Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京   作:三代目盲打ちテイク

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第一節 4

「――そこまでだ」

 

 森に声が響いた。

 それだけで、此処はローマとなった。

 比喩ではない。これは紛れもない事実。奈良時代の日本の森が、ただ一人、この男が来て声を発しただけでローマとなったのだ。

 

「これ以上、我がローマ兵を殺させてやるわけにはいかん」

 

 夜だというのに、今や、此処は昼間だった。それほどまでの幻想光量の密度は高い。目の前に光り輝く黄金が歩いてきたかのよう。

 彼が歩くだけで、世界が変わっていく。ローマへと。世界の全てがローマと化していく。

 

 藤丸からすれば、目の前に巨大な壁でも現れたかのようだった。いいや、壁などとそんな生易しいものではない。紛れもない英雄(かいぶつ)だ。

 視界にとらえてしまえば、目をそらすことなどできやしない。鮮烈に過ぎる輝きは夜だというのに目がくらむ。彼にならば跪いても良い、そう思えてしまう。

 彼の男こそがローマ皇帝。帝国を最も巨大な竜へと変えた男。

 

「陛下!」

「下がるが良い。この男、貴様らでは荷が重かろう。無論、貴様らの半数を犠牲とすれば、今現在のこの男を殺すことが出来ることは知っている。だが、この先に影響が出る。故に、下がれ」

「は!」

 

 ローマ兵たちが下がっていく。だが、威圧感は増し続けていく。敵が減ったからといって、脅威が下がったわけではない。

 むしろ逆。この男は味方がいないほうが強い。

 

「――さて。名を聞こう。(オレ)我が足跡に続け(オプティムス)()玲瓏なる赤金大隊(エクセルキトゥス)をよくも屠った極東の武士(ローマ)よ」

「…………」

 

 小碓命の返答は言葉ではなく刃。

 神速の踏み込み。雷神かと見まがうほどのそれは、されど彼が腰から引き抜いた何の変哲もない長剣によって防がれる。

 続けて接続される払い、三段突きに回転切り。

 流麗な水の如き斬撃技接続は、舞踏でも見ているかのように美しく、されどすさぶる神々のように荒々しい。まさしく暴風。嵐のそれ。

 

 だが、(ローマ)は余裕を崩さない。吹きすさぶ暴風の如き剣閃の中にありながら、それらを的確に長剣でいなしていく。

 

「言語を介さぬ獣か。いいや。そうではあるまい。獣に後れを取る余の大隊ではない。ならば、殺戮機械か。なるほど、極東の島国(ローマ)にこのような者がおったのか」

「――――!」

 

 そして、戦闘純度が増していく。戦乱密度は神代の決戦と言ってもいい。もはや此処だけ、世界が違う(ローマ)

 神速にて繰り出される闇のからの白刃は、男に傷一つ付けられない。人間では認識不能。サーヴァントであろうとも、反応困難な速度域。 

 これについて行けるのは、速度で勝るランサーのクラスのサーヴァントくらいのものだろう。しかして、

 

「余は帝国(ローマ)である。(ローマ)に勝ちたくば、それ以上の重さを持つが良い。極東にて煌く(ローマ)よ」

 

 ――(ローマ)を揺るがすこと叶わず。

 例えどれほどの敵であろうとも(ローマ)の栄光は陰ることはない。ローマは、此処にある。男が此処にいる限り、栄光の帝国は燦然と歴史の中に輝き続けるのだ。

 

 長剣が振るわれる。

 凄まじい剣戟の連撃が始まる。その一つ一つ、技巧の活かされていない部分などありはしない。無駄はなく、振るわれる刃の一振り一振りが一撃必殺。

 それをかいくぐり、受け流し攻撃を放つ小碓命の技量もまたすさまじい。だが、威力が違う。短刀が悲鳴を上げる。ただの長剣。無造作に振るわれた一撃ですら、超技巧にて受け流さねば掠っただけで短刀はへし折れ砕け散る。

 

 激突する光。

 閃光がはじけ、剣光は煌びやかを通り越してただただおぞましい。あまりにも美しすぎるものを見ると人は恐怖を感じることがある。

 あまりにも隔絶しすぎたものは、既存を超過したものは、畏怖の対象でしかない。

 そもそも、今まで打ち合えていることの方がおかしいのだ。それこそ小碓命の凄まじき技量と能力を示している。

 だが――。

 

「ぐ、ぉ――」

 

 (ローマ)から放たれた拳打は、まるで流星を受けたかのよう。

 

「この程度か」

 

 ――この(ローマ)には通じない。

 一匹の蟻が、象を噛もうともまったく痛痒を及ぼすことが出来ないことと同じ。例えどれほどの技量、能力を持っていたとしても、個人が国家という枠組みに勝つことが出来ないのと同じことだ。

 土俵が違う。格が違う。そもそも比べるものを間違っている。

 

 国と個人を比べてなんとする。比べることなどできやしない。だが、この男は皇帝(ローマ)なのだ。個人にして国家そのものである。

 そんなものを相手にするならば、相手もまた個人にして国となる必要がある。

 

「この――!」

 

 繰り出される攻撃。傷をつけてもなお、ローマは止まらない。この程度では止まらないのだと言わんばかり。

 その刃に内包された重さが違うのだ。

 

「軽いぞ。本気を出すが良い。本気を出せぬというのならば、出させてやろう――我が帝国の重さを知るが良い」

 

 惰弱極まる男ならば、これで死ね。この程度で死ぬようでは、この先に進むことなどできやしないのだから。

 

「勝つのは、(ローマ)だ。――我が目前に壁は無し(ディェーウ=パテル)()しからばこの世の地平に闇はなく(ヴィットリア)

 

 放たれる超質量攻撃。

 否。振るわれたのは長剣ただ一つ。

 しかして、その重量は、長剣のそれではない。この剣こそ、祈りと願いの結晶。生前、後世、(ローマ)に描いた勝利と栄光への願いだ。

 ゆえに、この剣の総重量、ローマ帝国そのもの。もし、これを受けるならば、同等以上重さを持つ必要がある。個人で国家と戦争をしているようなものだ。こんなもの受け止められるはずもなし。

 

「小碓、逃げろ!!」

 

 藤丸の叫びが木霊する。

 小碓命の絶命は必至。あの斬撃、見ただけでわかるほどの超重量。その重さで界が軋んでいる。あれは、かつてこの世にて栄華を極めた帝国そのものをぶつける攻撃だ。

 

「――――!」

 

 だが、小碓命も不退転。退けるはずもない。彼の背には、護るべき命がある。

 ならばこそ、今こそが――。

 

「ガンド!」

 

 放たれるガンド。魔術礼装からの援護。

 

「笑止」

 

 ただの魔術で国が止まるものか。

 当然だ、これで止まるなどと思っていない。必要だったのは一瞬。その隙。それだけあれば、忍には十分。

 

「千代女!!!」

「はい!!」

 

 放たれるは煙幕玉。ありったけを放出し、辺り一面を煙幕で包み込む。もはやすぐ目の前ですら視認不可能。奇襲、撤退。どちらも取れよう。

 

「小碓!」

 

 選択は撤退。勝てないならば逃げの一択。それ以外にない。

 

「――逃げるか。それも良かろう。良い戦術眼だ。退き時を見極め、的確な手を打った。此処は見逃そう。余は、この先の関で待つ。都に行くつもりならば、余を倒してからにするが良い」

 

 背に響く黄金の声を聞きながら、藤丸らは一時撤退した。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 森から離れ街道へ出た。明るい満月の月明かりが、夜を照らしている。

 

「敵に追ってくる様子はありませぬ」

「とりあえず、助かった、か。千代、とりあえず治療するよ」

「かたじけのうございます」

「小碓は?」

「……問題ない」

 

 しかし、あのサーヴァントをどうするかが問題だった。

 

「関で待つって言ってたけど、そこを迂回できないかな?」

 

 なるほど。確かにそれが合理的だ。勝率が薄いならば、避けて通るのが最も良い選択だろう。

 

「では、拙者が抜けられる場所がないか調べてきまする。小碓殿、お館様を頼みます」

「了承」

 

 頭を下げて千代女が闇へと溶けてゆく。

 

「小碓、本当に大丈夫?」

「……問題ない。機能は正常。魔力も活動に支障はない」

「それならいいけど。出来れば無理はしないでほしい」

「……なぜだ。君が言っていることは、理に反している。僕らはサーヴァントだ。傷ついたところで何の問題もない」

「それでも、だよ。そうだとしても、オレはあまりみんなに傷ついてほしくないんだ。我儘だと思うけど、大切な仲間だから」

「仲間……」

「――ただいま、戻りました」

 

 話している間に千代女が戻って来る。

 

「どうだった?」

「結論から言えば、関を通らぬ以外に抜け道はありませぬ。どうにも魔術的に塞がれているようで、関以外に都に入ることも出ることも叶わぬと」

「なるほど」

 

 つまり、これから都へ行くためにはあの男が待つ関を超えなければならないということだ。

 敵は強い。あの男自身もそうであるが、ローマ兵もいる。並みのサーヴァントではあの数と連携には太刀打ちすることは出来ない。

 

 特にマスターを護らなければならない千代女や小碓命はどうやっても後手に回るしかなくなり、そうしている間に封殺されてしまう。

 かといって、マスターを遠くにやってサーヴァントのみで挑むことも難しい。

 

「魔を感知」

 

 このように、この時代、山や森の中にはそこの住人たちが存在している。巨大な猪や狼。巨大な虫などの魑魅魍魎、果ては怨霊の類まで。

 いくら魔術礼装があるからといって放置すればただでは済まないだろう。どう考えても手が足りない。

 

 ―――――

 

「どうしたもんか……ん?」

 

 藤丸は何かの声を聞いた気がした。

 

「どうかなさいましたか、お館様?」

「いや、なんか頭の中に声がした、ような?」

 

 何かに呼ばれたような、そんな声がした気がした。

 

「こっちか」

「あ、お館様!」

 

 千代女と小碓命が顔を見合わせてから藤丸を追いかける。

 いつしか森は竹林となっていた。

 そして、その竹の根本に赤子がいた。

 

「なんで、こんなところに?」

「…………」

「わかりませぬが、化生の類の気配は感じませぬ」

「このままにはしておけない」

「では、拙者が」

 

 千代女が駆け寄って赤子を抱き上げる。大人しい赤子であった。笑顔美しく、月夜の中で光り輝いているかのような笑顔である。

 

「拾ってどうする」

 

 小碓命の言う通り、役目がある。確かに赤子は見捨てられないが、先の展望もなにもないのに拾っても意味がない。

 さて、困ったどうしたものか。

 

「どこか人里にで育ててもらうのがいいかな?」

「しかし、突然子を育ててもらえぬかなどと言って育ててもらえるでしょうか」

「うーむ」

 

 確かに、ただの旅人がそんなこと言ってきては困るだけだろう。よしんば預けられたとして、その後どうなるかもわかったものではない。

 このように大人しい子であるものの、赤子世話は大変であることは想像に難くないのだから。

 

 ともあれ、このまま竹林の中にいてもどうにもならない。街道に出て民家でも探そうとしたところ、

 

「何者だ!」

 

 庵とそれを護衛している一団と行き会った。

 庵とは貴族が野宿するときに使われるテントのようなもののことである。つまり、ここにいるのは貴族だということだ。

 それをすぐに察した千代女が前に出る。

 

「申し訳ございませぬ。こちら都への旅の途中、森の中で赤子を拾いまして、難儀しておったところなのです」

『GRAAAA――』

 

 同時に響く異形の声。

 今は夜。化生の時間。

 

「く、このような時に!」

「小碓」

「――了承」

 

 されど、守るべきものがいるならば、動くことを躊躇うことはない。翻る白刃は、化生の命を断ち切っていく。

 近づく化生の数は多い。武装した一団とても、呑み込まれてしまうのではないかと思うほど。近年まれに見る化生の大群。

 小碓命は、それらを的確に処理していく。先ほどの戦いから時間は立っていない。戦闘意識は未だ昂ったままだ。

 神速。人を超えた超常の技は、美しさを見せつける。

 

「おぉ、こりゃすげえ」

「頭!」

 

 護衛の一団をまとめている偉丈夫がそれを眺めて呵々と笑う。

 

「ありゃあ、兄ちゃんのツレかい?」

 

 豪放磊落という言葉が似あいそうな、貴人の護衛をしているとは思えないような男が気軽に藤丸へと話しかけてくる。

 一目でこの三人の中で頭であると見分けたのだろう。

 

「ああ見えて男だよ」

「そりゃあ、動きを視りゃわかる。随分と腕の立つのを連れてるじゃねえの」

「そうでしょ」

 

 ちょっと胸を張ってみた。

 

「ハハハ! いいねえ。部下を誇れるってのは、良い頭ってことだ。兄ちゃん名前は?」

「藤丸」

「藤丸だな。オレは、そうだな。大伴とでも呼んでくれや」

「よろしく」

「おう。さて――おら、てめえら! 兄ちゃんの部下だけに任せてんじゃねえぞ。テメらも仕事しやがれ!」

 

 へーい! というゆるい掛け声とともに、魑魅魍魎の群れに武装した集団が向かっていく。普通の人間には勝てないのではないかという心配はいらない。彼らもまたこの時代の人間であり、魑魅魍魎の類には慣れた人間たちだ。

 うまく群を誘導し、各個撃破していく。小碓命のように一撃必殺とはいかないが、追い込み、数人で倒していた。

 

「小碓!」

 

 ならば、それに合わせようと、藤丸が小碓命へと指示を出す。より効率的に追い込み、化生を倒す流れが出来上がる。

 藤丸はそれを俯瞰しながら、ほころびが出そうな所へ逐一小碓命や千代女を加勢に出していた。

 

 その甲斐もあって、それほどかからずに化生の類は討伐することが出来た。

 そして、その後は――。

 




くそう、このローマ皇帝凄まじく書きづらい。ルビが多すぎる!
でも書きやすいというジレンマ。
某光の英雄モチーフの英霊だから、凄い書きやすいんだよ……。

さて、とりあえずそろそろキーキャラとかと合流です。
リアルが忙しいのでゆっくりとお待ちいただければと思います。
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