Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京 作:三代目盲打ちテイク
戦闘があったとしても、旅人たちは道を往く。その流れで藤丸たちも駅へと向かうが、千代女の合流によって一つの問題が浮上した。
「まさか、宿場があっても泊まれるのは役人だけとは」
この時代宿に泊まったり、駅の馬を利用できるのは、政府の仕事で旅をずる役人に限られていた。
「さらに役人でも五位以上の者か、公の使者または、急な用事を持つ者に限られています」
庸や調を運んだり、政府の下で働いたりするために旅をする普通の人たちは民家の軒先や、山や野原で眠ったという。
「まあ、オレたちもそのパターンだよね」
藤丸はどうみても役人には見えないだろう。千代女もそうであるし、小碓命だけがなんとかなるかもしれない可能性が無きにしも非ずといった風だが、藤丸がいかないのであれば彼も野宿になる。
「いえ、お館様の身は大事な身。軒先でなど泊まらせられませぬ」
「いや大丈夫だけど、オレは」
いつくもの特異点を超えてきた藤丸にしてみれば野宿など慣れたものである。
しかし、それでも千代女は納得しない。なにより彼女はこの特異点に来て藤丸の窮地にはせ参じることが出来なかったことを悔いている。
そのための挽回をしたいと思うのは当然のことであった。
「……わかった。なら、どうにかできる?」
ぱぁ、と明るくなる千代女の表情。
「もちろんでございまする! では――」
音もなく、千代女はその場から消える。
藤丸たちが駅に着くまでに場を整えておくとのことであった――。
――望月千代女は、駅へ一足先に向かう。
駅には駅戸という者がいる。駅戸は、駅の馬をひいたり、駅に泊まる役人の世話をしたりするもののことだ。また、彼らは駅の費用をまかなう田を耕したりもする。
つまりは、この駅の管理人と言ってもいい。千代女は彼を篭絡することにしたのだ。現在、この駅宿に泊まっている者は、少ない。
決まりから普通の旅人を止まらせることは出来ないだけだ。
くノ一。望月千代女とは、甲賀の忍だ。当然、女としての武器を使うことも仕込まれている。望月千代女としては伴侶もいたが、今の彼女はサーヴァント。お館様の忠実なる忍だ。
此度の失態。望月千代女は、主の窮地をお助けすることが出来なかった。それは何よりも大きな失態だ。小碓命がいなければ、藤丸は死んでいたかもしれない。
そうなっていたのならば、どうやって詫びればいいのかもわからない。
だからこそ、その失態。汚名は働きでもって雪ぐ。それこそが忍である。
彼女は一人、駅戸の元へと向かう。その際に細工を少々。まずは自らの身体を汚すところから。服も少々破いても構わない。
人間というものは、自分よりも下のものには余裕を見せる。慢心という名の余裕を。
この者は自らよりも下である。ならば、なにも心配はいらないという油断。それを誘うための細工。あとは、少々特殊な香を使う。
特殊というか、ようは興奮剤のようなもの。
さて、あとは結果を御覧じろ。
「もし……もし、駅戸殿」
「む?」
戸の外からの声に駅戸は戸を開く。それは女のか細い声であったからだ。
男というのは単純なもので、女の、それも庇護欲をそそられるようなか細い声というものに、簡単に反応してしまうものだ。
戸を開いた駅戸が見たのは、薄汚れ、着物を大いに乱した千代女である。眼帯で隠れていない方の瞳に大粒の涙をためて、さも今しがた大変な目にあってきましたとでも言わんばかりに。
「おお、どうなされた」
千代女は自らがどのように見えるかを心得ている。女忍者の役割とは、女の武器を使うことが主だ。千代女は少々特殊であるが、それでも本分はそれ。
男を篭絡し、情報を引き出す。今回は、篭絡し宿を借り受けるのだ。
「そのようにボロボロで」
駅戸は、そんな彼女を見て、心配そうに駆け寄ってくる。
「さきほど、そこであやかしに……」
「なんと、先ほどの騒ぎか。これは大変であったろう。中で火にあたると良い」
「あぁ、ありがとうございます。なんとおやさしい――」
駅戸とともに中へ入り、戸を閉めた――。
――藤丸らは、駅へとたどり着いた。当然のように中へは入れていないし、近くでは旅人は野原などで野宿をしているようであった。
駅宿の戸の前まで来ると、まるでタイミングでも計ったかのように開く。
「お待ちしておりましたお館様」
そこにいたのは千代女であった。
「その様子だとうまくいったみたいだね?」
「はい。駅戸含め、今宵泊っておられる方々にもお話を通しておきました」
「それはよかった」
「では、こちらへ。夕餉の用意もできてまする。ブーディカ殿たちのようには行きませぬ、忍の粗食なれどどうかご容赦下されば」
「そんなこと言わないで。感謝してるよ、ありがとう」
「いえ、この程度の働き当然です」
「それでも、だよ」
ぽんぽんと、千代女の頭に手を置いてやる。
「むぅ、お館様はいつもそれです。ですが、わかりました。では――」
――ぐ~。
などと、話していると、お腹の音。
腹が鳴るのはこの場の生者である藤丸のみだ。
「っ――ふふ」
思わずといった風に吹き出してしまう千代女。
「はっ――申し訳ありませぬ、お館様」
「良いよ。それよりお腹空いたから早く行こう。千代の料理楽しみだ」
「お口に合えば幸いです」
部屋に行くと火が焚いてあり温かく、少しであるが汁物と握り飯があった。
少なく感じるものの、味の方は申し分ない。
なにより、火の爆ぜる音を聞きながら、食べる握り飯と汁物。シチュエーションが良く、とてもおいしく感じられた。
だが、まだだ。
「うん、おいしいよ。千代」
「それは良かったでございます。小碓命殿はどういたしましょう。一応の用意はありますが」
「不要。サーヴァントに食事は必要ない」
「それでも、みんなで食べよう。その方がおいしいしさ」
藤丸は小碓命の手に握り飯を一つ置く。
「…………みんなで、食べる」
「そう。さあ、千代も」
「お館様は、こうなっては頑固ですから。小碓命殿も観念してともに食べましょう。その方がおいしいでございまする」
「…………了承」
楽しく話すということはなかったが、それでも人と静かで薄暗い宿の中、火の光の中で食べる食事はいつもと違うおいしさと楽しさがあった。
「それにしても、こんな良いところにオレたちなんかが泊まって大丈夫なの千代?」
「問題はないように話を通しております」
「どうやったの?」
「忍の業前ゆえ、どうかご勘弁を」
「そっか。無理とか、嫌なことしてない?」
「無論。心配なさる必要はございません。拙者はお館様の忍。如何様にもお使いください」
「それでも千代は女の子でしょ。あまり無理はしないでよ」
「本当に、お優しいお館様です」
「…………」
「あー!? 最後のおにぎり!」
いつの間にか握り飯はすべて小碓命が食べていた。
「…………主が食べろと言ったが」
「いったけど、全部とは言ってないよ!?」
「おかわりならば千代がすぐに握ってまいりまする!」
「あぁ、良いよ。さすがにこれ以上は悪いし、本当のお客さんが泊まった時に足りないと困るだろうしね。汁物があるから、十分だよ。一個は食べられたから」
静かに。されど、どこか賑やかに。
簡素なれど温かな食事を終えて白湯を一服。
「ふぅ……」
特異点に来てこのような安らぎが得られるとは思ってもいなかった。
その上――
「――お館様、お食事の後はお風呂でも如何でしょう?」
「お風呂?」
其れは良い。
お風呂は日本人の魂だ。
お風呂には毎日入りたいと思うもの。しかし、特異点ではそうも行かない。いつもは水浴びなどで済ませたりするが、お風呂があるならば入りたいと思うのが日本人だ。
「はい、蒸気風呂でございますが」
「でも、あまり気軽に使えないんじゃないの?」
旧い時代では、お風呂には数回しか入らなかったという話を聞いたことがある藤丸は、本当に入っていい物かと思う。
「そこも話をつけておきました。ですが拙者は、余計なことをいたしまいたか……?」
「いいや。せっかく用意してくれたんだから入るよ。ありがとう。小碓も行こう。せっかくだから入ろう」
「それは、命令か?」
「違うけど。嫌?」
「…………わからない」
「それなら入ってみればいいと思うよ」
「…………了承」
服を脱ぎ、風呂に入る。風呂というよりかはサウナであるが、用意されたサウナは丁度良い温度であり温かく気持ちが良い。
ここに来ての疲れが墜ちていくようであった。それと本当に小碓命は男だったのだなと再確認した。見た目は少女のようにも見えるが、きちんと男であった。
「はぁ……気持ちいい」
「…………」
「どう? 小碓?」
「どう、とは?」
「気持ち良いか、どうかってこと。サーヴァントでもこういうことは気持ちいいもんでしょう?」
「……わからない。僕は、人ではないから」
「関係ないでしょ。サーヴァントでも、君は間違いなく此処にいるんだからさ」
小碓命は、よくわからないといった表情であった。
「というか、それはそんなに気にすることなのかな。サーヴァントだろうと、人間だろうとなにも変わらないと思うよ。おいしいものを食べて、おいしいと思ったり、風呂にはいって気持ちいいって思ったりするのは」
それが、人理を修復するために数々の特異点でサーヴァントを見てきた藤丸の印象だった。サーヴァントであろうとも、何も変わらない。
彼らは過去の人かもしれない。けれど、今こうしてここにいることには、嘘も偽りもなく、真のこと。生きてはいないとしても、此処に存在していることに変わりはない。
ならば、何を憚ることがある。自分の愉しみに埋没するのも良いだろう。美味しい料理に舌鼓を打つのもいいかもしれない。
「自分のしたいことをして良いと思うよ」
「しかし、僕には使命がある」
「それはオレも同じだよ。でも、だからって四六時中張り詰めてたら疲れるし」
腕をあげて伸びをして全身に緩やかな蒸気を浴びる。
「それに、あまり考え過ぎてるとどうにかなりそうだしね。ほどほどで良いと思うよ。人ってそんなもんだろうし」
「ほどほど…………了承」
「そうそう。それが一番だよ。何も特別なことなんて要らない。ただ自分がやりたいようにやれば良いとオレは思う」
「…………」
「お館様-、加減はいかがでしょうかー!」
戸の向うから千代女の声がする。
「いいよー」
「では、お背中などお流ししましょうか!」
「ぶっ!?」
「どうした、主」
「い、いや、千代が変なこというから。げほっ――」
その時、藤丸は蒸気まで吸い込んでしまいむせてしまう。
途絶えた返事。聞こえる咳に何かあったのではないかと、千代女が心配して入ってくるのは当然のことであった。
「お館様!! 大丈夫でござるか!」
「ちょ――――!?」
「大丈夫だ。問題ない。主は健康そのものだ」
「む、本当でござるか? 小碓命殿、くれぐれもお館様を見ておいてくだされ。すぐ無理をなさいますから」
「了承」
千代女はすぐにまた風呂の外へ出ていった。
「大丈夫か」
「大丈夫……なんかいろいろおもっていた展開と違ったな、って思っただけ……」
「?」
女子の風呂場乱入というお約束も済ませたところで、遠慮する千代女を小碓命に手伝ってもらって風呂場に押し込んだ藤丸は、すっかりと用意されている寝床に寝転がる。
「はぁー」
見慣れない天井が広がっている。日本の古い家を思わせる。吹き抜ける風が少しだけ怖い軋みを出すが、それと同時に時折ばちりと爆ぜる火の音が、心地良い。
藤丸の意識は、すとん、と眠りの中へ落ちていった。
それと入れ替わるように、風呂であったまり頬を上気させた千代女が部屋へ入ってくる。
「はぁ、良い風呂で御座いました。拙者まで風呂をいただけるとは――お館様?」
「眠っている」
「そうでございましたか。では、御風邪をひかれないように布団をかけてさしあげましょう」
藤丸に布団をかけると、その傍へと正座する。
「そうでございました」
それから、思い出したように千代女は小碓命へと向き直り、深々と頭を下げる。
「此度はお館様をお救い頂き、誠にありがとうございまする」
「別にいい。人を助けるのは当然」
「小碓命殿は本当に謙虚な方でございます。まさしく英霊とは貴方のような者のことを言うのでしょう」
「…………わからない。僕は……いいや。この場合は、それほどでもない、と言えばよいのだろうか」
「それでよいと思いまする。拙者も良くはわかりませぬが。お館様ならばそうおっしゃられるはずです」
「そうか…………そうか……」
そう言った彼の顔は、どこか微笑んでいるようにも見えた――。
一節は、この三人での三人旅。
ほのぼの旅道中をお楽しみあれ。
本格的な始まりは、都に近づいてから。
次回は、新たな出会いを交えながら、旅をしよう――。