます!
 いや。マジで心の重圧が酷くて、プロット練るにも中途半端すぎてダメ出しばっかり喰らってて……!
 なので。気長に待っていてください。
 私も気楽に好き勝手に書きますので!
 CCCの青キャスターみたいなことにはなりませんので!
 いや。確かに遅筆なんですが……
 とにかく。至らないところも多いですが、よろしくお願いします!
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