Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京   作:三代目盲打ちテイク

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第一節 1

「――っ……」

 

 落下した藤丸は、洞窟の中へと落ちていた。

 どうやら悪鬼羅刹、魑魅魍魎の類が作った巣穴であるらしいが、今は放棄されているようだ。どうにか攻撃を避けることが出来たが、安心などできるはずもない。

 穴があることは、大百足も気が付いている。あの巨体であるが、彼もまた入ることが出来るのだ。

 

『GRAAA――』

 

 洞窟に響く怪物の唸り声。

 天井から降りてくる。

 

「ガンド!」

 

 放つはガンド。魔術礼装の機能の一つを使用する。藤丸程度の使い手であっても、カルデア技術部謹製の魔術礼装によるガンドは、どのような相手の動きでも止めてしまう。

 サーヴァントにすら通用するガンドは、大百足であっても動きを止める。その隙に、藤丸は走る。僅かに感じられる風の流れを頼りに。

 

 大百足も追ってくる。背後から感じられる殺気と魔の息遣い。必ずや肉を喰らうという妄執じみた、魑魅魍魎の本能が足を引く。

 このままでは追いつかれてしまう。

 

「なんとかしないと――」

 

 しかし、どうする。ガンドは再度使用するには時間が要る。連続で使用することは出来ない。

 ならば他の魔術礼装の機能を使うか? 無駄だ。ガンド以外では、サーヴァントを支援するようなものしかない。自らを守るための機能として使えるものはあまりに少ない。

 そもそも、特異点においてサーヴァントとマスターが離れることを想定などしない。そのような事態になれば、数多の英霊と契約を結んだマスターと言えも終わりだ。

 

 藤丸は魔術師ではない。マスターではあれど、魔術師と呼べる人種ではないし、何かしら特別な力があるというわけではない。

 マシュとの契約からか、あるいは別の要因からか。とある山の翁の奥義たる毒すらも無効化するほどの耐毒性能を持つが、その程度の性能でこの大百足から逃げきれるはずもない。

 

 当然のように、追いつかれる。背後に感じる死の息遣い。大百足の顎鳴りが洞窟へ反響する。しかし、一歩、藤丸の方が速い。

 転がるように外へ出る。その刹那、頭上を顎鋏が通り過ぎる。感じる死の予兆。吹き出る汗が背を伝う。

 

「敵対種、感知」

「誰!」

 

 しかし、天は未だに藤丸を見捨ててはいなかった。

 現れる何者か。

 通りがかりの一般人か。

 否。このような山間。今の時期に入る者はいない。漆黒の髪と目の、どことなく幼さを感じさせる少女であれば、それはなおさらだ。

 

「君も、逃げ――」

「種別、大百足。神性なし。なれど魔性なり。守護対象あり。我が武装は完全ではない。しかし問題はなし。殲滅する」

 

 その時、少女が踏み込んだ――。

 音を静かに、音を置き去りにする歩法。無音のうちに少女は、藤丸と大百足の間に割って入る。踏み込みと同時に放たれるのは蹴りだ。

 大百足の頭が蹴り上げられる。その力、尋常ならざるもの。少女の細足に、これほどの力があるだろうか。いいや、ない。

 

 ここが奈良時代の日本。未だ神秘色濃く、神代の面持ちを残す土地であったとしても身の丈を優に超す大百足の顎を容易く蹴り上げるなど尋常ではない。

 そも、あの踏み込みからしてただ者ではない。

 

 さらに、蹴り上げた大百足は、宙を舞う。雪塵舞う空へ大百足は成す術なく、脚をばたつかせる。地面のない空中で出来ることなどあるはずもない。

 そこに少女の追撃が走る。まるで、空中を走るかのように大気を踏みしめて駆け上がる。その動作に一切の無駄はない。

 寧ろ、戦闘ではなく舞を見ているかのよう。はためく着物すらも優美。無駄を排した雅な戦舞にて、大百足の頭上へ駆け上がった少女は、懐の短刀を抜き放つ。

 

 ――一閃。

 感慨もなく。作業の如く、極限まで殺戮というものを研ぎ澄ました一撃は、それだけで大百足を絶命せしめる。

 

「やった――!」

(いいや)。百足は番う。故に――」

 

 もう一匹いる。

 地面より宙へ駆け上がる大百足の番い。落下する少女へ狙いを定め、くびり殺さんと殺意を滾らせる。

 その突撃を少女は避けない。そのまま地面へと叩きつけられる。

 

『GIGIGI』

 

 百足が鳴らす勝利の擦過音。他愛なし。元より化生に敵う人などいないのだと、そう告げている。

 しかして、雪煙が晴れた時。

 

「問題なし」

 

 そこには無傷の少女がいた。寧ろ、傷を負っているのは大百足の方。少女の肉体を挟み込んだ顎鋏は、まるで硬い物でも挟んでしまったのか折れていた。

 少女の肉体はおろか、着物にすら傷一つついていない。

 

「終わりだ」

 

 疾風迅雷が如く、刃が走る。

 短刀とは思えぬ鋭さで、大百足は縦断された。その衝撃は、天へ昇るほどであり、雲を切り裂き、雪を舞いあげる。

 そのおかげで藤丸は雪に埋もれる結果になった。

 

「戦闘終了。損傷なし。人命無事。怪我未確認。確認する」

「ありが、え、ちょ――」

 

 戦闘終了後、藤丸に詰め寄ってきた少女は、雪に埋もれた藤丸の首根っこを掴んで助け出すとその服を脱がそうとする。

 マスターとはいえ男だ。一見して少女にしか見えない何某に服を剥かれようとすれば抵抗する。しかして、その抵抗は意味をなさない。

 

 相手は人間ではないのだ。先ほどの戦いからどう考えてもサーヴァントだ。もし奈良時代の人間が全員こんなことが出来るのならば話は別だろうが、そんな状態ならきっと日本と言う国はもっと人外魔境になっていたはずである。つまり彼女はサーヴァントである。

 

「ちょ、やめ――」

「問題ない」

 

 こちらに問題があるんだ、という藤丸の言葉は聞き入れられず、あえなく全裸にまで剥かれてしまう。隠そうとしても無駄だ。少女は隅々まで余すことなく確認された。

 

「命に別状なし。令呪を確認。マスターと推定するが、真か?」

「とりあえず服を……」

 

 どうにかこうにか服を着て、落ち着いて話せる状況にはなったが、ここは山間ということで一先ずここから離れて街道へ向かうことになった。

 話は道中、歩きながらということになる。

 

「えっと、助かったよありがとう」

「当然のことをしたまで」

「それでもだよ。ありがとう。君がいなかったら、オレは死んでただろうし」

「それで、君はマスターか」

「そうだよ。カルデアから来たんだ。そう聞くってことは君はサーヴァントなのか?」

 

 少女は頷いた。

 

「僕は小碓命(オウスノミコト)。クラスはアサシン。この特異点を修正するために召喚されたサーヴァントの一騎」

「小碓命?」

「なじみがないか。なら、こっちの方の方は知っていると思われる。僕はいずれ、倭建命(ヤマトタケル)と呼ばれるようになる装置(モノ)だ」

 

 それならば藤丸でも聞いたことがある。

 倭建命(ヤマトタケル)。それは古事記や日本書紀にて伝えられる古代日本の皇族の名だ。日本で最も有名な暗殺者であり、多くの偉業を成した英雄である。

 今の姿は、熊襲兄弟を殺す時の女装の姿だという。

 

「どうやらお互いの利害は一致している。僕は(マスター)を必要としている。君は、英霊(サーヴァント)とはぐれている。共闘を提案」

「こちらこそ、よろしく!」

「? その手は?」

「握手、仲良くなる印と思ってもらえればいいかな」

「握手……記憶。理解した。仲良くなる印」

「いだだだだだ!?」

 

 全力で手を握られてしまった。

 

「ええと、やるときは、力弱め、で……」

「了承。では、指示を」

「そうだなぁ」

 

 とりあえず街道に出て、都と目指すということになった。カルデアとの通信は繋がらないが、行動しなければならない。

 ゆえにまずは平城京を目指す。全ての元凶になっているであろう都へと向かう。

 

 街道は、藤丸の予想以上に整備されたものであった。無論、現代と比べるべくもないが、予想以上に整備されていたの驚いている。

 それも当然のこと。日本における道路建設が始まったのは、5世紀だとする記録もあるほどなのだ。そちらの審議は不明であるが、6世紀の奈良盆地において筋違道(すじかいみち)と呼ばれた古代官道がある。

 つまり、ある程度人が行き来できるようにはしてあったということである。特にこの奈良時代では、道路が整備され役人が都と地方との間を行き来していた。

 全国から庸や調を都へ運んできたり、地方の人民が都で働くために、または兵士として、旅をするようになったのだ。

 そのため、人通りもそれなりにある。藤丸たちは多少目立つが問題ない程度であった。

 歩いていると、時間は日も傾きかけている時分となる。どこかで休む場所を探す必要がある。

 

「ならば駅がある」

 

 駅。この時代の街道沿いの宿場のようなものと思っておけばよい。

 主な道路には、約16.5キロごとに駅があったとされており、この近くにもあるという。サーヴァントの知覚能力では既にとらえている。

 

「泊まれるかな?」

「不明」

「まあ、行ってみよう」

「――待つ。敵対反応感知」

 

 それは黄昏時の魔物。せまりくる夜闇からあふれ出すように異形が現れる。魑魅魍魎の類。この時代ではありふれた木っ端妖怪ども。

 旅人たちが血相変えて逃げ始める。

 

「小碓!」

「了承。人命優先――」

 

 まさしく鎧袖一触。迫りくる闇からあふれ出したかのような異形を小碓命は、容易く蹴散らしていく。その様はまさしく舞踏を舞うかの如く。

 逃げる人に向うものから、倒して行く。改めて見たその性能は、かつての特異点で見たトップサーヴァントたちの戦闘能力にも引けをとらないのではないかと思うほどであった。

 

 数分もいらない。数十秒もあれば十分だ。

 そう言わんばかりに、闇夜迫る黄昏時に、白刃が煌き、命が散る。

 

「群れの頭が来た」

 

 その最期に現れるのは、決まって群のリーダー格。一際巨大な獣だ。時代が時代ならば神とすら畏れられたかもしれない巨大な森の主。

 巨大な猪だ。魔猪と言っていいかもしれない。それほどまでに強大。その身に宿す魔力、全身にある傷は長い年月を生きてきた証だ。

 

 それだけに、強い。

 何より群を殺されて荒ぶっている。

 

『GOOOOOOOOO――!!!!』

「――脅威度判定更新」

「小碓、行ける?」

「問題なし。何一つ。命令あれば、その刹那に」

「頼む!」

「命令認識――征く!!」

 

 命令を受けた小碓命に失敗などありえない。例え、相手が自らよりも巨大であろうとも、主の命令がそれを倒せというのならば、倒すまで。

 己の性能を十全に発揮した踏み込みに、まず人間も目の前の魔物の認識すらも振り切る。今までの戦闘は本気ですらなかった。否、未だ本気には遠い。

 しかして、今あらゆるものの眼前で繰り広げられているのは神速舞踏。戦いであるはずが、優雅な舞を見ているかのように錯覚するほどの美しさがそこにはあった。

 

「疾く死せ魔性。おまえたちの居場所は、人の世にはない――」

 

 神も魔も、これからの人の世には必要なし。

 斬魔斬神。

 神を殺し、魔を殺すこと。それこそが小碓命の存在理由。

 

 ゆえに一切の躊躇いなく、その首を刎ねる。

 熱したナイフでバターでも斬ったかのように、容易く巨大魔猪の首は堕ちた――。

 

「戦闘終了。損傷なし。人的被害……なし。任務遂行。主」

「すごい……すごいよ!」

「?」

 

 小碓命は、藤丸の賞賛に首をかしげる。

 この程度のことは日常茶飯事だ。賞賛されることではない。

 苦戦はなく、返り血すら浴びていない。旅人に被害はなく、マスターである藤丸も無事なのである。何一つとして称賛されることなどありはしない。

 この程度、出来て当然なのだ。否、出来なければならないのだ。そう言われてきた。

 

「とりあえず、みんな無事だ。ありがとう」

「礼なら不要(いらない)。当然のことをしただけ、だから」

「それでもだよ。ありがとう。さて、オレたちも行こう」

「……了承――! 否、サーヴァント!」

「なにっ――!」

 

 藤丸に緊張が走る。

 こちらに向かってくるサーヴァントがいる。それが敵か味方か。

 風を切り、こちらに走ってきたのは――。

 

「千代女!」

「お館様!! ご無事で何よりです!」

 

 しかし警戒は無用であった。

 やってきたのは望月千代女。特異点に落ちた時、はぐれたサーヴァントであった。

 

「敵か?」

「味方だよ。千代、彼は小碓命。俺を助けてくれたんだ」

「お館様の窮地を救っていただき、深く感謝いたしまする」

「礼は不要」

「それでもです」

「…………了承」

「とりあえず話は駅についてからにしよう」

「わかりました」

 

 ひとまず、サーヴァントと合流し、藤丸たちは駅を目指す。

 




というわけで、第一サーヴァントは小碓命でした。
はい、ヤマトタケル。仲間内では彼はもっぱらヤマタケと呼ばれています。
イメージはインフィニティーフォースのキャシャーンだったりします

さて、もっちーとも合流した藤丸君。
果たして、無事に特異点を修復することが出来るのでしょうか。

次回を緩くお待ちください。
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