公園最強の弟子 ウキタ   作:Fabulous

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キサラって月刊版だと結構巨乳でしたよね。週刊だと小さくなりましたが初期はケンイチをボウヤ呼ばわりしたり大人っぽいキャラで私はそっちの方も好きでした。


超軍人!

 休日日曜の午前10時。世の学生なら半数が喜ぶこの時間帯、俺も例に漏れず喜んでいた。俺の今いる場所は町の公園、普段はズボンにシャツがいつもの服装だが珍しくよそ行きの洒落た上着を羽織り万全の準備を整えて待ち人を待っていた。

 

「お待たせ~宇喜田」

「よ、よう! 別に待ってないぜ?」

 

 そこにやって来たのは、俺の初恋相手であり絶賛片思い中の女。南條キサラだ。そう、全ては今日この日、キサラと会うためだった。

 

「わざわざ悪いね」

 

 キサラはこの前この公園で出会ったときと同じようにTシャツと派手なダメージジーンズで実に快活で可愛らしい服装だ。

 

「いやいや! これくらいたいしたことじゃねーって」

 

 嘘だ。今日は本当は修行日だったがしこたまボコられたので心の中でも先輩呼びにした花田先輩のドロップキックのダメージがまだ響くと本部師匠に嘘を吐きなんとかキサラとの時間を作ったのだ。昨日から緊張して今日は朝8時から俺はこの公園で待っていた。

 

「嬉しいよ宇喜田……アタシ、凄く会いたかったんだ」

「ああ、だと思ったぜ」

「あの日から忘れられなかったから……だから今日はいっぱい好きにさせてくれよな?」

「俺もそのつもりで来たよ、キサラ」

 

 そうだ。俺たちはこれから二人仲良くイチャイチャするんだ。だからこれから先は大人の時間だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「猫~~♪ やっぱりお前は可愛いな~。宇喜田もそう思うよな?」

「……そうだな」

 

 現実は残酷だ。今日キサラが俺と会っているのは、俺たちが出会ったきっかけでもあるあの捨て猫と再び会うためだった。

 

「あの後別れたけどこの猫結局どうなったんだ?」

「ああ、まぁあの後いろいろあってな。結局キャットショップには行けなかったんだよ」

 

 この猫と出会ったあの日、不良に襲われ本部師匠と偶然遭遇したあの夜、俺は当初の目的地であったキャットショップには行けなかった。

 

「えぇ!? じゃあこの猫は──」

 

 猫の居場所が宙に浮いたと思ったキサラは途端に猫を抱きしめまるでどこにも行かせないかのようにその場にしゃがみこんだ。

 

「安心しな。この猫は俺が飼うことにしたよ」

 

 このままでは保健所のガス室直行の未来しかなかった猫だったが俺はこの猫に妙な愛着を感じていた。この猫は俺をキサラと本部師匠と言う俺の人生観を一変させてくれた出会いを運んできてくれた猫だったこともあり俺はこの猫を引き取ることに決めた。衝撃の不良卒業をしたので両親にもすんなり許可をもらい既に飼っている二匹の猫ともこの猫は良好な関係を築いていた。

 

「本当か!? よかった~~。優しい飼い主に出会えて幸せだなぁおまえ~♪」

 

 キサラは先程とは真逆に顔をほころばせスリスリと猫に頬擦りをし笑った。

 

(くっそ~~~~羨ましいぜ! 俺も猫になりてぇッッ)

 

「ニャン!」

 

 そんな光景を羨ましそうに見ていると猫が俺を見て勝ち誇ったかのように笑った、ように見えた。そういえばこいつはオスだったのを思い出した。

 

「こ、こいつ……猫被りやがってたな」

「ん、どうした宇喜田?」

 

 

 

 

 

 

 それからも二人で駄弁っているとすっかり12時を過ぎてしまった。

 

「キ、キサラっ。腹空いてないか?」

 

 

 俺は今日のこの日をただの猫との再開で終わらすつもりはなかった。なんとしてでも現在の二人の関係よりかは向上を図りたい。そのためになけなしの小遣いをはたいて近くのファミレスで食事をして仲を深めようとキサラから今日会うことを提案された時から計画していたのだ。

 

(チャンスだぜ。この流れでキサラともっと仲良くなる!)

 

「え? 確かに……そういえばもう昼かぁ」

 

 ───勝機! ────イケるか!? 

 

「いや~俺も腹減っちまったからな~~。せっかくだから飯でも食わねーか?」

 

「あ、いいなそれ。どこにしようか?」

 

 のってきた! ────勝ったァアアアッッ────

 

 

「キサラ様、此方にいましたか」

「あ、白鳥。なんでここに?」

 

 

え!? ────誰ェ~~~~!?? 

 

 

(な、なんだコイツ!? キサラと普通に話してやがる、てゆうかめっちゃイケメン!!?)

 

 どっからわいて出たとツッコミたいほど唐突に現れたイケメンは、俺とキサラの間に入り込み平然とキサラと会話を始めた。

 

「アジトで待ってろって言っただろ?」

「申し訳ありません。キサラ様が見知らぬ男と会うと聞き万が一にもと考えこの白鳥、ご命令を破りました。この罰はなんなりと」

「相変わらずだな~。それに宇喜田と会うのは今日が初めてじゃないし良い奴だって何度も説明したじゃん」

 

 しかもそいつはキサラとかなり親しいような会話をしていて二人の親密さをまざまざと俺は見せつけられた。

 

「き、キサラ……そいつはいったい……?」

「あぁ、宇喜田はそりゃ知らないよな。こいつは白鳥、私の……なんてゆうか……」

「お初にお目にかかります。私は白鳥(しらとり) かおる 、キサラ様の影であり腹心の部下です」

 

 白鳥と名乗ったそいつは女のように整った顔にモデル顔負けのスタイルとまさに絵に描いたような美男だった。キサラと二人揃って並び立つ姿は悔しいくらいにお似合いでありハッキリ言って俺なんかとは比べるまでもなかった。

 

「キサラ様、そろそろ隊の集まりがあります。お早めに」

「ゲっ、忘れてた~。ごめん宇喜田、これから用事ができたから帰るな」

「そ、そうかっ。用事があるんならしょうがねぇわな~あは、あはは……」

「じゃぁな宇喜田。猫ちゃん♪ お前もまた今度な~~」

「ニャ!」

 

 

 猫との別れを惜しむキサラは最後まで猫の方を振り返りながら公園から去っていった。少しくらい俺との別れも惜しんでほしいと思うのは勝手な願いだろうか。

 白鳥もキサラの後を追うようにその場を離れたが直前に俺の方を向き直り爽やかな嘲笑を浮かべやがった。

 

「……フッ」

 

(わっ、笑われた──!!?)

 

 

 白鳥はまるで自分がキサラの彼氏だと言うかのような自信に満ちた顔で俺を見下した……と思う。

 

「し、白鳥ィ……お前には負けんぞ~~!」

 

 どうやら俺は勘違いをしていたようだ。キサラとの恋は俺とキサラだけの問題と考えていたがとんだ伏兵がいたもんだぜ。どうやら白鳥はキサラとも親しく長い付き合いで俺よりも圧倒的なアドバンテージを持っているようだがこっちだってキサラへの気持ちは負けてない。厳しい闘いになるだろうがあんなイケメンには絶対に負けてたまるか。

 

 新たな敵の登場に俺は心の中で決意の炎を燃やした。

 

 

 

 

 当初の目的を失い一人公園で佇む俺の携帯電話が着信を知らせた。知らない番号だった。

 

「もしもし?」

 

 恐る恐る電話に出るとやはり電話の向こうの声は知らない相手だった。

 

「やぁ宇喜田 孝造君。彼女のことは残念だったね、まぁそれも青春さ」

 

 若い男の声だ。そいつはまるで俺のことを知っているかのような口調だ。

 

「だ、誰だアンタ! 何でさっきのことを──」

「何でも知ってるよ。宇喜田 孝造18歳。荒涼高校3年生、家族構成は両親との核家族家庭。ペットは猫が3匹、いづれも野良猫を君が拾ってペットにした。最近は不良行為を止め勉学に勤しんでおりその原因は本部流開祖本部 以蔵に感化されたから。つい先日は門下生の花田のドロップキックを喰らい失神。そして今日は道場に仮病を伝え知り合い以上友達未満の女性、南條 キサラの気を引こうとしたが予想外の伏兵に奇襲を受けあえなく撤退した。と言うところかな」

 

 驚いて声も出ない。そいつは俺の個人情報をつらつらと言ってのけた。電話越しの見知らぬ相手が両親でも知らないことを何故知っているのか、俺には全く理解できない。

 

「無駄話をしてしまったな。実は君に折り入ってお願いがあってね。いまからその公園にある要人がやって来る。君にはその要人を1分でいいから足止めしてほしい」

「ハァ!? なんで俺が電話越しの見ず知らずのあんたのお願いを聞かなきゃ──」

「そうかね。では本部 以蔵に君のサボりを報告するとしよう」

「き、汚ねェぞテメェ!」

 

 俺が協力的じゃないと分かると電話の男は平然と脅しをしてきやがった。

 

「ふふ、なぁ頼むよ。大勢の人の命にも関わる事態なんだ。これはある意味、国防的行為なんだからさ」

 

 男の、大勢の人の命と言う言葉は嘘か本当か分からないが俺の心を揺らしたのは確かだった。それに俺をからかう為だけに飼ってる猫まで調べあげるなんて馬鹿げてるし何より本部師匠に今日のサボりがバレるのはゴメンだ。

 

「ああクソッ、分かったよ! 足止めすればいいんだよな!?」

「感謝する。ターゲットはスーツの中年男、5分後にその公園を通る。よろしく頼むよ」

 

 一方的に電話を切られてから5分経つと、本当に電話の男が言っていたスーツのおっさんがこっちに向かって歩いてきた。そのおっさんに見覚えがあった。たしか……石田なんとかって言うテレビで何度か見た政治家だったと思う。

 

「あ、あのぅ……」

「ん? なんだね君は?」

「あーそのぅ……石田さんですよね? お、応援してます、頑張ってください」

 

 足止めと言われても殴り飛ばす訳にはいかないから取り敢えず政治家なら誰でも喜びそうなことをやってみたが効果はテキメンだった。おっさんはどこか焦り顔で急いでいるようだったが俺の差し出した手に足を止め、思ったよりゴツい手で握手をしてくれた。

 

「おお、そうかねそうかね。君のような若者も政治に興味を持ってくれているのかい! うむ、この国の為この石田 せいじ 頑張らせてもらうよハッハッハッ」

 

 やっぱり目の前のおっさんは政治家の石田 せいじだった。どうして真っ昼間っからこんな平凡な公園にいるのかは分からないが周りには他にスーツの中年はいないようだからこのおっさんが電話の男が言っていたターゲットで間違いないだろう。

 

「すまないがそろそろ行かせて貰うよ。車を待たせているのでね」

 

 当然と言えば当然に石田さんは俺と握手を終えるとその場を離れようとした。1分くらいは足止め出来たとは思うが本当にこんな短い時間で電話の男に満足してもらえたかは正直不安だ。

 

「ああ車が来たようだ。それでは君も──」

 

 石田さんが迎えの車を指差した直後、その車が炎を吹き出し一瞬で木っ端微塵に爆発して激しい衝撃が俺の鼓膜を震わせた。

 

「うおお爆発!? なんで!??」

「き、君ッ。危ないから下がりなさい!」

 

 俺と石田さんが爆発に唖然としているとまたもどっからわいて出たのかツッコミたくなるように黒服の怪しい連中が銃を持ってこちらに向かってきた。

 

「いたぞッッ石田 せいじだ!」

「クソッ、あのガキが話しかけなきゃ予定通り車に仕掛けた爆弾で始末できたのに!」

「バックアップはなにやってンだ!! 連絡が全く取れないぞ!?」

「こうなったら直接殺るぞッッ」

 

「うわ! 銃ぅ!?」

 

 それまでの日常を一気にぶっ飛ばした爆発に銃と言うこの日本では異常すぎる事態に頭が真っ白になった俺はその場から動くことが出来なかった。

 

「邪魔したガキもいるぞ!?」

「構わん、ガキごと殺せ!」

 

 黒服たちは俺と石田さんめがけて手に持った銃を向けた。殺気と言うのだろうか、俺に向けて放たれる黒服たちの殺意が弾丸のように俺を貫いた。

 

(もうだめだ……終わった……ヒ!?)

 

 死を覚悟した俺だったが、黒服たちとは別格の殺意? のような物を俺は2つ感じ全身が震えた。

 

 1つは何故か俺の横の石田さんだった。石田さんはさっきまでの温和な表情を一変させて般若のような顔をしていた。

 もう1つはこの公園全体をすっぽりと覆うような、まるで自分が虫かごの中にいるアリで、それを見下ろしている絶対者に生殺与奪を握られているような感覚を全身の肌で感じた。

 

「死ね!」

 

 そんなことを考えている間に黒服たちの銃がとうとう放たれた。パッと眩しい光が走ったかと思えば銃弾は俺の腹、胸、喉、頭に当たり激しい出血と肉が吹き出て蜂の巣になった体は公園の地面に倒れ生気を失った瞳の俺は死んで──

 

「ギャァァ!?」

 

(な、なんだ今のは!? 幻? 俺は生きてるのか!!?)

 

 

 謎の幻視のせいで最初は俺だけの悲鳴だと思ったが、それは黒服たちの悲鳴でもあった。

 

「ぐあぁ……ッ」

「う、腕が……!?」

 

 俺に一番近かった黒服たちは銃を握っていた手から血を流してその場にうずくまっていた。

 

「何ヵ月も前から計画していた作戦が漏れたというのか? いや、それよりも何処か──」

「狼狽えるなッッ、物陰に隠れて……ギャ!」

「クソ! どっから撃って──」

「ば、馬鹿なッッ狙撃だと……!? この辺りに狙撃ポイントは何処にも無いんだぞッッ」

「あ、あのビルからでは!?」

「ふざけるな!? あのビルはここから2キロ以上離れているんだぞ! 止まっている的なら兎も角動く我々に正確に当てるなどありえ──」

 

 

 信じられない光景だった。俺の目の前で大勢いた屈強な黒服たちは何処からともなく撃たれる銃弾で次々に倒れていった。

 

 辺りは直ぐ静かになった。さっきまで爆発と銃声で騒然としていた公園なのが信じられなかったが、直ぐに大量のパトカーが公園に停まり大勢の警官が石田さんに駆けつけてた。

 

「石田議員ッ、御無事でしたかァッッ」

「おお本巻警部、よかった。君、もう大丈夫だよ」

 

 石田さんは温和な表情を浮かべへたりこんでいる俺の肩を抱いた。やっぱりさっきの鬼のような顔と殺気は俺の気のせいだったのだろうか。

 

「申し訳ありません! 警備の部下たちが陽動に引っ掛かってしまい到着が遅れましたッッ」

「いやいや、あえて人気のある公園を行こうと直前に言い出したのは私だ。責任は私にある。ところで彼らテロリストを倒したのは本巻警備の部下ですか?」

「いえ、私も詳しくは知らないのですが防衛省からの部隊と聞いています。そも今回の石田議員暗殺の情報をもたらしてくれたのも防衛省からだと。とにかく直ぐに移動しましょう、園田(そのだ)警視も心配しておられますので」

 

 公園は警官たちがテロリストの黒服たちを次々に連行したり無線で連絡を取り合ったりまだ燃えている車の消火作業をしたりと大騒ぎになっていた。俺は取り敢えず石田さんにお礼を言うため近寄るとまたしても殺気が俺を貫いた。

 

「……塵芥どもを泳がせておけばヤツをこの目で見れると思ったが、やはり超軍人の名は伊達ではないか。まぁよい、いずれは我らの元に……」

「い、石田さん?」

 

 背を向けている石田さんの顔は見えなかった。だがその時の石田さんはなんだか分からないがヤバい雰囲気がビンビンだった。

 

「おお君、大変なことに巻き込んですまなかったね。何かあればいつでも事務所に来てくれて構わないよ」

「あ、はい。どうも……」

 

 俺に直ぐ気づいたのか振り向いた石田さんの顔は仏みたいな笑顔で名刺を渡してきた。正直少し気味が悪かったが取り敢えず知り合った縁もあるので名刺を受け取り公園の隅に俺をおいて避難していた猫を抱えとっとと公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅近くの駅まで来ると夕陽が町を染めていた。今日一日の濃密な経験のせいで自宅までの帰路をとぼとぼ歩く俺の足取りは重い。

 

「しっかしなんて日だよ今日は。キサラに会えたまでは良かったが白鳥なんてヤツは現れるわテロに巻き込まれるわなんか憑いてるのか俺は? ……ゲッ!?」

 

 ようやく家が見えてきた所で俺の携帯が鳴り響いた。恐ろしいことに昼間の謎の男の番号からだった。

 

「……も、もしもし?」

 

 無視することも考えたがこいつのせいで俺は死にかけたのだからバカ野郎の一言でも言ってやろうと思い応答した。

 

「いやー素晴らしかったよ宇喜田君! 君のお陰でミッションコンプリートだ!」

 

 やはり電話の向こうは昼間のやつだった。なぜか妙にテンションが高い。

 

「やっぱり昼間のアンタ! オメーのせいで俺がどんな目に遭ったか知ってンのか!?」

「当然だとも。スコープレンズ越しからしっかり見ていたよ。抜群のタイミングだっただろ? お陰で君は無傷だ」

 

「……あ、あんたがテロリストたちをやったのか?」

「ありがとう宇喜多君。君の作り出してくれた僅かな時間は私にとって貴重な時間になったよ」

「……一応礼は言っとくよ。で、でもあいつらし死ん……」

「でないよ。いわゆる特殊ゴム弾ってやつさ。ここは平和な日本。例えテロリストでも命を懸け生かして捕らえるのが我が国の基本的なモットーだからね」

「そ、そうなのか? なら良かったぜ。でも手伝うとは言ったけどあんなことになるなんて聞いてねーぞ、酷いじゃねーか」

「悪いとは思ってるさ。宇喜田君が絶妙な場所と時間に居たと言うのもあるけどなんの無関係の人間を巻き込むよりは身内の方がマシだと思ってね」

「身内? 俺はアンタなんか知らねーぞ?」

「それについては……おっと、いつまでも電話越しは失礼だな。宇喜多君、回れ右ッ! 

 

 いきなり大きな声で指示された俺は反射的に回れ右をしてしまった。

 

「え……おわっ!?」

 

 振り返えるとそこには全身黒ずくめのスウェットを着た男が目の前に居た。

 

 

 小柄な男だった。

 俺よりも遥かに小さい身長で多分160もないだろう。頭にまで黒いバンダナを巻き、既に日が落ちかけた周りの風景に溶け込むようにそこに立っていた。

 

「初顔合わせだな。初めまして、色々と呼び名はあるがここではノムラと名乗ろう。花田と同じく本部先生に師事している。君の兄弟子にあたるな」

 

「……うえぇ!? 本部師匠の!?」

「驚いたかい?」

「驚くたってオメー……マジなのか?」

「フフフ……本部先生、未だに路上で煙草吸ってるでしょ? それも煙草缶なんて古臭いものに入れて」

「な、なんでそれを……」

 

 こいつ、ノムラの言う通り本部師匠は結構な愛煙家だ。昼だろうが夜だろうが平気で町のど真ん中で煙草を吸ってよくお巡りさんに叱られてはいなくなったのを見計らい吸い直して文字通り周りから煙たがれている不良中年だ。俺も健康の為に止めればと言ったが当の師匠は「タバコを吸って何が悪い」と近頃の禁煙ブームに真っ向から喧嘩を売っている。

 

「花田も相変わらず軽薄だろ。彼は指導者には向いてない、誘惑に敗けやすいからね」

「あ、たしかに……」

 

 あのドロップキックでブッ飛ばされた後、暫く気絶してようやく起き上がるとそこにいたのは本部師匠だけで花田先輩はいなかった。なんでも途中までは師匠と一緒に俺が起きるのを待っていたのだが女から携帯で呼び出されると直ぐに消えたとのことだった。

 

「~~分かったよ、信じるよ。でもアンタいったい何者なんだ? 本部師匠の弟子だからって今日のことは説明つかねーぞ」

「それについては簡単なことだが極秘でね。君にすべては話せないのだよ」

「なんだそりゃ! 結局分からずじまいかよ!」

「まぁ話せる範囲で言えば私は国防に関する仕事をしていてね。石田議員の警護もその内だったのだよ」

「あんな大勢の敵をアンタ一人でやったのかよ!?」

「まさか。私には優秀な部下たちがいる、それに私は……一人ではない」

 

 見た目からはとても凄腕とは思えない。よくてミリタリーオタクの中坊だが俺に気づかれずに背後に回る術やテロリストを制圧した腕前は納得するしかない。

 

「花田と同じだが師が新たに弟子をとったと聞いて私も興味を持った。あの人は偏屈なところがあるから一般的な道場経営は出来ない人だからね」

 

「俺、そんなに変な弟子か?」

「変、と言うよりかは実に善良だ。公園でのことがよい例だが普通は見ず知らずの他人の頼みなど聞かない。だが君は私のお願いを聞いてくれた。まさに良識ある善良な日本国民だ」

「……いや、実際は震えてることしか出来なかったしよ……」

「初めて銃を向けられて震えない方がおかしい。どんな国の新兵とて初の実戦では皆足がすくむものさ。ところで宇喜田くん、君は中々筋がいい。ちょっとそこの公園で組手をしよう」

 

「え"いまからすか?」

「まだ夜明けまで8時間以上ある。なんの問題もない。今日のお礼も兼ねて私も兄弟子として君に少しだけ奥義を伝授させてほしい。ま、身につけられるかは君次第だがね♪」

 

「え、それってどういう……グワァ──ー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは荒涼高校屋上。下層では多くの学生たちが机に向かって教師や眠気と格闘しながらペンを走らせている時間帯にも関わらず二人の学生が対峙していた。

 

「やぁ君がケンイチくんかい? ようやく会えたね♪」

 

 青みがかった髪を後ろで束ねた男はケンイチに柔和な笑みを浮かべながら大袈裟に喜んで見せた。

 

「貴方がラグナレクの武田さんですね! ボクを誘きだす為によくも友人たちを拉致してくれましたねッッ」

 

 対するケンイチは怒りと正義の炎を瞳に宿らせた闘士の貌を見せていた。

 

「いい貌だ。ボクの名前は武田 一基(たけだいっき)。ごたくはこの辺にしてさ……闘ろうか、喧嘩を……ッッ」

 

 武田は柔和な笑みから獰猛な猛獣の眼光へと変貌しポケットにしまっていた右腕を取り出し拳を作った。

 

 今、二人の男たちの闘いが────

 

 

 

梢江(こずえ)さん、来週末はどこに行きましょうか♪」

「そうね……風林寺さんはどこがいい?」

「もう! 風林寺さんなんて他人行儀に呼ばないで美羽でいいですわよ♪」

 

(初めての同性のお友達ですわ~♪ ワクワクしますわ~!)

 

 

「誰だァ! 私の授業でイビキをかいてる生徒は~!」

「先生、範馬でーす」

「こぅラァ! またお前かッッ」

「……あ、すみません安永(やすなが)先生」

「今は日本史の授業中だぞッッ。お前はいつもいつも寝てばっかりしおって~!」

「日本史ですか、宮本武蔵(みやもとむさし)とかやってくれません?」

「バカモ~~ン!!」

 

 

 

 

「ふぇぇ……3年生の教室での授業は緊張します~」

 

(次も授業か~~昨日はノムラさんに相手の攻撃の念を察知しろなんて訳の分からない組手に付き合わされたから身体中イテ~。あ、でも小野先生の国語だから楽できっかな~)

 

 

 

 

 

 ─────人知れず始まった。

 




超軍人……いったい何者なんだ……
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