Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京 作:三代目盲打ちテイク
翌朝。
藤丸が目を覚ますと、彼の顔を覗き込む千代女と小碓命の顔が視界一杯に広がっていた。端正な顔が二つも目の前にあったら、眠気も一気に吹き飛ぶというもの。
もとより寝起きは良い方だ。意識は明瞭、視界は良好。二人の顔が良く見える。
「え、あ、えっと、おはよう?」
「おはようございます、お館様。今日はとても良い天気です」
聞こえる鳥のさえずりと差し込む光が、確かに千代女の言うことを裏付ける。清々しさは現代の比ではない。カルデアの外よりは過ごしやすいが、同じくらいには澄んだ朝の気配がしていた。
それと微かな汁物の匂い。
「朝食、準備で来てるんだ」
「はい。今朝がた良い猪の一家を捕まえることが出来ましたので。宿泊代として、山菜と猪を置いておきました。これはそのあまりから作らせていただいたものです」
「そっか。美味しそうだね。じゃあ、みんなで食べようか」
「はい」
「……了承」
――さて、朝食を食べ終えた一行は、都に向って街道を進んでいた。
「平城京までどれくらいかかる?」
「三日ほどの旅となる予定でございまする」
「……僕が抱えて走れば、すぐにつく」
「…………流石に、それはやめておこうかな」
「何故? そちらの方がはるかに合理的」
「いや、その速度にはさすがに耐えられないかも」
「…………そうか」
サーヴァントの最高速度で走れば、確かに早くつくかもしれないが、藤丸の方が耐えられない。それに街道を歩く人は、冬ということを考えても多くはないがまったくないというわけではない。
人外の速度で走っている姿を隠すのは難しい。なによりほぼ平野で見通しが良い。ここでそんな速度を発揮すれば、雪を巻き上げることにもなって大いに目立つ。
レイシフトの途中に攻撃を仕掛けてくるような規格外を有する敵がいるのだ。そんな奴らの目にわざわざ止まるのは本意ではない。
旅人に混じり自然に都に向かうのが最良。
藤丸らもそれはわかっているため、街道を進む。道中は風は冷たいが、現代ほど身に染みる寒さというわけでもない。
この時期は、現代ほど寒冷ではなくむしろ温暖であったのだ。
半日も歩くと小高い丘の上。ちょうどよく座って昼を食べることが出来る。
「どうぞ、お館様」
「ありがとう。はい、小碓も」
「…………」
千代女が用意した昼食を皆で食べる。小碓命もわかってきたのか、素直にうなずいて食べてくれる。
分厚い雲が晴れて冬の太陽が顔を出し、光が降り注ぐ。春には未だ遠く、寒さはこれからが本番になっていくのだろうが、それでも穏やかな冬晴れであった。
その時――。
『――ようやくつながった!』
「うわっ!? ダ・ヴィンチちゃん!?」
通信機が回復した。
『先輩! 良かった、ご無事ですね?!』
「あ、ああ、大丈夫だよマシュ」
『いやぁ、正直今回は、万能の私でも肝が冷えたよ。まさかレイシフトに干渉してくる奴がいるなんて思いもしない。それで状況はどんなだい?』
「えっと――」
ダ・ヴィンチちゃんに今までのことを話す。
望月千代女を残したサーヴァントの全滅。
異形に襲われていたところを小碓命によって助けられたこと。
千代女と合流して、今現在平城京を目指していること。
『なるほど。まずは、小碓命、マスターを救ってくれて感謝しよう。もし君がいなければ、すべてが終わっていたところだった。ありがとう』
『私からもお礼を言わせてください。マスターを救っていただきありがとうございました、小碓さん』
「……当然のことをしたまで。なにより……そうなるようになっていた」
『それでも、だ。藤丸君に言われなかったかい?』
「何度も」
『なら、賛辞は素直に受け取っておくものさ。
さて藤丸君。これからはこちらでサポートが出来る。今までの分の罪滅ぼしというわけじゃないけれど、少しだけダ・ヴィンチちゃんの特製アイテムを送ったよ』
「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん!」
ともあれ、カルデアとの通信が回復したことは良いことだろう。そのおかげで、この特異点の情報を集めることが出来るし、サポートを受けることもできる。
特製アイテムというのは、なんだかよくわからないものだった。
ダ・ヴィンチちゃん曰く、役に立つとのことであるが、一体何の役に立つのだろうか。とりあえず胸ポケットにでも入れておくことにする。
『ともかく、慎重に、だ。なにせ、相手はレイシフトに干渉してくる化け物だからね。何が起きるかわからない。なるべく目だないようにが得策だ』
そのための服だったのかとホームズが言っていた意味がわかるというもの。
『あまり通信もしない方が良いかと思われます。レイシフトに干渉できるということは、こちらの通信にも干渉できる可能性がありますから。なので、定時連絡という形にしましょう』
マシュの提案で朝と昼、夜の三回の定時連絡をする時間を設けた。どちらもカルデア側から連絡が来る手はずであり、極力目立たないようにするということで、今回の連絡を終えた。
藤丸一行は再び平城京を目指して歩き始める。
時間は瞬く間の間に過ぎていった。
視たこともない景色を見て、視たこともない場所を歩く。
時間が過ぎるのがとても早い。
ここが危険な特異点であるということを忘れさせるくらいには、冬の美しい平野の景色がそこに広がっていた。現代においては、視ることが叶わない、美しき青と緑の。
まあ、そんな景色を純粋に楽しまない輩も多かった。
三人という少人数の旅だ。野盗の類が狙わないはずもない。
「今日は野宿かな」
近くに駅はない。小碓が見つけた森の広場で野宿だ。
「では、今、火を起こします」
千代女が火を起こす。慣れた手際は忍だからだろうか。すぐさま淡い橙色の炎が立ち上り、静かな森の中に火花が咲き、パチパチと薪が爆ぜる音が響く。
「……魚を取ってきた」
どこかへ行っていた小碓命は、どうやら川から魚を取ってきたようであったが――。
「なにそれ!?」
小碓命が抱えていたのは、魚と言うには、あまりにもおかしすぎた。長く、分厚く、何よりも牙やら爪やらが生えている。
どう見ても藤丸の常識の中にある魚ではない。
確かにこの時代、魑魅魍魎、悪鬼羅刹の類がいまだに色濃く残っている時代だ。人々は神と付き合い、時には戦いながら過ごしていた人外魔境の時代だ。
このような魚がいてもおかしくはないのだろう。
「……さかなだが?」
「食べられる、の……?」
「毒気の気配はない。人間でも食べられる。栄養はある」
「拙者にお任せを。美味しく調理してみせまする!」
さあ、早く! といわんばかりの千代女の勢い。
「わかった。千代、お願い」
「はい!」
嬉々として魚の調理に向かう千代女。名誉挽回を目指して、いついかなる時、どのような働きでもするという科の如し。
現にそのつもりなのだろう。気合十分だ。
男二人は、女の子の手料理が出来るまで待ちぼうけである。
「……主、常々思っていたが聞きたい」
「なに?」
「栄養補給に美味しさというものは必要か?」
「そうだなぁ。あったら嬉しい、かな」
「あったら、うれしい……?」
「そう。別に栄養を摂るだけなら味なんて関係ないと思うけど。でも、それじゃあ満足は出来ない」
「何故だ? 栄養を摂取すれば身体は満足する。活動に支障は出ない」
「心が、かな」
味のない食事をただ摂っても、心からの満足は得られない。
それが誰かと食べる食事ならば猶更だろう。美味しくない食事を誰かと一緒に食べても、あらゆる喜びが半減する。
おいしい食事を、誰かと食べる。それが大事な、心の栄養になるのだ。
明日も頑張ろうという、未来へ続くための。
「まあ、オレも良くはわかってないんだけどね。どうせなら、美味しいご飯が食べたいっていうのは、おかしいことかな?」
「…………わからない。僕は……」
答えに窮した沈黙に、薪が爆ぜる。
「――昨日の握り飯は美味しくなかった?」
「……わからない」
「オレは、美味しかったよ。汁物も。料理自体もおいしかったけれど、たぶん二人がいたからかな」
「僕らが、いたから……?」
「うん」
料理もおいしかった。けれど、一人じゃなかったからもっとおいしかった。
「料理がおいしいとかは、個人差があるから、オレはどうこう言えないけれどみんなでご飯を食べる時の、料理のおいしさはきっとみんな同じだと思う」
「…………わからない。わからない、けれど……少しだけ、覚えがある気がする……」
「そっか」
「――お館様、出来ましたー!」
調理も終了。
あの謎の魚は、美味しそうな焼き魚となっていた。料理マジックおそるべし。
「きちんと小骨も抜いてありまする」
「本当だ、食べやすい」
たんぱくながらもしっかりと脂ののった身は、口内でとけとても深い味わいがする。これがあの魚とは思えない魚から出来たものだとは思えないほど。
一口口の中に放り込めば、とけて味が喉へと流れ落ちる。
「あぁ、美味しい」
「……これが、おいしい……」
「それと、甲賀秘伝山菜茶でございまする。疲労回復もできますゆえ、どうぞ」
「ありが――ぐぇぇ」
「あぁ、お館様!?」
あまりの苦さに思わず吐いてしまった。甲賀秘伝。小太郎君の兵糧丸などでわかっていたはずだ。あまりにもマズイ。
やはり、アレだ。うん、忍に伝わる糧食系列には現代人は、手を出してはいけないのだ。
「これは、おいしくない」
「小碓殿まで!?」
「はは」
「お館様ぁ、笑わないでくださいー!」
「いや、ごめんごめん」
森の中に楽し気な、声が響く。
そういえば、そろそろ定時連絡の時間であるが、連絡がない。
「どうしたんでございましょう?」
まさか忘れているということはあるまい。ダ・ヴィンチちゃんは、そういうところは意外にしっかりしているし、マシュもいる。
カルデアの職員だって、こういうことは忘れたことはない。つまり、何かが起きているのだ。
藤丸側から通信を試みてみるが、通信は不通。つまり、阻害されている。
「……主」
「小碓?」
小碓命が立ち上がる。
小碓命を見上げた藤丸の目に、魔性の赤い月が映った――。
「敵対の気配を感知」
「――!」
出現は唐突。
まるで、空間自体から生まれ出たかのように、人間が出てきた。
まぎれもなく魔性の者。それが常態の者であるはずもなし。しかも、この時代の日本の格好ではない。藤丸はその姿を知っている。
「ローマ兵!?」
一糸乱れぬ統率のとれた動き、それは藤丸が見たローマ兵の中でも選りすぐりのそれだとわかる。まさしく精鋭中の精鋭。
何より、彼らが放つ気配が尋常ではない。まるで、目もくらむような光を見ているかのよう。夜だというのに昼間なのでないかと錯覚するほどの幻想光量。
これは明らかにサーヴァントの襲撃。
少なくとも軍勢を持つ者の仕業。この時代の日本にローマ兵などいるはずもないのだから。
「お館様!」
まず千代女と小碓命が動く。
千代女はまず、藤丸を護るべく駆け寄ろうとする。当然だ。マスターこそ、こちらの弱点。彼を失えば全ては水泡に帰すのだから。
だからこそ、狙われる。
快音が響く。それは弓を持つ者ならばほれぼれするほどの快音。ローマ弓兵からの一射。
「――ぐっ!?」
その脚を、矢が射抜いた。英霊が放つような、山を削り取るような、大地を割るかのような流星の如き一射ではない。
射抜いた足を抉り、ちぎれ飛ばすことなど程遠い。しかして、尋常ならざる技量にて放たれた一射は、的確に千代女の関節の間へと直撃していた。
左足がこれで動かない。必然、疾駆中に受けた一撃、脚の動きを失えば、エネルギーは行き場を失い、転倒へと流れていく。
「それでも――!」
それでも千代女はサーヴァントだ。英霊とまでなった甲賀の忍。足の一本を失った程度、どうとでもできる。
「ああ、そうであろうな」
倒れ込むのままに右手で地面を撃ち、そのまま藤丸の元へ征こうとしたが――。
「な――!?」
その手を射抜かれ、地面に縫い付けられる。その強弓果たして、ただのローマ兵のものであったのか。否、そんなはずもない。
千代女を足止めしたならば、次は頭を狙う。一糸乱れぬ動きで、ローマ兵は藤丸の首を獲りに行く。
「お館様!!」
させるものか、千代女は、無理やりに矢を引き抜き、短刀でもって藤丸へと群がらんとするローマ兵たちの首を切りつけていく。
紛れもなく致命傷。最小の動作で、敵を無力化するならば、急所を狙う。首か、心臓。この場合は首。
「だからどうした! 我らが陛下ならば、この程度では死なない!」
だが――。
「なんだと――!?」
首を切りつけた。それは紛れもなく人間ならば致命傷。並みのサーヴァントであろうとも、急所だ。それなりのダメージにはなる。
なるはず、だった――。
ローマ兵は止まらない。
「なら、解体を実行する」
そこに割り込むのは小碓命。藤丸へと襲い掛かるローマ兵を吹き飛ばし、一息のうちに四肢を解体する。一秒にも満たず、瞬きをした間に、藤丸へと襲い掛かってきていたローマ兵を解体する。
「まだだ――!」
だが、この
「なんなんだ、こいつら!?」
藤丸が魔術礼装によって読み取った情報は、彼らは下級サーヴァントと同等の状態であるという事実のみだ。だというのに、訳が分からない。
まだだ、という言葉と共に、彼らは何をされても復活してくる。スキルや魔術の類ではない。まるで
このままでは千代女は倒され、藤丸は殺される。
千代女も良くしのいでいるが、ローマ兵は巧い。藤丸を狙い、そこを庇う千代女を狙い打っている。ジリジリと削り、いつか動けなくなるまで矢を射て剣で斬り、槍で刺すのだろう。
藤丸も無傷とはいかない。傷は浅いがいずれは致命傷を受けるかもしれない。
小碓命には、彼と出会ってからのことが反芻された。
このままでは彼は死ぬだろう。
良いのか――?
「……よくない。まだ、いろいろと教えてもらいたいことがある――細切れにしよう」
小碓命は、戦闘意識を一段階上へと切り替える。より純粋に。より純化して、より人間から遠ざかるように――。
猛る魔力とともに、彼は疾走を開始した。
「例え、どれほどの強敵であろうとも」
ローマ兵は不退転。まるで強敵との闘い方など熟知しているとでも言わんばかりの密集陣形。突き出される槍衾。放たれる矢雨に剣林。
「――遅い」
だが、その速度に既に小碓命はいない。
闇夜に、赤い軌跡が走る。それは、小碓命の赤く輝く瞳。
「まだ――」
「――喚くな」
一息に短刀が振るわれる。
斬線が走り、斬撃が煌き、黒夜に白刃が舞う。
ありえざる切れ味を発揮した短刀は、ローマ兵を十七分割の賽へと変える。
四肢を削ぎ落してなお、向かって来るというのならば、細切れにするのみ。
残虐の血の雨が降り注ぐ。されど、それを成す小碓命には一滴の返り血すら浴びることはない。流麗な舞踏の如き過剰殺戮が織りなす無双劇。
藤丸に認識できたのは、闇夜に煌いた白刃のみだった。目にしたのは、地面に転がる死体ばかり。
「く、なんだ、こいつは――!」
死ぬ。
「ローマに栄光あれ――!!」
死ぬ。
死ぬ。死んでいく。
あれほど苦戦したローマ兵たちが死んでいく。
意志、覚悟、根性。そんなものが通じるのは小説の中だけの話だ。現実問題、それではどうにもできない事態が必ず存在する。
その時頼れるのは地力だけ。積み上げた自らの力のみ。ゆえに、力の足りぬ者は死ぬ。呆気なく、何の感慨もなく無残に死ぬだけだ。
これが小碓命。否。まだ本気ではない。彼がその真名を名乗った時こそ――。
「お館様、大丈夫ですか」
「うん、なんとか」
「流石は小碓殿……」
「うん、凄い……」
だが、藤丸にはどうしようもなく、戦う彼の姿が悲しく見えた。
「あれ?」
そして、気が付いた。
ローマ兵が死ぬ。
次々と現れるローマ兵たちが死んでいく。
築き上げられる屍山血河。
圧倒的不利だというのに、ローマ兵たちは笑っていたのだ。
屍山血河。それこそは舞台だ。屍山血河の最奥で積み上げられた死骸の舞台。それこそは英雄というものが踊るための場。
舞台は完成した。英雄を英雄として語る存在がいて、そして守るべき命がある。さあ、今こそ、英雄譚が始まる。悲劇を痛烈な希望が照らす。
「――そこまでだ」
痛烈なる光の英雄が――来る。
遅くなって申し訳ありません。
リアルがガチでヤバイので、書く暇がなくて本当、申し訳ない。
派手なのは此処だけです。
シルヴァリオっぽいのが出て来たけど、シルヴァリオじゃなありません。
こういう設定のサーヴァントを友人が作成したのです。
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