Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京   作:三代目盲打ちテイク

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第二節 2

 指定の場所は小さな酒処だった。いわば居酒屋のような酒を飲む場所だ。夜ともなれば、多くの客でごった返している。

 罠の可能性があるため、千代女は忍として隠れ、藤丸は倭建命を伴ってきていた。

 

 酒処には、浮浪者もいる。路地に隠れるように身を丸めた浮浪者は、めぐみでも期待しているのか、あるいは別の目的でもあるのだろうか。

 酒処の客はそれなりに幅広いようであった。武人のなりした女もいれば、大酒をかっくらって奇声をあげる女もいた。

 身なりの良い貴族然とした男も楽し気に酒を飲んでいた。

 

 ふと、違和感を感じる。

 まるで大蛇の口の中にでも入ったかのような感覚。まるでここが敵地であるかのような錯覚。

 しかし、それが何故かわからない。サーヴァントの気配はない。倭建命はなにも言わず。忍んでいる千代女からもなにかを感じたということはない。

 

 それがなにかわからず首をかしげている間に、目的の人物の下へたどり着く。

 

「来たな」

 

 そこにいたのは、先ほどの薬売りであった。ただし、雰囲気は真逆だ。陽気な雰囲気は何一つない。抜き身の刃のようにも感じた。ただただ鋭い。

 そして、彼はサーヴァントだった。

 

「座ったらどうだ。酒くらい飲めるだろう」

 

 そうやって酒をすすめてくるが、固辞する。

 未成年ということもあるが、何より毒が入れられている可能性もある。毒は効かないが、率先して危険を冒すのは愚者のやることだ。

 

「そうかい。まあいいがね」

「それで、ここになぜ呼んだんです?」

「なに、あんたらは星読みだろう? 召喚された理由が理由だ、アンタらに協力しようかと思ったわけだ。

 

 それは願ってもないことである。

 敵がどれほどいるのかもわからない現状、戦力はいくらでもほしい。

 カルデアからのレイシフトに干渉し、一騎当千のサーヴァントたちを倒す相手がいる以上、戦力はいくらいても足りないくらいなのだ。

 

『協力するにしても、まず君の真名を教えてくれないかい?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんが彼に問う。

 協力するならば、確かに真名を知っていた方が良い。もし敵対するにしても真名を知っているか知らないかでは対処の幅が変わる。

 

「良いだろう。新選組三番隊隊長、斎藤一だ」

 

 斎藤一。彼の名は知っている。幕末に新撰組の幹部として活動した武士の一人。歴史好きならば少しくらいは知っている人がいるかもしれない。

 新選組の中では知名度は低いものの、その強さはかなりのものであったという

 

『なるほど、新選組か。それならば心強い』

「ただの殺し屋だ。あまり期待してくれるな」

『謙遜を。その暗殺の手腕は知っているよ』

「世辞は良い」

『そうかい? ならどう協力するのか教えてもらいたいね。君は、一人で行動する気満々だろう?』

「そうだな。俺としては、その方が動きやすい。この身はアサシンのサーヴァントだ。ならば、民衆に紛れ情報を集め、敵の裏をかき、暗殺する。それがもっとも速い」

 

 黒幕を見つけて、暗殺する。 

 

「なにより、この地に召喚されたサーヴァントならば、なにをどうすればいいのかわかる。この地の特異性がな」

『それは、夜にこの平城京を中心とした地域を覆おう謎の結界のことかい?』

 

 通信が出来ない理由がそれ。夜になると結界が張られ、カルデアとの通信が遮られる。

 

「夜とは限らん。アレはやつらが出てきた時に初めて機能するものだ」

『詳しいね』

「当たり前だ、敵を知ることが戦の基本だ。とかく、俺は情報を仕入れおまえたちに流す。おまえたちはお前たちで独自に動け。それが陽動となろう。逆に、こちらが動けばそれも陽動になる。おそらく敵は暗殺者を多く要している」

『なぜだい?』

「強大なサーヴァントならばわかるが、数日ここをうろついて、サーヴァントの影も踏めない。敵がいるならば即座に襲ってくると踏んでいたがそうならない場合、敵もまた俺たちと同じということだ」

『厄介だね。カルデアとの通信が阻害されている場合、敵が近づいてきてもわからない』

「問題ない」

 

 倭建命がいう。

 

「何があろうとマスターは護ろう」

「頼もしいよ」

 

 だが心配ない。こちらの最高戦力はあの倭建命である。暗殺者は攻撃の瞬間、その気配を発する。倭建命ならばそれで十分。

 必殺の間合いにある暗殺者であろうとも対処する。それはマスターが危機に瀕しても問題はない。常に千代女も侍っている。

 

 暗殺に対しての警戒は出来る。

 

「問題はこの子だなぁ」

「そういや、その赤子は?」

「森で拾ったんだ。懐いちゃって、離れるとすぐに泣きだして預けることも出来なくて」

「ふむ、なら良い薬でも出してやろう」

「それ子供に飲ませても大丈夫な奴?」

「そうでなければ出さん」

「それじゃ、ちょっとよろしく」

 

 でんでんだいことかそういった子供の玩具も貰い。

 

「じゃあ、またここで会おう」

 

 斎藤が立ち去って、こちらも帰ろうと席を立った瞬間――。

 

 ゾクリとした悪寒。

 

「動くな」

 

 同時に耳元で声がした。

 首筋に感じる鋼の冷たさが全身へ広がっていく。

 酒場の喧騒は遠くなった。まるで自分だけが取り残されてしまったかのような感覚。

 

 いつの間に、なんて思うことはできなかった。

 いつの間になんてものではない。

 

 視界には、身を丸めた浮浪者、武人のなりした女、身なりの良い貴族然とした男の三人がいた。そして、その全てが0距離で刃を突きつけている。

 

 最初からいたのだ。この場に。いつでも殺そうと思えば殺せたのだ。

 だが、そうしなかった。それは彼らの悲願ではない。

 

「ここでは殺さない。それは我らの暗殺ではない。暗殺御伽草子は完成しない。我らは我らの悲願の為に夜を閉ざす。閉塞暗夜こそが、我らの暗殺舞台なれば。この場で殺しては意味がない」

 

 警告。

 いつでも殺せるが、殺すためには彼らの舞台にあがってこい。

 

「おまえに選択肢はない。カルデアのマスター」

 

 暗殺者はどこにでもいる。何処へ行こうとも安息などありはしない。警戒し、閉塞暗夜(己の死)を待つが良い。

 

「必ずや、我らは暗殺を成功させる。今度こそ」

 

 刃は冷たく。

 されどそこから熱が伝わる。

 

 気配は一瞬。すぐに全て消え失せた。

 

「――」

「主殿? なにかございましたか?」

「……いや、なんでもないよ」

「…………そうでございますか。わかりました。何かあれば仰ってください。この千代女、如何なることであろうともなしましょう」

「ありがとう」

「…………」

 

 三人で通りを歩く。

 人通りは多い。

 街の火は堕ちていなかった。通りを人々が行き交う。

 

「お、兄ちゃんじゃねえか」

「大伴さん」

「さんは他人行儀すぎるぜ、兄ちゃん。同じ釜の飯を食った仲じゃねえの」

「はは。そうですね。こんな時間に何を?」

「男がこんな時間に出歩いてるってのは一つしかねえだろ。しかし、ほほう、兄ちゃんも中々隅におけねえじゃねえの」

 

 あ、これ勘違いされてるな?

 

「いや、そういうわけじゃ」

「ガハハハ、隠すことねえじゃねえの。よし、んじゃあ、ともに夜の街へ繰り出すか! 何、安心しな、良い店を知ってるぜ」

「いや、だから」

「主、先に戻っている」

 

 倭建が逃げた!?

 

「ちょ、たすけ」

「問題ない。千代女がついている。それに、この身は既に彼女たちのものだ。ならば、他の女のところには行けない。赤子は預かる。問題ない。薬で眠らせてある」

「おっと、倭建の旦那はお手付きか、ならしょうがねえ。んじゃ、行こうぜ藤丸」

「いや、だからぁ、オレは!?」

 

 そして、あれよあれよという間にそういったお店に。そう歓楽街の楼閣へと連れていかれた。

 もちろん同じ部屋じゃねえよ、しっかり楽しんできな、と別行動。しかし、一度店に入ってしまったからにはニゲラレナイ。

 

 さて、やべえよ、でも興味が、と二つの感情の間で板挟みになりながら。

 

『先輩最低です』

 

 という後輩からの必殺技にもう死にたくなっていると、

 

「失礼いたします」

 

 と大伴が俺に見繕った相手が――。

 

「いや、千代女?」

「はい。千代女に御座いますお館様」

 

 そこには、花魁というべき衣装を身にまとった千代女がいた。

 幼い容姿ながら艶やかさではそこらの女郎など目ではない。寧ろ彼女の本職からしたら、これこそが当然の装いなのかもしれないが、一言で言ってすごく色っぽい。

 

 所作のひとつひとつが目を引く。鼻腔をくすぐる香は、男を誘惑するものだ。

 

「え、ええと?」

 

 しかして、彼女は紛れもないカルデアのサーヴァントである。パスが繋がっている感覚もあるが、これはいったいどういうことなのか。

 

「はい。お館様を見知らぬ女性と同衾させるわけには御座いませぬ。故にこうやって拙者がまかりこしてきた次第。ご安心を、多少薬と暗示の類を使用しましたが問題ない範囲で御座いまする」

 

 忍術の一種らしい。さすが潜入に長けた忍者は違う。

 

「そうなんだ。良かった。正直困っていたところだったんだ」

「お館様をお助けするのが、千代の役目に御座います」

「そ、それで、なぜ隣に。というか、近くない……?」

「ふふ、そうでしょうか?」

 

 何やら蛇に睨まれた蛙になった気分だった。このままでは、何やら食われてしまうのではないかと思うほどである。

 身を寄せる千代女。僅かにはだけた着物から覗くわずかに上気した肌が目の毒だ。緩やかに指先が、太ももを撫でる。耳元をくすぐる吐息は、くすぐったい触感と甘い味覚を感じさせる。

 

 流し目にうるんだ瞳が穏やかな明かりの中でより一層輝いて。全てが一つになってしまうのではないかという距離に彼女はいた。

 そして――。

 

「お館様。これでお館様は死に申した」

 

 冷や水が喉元から広がった。氷のような濡れているかのような刃が喉に触れている。どこから出したのか、いつ突き付けられたのかすら気が付けなかった。

 

「お館様は人間ですので、仕方ないと思ってはいけませぬ。お館様、斎藤殿は言い申した。拙者らと同じサーヴァントがいると。

 それはつまり、暗殺の応酬になりまする。暗殺合戦に御座いまする」

「じゃあ……」

「ご無礼を。護るべき主に刃を向けた責は何なりと。しかし、お館様はお優しい方です。求められれば断ることが出来ませぬ。このような場、敵の刺客ならばもう既に終わっておりまする。暗殺者が刃を抜くのは必ず殺せるとき。暗殺御伽草子なるものがどのようなものかはわかりませぬ、十分用心すべきでございます」

「罰したりしないよ。むしろありがとう。確かに、こんなところにほいほいやってくれば暗殺してくれって言っているようなものだね」

「礼など……しかし、そうですね。ならば、その……褒美に、頭を撫でていただけると……」

「頭を?」

「はい、そのマシュ殿にお聞きしましたが、お館様は大層うまいと、ですので」

「わかった」

 

 それでよいのなら、千代女の頭を撫でる。

 サラサラの黒髪の上から優しく撫でてやる。

 

「んん、これは確かに……」

 

 何を納得したのだろう。

 

「して、お館様。これからどういたしますか? 続きをご所望ならば千代女、お付き合いいたしましょう。お館様のお好きなようにしてくださって構いませぬ」

「いや、やらないから!?」

 

 結局、一晩、泊まっただけだ。

 千代女とは何もしていない。




予約投稿で昼に更新されるようにしましたー。
というわけで久々の更新。
暗殺者ってこえーって話。

ある事情によりヤマトタケルであろうとも、暗殺者の気配を察知するのは難しいのです。
特に暗殺御伽草子の中では……。

あと、千代女とですが、別世界線IFではやりましたが、ここではやってないです。
はい、やってませんよ。

しかし、昨日誕生日でしたので、色々と誕生日ボイス聞きましたが、良かった。

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