私の執筆速度がマッハになったわけではありませんのであしからず。
宇喜田が飛び出ていった扉を見つめる本部と渋川の二人。本部はやれやれといった風にため息を吐き、渋川は嬉々と笑っていた。
「慌てん坊め……青い奴だ」
「若いうちはあれで十分じゃろ。真っ直ぐな芯を持った気持ちのいい青年だ、いい弟子取ったな本部」
「なら渋川殿も弟子を取られますかな?」
暗に貴方も苦労してみろという皮肉に渋川は頭に手を当てる。
「応、と言いてぇが師匠の才能はあんましねぇんだよなこれが。
「ははっ、伝説のあの方と比べられたら流石の渋川殿も形無しですか」
「おうよ。活人拳なんざくだらねぇって若ぇ時に息巻いて喧嘩吹っ掛けたらそりゃもうけちょんけちょんにされたぜ。あんなに徹底的に優しくブッ飛ばされたのは生まれて初めてだったよ。死合い相手に情けかけられちゃ武術家もおしめぇだとも思ったが……今じゃ茶飲み友達だ。人生不思議だぜ」
「まさか……あれは事実だったのですか?」
本部としては目の前にいる武の巨人に打ち勝つ者など世界を見渡しても範馬勇次郎か風林寺隼人くらいしか思いつかぬ為、伝え聞いた合気 渋川剛気が杖術
「おうよ、気の良いじいさんじゃよ。今じゃ私もじいさんだがな、はははは!」
「……まさに人に歴史ありですな」
「所で本部よ。宇喜田ちゃん心配にならんか? 喧嘩に行くらしいぞ」
「弟子クラスとは言え仮にも本部流の武術家。そこいらのチンピラにやられるような柔には育てていませんよ。それに、やられてしまえばそれまでの男だったと言うことです」
「厳しいのう。見に行かんでいいのかい?」
「所詮は子供同士の闘い……見らんでも分かりますよ」
「宇喜田さん、お待たせしました!」
「おせーぞ白浜! 武田はいたか!?」
白浜との合流地点でヤキモキと時間が流れることに歯噛みしていると、ようやく白浜と例の金髪女、風林寺も一緒に現れた。
「美羽さんが見つけました!」
「兼一さん、宇喜田さん、こっちですわ!」
(頼む! 無事でいてくれよな……武田ッッ)
逸る気持ちを押さえきれず先導の風林寺を追い越しそうになりながら俺たちは武田の元へと走った。
「もうすぐですわ、準備なさってください!」
風林寺の言う通り前方の暗い夜道から騒々しい悲鳴や怒声が聴こえてきた。
更に進むと人だかりが見え、一目で分かる柄の悪さはラグナレクの兵隊で間違いない。そしてその中心には地面に倒れ伏し周りから容赦ない暴力を振るわれている武田がいた。
「武田ッッ!」
「武田さん!」
俺と白浜が叫びラグナレクの奴らに殴り込んだのはほとんど同時だった。
「な、なんだテメーら──グワッー!?」
「どこのチームだこいつら──グワッー!?」
「あっ! お前宇喜田じゃん。この蹴りの古──グワッー!?」
「は、速い!? しかも強す──グワッー!?」
ぶっ飛ばしたのに一人見知った奴がいたような気がしたが今そんなことはどうでもいい。
「兼一さん、宇喜田さん! 武田さんは気を失ってるようですが無事のようですわ!」
武田に駆け寄った風林寺の言葉を聞いてとりあえず安心した。武田はまたボクシングが出来なくなってしまうことはないようだ。
だが、武田が無事だからと言って俺と白浜の心は平穏ではなかった。
「宇喜田さん……僕は今とても頭にキテます……!」
「奇遇だな白浜、俺もだ。久々に頭に来たぜ……!」
もし、武田が一対一で喧嘩に敗けたのならそれは武田が弱かったからだ。武田が弱いせいだ。それで俺が相手に仕返しするのはお門違いだ。仮に俺がタイマンで負けたとしても、間違っても武田や白浜に仕返しなんぞしてほしくない。自分の敗けは自分で返すのが男ってもんだ。
だがこれは違う。
武田はたった一人で懸命に闘ったのに対してこいつらラグナレクは大勢で取り囲んで武器まで使いやがった。
「こんなのは……こんなのは……喧嘩でも男の闘いでもねぇ! テメーら全員覚悟しやがれ!!」
「くっ……や、やっちまえ! 相手はたかが3人だ!」
一人の合図で不良どもは一斉に俺たちを敵と認識し襲いかかってきた。本部師匠と出会う前の俺なら流石に勝ち目のない数だが今の俺はその頃よりかは成長し、白浜と風林寺と言う頼もしい仲間もいる。それに何より……
「ウオオオオ! テメーらの血は何色だ~~!」
俺は怒りに燃えている。たとえ放水車を持ってきてもこの炎は消せない。
「囲め! 囲んで袋にしろ!」
「ちっ、臆病連中が……!」
白浜たちを置いてきぼりにして突出した俺の周りを十数人が取り囲む。金属バットやチェーンを持った奴もいる。
「へっへっへ~~終わりだぜテメー。ラグナレクに楯突いた報いを受けな!」
大人数相手の喧嘩も何度かやってきたがそれでも少し数が多い。
「宇喜田さん! 今そっちに行きます!」
「よせ、白浜!」
「でもッッ」
「心配すんな、こんな奴ら……」
俺は本部師匠の教えを思い起こした。
『いいか宇喜田。多人数で喧嘩を売られたら基本的には逃げろ。そんな奴等に付き合う義理はない』
『でも逃げるのはカッコつかねーっつうか……』
『確かに逃げてはいけない時もある。そんな時は兵法を使え』
『兵法?』
『
「俺一人で十分だぜ」
「今だ! 一斉にかかるぞ~~!」
集団が勢いよく俺に向かって殴りかかった。
俺は防御や攻撃の姿勢を取るよりも先に、襲いかかってかる不良たちを観察した。
「一番近いのは──お前だ!」
直ぐ様、最も俺に近づいていた不良を得意の肩車で投げ飛ばす。
「グワッー!?」
「うお!? バカ野郎、邪魔だ!」
それだけに留まらない。わざと次に俺に近い不良目掛けて肩車で背負った奴を投げつけた。
「テメーも邪魔だぞ! 退け!」
「イテッ 周り見ろ! 俺に当たったぞ!?」
「バカ! お前こそアブねぇよ!!」
すると面白いように足並みが乱れた。俺が手を出したのは肩車した不良と投げつけた不良の二人だけだが残りは勝手に自滅したり足を引っ張りあっていた。
「な・る・ほ・ど・ね♪ 相手が大勢でも連携を取れなくさせて一対一に持ち込めば関係無いってことか、やっぱ本部師匠はすげェな!」
それまで感じていた集団の圧力はかき消えた。そこにいるのはただのチンピラども、今の俺の敵じゃない。
「お前で最後だな」
「お、おい! お前らいつの間にやられてんだよ!?」
「反省しな!!」
「グワッー!?」
(……やっぱり投げの威力上がったよな? 結構暴れたのに全然バテもしねぇ……これが修行の成果ってやつか!?)
「……す、凄い!」
「宇喜田さん……やりますわね」
白浜と風林寺が俺の活躍に驚いているがお前らもだいぶ凄いと言いたい。
白浜、お前なんでそんなに小さいのにパンチで人間吹っ飛ばせるんだ?
風林寺も一度のパンチやキックで確実に二人以上倒してるぞ?
あれ? 風林寺はともかく白浜も俺より強くねーかこれ?
「な、なんて強さだ!?」
「後ろの二人もヤバイぞ!」
「ひぃ! 化け物たちだ!!」
まだまだ敵は大勢いたが、俺たち三人の奮闘を見た不良たちの戦意は既にだた下がりで今にも逃げ出しそうだった。
「逃げたきゃ逃げな! だが、今後2度と武田に関わるんじゃねぇ!」
「ひぃ……コイツらやべぇよ……」
「なんだなんだい、相手はたかが3人だろ!? だらしないね、アタシが相手してやるよ!」
勝った、そう思った俺に冷や水を浴びせるような高い声の主が不良たちの前から出てきた。海が割れるように不良たちが道を開けるその様は声の主がコイツらのボスだと言うことを示している。
出力不足のオンボロ街灯の暗い光でその顔は見えないがたちの悪い不良たちを束ねているボスにしては思ってたより小柄だ。
「オメーがラグナレクの頭か! ならこの落とし前つけてもら…………あれ?」
近づいてきたボスの輪郭が段々と明らかになっていくと俺は妙な違和感を覚えた。
どうにも敵のボスが赤の他人に思えない。それどころか俺はこいつを、いや、彼女を知っている。そんな、まさか……
「……宇喜田?」
「キ、キサラ!? なんでこんなとこに、なんで武田と闘ってるんだよ!」
俺の目の前にいるのは初恋の女、南條 キサラだった。ピンと立った髪の毛に猫のようなつり目がチャームポイントの美少女。こんな状況じゃなければ即あらゆる方法を駆使してアタックをかけるが今は別だ。
「……そっちこそ。なんで武田なんぞ助けるんだい?」
「た、武田は俺の親友だ! みすみすリンチなんてさせるか!」
キサラは俺と二人で会ったときとはどこか別人のような擦れた瞳で俺を見据えていた。
「チッ……そうかい。アンタ、武田の仲間だったのかい。あーあ、世間も狭いねぇ……」
キサラを帽子を深く被り直した。その表情は見えない。
「いけませんわ! まだ喋っては……」
「う、宇喜田……!」
背後で意識を取り戻した武田を風林寺が制止した。痛めつけられ切り傷や青あざが痛々しいが武田はそれも構わず俺に告げた。
「武田! 無事か!?」
「き、気をつけろ。そいつは、南條 キサラは、ヴァルキリー……ラグナレクの幹部、八拳豪だ!!」
「なんだって!? 嘘だろ!」
「……はん! 今頃気づいたのかい? そうさ。アタシはラグナレクの八拳豪の一人、【第八拳豪ヴァルキリー】南條 キサラだよ!」
衝撃の事実だった。
平日の昼間っから未成年が町をぶらぶらしていたから俺と似たような境遇なのかと思っていたがまさかラグナレク、それもそこの幹部だったとは……
「キサラッ! 理由は知んねーがそんな奴らとは縁切れ! お前は優しいやつだろ!? あの公園の時だって……」
「さっさとその口閉じないとぶっ飛ばすよ?」
風を切る音が聴こえたかと思った次の瞬間、俺の鼻先にキサラのブーツの爪先が突きつけられていた。
「────ッッ!?」
見えなかった。辺りは暗く油断してたとは言え攻撃されて初めて反応がやっとできた。
意中の相手の意外な一面に更に惹かれると共にこれまで倒してきた雑魚とはレベルが一つも二つも上なのだと畏怖した。
そんな中、ラグナレクの兵隊たちからまた一人の人影がキサラの後ろに控えた。俺はまたまたそいつに見覚えがあった。
「キサラ様、ここは私が」
「ああ!? テメーは白鳥!!」
そこにいたのはあの憎き白鳥 かおるだった。
ラグナレク、キサラ、白鳥、すべてのピースが俺の中で繋がった。
「そ、そうか! テメーがキサラをたぶらかしやがったんだな!」
恐らくこの鬼畜外道のイケメン白鳥は純粋無垢なキサラを口八丁手八丁でラグナレクに誘い込んだんだ!
ひーひっひっひっ! キサラちゃん、ラグナレクに入れば友達たくさん出来て楽しい青春が送れるよ~~!
ホントに!? 分かった入る♪
みたいなことがあったに違いない。
ホームズも納得の完璧な推理だ。間違いない。
「テメー白鳥! ゆるさん!!」
「ふっ。あの公園で出会った時と同じく相変わらずマヌケな男だ」
男とは思えない透き通る高い声が俺を小馬鹿にする。イケメンは声までイケメンなのかと余計な所で更に俺の怒りは勢いを増した。
「うるせぇ! こうなりゃテメーをぶっ倒してキサラをまともな道に連れ戻してやる!」
「望むところです!」
「待ちな、白鳥!」
俺と白鳥が互いに構えいざ闘いの火蓋が切って落とされようとした時、キサラが間に割って入った。
「キ、キサラ様?」
戸惑ったのは俺だけではなく白鳥もだった。
「こいつは……宇喜田はアタシの獲物だよ」
「で、ですがキサラ様にそのようなお手を煩わすことは……」
「いいからお前も後ろの二人を相手してな! 奴ら相当できる。それともアタシがアイツに負けるとでも思ってるのかい?」
「……分かりました」
ついさっきまで俺に殺気を向けていた白鳥はキサラの命令で俺を素通りして白浜たちの方に向かい、それに連れられて残りのラグナレクの連中も追随した。
「あっ、コラ待て白鳥! 俺と闘え──グハ!?」
「だからアンタはアタシが倒すって言っただろ? 余所見すんなよ」
白鳥を追いかけようとその背を向いた瞬間、俺の脇腹に強烈なキサラの蹴りがメリ込み道の脇にあるブロック塀まで叩きつけられた。
いきなりの不意打ちに驚くと同時に、80キロの俺を渋川のじいさんみたいに合気じゃなく、単純なパワーで吹っ飛ばしたその威力にも驚いた。
「武田の奴は少しは頑張ったけどアタシには勝てなかった。ボクサーのクセにアタシに一発も当てることもなく無様に負けたんだよ。アンタはそんなアタシに本気で勝てると思ってるのかい?」
「く……!」
脇腹に手を当て状態を確かめる。どうやら折れてはいないようだった。日頃本部師匠や花田さんやノムラさんにボコられたからタフになりました! ってのは何処か釈然としないが今は師匠たちに感謝だ。
「止せよ、キサラ。そんな悪どい台詞、お前には似合わないぜ?」
「やだやだ、男ってのは弱いくせにすぐ気取る。そう言うのはアタシを倒してから言いな!!」
キサラがアスファルトを蹴り上げ俺に飛翔してくる。所謂【跳び膝蹴り】だ。ただの回し蹴りでこの威力だ。あんな物を喰らったら最後、意識としばらくおさらばになっちまう。
「ぬおおぉぉぉ!」
間一髪、 なんとか立ち上がり両手をクロスさせてキサラの膝蹴りをガードする。ミシリ、と骨が軋む感覚を感じたがどうにかガードに成功し息を吐いた直後、俺のコメカミに何かが直撃した。
「ハッ! それで防いだと思ってたのかい! 膝は囮だよ!!」
何処か遠くで聴こえるキサラの声を余所に俺は考えあぐねていた。
(やベーな……このままだとやられちまう)
今の一撃で分かった。ハッキリ言ってキサラは俺より強い。あの猫を愛する可愛いキサラがまさかこれほどの強さだったのは予想外だったが、流石は武田の元ボスなだけはあるとも思った。
「この領域に足を突っ込んだらアタシは容赦しない。けどアンタとはたしかに知らないなかじゃあない。だから最後の情けだ、とっとと家に帰りな!」
正直言ってどうやって勝てば良いのかさっぱり分からなかった。そもそも惚れた女を殴るなんて選択肢、俺は絶対に選べない。出来れば投げたくもないが殴るよりかは安全だし柔道の不殺の流儀にも合致しているので投げりゃいいじゃないかとなる。だが言うまでもなく投げるためには手が必要なのだが蹴りのリーチには敵わない。仮に柔道で蹴り技が解禁になったらきっと誰も投げ技なんてやらない。蹴りのオンパレードだ。そして相手がキサラとなるば触れるのも難しい。実際キサラは俺の間合いを読んでギリギリ手が届かない場所に立っている。格下の俺にも油断してない証拠だ。無理やり俺が間合いを詰めても即座にあの強烈な蹴りで迎撃されてお仕舞いだ。これじゃ万に一つの可能性もない。
「……ゲホッ……へっ!」
だが、
「武田がお前に敗けた? そりゃそうだ、あいつはカッコつけだからな!
「……あ"ぁ?」
だからといって、
「来いよキサラ! 俺がお前に勝ってこのくだらねぇ闘いを終わらせてやる!」
ここで引き下がったら
「忠告はした。2度は無い……後悔しな!!」
(うおぉ……き、来た~~!!?)
アスファルトが欠けるほどの踏み抜きから放たれたキサラの迫り来る跳び蹴りを眼前にしながらも、俺にこのピンチを打開するナイスなプランなど一切無かった。
避けようにもさっきの脇腹とコメカミへの蹴りのダメージがここに来て俺の下半身を殺していた。防ごうにも恐らくあの蹴りの勢いじゃガードごとぶち抜かれてやられるだろう。まさに八方塞がり、つい売り言葉に買い言葉でキサラを挑発してしまった為に招いた自業自得なピンチだった。
(スゲー勢い! 避けるッッ 無理だ
やっぱ可愛い 骨折…………帰宅
ガード……無駄か……
ブーツ……痛そう……似合ってるなぁ……
死……死ぬ……『
思考の海から顔を出したじいさんの言っていた言葉。それがあったからなのか、それともおれ自身の反射的な動きだったのかは分からない。
だが、この時、俺の右手はまるでそこに蹴りが来ると分かっていたかのように、吸い込まれるかの如くキサラの蹴り足を掴んだ。
(や、やった!! 掴めたぞ!!! だが、どうする!? ここから……!)
妙に頭が冴えていた。
視界がクリアになって周りの時間がゆっくりと流れ、俺以外の人の動きが酷く緩慢な物へとなっていた。
(スゲェ力だ。片手じゃとても押し返せねぇ……だがそれならどうやってこの蹴りを防ぐ? たしか……渋川のじいさんは……力の流れを……)
改めて右手で掴んでいるキサラの蹴り足に意識を集中させるとじいさんの言っていた意味が分かった。
感じる。
確かに感じる。
キサラの足首から伝わる直線のパワーだけじゃない。
(スゲェな。
本部師匠が前に言ってた。
人間の動作は複雑であり筋肉と神経と骨とが綿密なコミュニケーションを通して動いてる。指一本動かすだけで脳から伝わる電気信号は脊髄を経由して指の運動神経に到達する。そこから筋肉を動かす信号が伝わり無数の筋繊維が収縮、そこに骨がつられ関節を稼働させてようやく指が動くと。
(押し返すのは無理だ……圧倒的なパワーにこっちが真っ向から立ち向かっても勝機は薄い。それがキサラ相手ならまず負ける。なら……俺にできることは……信じるぜ、じいさん!)
「終わりだァ! 宇喜田ッッ!」
俺が作戦を決めたと同時に、急激に時間が進む。キサラは俺に蹴り足を掴まれたのに構わず突っ込んでくる。その考えは正解だろう。きっと今までも屈強な男をその足でぶっ倒してきた経験から俺の手ごとぶち抜けると思ってるに違いない。
(だがその考えも今日までだぜ、キサラ──!)
「───え?」
「───今だぁ!!!」
俺はキサラの蹴り足を押し返すでもなく投げるでもなく、足首をそのまま90度ほど捻った。
「──ぐァ!?」
目論見は成功した。コンクリートも粉砕しそうなキサラの蹴り足はなんの抵抗もなく足首からグニャリと曲がった。突然の激痛にキサラは地面に落ち痛みによって反射的に体を丸めた。
俺は救われた。本部師匠と渋川のじいさんのお陰で。
だが喜びもつかの間、俺はここで予想外の事態に直面した。
「ぐぅ……足が……あぐぅッ……!」
「ああっ!? キサラ!」
あまりに一瞬のことで気が回らなかったが、俺がキサラにしたことはかなり、と言うか凄まじく痛いことだと今さら気づいた。
キサラの右足首は、
そんなに曲がったらこれちょっと不味いんじゃねーの?
なくらいにまで曲がってしまい青く腫れ上がっていた。
「や、やってくれたね……ッ」
キサラの表情も相変わらず獰猛な猫科の猛獣のように猛っているが、額には汗を滲ませ目元からは少しは涙が潤んでいた。一瞬ちょっと可愛いと思ってしまった俺を心の中でぶん殴り慌ててキサラに駆け寄る。
「す、すまねぇ! そ、そんなつもりじゃなかったんだ。怪我してねぇか? 足を掴んだからつい捻っちまって……」
「な、なんのつもりだい、宇喜田……! 敵の心配なんて……ッッ」
「いや、心配するだろ!
取り敢えず患部を安定させようと、持っていたハンカチを引き裂いて簡易的な包帯を作りキサラの足首に巻き付けようとしたところ、怪我をしてない左足でいきなり蹴り飛ばされた。
「ブハッ!? な、なにするんだよ! あんまり無茶すると……」
「~~~~ッッふざけるな!!」
「え?」
「女だからなんだってんだよォォ! 私は闘える! 宇喜田ァ!! お前なんか今すぐ……あうっ~~~~~~~~ッッッッ!!!?」
キサラは右足を怪我しているのにも関わらず無理やり立ち上がろうとして再び倒れた。そこで更に傷に響いたのか声になら無い悲痛な叫びを上げながらアスファルトの上をのたうち回った。
「いやいやッ
「ま、また言ったな……!!? 男だからなんだ! 少し力があるからッ 体がデカイからッ だからアタシは弱いってのかよ!? アタシを見下すな!!!」
「え、いやっ……別にそんなつもりじゃっ」
どうにも話が噛み合わない。俺は本当にキサラを心配しているのに、何故か火に油を注ぐようにキサラの怒りがヒートアップしていく。
「俺たちの名は新白連合だ~~! ヒャハハハハ~~!」
「ん? なんだあいつら」
突如、
宇宙人のような奴を先頭に武装した集団が現れた。白浜と風林寺によって蹂躙されたラグナレクの兵隊たちはそのイレギュラーな事態にキサラや最後まで白浜と闘っていた白鳥をおいて一斉に逃げ出していく。
「キサラ様! ここは一旦退かれるべきです。恐れながら返事は聞きません!」
白鳥も戦況が悪いと見て瞬時にキサラを抱き抱え撤退しようとする。キサラも流石に不味いと思っているのか苦々しげに白鳥に従う。
(てゆーかちょっと待て白鳥コノヤロー。なにしれっとキサラをお姫様抱っこしてるんだ! 岬越寺先生の診療所まで俺が運ぼうと思ってたんだぞ!?)
「くっ……宇喜田! アンタだけは……」
「え?」
「アンタだけはこの南條 キサラの名に懸けて、必ずぶっ殺す!!!」
「え"え"え"え"ぇ!!?」
「ちょちょちょっと待ってくれキサラ! 話を聞いてくれ!」
「キサラー! 許してくれ──!!」
宇喜田が夜道に消えたキサラの名を叫んでいるのを、高架線路の上から覗いている二人の人影があった。
「やれやれ、締まりは悪いが取り敢えず勝てたようだな」
「本部……結局見にきてんじゃんッ」
キサラの足を捻ったのは、藤巻が北辰館の連中の足を捻ったのを想像して書きました。
大丈夫キサラ! 刃牙もケンイチも死ななきゃすぐ治るよ! (死んでも生き返った人がいるとかいないとか)