公園最強の弟子 ウキタ   作:Fabulous

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作者の覚えている限りで刃牙の日本刀使う人



ジェフ・マークソン←オリバにワンパンされたおじさん
黒川さん←幼年刃牙に踵落としされたおじさん
柳龍光←名刀が……おじさん
本部以蔵←解説王兼守護キャラおじさん
宮本武蔵←クローンおじさん
今回この人←独歩を真っ二つにしかけたおじさん(嘘はついてない)

~~~~~~~~ッッッ男ばかり!
しかもおっさんばかりッッ 
おっぱいはどこにあるんだッッッ!


剣法家!

 都心から遠く離れた人知れない田舎町。既に日が落ちた町は都会とは違い辺りには静寂に包まれていた。町唯一の駅舎は無人で数時間に一本の頻度でやってくる都心行きの電車を待つ人すらいない。疎らに点在する羽虫が群がる町の街灯は舗装されていない地面を無意味に照らし続け人の気配よりも虫や動物の鳴き声や気配が町には満ちていた。

 木造の家々が立ち並び近代的なコンクリートの色味が消え去った昔懐かしい町並みを中心にぐるりと山が取り囲んだ盆地は世間から隔絶された小さな別世界であった。

 

 そこから更に数キロ離れた山中にひっそりと居を構える寺がある。そこは麓の町でも知る人ぞ知る寺で葬式や正月などの行事でたまに人が賑わう寺でありその広すぎる境内は需要にまったく見合っていないと陰口もしばしば町の人間から叩かれていた。

 しかし今宵、この寺には全く異質な熱気が溢れていた。三日月がよく映えるほど暗くなった境内にはゆらゆらと焚かれる篝火がいくつか設置されていた。篝火の光は境内をぼんやりと照らしておりそこには寺の住職と数人の男たちがいた。

 剃髪に袈裟を纏った住職は眉間に一筋の刀傷を負い坊主とは思えない威圧を与える。薄く開かれた目は彼の達観とした死生観を写していた。その最たるものとして、この死合い場が証明していた。

 

「最後にもう一度だけ確認を……双方どのような結果になっても異論ございませんな?」

 

 住職は境内に張られた陣幕の中で向き合う二人の剣士に忠告した。

 

「もとより覚悟の上!」

 

 二人の男の内一人は眼鏡を掛け平凡な顔立ちでスーツでも着ればその辺にいる男だが今は刀を差し白装束を纏い眼鏡越しの眼光は鬼気迫る光を帯びている。既に手は刀を抜き放ち今すぐにでも目の前の相手を斬り捨てるようである。

 

 

「承知!」

 

 対する男は名を白石 国郷(しらいしくにさと)と言う。角刈りの中年風の男で相手よりも一回り年を取っている。一見すれば若い相手の方が有利かとも思える状況ながらも、彼は未だ刀を抜かずに堂々としていた。そこには微塵の恐れも不安も無いかのようである。

 それもそのはずであり彼は林崎夢想流剣術を修めた一流刀の達人であり強豪を求めて各地のこうした死合い場を転々としている武人である。

 

「きえぇぇぇい!」

 

 先に動いたのは眼鏡の男だった。男は白石を両断せしめようと飛び出し上段からの一閃を見舞う。

 

「!?」

 

 しかし眼鏡の男の刀は白石には届かなかった。

 

 白石は刀を見切り既に眼鏡の男の背後に回っており、後ろを取られたと察した眼鏡の男は慌てて振り向く。

 

「もう終わりだ」

 

 

「なにを!? まだ勝負はこれか──」

 

 白石はいつ抜いたのか分からぬ刀を鞘に戻した。チン、と鐔が鞘に当たり納刀されると同時に眼鏡の男の左碗部から盛大に血が吹き出た。

 

 

「ぐわああぁ!!」

 

「死ぬ傷じゃねぇよ。ま、もう刀は振れねぇがな」

 

 

「医者を!」

 

 

 住職の合図で陣幕に待機していた医者たちが眼鏡の男を本堂に連れて行き、辺りは再び静寂が訪れた。

 

 

「流石は白石殿。貴方こそ真の剣士でしょうな」

「よせやい和尚。あんな三流に勝ったからって自慢にもなりゃしねぇよ」

 

 

 白石は賛辞を贈る住職を横目にこんな辺鄙な田舎町までやって来た価値は無かったと後悔していた。自分を熱く燃え滾らせるような勝負を求めた期待は外れてしまったのだ。

 

 

 

 

林崎夢想流(はやしざきむそうりゅう)剣術の達人……白石 国郷だな?」

 

「誰でい?」

 

 死合いも済み宿まで帰ろうと思っていた白石の頭上から謎の声がかけられた。

 彼が顔を上げると近くの巨木の枝に一人の女性がもたれていた。

 

「香坂流……香坂 しぐれ。腰のものをもらい受け……る」

 

 

 

 そこにいたのは梁山泊の豪傑がひとり。

【武器と兵器の申し子】香坂 しぐれであった。

 名乗りも粗末に巨木から飛び降りたしぐれは白石の刀を寄越せとメチャクチャなことを言ってのけた。

 

「……あの梁山泊の香坂 しぐれかぃ? こいつぁいいぜ。こんな田舎まで出向いた甲斐があったってもんよ」

 

 対する白石は歓喜していた。まさか偶然にも数少ない、それも梁山泊という最強のブランドが己の刀の間合いにいるのだから。

 

「いかに……も。白石国郷……大層な業物を持っているようだな。確認したい」

 

「へっ、ならてめェでナカゴを調べるんだな!」

 

 

 瞬時に放たれた居合いがしぐれを襲い白石の一閃は顔を掠めてしぐれの前髪を数本切り落とした。

 

「ち、浅かったかい。たいした見切りだ、なら次は……うっ!?」

 

 

 彼は二の太刀を見舞うため刀を構え直そうとするも違和感に気づいた。余りにも軽すぎる刀剣にまさかと思い見れば刀が根本から切り落とされ、斬れた刃が地面に突き刺さっていた。

 しぐれは白石の斬り込みを躱したばかりか同時に一流の剣士である彼が気づかぬスピードと正確な速斬りで刀を斬り落としたのだ。

 

 

 そんな馬鹿なことがあってたまるか。

 

 それが白石の正直な心情だった。

 

 

 そもそも日本刀は日本刀で斬れる物なのか? 

 

 仮に激しい打ち合いで刃こぼれすることはあっても真っ二つに斬り落とされるなんてことは見たことも聞いたこともない。

 

 そも日本刀はそんな柔には出来ていない。

 

 

 否、柔でもある。硬度の違う複数の鋼を組み合わせて西洋の剣には無い独自の粘りを備えた日本刀は独特のしなりを持ちそれが衝撃を逃がしてくれる。

 

 その頑強さは拳銃の弾丸すら斬るほどだ。

 

 

 確かにそれでも石や鉄に叩きつけてへし折ることはできる。太股でへし曲げることもできる。

 

「嘘だろ……おい」

 

 それが真っ二つ! 

 

 一瞬で! 

 

 精密に! 

 

 神速の居合い! 

 

 

 

 最強の日本刀がまるで鏡のような滑らかな斬り口で真っ二つにされた。

 

 レーザーや水圧カッターでも不可能なほどの神業を見せつけられ、白石の誇りと闘志は手に持つ刀のように斬り捨てられた。

 

 

「……しょうがねぇ。俺の刀を俺以上の居合いでぶった斬ったんだ。好きにしな。香坂 しぐれに斬られて死んだのならあの世で武蔵や小次郎にだって自慢できらぁ!」

 

 

 それまで幾度も修羅場を潜り抜けてきた命の次に大事な己の刀を一刀の下に斬り落とされ彼は敗北を認め死を覚悟した。

 

「首などいらな……い」

 

 しかし、しぐれはそんな白石の悲壮な覚悟など全く興味を持っていなかった。それもそのはずで彼女の目的は白石の持つ刀を調べる事であり持ち主にはさして意味はなかった。

 

「梁山泊の活人拳ってやつか……いやこの場合だと活人剣か。剣士が女に負けた上情けまでかけられたとあっちゃ恥辱の極みだが嬢ちゃんだったら言い訳もできるってもんか。礼を言うぜ」

 

「ボクの求める刀じゃなかった。おまえ、名刀を持つ剣士の噂を知ってるか?」

 

「名刀? 俺の刀も結構な名刀だったが最近はすっかり見なくなっちまったな。大方の有名どころは美術館やコレクターの手に渡っちまってるから俺みたいな裏の剣士はそう多くねぇな。それにどいつもこいつも死合いたくはねぇヤバイやつらだぜ」

 

「構わない。そいつらはどこ……に────!?」

 

 

 しぐれは久々に味わった感覚に珍しく動揺した。全身の毛穴が開き総毛立つような空気────

 

 かつて幼い頃自身が初めて会った正真正銘の人斬りと同じものを。

 

 

 

「いや失敬。電車に乗り遅れてしまってこんな時間になってしまいました。やはり年はとりたくありませんね」

 

 

 月光と篝火に照らされた境内に一人の初老の男が立っていた。一歩、一歩と進み出ると男の出で立ちがだんだんと現れる。

 

 後ろに流された白髪は風に吹かれ、老眼鏡のような眼鏡を掛け、表情はこの死合い場には相応しくないほどの笑顔に満ちていた。

 

 男は手に一振りの太刀を持ち袴着姿の出で立ちはこの場に集まった死合い人と同じだったが醸す雰囲気はまるで別だった。皆命のやり取りの場に立っているため一様に表情は固く冷や汗を滲ませ口を真一文字に結んでいるが、初老の男は朗らかに、にこやかに、晴れやかに口角を吊り上げた笑みを顔に張り付けて佇んでいた。

 それは空元気から来る無理ではなく男の昔からの出で立ちであった。

 

「あ、あんた……引退したんじゃなかったのかよ」

「まだまだ現役ですよ白石さん。まぁ最近はいろいろ厳しいですから昔のようには……ね」

 

 白石は目の前の男を知っていた。心踊らす好敵手を求めてきた人生において決して闘いたくない数少ない凶敵を前にして額には脂汗が滲んでいた。

 

「ですが残念だ。白石さんの相手はもうやられてしまったようですし白石さんもその刀では死合いもなにもできませんね。帰りますか……」

 

 男は興味のない素振りでわざとらしくため息をついた。

 

「待て!」

 

 踵を返す男をしぐれが呼び止める。

 

「何ですかな、お嬢さん?」

 

 

「その手に持つ刀……まさか」

 

 

 しぐれは男が持つ刀に注視していた。

 

「ああ、この刀ですか? つい最近手にいれた刀でして、作られた時期も最近のものですから大したことは……」

 

「ボクに寄越せ……!」

 

 しぐれは刀を抜き放ち全力の気を男に向けて放った。それは辺りの木々を揺らし白石すら叫び声をあげてしまうほどであった。

 

 

「……剣士の持つ刀を見せろ。それがどういう意味かお分かりで?」

 

 

 男はしぐれの気当たりなどまるで意に介さない風にあくまで冷静にしぐれを諭した。

 だがその言葉の意味はつまり手荒な真似をすれば斬るという穏やかなものではなかった。

 

 

 

「お、おい嬢ちゃん! 止めとけ、いくらあんたでも相手が悪い。ありゃ佐部 京一郎(さぶきょういちろう)だぞ!」

 

 男の静かな殺意を感じ取った白石は慌ててしぐれを止めに入った。

 

「佐部……」

 

 しぐれは記憶の中から一人の男を思い出した。それはかつての義父が珍しく酒に酔い上機嫌だった時に口から出た名前だった。

 

 

 

 

『俺も長いこと人斬りを見てきたが、佐部京一郎ほどの人斬りは滅多にお目にかからなかったよ。人斬りなんざみんなイカれちゃいるがああゆう手合いが一番怖い』

 

 

 

 無愛想で無口な義父が酒が入っていたとはいえ他人を誉めるような口振りだったのをしぐれは幼いながらも覚えていた。

 

 

 その佐部京一郎が目の前にいる。

 

 

 

「この世界じゃ新参の嬢ちゃんも名前くらいは聞いたことがあるようだな。知っての通りあいつは日本有数、どころか世界でも稀に見る剣法家よ。こいつの斬殺数は表に出てるだけでも10人や20人じゃきかねぇ。そん中には対複数や対拳銃にも勝ったって話だ。こいつほど人を斬った男は存在しねぇ。裏社会で数々の伝説を打ち立てた正真正銘の人斬りでぃ」

 

 

 白石の説明は佐部京一郎と言う男がいかにどす黒い輝きを放つ剣士なのかを如実に語った。

 

「ははっ……なんのことやら。噂ばかりが先行してしまって困ったものです」

 

 

 しかし佐部はあくまでも知らぬ存ぜぬで張り付けたような笑顔を崩しはしない。

 

 

「それでも……お前の持つその刀剣……改めたい。勝負しろ……!」

「よせやい嬢ちゃん! ぶった斬られるぜ!?」

 

 しぐれの決意は揺るがなかった。それもその筈。しぐれには目的があった。

 

 

 

 

 しぐれの義父は闇の刀匠だった。闇の世界において最高峰の刀鍛冶であった彼は病魔に蝕まれつつも武器を作ることに己の全てを捧げていた。そんなおりに偶然にも孤児であったしぐれを拾い、これまで自分の作った武器で多くの人の命が奪われていることに人間として、父としての贖罪の気持ちが芽生えた。

 彼は死ぬまでその事を後悔しておりその姿を娘として間近で見ていたしぐれは義父亡き後も、彼が作った武器を狩り続けてきた。 

 

 背中に背負う刀、義父の最高傑作である【刃金(はがね)の真実】でもって今日までしぐれは生きてきた。

 

 

 そのしぐれだからこそ感じ取っていた。佐部が持つ刀から発せられる微かな義父の気配に。あれは間違いなく存在してはならない刀だと。

 

 

「香坂さん、貴女の提案するわたしとの勝負。刀と刀。剣士と剣士。わたしに殺人者になれと?」

 

 ある種の殺意まで醸し出すしぐれに佐部は全く動じてもいなかった。

 

「寄越……せ」

 

 だがしぐれも譲れない。しぐれは刀を構え佐部に一歩近づく。

 

 

「……香坂さん。剣とは、武とは、修るもの。貴女がその身に纏う余多の武器と背中の刀……まさかそれら総てが人を殺傷するためだけに身につけたものではないはずでしょう?」

 

「……」

 

 しぐれにの耳には最早佐部の言葉は入ってはいなかった。既に彼女は闘う覚悟を決めていた。

 

 そんなしぐれの覚悟を察してか佐部はやれやれといった風に肩をすくませると刀に手をかけた。

 

 

「困りましたね。わたしの財産である刀を寄越せと刀を向けて恫喝する。わたしは闘う意思はないと言うのにとりつく島もない。逃がしてくれる気配もない。こういう場合はね、香坂さん……」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 

 

「ぶっ殺されても文句は言えねぇんだよ……!!」

 

 

 

 

 

 それまで徹底して穏和だった佐部の態度が変貌した。

 

 佐部の放った気当たりは刃の如くしぐれを貫いた。それは今まで感じた気当たりでも梁山泊の面々に引けをとらないほどだ。

 

 更に170か180㎝程の佐部が刀を手にした途端にその体躯が巨大化した。

 勿論しぐれの気のせいである。この初老の男、佐部京一郎の威圧は、達人の中でも遥か高みにいるしぐれをも萎縮させるほどの危険性の持ち主だと、彼女は自らの心身が伝える恐怖の信号で判断した。

 

「やれやれ悲しいな。あたら若い命が散るのは見たくないがな」

「なにが悲しいだ悪党めッ さっきの作り笑いよりよっぽどいい顔してやがるぜ……!」

 

 白石の指摘通り佐部はそれまでのうすら寒い笑顔から様変わりしまさに鬼面毒笑のように凶悪かつ嬉々とした笑顔を浮かべていた。口とは裏腹にしぐれを殺すことにまるで抵抗感がないかのような素振りである。

 

 

「行く……よ!」

 

 

 

 しぐれは瞬時を勝負を決めようと佐部に斬りかかる。

 

 一瞬で一重に二重に折り重なられた複雑な太刀筋で一気に佐部を戦闘不能にする攻撃を仕掛けた。

 

 

「若いのによくやる。だが……!」

 

 二人の間に火花が散る。

 

「う……そ……?」

 

 

 

 

 一太刀。

 

 

 

 

 佐部はしぐれの複雑怪奇が連撃を僅か一太刀で凌いでみせた。それは力だけでは絶対にできない。剛の中に技がなければ無し得ない絶技。

 しぐれの額に一筋の汗が垂れる。

 

 

「くっ……!?」

「肩を切り落としたつもりだったが……成る程。鎖帷子(くさりかたびら)か」

 

 

 しぐれは突如右肩に走る焼けるような激痛に顔を歪ませる。見ればちょうど右肩の衣服が斬られておりその下に着込んでいた帷子が露になっていた。

 帷子の下の素肌は痛々しく血が滲んでおり、仮に帷子がなければ今頃しぐれの右肩は切断され右腕は一生使い物にならなくなっていた。

 

「……っっ」

 

「痛い、だろうなぁ。竹刀ですら人を悶絶させるのは容易い。帷子の上からとはいえそれが真剣だ。女のあんたにゃ辛いだろう」

 

 佐部の言うようにしぐれは声こそ上げていないが精神は激痛以外考えられなくなり大混乱に陥っていた。体も痛みで身を捩りたい反射にも似た反応を必死で押さえつけ辛うじて構えの姿勢をとっているに過ぎず、控えめにいって大ピンチだった。

 

「どうする? 首を差し出しゃ一瞬で終わらせる……!」

 

 この目の前の男はしぐれが命乞いをしても絶対に許さない、一片の慈悲もなくしぐれの体を両断する覚悟を持っている。

 

「まだ……だ!」

 

 しぐれは犬歯で頬の内側を噛みきった痛みで右肩の痛みを紛らわす。

 口の中に広がる独特の塩気と生臭さに吐き気を感じながら口から出かかっていた悲鳴と共に一気に飲み込む。

 

 

「随分と無理をする。直ぐに終わらせてやろう」

 

 

 しぐれの動作で手荒なキツケを見抜いた佐部は刀を抜き上段に大きく、深く、言葉通り一撃でしぐれを真っ二つにするだけの構えを取った。

 

 

「……っ」

 

 

 

 しぐれも構えを取ろうとするも途端に右肩に激痛が走る。おそらく折れてないまでもヒビや筋を痛めてしまったのだろう。

 

 

「どう構えていいのか分からんのか? いや、最早構えも取れんのか……」

 

 

 佐部の言葉は案外に的を射ていた。

 

 肩の負傷もあるが、それよりも佐部の放つ気当たりと殺意によってしぐれの五体はどうしたものかと考えあぐねていた。

 

「命乞いでもするか?」

 

「……それは、また今度……ね……!」

 

 

 

 

 

 

「ぬん!!!」

 

 掛け声と共に佐部の上段振り下ろしがしぐれ目掛けて叩き込まれる。頭部から股まで真っ二つにし八の字に身体が別れることから八文字と呼ばれる太刀筋。しぐれは刀を上段に両手で構え防御の姿勢をとる。しかしその構えを見た白石はその無謀さに絶望した。

 

 

「無理だ! いくら申し子たって女の細腕じゃあ佐部の剣に叩き潰されるぜ!?」

 

 

 

 そのもっともな意見に刀を振り下ろしながら佐部も同調していた。

 

 ここは開けた境内。隠れる場所はどこにもない。室内だったのならいくらか手はあっただろう。家具や柱を盾に使ったり部屋割りを駆使した撹乱戦にも持ち込める。それこそかつて敗北した要因である畳をひっぺ反して目眩ましにすることもできた。だが、今この瞬間はなにもない。

 

 自分としぐれを遮るものは何一つとしてない。若い頃よりは衰えたところで負傷した右肩で受け止められるほど己の力は衰えていない。

 

 

 

 勝てる! 

 

 そんな感情が心を支配した。が────

 

 

 

 

 確かにしぐれの腕力は剣術と違いあくまでも一般的だ。とてもではないが歴戦の人斬りである佐部京一郎の剛剣と力比べはできない。

 

 故にしぐれは、

 

「香坂流……」

 

「!?? ────消えた?」

 

 佐部の渾身の八文字斬りは不発となった。振り下ろすはずのしぐれが己の目の前からいなくなったのだ。慌てて佐部は周囲を確認する。

 

 

「右ッ! 左ッ! 後ろッ! ならば上か!!」

 

 

 

 佐部の推測通り目の前からいなくなったしぐれは月夜の空に高く舞い上がっていた。それはさながらモノノケの姫のように妖しく美しい光景だった。

 

「ぬ!?」

 

「【香坂流 燕尾旋風(こうかさりゅう えんびつむじかぜ)!】」

 

 

 到達頂点まで達したしぐれは眼下の佐部目掛けてまるでドリルの如き勢いの回転をしながら突貫してきた。

 

 

「猪口才な……ッッ 斬り落としてくれる!!」

 

 

 佐部は一直線に自身にまで高速回転飛翔してくるしぐれを迎撃せんと再び上段に構える。

 

 

「無茶な!? 嬢ちゃんのやつ捨て身で佐部を殺る気か!」

 

 最初の攻撃を躱したまではよかったがこのままでは確実にしぐれは佐部に斬られる。戦いにおいて敵より高い位置に陣取るのは戦の常道だが人間は鳥じゃない。落ちながら闘うなど不可能だ。それをしぐれはなんの躊躇もなく佐部に向かって突撃した。

 

 

「特攻か!?」

 

 

 否、佐部も白石も外れている。

 

 

 梁山泊において相手を殺して自分も死ぬ闘いはあり得ない! 

 おのれを捨てて相手を生かすことこそ真の活人拳である! 

 

 

「終わりだ香坂しぐれ!!!」

 

 

 眼前に迫ったしぐれを佐部はギリギリまで引き付け確実に殺せる位置で遂に刀を振り下ろした。

 佐部の刀はしぐれの頭部目掛けて一直線に振り下ろされしぐれを両断すると思われた。

 

「なに!?」

 

 

 だが違った。

 

 高速で回転するしぐれの技は攻撃と同時に相手の攻撃をいなす防御の技でもあったのだ。

 

 

 

 既に刀を振り下ろしてしまった佐部の胴体はがら空き。笑みは消え驚愕の表情に滲んでいた。

 

 

 

 ここ。

 

 

 ここしかない局面。

 

 決して見逃せないタイミング。

 

 見逃さないからこそ武器と兵器の申し子なのだ。

 

 目標は刀。折ればそれで決着─────

 

 

 

 全身の気を内包した一撃を佐部の刀に打ち下ろす。

 

 

 

 

「─────ッッ甘い!!!」

 

 

 

 

 

 だが佐部も負けてはいなかった。梁山泊のしぐれが自身の命を狙うとは考えにくく足や腕を斬る可能性も低いこの闘い、十中八九己の刀を狙ってくることは分かっていた。

 

「フン!!」

 

「……ッッ!!」

 

 佐部は盛大に刀をしぐれごとカチアゲた。一撃を入れるため回転が鈍ったしぐれはバランスを崩し逆に吹き飛ばされ宙を舞う。

 佐部もまたしぐれの渾身の一撃を刀で受け大きく体勢をよろめかせ刀にはヒビも入るが辛うじて折れてはいなかった。

 

 

 佐部は追撃とはがりに落下してくるしぐれの胴体を斜めに斬る大袈裟で斬りつけた。

 

「うぅッッ!」

 

 しぐれは身を翻し刃先だけが正面をなぞる。帷子で致命傷はないが焼けるような痛みが一直線にその肉体に刻まれる。着地と同時に上着がはだけ帷子越しの肌が露になると今しがたの太刀筋が僅かにしぐれの肌を斬り裂き彼女の血が腹まで滴り落ちていた。

 

 

「いい帷子だッッ!」

 

 

 佐部はこれで終わらせるつもりはなかった。あくまでも佐部はしぐれを殺すつもりなのだ。佐部は刀を引くとしぐれに対して刃先を向けてその堅牢であるはずの胴体を目掛けて一気に踏み込んだ。

 

 

 

「つ、突きだ!」

 

 やはり突いたか! 白石はそう思った。

 

 いくら最上級の鎖帷子でも衝撃までは防げない。現に佐部の攻撃は全て帷子に防がれたがしぐれの肉体にも相当なダメージが伝わっている。

 

 そこで佐部は突きを選んだ。

 

 日本刀は斬るばかりが注目されるが突きの威力も尋常ではない。堅牢な甲冑も容易に貫き人体など豆腐のようにすり抜けるだろう。

 木刀や竹刀といった真剣に比べれば遥かに安全なこれらでも、突きは簡単に人の命を奪う。

 

 佐部ほどの剣士の突きを喰らったのならば帷子を着込んでいても刃の先端は間違いなく命にまで届く! 

 

 

 

「ガァッ!!」

 

 

 佐部の足袋が音を立て大地を噛み締める。勢いよくしぐれを狙う刃が彼女の帷子に突き刺さる。

 

 

「嬢ちゃん!?」

 

 

 勝負あった。

 白石はしぐれの死を覚悟した。

 

 

 

「ふっ────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがしぐれは死ななかった。

 

 

 

「なに! 帷子を!?」

 

 

 

 完璧にしぐれの心臓を突き刺したと思った佐部の刀は、彼女が瞬時に脱ぎ捨てた帷子に絡め捕られていた。

 

 しぐれは佐部の刀が己に突き刺さる瞬間に帷子を脱ぎ去り同時に帷子で佐部の刀を一時的に無力化したのだ。

 

 

「は!?」

 

 

 佐部京一郎、本日二度目の驚愕。

 

 自身の間合いに香坂しぐれが潜り込んだ。帷子を捨て上半身はほぼ裸だがそんなことはどうでもいい。

 

 

 

 刀が使えない。なのに己はしぐれの間合いにいる。

 

 

 

 

 殺られる───

 

 

 

 

 

「【香坂流相剥斬り(こうかさりゅう あいはぎぎり)!】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 しぐれが刀を鞘にしまうと佐部京一郎の持つ刀は先ほどできたヒビ元から綺麗にパッカリと斬れていた。

 

 

 しぐれはしかし警戒を解かない。

 

 刀が折れたとは言えまだ小太刀程度の長さはあり十分闘いの続行が出きるからだ。

 だがそんなしぐれの心配は杞憂に終わる。

 

 

「……剣が折れちまった。これは貴女のお父上のファンが作った刀なのですが、やはり貴女のその刀には敵いませんな。香坂さん、私の敗けです」

 

 

 佐部は放っていた闘気を静め刀も納めた。表情も最初のようにまた作り笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

「……」

 

 しぐれは帷子を失いほぼ裸の上半身を残った僅かな上着で覆いながらも佐部を睨み付けた。

 

「おやぁどうしましたか? 不服そうな顔ですな香坂さん」

 

 

 

 

「……ボクとオマエ……同じ条件だったら……」

 

 

 

 しぐれはこの勝負が己の勝ちだったとは微塵も思っていなかった。

 それどころか敗北感に満ちていた。

 もし防具や武器が同じ条件だったら。そもそも自分が帷子を着けていなかったら今頃死んでいたのでは? 

 

 そんなifが頭の中をぐるぐると駆け回っていた。

 

 

 

「香坂さん、およしなさい。真剣勝負にもしもは存在しません」

 

 そんなしぐれの戸惑いを佐部はハッキリと否定した。

 

「人は刀そのもの。私がナマクラだっただけの話ですよ。いい経験をさせて貰いました。これで拳と剣、合わせて2連敗だ。はは」

 

「お前を……素手で?」

 

 

 

 

 

 まさか。

 

 しぐれはこの男を素手で倒す存在がいたことに素直に驚いた。

 

 

「大昔のことですがね……無礼な若造でしたが今や日本、いや世界一の空手家バカになってます。私の武器はこの剣だけですが彼は全身凶器ですからねぇ~彼なら貴女にも素手で勝てるかも」

 

「香坂流が……最強だい」

 

「ははは、そうですな。では私も次は折れぬ剣を用意しましょう。再びお会いするときは、私を斬らざるをえない資格をもってね……」

 

 

 最後の言葉に、しぐれは少なからずの悲しみを持った。これほどの腕前の剣士とまた腕を競い合いたい気持ちを抱いたが、佐部京一郎はやはり人斬りなのだと。

 

 

「……まだ人斬りはする気?」

 

 無駄とわかってもしぐれは問わずにはいられなかった。

 

 

「……香坂さん。なまくらと達人、名刀と凡人、真の剣士に成るにはこのどちらも欠けてはいけない。そして貴女は幸運にもこのどちらも備わっていらっしゃる。本来ならばわたしなど歯牙にもかけぬほどの実力を持っているのに苦戦したのは何故か。お分かりで?」

 

「…………」

 

「香坂さん、お斬りなさい。遠慮など不要です。その刃で肉に、骨に、……そして命に食い込ませなさい。わたしのように」

 

 

「……」

 

 

「そうなれば、貴女に勝てる剣士はこの世にいなくなるでしょう。香坂さん、剣は人を斬るためのもの。剣士とは人を斬る生きざまそのもの。もう一度言いましょう。お斬りなさい、好きなように」

 

 

「……ボクは誰も殺さない。そう父に誓っ……た」

 

 

 それがしぐれの贖罪だった。多くの人を死に追いやった父を弔うためにせめて自分だけは人を殺さぬと。

 

 

 

「……そうですか。貴女はまだお若いですから此方の世界に来る機会はいくらでもあります。その時は、存分に死合いましょう。では♥️」

 

 

 

 佐部はすぐさまその場から消えてしまった。辺りは森の木々がざわめく音だけが聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香坂しぐれを仕留め損なったか」

「伝説と言われた佐部京一郎も枯れちまったな。ガッカリだぜ」

 

 

 佐部が森の中を歩いている暗闇から二人組の男たちが現れた。両者ともに般若の面をつけ帯刀をしており明らかに普通ではない。

 

 

「もともと今回あんたらから依頼されたのは白石国郷との死合い……香坂のお嬢さんが来るなんて聞いていませんよ」

 

 佐部は素っ気なく答えた。

 

「それはたしかに此方も予想外であった。だが貴様は香坂しぐれに敗れたばかりか白石とは剣も交えず見逃した! なぜだ!」

「俺たちが与えた剣もみすみす折られる始末……それ一本にどれだけの労力と金がかかってると思ってんのか」

 

 男たちは苛立ちげに佐部を糾弾した。

 

 

「……ははは。あんたらじゃそりゃ勝てんだろうが白石さんと私とではやらんでも分かりますよ。それにこんなベニヤ板を寄越しておいてなにが闇の刀匠ですか。言っちゃあ悪いですが外面だけの猿真似ですよ。あの娘の持つ刃金の真実には永遠に辿り着けませんね」

 

 佐部は折れた刀を嘲るように見せつけた。

 

「……最初に言ったはずだ、これは見極めだと。貴様は闇に与する気が無いのか?」

「闇ですか……そんなだいそれたもんに興味はあんまりね~~」

「知ってるぜ~お前の起こした事件の数々、すべて有耶無耶となっているが俺たちがその気になれば再び捜査機関はテメーを調べ始めるぞ?」

 

「おや脅す気で?」

 

「我らが闇に属せばそんな些細なことに頭を悩ます必要はない! 久遠の落日まであと僅かだ、そうなれば我ら武器組は再びこの日ノ本で覇権を握り前回の落日の雪辱を晴らすことができる!!」

 

 

 

「……ふふふ」

 

 

 

「ジジイ、なにが可笑しい!」

 

 

「闇もお人が悪い……御大層な理屈並べても結局は人を斬りたいんでしょ? ならホラ、貴殿方の目の前に居ますよ……斬り甲斐のあるものが」

 

 

 佐部京一郎はとびっきりの笑顔を男たちに見せつけた。

 

 

「貴様……正気か?」

 

「闇なんてのには興味はありませんよ。栄光とか、名誉とか、活人剣とか、殺人剣とか……どうでもいいんですよ私は。たま~~に楽しく人が斬れりゃ……ね」

 

 それはまさに狂人の笑みだった。月夜の光と森の影が合わさりまるで鬼のようだった。

 

 

「もういい! こんなイカれジジイさっさと処理してやる!」

「よせッッ 迂闊に踏み込むなッッ」

 

 佐部に斬りかかった若い声の男は、目の前からいきなり佐部が消えた光景が最後の世界だった。

 

 

「まず一人。初段もやれんな」

 

 

 若い声の男は鼻を分け目に真っ二つに切断されその場に倒れた。暗い森のなかで血が流れる音だけが響く。

 

 

「貴様気でも狂ったか! 我ら闇に仇なして無事ですむと思っているのか!」

 

「人斬りなんぞ稼業にしてる時点でお宅もわたしも狂ってますよ。ククッ────」

 

「な、なにが可笑しいのだ?」

 

「いや~~笑っちゃ悪いとは私も思うんですがね。どうして人間てのはこう……真っ二つに斬るとこんなに面白い顔してるんだろうねぇ?」

 

 

 残った男はこの任務についたことを後悔した。上からは比較的まともな男だから安全だと聞かされていたのに、蓋を開けてみれば八煌断罪刃(はちおうだんざいば)の方がまだマシだと思えるほどの狂人だった。

 

 

 もう闘うしかない。そう思い刀に手をかけるとその手が両手ともに無くなっていた。

 

「斬るならとっとと斬らないとな」

 

 

 

 熱ッ─────

 

 

 

 それがこの男が最後に感じた感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なまくらでも包丁代わりにはなりましたか。ま、あとは住職が埋葬してくれるでしょう」

 

 

 

 最初の男とは反対に背中と腹とで分けられ人体を真っ二つに斬られた死体の手足がピクピクと動いていた。

 

 

 

「あのお嬢さんはまだまだ強くなるだろうな。それに殺人剣も身につけたら史上最強の剣士が誕生するはず……ひょっとしたら八煌断罪刃の地位も危ういかも……クク! それにしても香坂しぐれさん、彼女を真っ二つにぶった斬ったらさぞや面白美しいヒラキになるでしょうね。ははは!」

 

 

 

 

 暗い森の奥深くで笑い声が轟いた。

 

 

 

 

 

 正午、梁山泊正面入り口

 

「ただい……ま」

 

「お帰りなさいしぐれさ……ぶはっ!?」

「大丈夫ですの兼一さん! し、しぐれさん格好を考えてくださいまし!!」

 

 

「え?」

 

 しぐれを迎えるために玄関に出たケンイチの目に、ほとんど裸のしぐれのあられもない肢体が入り込み彼の鼻から勢いよく血が吹き出した。

 

 

 

 

 

「ボクを斬るか…………ねぇ、兼一はボクの中……見たい?」

 

 

 問われたケンイチはぎょっとした。

 なぜ目の前の女性は上半身裸でそんなことを聞いてくるのか。考えれば考えるだけ出血が止まらない。

 

 

 

「え!?? いやいや僕はそんなつもりではッ それに僕には美羽さんがおりましてでも見たくないわけでは」

「おいちゃんも見たいね! しぐれどんの秘められた中身を!!」

 

 

 

「ふふ……なぁ~~んちゃっ…………た♪」

 

 

 

 どこからともなく現れた剣星に手裏剣を投げつけながらしぐれはほんの少しだけ、笑った。




今回も宇喜田は表紙グラビアです。
佐部さんはちょっと強くしすぎた気がしないでもないですが刃牙のパワーバランスなんてあって無いようなものですからね!
次回はちゃんと登場しますのでご安心を。
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