Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京 作:三代目盲打ちテイク
化生を倒した後――。
「おっしゃ、飲め!」
宴会が始まった。
「こんなことしていいの?」
「何言ってやがる。存分に働いた。なら、それに対して褒美をやらんとな。こんなところだ。金なんて出しても仕方ねえ。なら、酒やら食事やらが一番だろ?」
「確かに」
「そら、兄ちゃんも飲みな」
「えっと――」
断るのも悪く、少しだけならと勢いに押されて飲んでしまった。
「お、良い飲みっぷりだ。それにしても、ありがとな」
「なにが?」
「何がって。やべえとこに加勢送ってたろ」
「お礼を言われるほどのことじゃないよ」
「――それでも、でしょ?」
頭をぽんぽんと、小碓命に撫でられる。
「はは。そうだったね」
「おう、そっちの綺麗な兄ちゃんも助かったぜ。すげえな」
「……主、こういうときはどういえばいい?」
「それほどでもない、かな」
「……了承。それほどでもない」
「はは。なんだそりゃ。おもしれえな」
「なに私をほっぽって宴会なんて始めてやがるんです」
ふと、庵から黒髪を長く伸ばした豪奢な服装を身に纏った女性が出てくる。
しかし、その顔はちょっとすねたような怒り顔。
「おっと。右大臣様、これは失敬。失敬」
「大伴、あなた、失敬と思っていないですよね」
「そりゃぁ、同じ女を巡って争ったオレとオマエの仲だしな」
大伴のかんらかんらの大笑いに女は、盛大に溜め息を吐く。
「ごめんなさい。こいつは昔からこうなのです」
「慣れてます、右大臣様」
「そうですか。あなたも苦労しているんですね。私は――稗田阿礼。右大臣とは呼ばずに、あなたたちには助けていただいたようですので、畏まらず気軽にお話しください」
「良いのですか?」
「私は、もともとそれほど身分が高い者ではありませんでしたから。それなのに、いつの間にか右大臣にされてました。それもこれも大伴が逃げるから……」
「カハハハ、そりゃあ、すまねえな。だから、オマエに付き合って護衛してやってんだよ」
「何を言うのです。あなたが、ただ都に行きたいついででしょうに」
「バレてたか」
阿礼はじとりとした目で大伴を見る。
「いったいどれだけアナタといると思っているんですか。アナタの手は読めてます」
「ったく、昔っからそういうとこは変わんねえな! オラ、オマエも呑め!」
「遠慮します。また絡まれて襲われでもしたら大変です」
「襲わねえよ。襲ったこともねえ、オマエみたいなちんちくりん。
昔っからまったく変わりゃしねえ。かぐやみたいに髪だけ伸ばしやがって。それ以外が全然じゃねえの。まあ、いつまでも若いことはいいことだろうけどな」
「な!? 言いましたね! 言ってはならぬことを、言いましたね! 良いでしょう。都についたら覚えておいてください。あなたのアレコレ、あることないこと歴史書に書いてやります」
「あ、待てこら! テメェ、それはズリぃぞ!」
「私は、一度見たこと聞いたことは忘れませんので、アナタのあんなことやこんなことをそれはもう事細かに記してやりますよ!」
などと、やってきた稗田阿礼と名乗った貴人は、大伴と貴族とは思えぬ言い合いを始めてしまった。はた目から見ている護衛の一団は、またはじまったと、やれやれといった表情の者もいれば、やんややんやと煽るもの、果ては、これを待ってましたなど賭けを行うものまでいる始末。
どうやらこれはいつも通りのことであるらしい。
「なんとも、愉快な一団で御座いますね、お館様」
「そうだね。でも、ちょうどいい。右大臣って言えば、結構なお偉いさんだと思うし、いろいろと都のこととか聞くチャンスだ」
「はい。拙者、酒を配る時に色々と聞いてきまする」
「お願い」
この一団への情報収集を千代女に任せて、藤丸もとりあえず目の前の二人から色々と聞くために、仲裁する。
「えっと――聞きたいことがあるんですが」
「お、良いぜ。兄ちゃんには助けてもらったしな。なんでも聞いてくれや。阿礼の胸の小ささとか、教えてやんぞ」
「な!? なんで、あなたに教えたこともないそんなことを知っていやがるのです!?」
「あ、そりゃあ、かぐやからって。しまったこりゃ、内緒の話だった。忘れろ。あ、忘れられねえんだったな! ガハハハ」
「かぐやぁ!!」
阿礼の叫びが月に向って木霊する。
それに、キャッキャと藤丸の背の赤子が笑う。
「お、なんだなんだ、楽しいのか―。おうおう、可愛い赤ん坊じゃねえの」
「なんです、赤ん坊ですか? …………どっかで見たような顔のような?」
「なんでぇ、知り合いか?」
「いえ、そんなはずはないでしょう。気のせいです。
――それで聞きたいこととは?」
「これから都に行きたいので、都のことを」
「よほど遠くから来たのですか? とても良い都ですよ。国際都市の長安をモデルとして現在も建立は続いていますが、それでも素晴らしい都であると思います。ただ、都に行くのなら少々悪い
「というと?」
「それが関が目と鼻の先ってところで、オレらが野宿してる理由だ。得体のしれない連中が関にこもってやがるのさ」
そのおかげで、彼らも立ち往生しているのだという。
話を聞けば、そいつらはローマ兵とのことだった。
「もう新年も近いですし、いつまでも留守にするわけにもいきません。なので、どうにかして関を占領している狼藉者たちを倒したいのですが」
「おう、そこで、だ。兄ちゃんらの力を見込んで、頼みがある」
この流れならば何を頼まれるかはわかる。
「協力して、そいつらを倒せってことですか?」
「おう。話が早くていいな。そういうこった。偵察の連中から聞いた話ならやべえのは一人だ。他の奴らはオレらで何とかする。その間に、関に入り、相手の頭を潰してほしいのさ」
「しかし……」
「安心しろや。敵が強いのは百も承知。だが、オレらなら何とかなる。強いやからとの闘いには慣れてるからな」
「報酬は、私の方で手配しましょう。どうかお願いできませんか。大伴がそこまでいうのなら、安心できます」
「仲間と相談してきます」
もちろんと、頷かれて藤丸は、小碓命の下へ向かう。千代女は呼ばずとも来るだろうから、どこかで宴会に混じっている小碓命の下へ向かうと。
「おーい、小碓ー?」
「……主。何か用か?」
「また、片隅にいるね。もっと中にいても良いと思うのに」
「……向うに行くと、褒められる」
「良いことじゃん」
「……わからないけれど……すこし……」
「照れる?」
「…………わからない」
わからないではなく、おそらくそうなのだろう、と藤丸は思った。彼は気が付いていないのだろうか。自分が笑っていることに。
褒められると、彼は嬉しそうだ。彼自身が気が付いていないけれど。
「それで……話とは?」
「うん。彼らから協力して関を超えないかって、言われた」
「受けるべきだ。彼らがあの兵士たちを引き付けてくれるのなら、僕らはあの男と戦いやすい」
「千代は?」
藤丸の行動を見て、やってきていた千代女にも聞く。
「拙者はお館様の忍。お館様のご随意に」
「……そっか。じゃあ、受けよう。でも、小碓、無理だけはしないでほしい。千代も」
「……問題ない。次は……勝つ」
「はい」
大伴と阿礼に協力を受け付けることを告げ、明日、関にいるローマ皇帝を倒すべく行動を開始することとなった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
関の中、その最奥には、あまりにも不釣り合いな男が座っていた。
その男は日本の土着の者ではない。
異国の者。遥か西方より来たりし者であろう。
だが、誰一人としてそれを気にする者は此処にはいない。既に、この関は彼の手中。つまりはローマだ。故に、誰一人として気にする者などありはしない。
彼こそはローマ皇帝。歴代において後世も評価された稀有な男。
彼がいるだけで、大気が色づく。まるで世界そのものが輝いているかのよう。いいや、文字通り輝いているのかもしれない。
彼がいる場所こそが栄光なりしローマなのだから。
そんな彼の下に一人の男がいた。彼はまた別の人種であった。身に纏う白の漢服は、この国の者ではない。そう、この男もまたサーヴァントであった。
「明朝来るか」
「我が食客からの報告。必ずや来るでしょう。彼らを撃ち滅ぼさねば、我らの悲願は達成できますまい」
「暗殺御伽草子を持たぬ
「ですが、それが主命なれば。史実の我らは逆らえますまい」
「良いだろう。向ってくるのならば全力で阻もう。勝つのは余だ。なにより、奴との決着を付けねばならん」
「そうあることを願いましょう。努々油断召されるな。私は、他のサーヴァントの対処を行います故、これにて」
「好きにするが良い。貴様の暗殺御伽草子など余は知らん。貴様がどこで野垂れ死に、誰を道連れにしようともな」
男は頭を下げて、この場から消え失せる。
「いけ好かない連中だ」
「では、なぜ」
側近のローマ兵がそう皇帝へと問う。
「決まっている。余は進む以外に能のない男だからだ。余が
「御冗談を」
「――明朝、貴様らは人間の相手をしておくが良い。サーヴァントの相手は余がやる」
「は! 皇帝陛下の御心のままに」
公明正大なる皇帝は、ただ座してその時を待つ。
その時は、明朝。
されど、天に太陽は昇らない。
あらゆる全ては闇夜の中に。
されど、闇夜に響く暗殺御伽草子はない。
ただ閉塞した闇夜があるだけだ。