たったひとりの星   作:落葉 剛

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輪廻はめぐる
それは生きとし生けるものすべてに

輪廻はめぐる
それは星でさえも


星の声

星の声を聞いた。

 

いつものブラフマンの声ではなくどこか遠くの星。

よく聞こえない。

論理望遠鏡で声の主を探した。

 

 

星は生きている。

恒星も

惑星も

衛星も

すべての星は生きている。

 

だから、星にも輪廻の輪は存在する。

 

 

しばらくして声の主である星を見つける。

それと同時にその星が歩んできたすべての歴史が流れ込んできた。

 

「うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

頭が割れそうになる。

恒星が生まれ

惑星が生まれ

惑星が衛星を取り込み

個性的な惑星たちがそれぞれの歴史と風土を歩み

とある惑星は生命を生み

螺旋の繋がりをもって繁栄をもたらし

繁栄した生命は知識を求め

宇宙に繁栄の範囲を広げ

やがて己の愚かさから滅亡をたどり

そうしてる間にも

惑星たちや恒星は年をとり

すべては死に向かっていく。

 

恒星の一生の間に「彼」が背負った「死」のなんたる多いことか。

 

それこそ数えきれない生命の死を抱え

文化の死を抱え

そして自らの死が近づくにつれ

死の前兆たる自身の膨張が惑星すら死に追いやる。

 

 

 

 

輪廻の輪に定義された瞬間から宿命付けられた生と死。

思考に叩きつけられる膨大な歴史が示す哀しき連鎖。

 

そして「彼」の…

 

 

星の声を聞いた。

 

 

 

 

どうか私たちを覚えていてください。

私を支えてくれた惑星たち、

そこで育まれた命たち、

生きとし生ける

すべてを覚えていてください。

 

100億年生きてきて

ようやく私は死ぬことができます。

でも、私は死ぬまでにあまりに多すぎる死を見てきました。

私のせいで…死んだものも数えきれません。

 

だから、覚えていてください。

私たちのこと、私たちの歴史を。

もうすぐ死に逝く

私の輪を受け取ってください。

 

宇宙のすべての輪廻を見るアートマンよ。

どうか忘れないでください。

永劫の中に私たちがいたことを。

 

お願いします。

お願いします。

お願いします。

………

……

 

 

そして「彼」は最期の輝きを放って塵と消えた。

 

 

 

 

馬鹿なことを…。

私は傍観者。

記録や記憶するものではないのに…。

 

「解脱」の位置にいる私からすれば実に腹立たしい。

「永劫」と「永遠」は違う。

なぜかくも永遠を求めるのか…。

永劫とて終わりはあるのだ。

この宇宙の永劫が終われば私たちの役目も終わる。

永遠に続き、永遠に残るものなどありはしないのに…。

 

ああ、腹立たしい。

馬鹿馬鹿しいまでにわかりきった結論にこうまでも涙を流す自分に。

 

ブラフマンと共に梵天の塔を以て永劫を生き観測する私は…。

 

馬鹿らしく思いつつも私はひとつの石板を取り出す。

念を込め先程の記憶を石板に移す。

そして膨大な数の石板の一枚に加えた。

いずれこれらもすべて消えるのに虚しいことだと思いつつも、情けなのかこうして星の声の図書館を作っている。

 

この宇宙の永劫の歴史そのものである図書館。

しかし、それは永劫の終わりと共に消えるのだ。

ならば、私は永劫の終わりまで彼らに付き合うことにしよう。

 

真理は真理である。

だが彼らがいてこそ真理は心理たりえるのだ。

 

 

 

 

 




蛇足



星の声:物理的には星の声と呼んで差し支えないものはいくつか存在する。我々太陽系の主、太陽であれば核融合反応の際に発生する各種放射線や電磁波は"星の声"と呼んでもよいだろう。変わり種だと中性子星の連星などから発生する重力波とかも、そのように例えられるかもしれない。
と、同様に宇宙の声に例えられるものも存在する。
宇宙背景放射は宇宙開闢以来の宇宙の声と言っていいだろう。
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