Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京   作:三代目盲打ちテイク

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第一節 6

 小碓命。

 それは倭建命へ至る者の名。日本という国を平定するべく戦った英雄。

 だが、それは後世の事実に過ぎない。

 

 神の血を引くがゆえに、ただ一人、神の如き人として生を受けた。

 神代が終わりゆく黄昏の時代。

 人の世へと移り変わらんとしていた日本に生まれた神の如き子。

 幼少より武芸に秀で、怪力無双で知られていた。

 

 ただ触れただけで、あらゆる全ては壊れていく。

 兄もまたそんな一人であった。ただ呼びに行っただけ。だが、小碓命は兄を殺してしまう。

 

 その時も、何も思っていなかった。

 ただ言われた通りのことをしただけ。

 ただ、小碓命が他と隔絶していただけなのだ。

 

 父はそんな彼を遠ざけた。

 それは恐れ、だったのだろう。

 小碓命には、何一つわかっていなかった。

 

 ただ言われるがまま、父に従った。

 その行動の源泉が何であったのか、知らないままに。

 

 彼が16歳となったとき、征西を任されることになる。

 言われるがままに、小碓命は熊襲(クマソ)兄弟を討伐する。

 その時に、銘を貰った。

 

 その銘は――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「行くぞ、お前らー!!」

「「おおぉお――!」」

 

 士気をあげる鬨の声が響くと同時に、戟の音が響き始める。

 関に対して、大伴が伴っていた護衛団が襲撃をかけていた。関にはローマ兵が詰めている。

 彼の皇帝が保有する総軍は、数にして17個軍隊、総勢八万人。

 

 今現在、この規模の関に詰めているのはせいぜいで数百人程度。しかして、それであっても十倍程度の戦力差。まともにぶつかっては勝ち目などあるはずもない。

 

「おーし、引くぞ、てめぇら!」

 

 ゆえに、大伴はまともに戦うつもりなど一切ない。

 最初の一団が引き上げると同時に、次の一団が関の正面門を攻める。その手には大盾。小碓命が今朝方、森から切り出してきた大木を加工したものだ。

 かなり分厚く運ぶのに苦労するが、それだけ防御は硬い。そして、それは建材でもある。

 それによって、組み上げられていくのは、城だ。

 

「いやぁ、あの兄ちゃん、本当に面白れぇ。まさか、関の真ん前に城を構えるとか。普通思いつかねえぞ」

 

 大伴らがやるべきことは、藤丸らが敵の首魁を討つまでの時間稼ぎと敵の陽動だ。ローマ兵はそう強くはないが、数は多い。

 総勢八万もの軍勢はそれだけで脅威だ。この時代にあっては、桁が二つほど違いすぎる。その規模の軍勢が動く戦いはもっと先の時代での話。

 そんな軍勢を相手にするなど愚の骨頂以外のものでしかない。だからこそ、戦わない。関の外で嫌がらせだ。

 

 とりあえず一当てしたところで撤退し第二陣が、そこに陣を構える。相手は関の壁の上にしか並んでいない。降ってくる弓にだけ注意しておけば問題はない。それに――。

 

「助かったぜ、お嬢ちゃん!」

 

 危険な矢は全て千代女が防ぐ。建材や森の木々を利用して縦横無尽に飛び回る。忍の面目躍如の活躍を見せている。

 さらには、苦無を投擲し、ローマ兵を攪乱。壁内へ潜入し、破壊工作をも担っている。しかし、深入りはしない。浅く、広く、嫌がらせの域にとどめる。

 

「矢の威力とかすげーし。そんなやつらとまともに戦うわけねえわな」

 

 大伴らとて弱いわけではないが、相手の規格が違うのだ。相手は、弱いもののサーヴァントの域にある。普通の人間では、何かしらの特別でもなければ太刀打ち不可能。

 如何に、大伴がこの時代にあふれる化生化外、魑魅魍魎、悪鬼羅刹の相手に慣れているといっても天より下り降りてきたものどもから好いた女一人守ることが出来なかった弱者だ。

 

「俺らは弱い。魑魅魍魎どもよりもはるかに弱い。だから、まともに戦うなんざしねえ。さて、嬢ちゃん、次を頼むぜ。その辺の肥溜めの中からとってきたやつ投げて来い」

「拙者、忍というそれは卑怯とそしられる立場ではありまするが、大伴殿も相当だと思いまする」

「ガッハッハ、いうじゃねえのお嬢ちゃん。実は、これ、化生どもをおびき寄せるためのアレでな? アンタらが倒してくれたおかげで使わなくて済んだ奴を再利用してやってるって寸法よ。まあ、これを使うっていったのは、お嬢ちゃんの主様だぞ」

「お館様ぁ……」

「あ、なるべく通り道には撒かないでくれよ? 阿礼のやつが怒る」

「阿礼殿も苦労してそうでござるな……一先ず、心得た」

 

 マスクを鼻まで上げて、糞尿入り混じった特製爆弾を桶に汲み入れ、千代女は関の壁を駆けあがる。降り注ぐ矢の雨を短刀で弾き、桶をそのまま投げ入れる。

 中から上がるのは悲鳴にも似た怒声。そりゃそうだろう。糞尿をぶっかけられて喜ぶ奴はいない。なにより、ローマ人だ。

 風呂に入る習慣があった帝国の人間であるならば、それなりにはきれい好きである。これほど効果的な嫌がらせもない。

 

 籠城用の城も大伴衆の活躍によって七割が組み上がる。

 

「うわさに聞く、一夜城。いえ、一夜城ではないですが、ともあれ、これならばいくらか持ちましょう」

 

 何より関正面に堂々と居座る為の陣を築かれてしまえば、そちらに注視せざるを得ない。

 

「あとは、お頼み申す、小碓殿」

 

 そして、全ては、藤丸ら、突入組にゆだねられる。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 藤丸は小碓命に抱えられて、森から関の中央へと飛び込む。正面の襲撃と同時に、関の内部へと別方向から侵入を果たしていた。

 

「あっちは、大丈夫だろうか」

「主が考えた作戦は、最善だった。望月千代女がいるのなら、生存は可能だ。それよりも主は、離れないで」

「了解」

 

 関の内部。ほとんどの敵は正面にいると言っても、全てではない。如何に、気が付かれないように侵入したとしても、いくらか敵はいる。

 それらを小碓命は的確に倒していくが。

 

「少ない?」

 

 思った以上に敵が少ない。まさか、正面に全てを差し向けているはずもなく。

 

「……誘われている」

 

 小碓命の言う通り、最奥まで辿り着いた時、そこにいたのは、天地を焦がすほどの男。

 そこは玉座の間。奈良時代の日本には存在しえない王の座がそこには存在していた。此処は日本ではない。既に、此処はローマ。

 

「――来たか。己の名、名乗る気になったか」

「…………」

「そうか。ならば是非もなし。此処(ローマ)の土に帰るが良い」

 

 玉座より男が立ち上がった時、界が激震した。男が一歩踏み出すたびに、世界が軋む。まるで、世界の方が男に耐えられないとでも言わんばかりに。

 前進する巨竜(ローマ)。まさしく彼は人型の国に他ならない。彼こそがローマであり、彼が進む場所全てがローマと化す。

 

 そうして彼は肥大化を続ける。だが、まだだ(・・・)。まだ足りない。最大版図を築き上げてなお、男は足りぬと言っている。

 世界(ローマ)の市民全員が、この程度では幸福になどなれやしない。世界の全てを偉大な帝国にて染め上げん。

 それこそが、あらゆる全ての救いであると信じて、男は止まらない。偉大なりし男の真名、今こそ刻み付けるが良い。

 

(オレ)の名は、ライダー。ローマ帝国第13代皇帝、マルクス・ウルピウス・トラヤヌス。 

 余は名乗りを上げた。貴様も名乗るが良い極東の(ローマ)よ。この期に及び名乗らぬというならば――」

 

 トラヤヌスが剣を抜いた。

 それだけで、激震など生ぬるい。極震が巻き起こる。世界が、(ローマ)の重さに震えている。

 

「此処で死ね。余は、止まらん。余の国の為、余の国民の為。あらゆる全ての幸福のために、余は前に進もう」

 

 その前にあるモノ、あらゆる全てを轢殺して、帝国は最大版図のその先を築かん。栄光なりしローマ帝国は、今此処に。

 

「小碓……」

「……大丈夫。僕は、負けない」

 

 短刀を抜く。意気は滾っている。

 これより先は、対国戦闘(ティタノマキア)。ただ一人、英雄が偉大なローマに挑むのだ。

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)

 開け(閉じよ)、閉塞暗夜。

 我に、暗殺御伽草子はない。

 だが、その代わりに、今ここで、新たなる我が帝国神話を築かん!!」

 

 夜が閉じる。

 これより先は、帝国神話。

 黄金の如き男によって語られる、偉大なりし帝国の歴史。

 そして、新たなる神話の一ページが此処に刻まれるのだ。

 

「来い。今度は、その首を落とす」

「ならば、名乗って見せろ。貴様の真名を!」

 

 動いたのは小碓。トラヤヌスは動く必要すらありはしない。巨大な竜は動かない。ちっぽけな敵を前に、自らの巨体を動かすことなどありはしない。

 放たれる九連斬撃。九種に分類される基礎斬撃の連携接続。小碓命が放つ、武術。それはこの大和において神々を殺して回る男のそれに他ならない。

 だが――。

 

「軽い」

 

 人の目では到底追い切れないほどの連続技ですら、トラヤヌスを動かすには能わず。軽いのだ。放たれる斬撃が百を超えようが、千を超えようが。

 個人が、国家に傷をつけられるはずもなし。如何に高速で動こうとも、国家を前にすれば、速度など意味をなさない。

 

 音を置き去りにする速度で動いたところで、国家の中での出来事。それが国家そのものを揺るがすには足りない。規模が、足りないのだ。

 

「なら、もっと――」

 

 ならばもっと、速度を上げる。

 力をあげる。

 

 だから?

 

 それで?

 

「余は言ったぞ、名乗れと」

 

 人である限り、国家には勝てない。

 放った斬撃が、片手で止められる。ただそれだけ、彼が動いた衝撃で、小碓命の前身が切り刻まれる。大きさが違う、重さが違う。

 人の形をした国家(巨竜)が動けば、その余波で周囲が破滅する。

 

「……それで、どれほどの民を泣かせたんだ、オマエは」

「皆目見当もつかん。だが、それがどうした」

 

 それで悲しむ人間がいるのならば、それ以上の幸せを与えるのみだ。このローマの一員となったのならば、涙など流させない。

 笑顔だ。笑顔を浮かべさせる。悲しみがあったのならば、それ以上の幸せを以て、笑顔を浮かべさせる。

 

「言ったはずだ。全てを幸せにする。そのためにも、余は止まらぬ」

 

 前に進む。それ以外に知らぬし、それが幸福につながると信じている。誰もが平和に暮らせる世界(ローマ)を創るために前に進み続けたトラヤヌスが、今更止まるはずもない。

 

「何度も言わせるな。余を止めたいのならば言葉など無意味だ。行動でのみ示せ。どれほど言が達者であろうとも、行動が伴わなければ意味がない。貴様は、今、余を倒すといった。だが、言葉のみだ。行動が伴っていない」

 

 長剣など使う価値すらない。

 吐き捨てられた言葉と共に、小碓命を激震が襲った。

 殴られたのだと小碓命が気が付いたのは、関の壁を何枚も突き破り、外壁にめり込んだ時だった。

 

 ゆっくりとトラヤヌスが追ってくる。

 

「余を失望させるな極東の(ローマ)よ。貴様(ローマ)ならば、世界を救えるはずだ。この国の礎を築いた偉大な(ローマ)よ」

「ぼく、は……」

「小碓!!!」

「ある、じ――」

 

 藤丸の支援魔術。そんなもの意味をなさない。だが、意味をなさないとして諦める藤丸ではない。出来ることを

やる。

 ただできることを積み上げて、積み上げて、高みへ届けば、それで勝ちなのだ。すべて勝つ必要はない。負けてもいい。敗北を積み上げて、積み上げて、積み上げて、ただ一度勝利の高みに届いたのならば、それでいい。

 誰かと一緒に、みんなで勝ちを敗北を、絆を、積み上げて、藤丸立香は、世界を救ったのだから。

 

「――オレは、諦めない!!」

「見事。貴様は、まさしく(ローマ)である。よって、我が最強の一撃でもって返礼としよう」

 

 振り上げられた剣が輝きを放つ。

 虹の如き栄光の輝き。それこそは、ローマ帝国のそのもの。

 

「余の帝国の重さを知るが良い。この輝きこそが、余の浪漫(ローマ)である――我が目前に壁は無し、しから(ディェーウ=パテル・)ばこの世の地平に闇はなく(ヴィットリア)

 

 絶命必至。

 ただの人間が国家を受け止められるはずもなし。

 

 そう死ぬ。藤丸立香は死ぬ。

 だから、呼ぶ。

 

「助けて、小碓――!」

 

 助けを。

 

 その時、あらゆる全てを振り切った一太刀が、トラヤヌスへと届いた。

 

「なに――」

 

 ただ、主の言葉が小碓命に思い出させた。

 

「ああ、そうだ。ようやく。こんなときになって、ようやく思い出した。ぼくの願いは――!!」

 

 ただ、助けになりたかっただけだ。ただ、誰かのために、戦って、認めてもらいたかっただけだ。

 その願いは叶った。

 見ず知らずの藤丸立香(あるじ)が、認めてくれた。褒めてくれた。だからこそ――。

 

 ――今ここに、我が真名を告げよう。

 

「今こそ、僕は、僕になる。立香、僕の名は――倭建命だ」

 

 宝具開帳。

 今ここに、自ら封じた自らを解放する。

 ――自今以後、應稱倭建御子。

 

 小碓命は、暗殺の果てに――英雄へと至ったのだ。

 

「遅参であるが、名乗ろう。我が名は――倭建命」

「良い。余のローマは全てを受け入れる倭建命(ローマ)よ」

「返してもらうぞ、オレの国を」

「是非もなし。来るがいい!」

 

 今ここに英雄が誕生した。

 神代を終わらせ、大和を平定した偉大なりし英雄が今、此処に。

 女のような姿は今はなく、そこにいたのは雷鳴とともに大気を震撼させる英雄が此処に――。

 




いやぁ、此処だけ別世界。
まあ、是非もなし。暗殺御伽草子持ちの戦いはもっと陰湿だからネ。仕方ない仕方ない。
派手なのは此処だけだし、最後の派手さとして最高に派手にやるのでお楽しみに。

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