Fate/Grand Order 創作特異点 極限閉塞闇夜 平城京 作:三代目盲打ちテイク
「来い」
倭建命の言葉が大気を揺らす。それは呟き。決して大きなものではない。だが、その言葉に呼応して、
手に現れる剣こそ、この国の龍そのものである。内包され現在も高まり続けている莫大なマナの波動に、
広大な世界が、ただ一点の
剣を中心に、嵐が巻き起こっている。現実、精神、魂、あらゆる界に影響を与える嵐だ。莫大な力の奔流は、されど藤丸にとっては何よりも優しく思えた。
倭建命の手にあるのは、ただの両刃の白銅剣である。だが、その存在は、まさしく龍であり、巨大であった。天へと上る巨大な龍がそこにいるかのよう。
「行くよ、草薙――」
その剣こそ神と龍と国と人によって産み出された
その一刀を振るえば、あらゆる全てが薙ぎ払われる。
剣身が身に纏うは真空の刃。剣身を這う大気の暴龍が咆哮をあげる。雷鳴が轟き、高まる力の解放を待ち望むかのように脈動している。
引き絞られた弓が如き構え溜め、そこからの一撃が放たれる。
振るわれた力は、莫大。柔らかく振るわれた一刀はまさしく絶技。そして、その剣もまた絶刀。その剣こそ、日本という国が至る、至上の到達点そのもの。
それが振るう男もまた、大和という国、果ては日本という国が到達すべき武そのもの。
「この力は――」
一刀が斬る範囲、しめて三キロ。
これは真名解放ではない。ただの剣能の一つ。未だこれも剣にとっての本領でなどありはしない。
だが、この程度では国家を薙ぐには足りぬ。黄金の覇気とともに受け止めた一撃は、されど――重い。
「この重さは――!」
「どうした。要望通り名乗り、剣を抜いたぞ」
ただの一刀が、国家の重さと拮抗している。いいや、それどころか――。
「余が、押されるだと」
巨大な国家そのものである長剣の一撃一撃を真正面から受け止め、受け流していたかつての戦の名残はない。倭建命の剣は、国家を弾き、押し返す。
暴風の如き剣戟が、あるいは水流の如き流麗な剣が、ローマを押し返す。
ありえない光景。ただの個人が一国を相手に、互角以上の戦いを演じている。
「何を不思議がる。オマエが感じた通りだ。何も、奇を衒ったことはしていない」
機械の如き声色で倭建命は言った。
何一つ、特別なことはないのだと。
そう倭建命は何も特別なことなど行っていない。ただ剣能のあるままに、己の武を振るっているだけだ。つまりは、同じだ。
トラヤヌスとまったく同じ。
「そうか。貴様もまた国を背負う存在であった。ならば、この程度当然であった」
だが、大和と言う国は小さい。単純な重さ比べでは、ローマ帝国に軍配が上がるだろう。剣の神秘の差というわけではない。
ならば、何故、押される。国家の広大さは、ローマ帝国が大和をはるかに凌駕しているというのに。大和の国の重さ、それはトラヤヌスが感じる大和と言う国の重さだけでは説明が出来ない。
「簡単なこと。オマエは確かに広大な国を持っていたんだろう。だが、それだけだ。その国は、何処にある」
ローマ帝国は滅ぶ。その名は、現代のどこにもない。残滓の国はあるだろう。だが、ローマ帝国という名の国はどこにもありはしない。
ローマ帝国という国は、現代には続かない。如何に神祖が、皇帝が、ローマはあると言っても、国そのものはどこにもないのだ。
「だが、私の国は此処にある」
逆に
未来まで積み上げられた歴史。それは、決してローマ帝国という広大な国の重さに負けるものではないのだ。何故ならば、過去だけでなく現在も、未来すらも続いているのだから。
先人たちが積み上げる。
今人たちが積み上げる。
子孫たちが積み上げる。
そんな国が大和であり日本という国だ。
「その重さが、貴様の国にまけるはずもない」
「――なるほど、縦か」
トラヤヌスもその言葉で応えに至る。単純なことだ。横ではなく縦に長い。如何に横幅と面積が小さくとも、縦の長さがあれば話は別。
トラヤヌスのローマが横に巨大なのだとすれば、倭建命の大和は、縦。今もなお、続く日本という国そのものを背負っている。
これはトラヤヌスの国が薄っぺらいというわけではない。彼の担う時代が、人間の一生分であった。ただそれだけのことなのだ。
もしも、彼の国を引き継ぎ、発展させた者がいたのならば、こうはならなかったであろう。彼の国は、もっと続いていた。
けれど――どうして人に竜の国が治められよう。
後に続く者がいない国はそこで亡ぶ。トラヤヌスの国を受け継ぐ者はいなかった。いいや、後に続いた皇帝が彼よりも劣っていたなどとだれが言えよう。
そんなはずはない。彼の後に続く皇帝もまた、人として優秀な者たちばかりであった。
だがそれは人の国だ。竜の国を人は治めることが出来ない。強大な力に支えられた竜の国を維持することなどできなかったのだ。
「オレの国は小さい。だが、分厚い」
倭建命の一刀がトラヤヌスを弾き飛ばす。
だが、大和は違う。人が人の手で拓いてきた国だ。倭建命という人が、その後に続いた多くの人が、繋いできた。
護りたい。
救いたい。
子の為に。
大いなる祈りの力。
「オレは、この力をどこまでも繋いでいく為に戦った。その結果が是だ」
一刀を振るえば、トラヤヌスの全身を大気の刃が襲う。草薙の剣能。倭建命が行った草を薙いだことにより獲得された剣の機能。
その一刀を防いだところで無意味。巨竜たるトラヤヌスの肉体を真空の刃が切り刻み、未来の重さがトラヤヌスを押しつぶす。
「ぐ――ォォオォオオオ!! まだだ――!!」
――だからどうした。その程度のことで、どうして止まれというのだ。止まれるはずがない。止まる理由がない。
トラヤヌスは止まらない。例えどれほどの敵がいようとも、何がその先に待っていようとも。トラヤヌスはその生涯を以て前に進み続けた。
その結果がローマ帝国最大版図。巨大な竜の誕生である。例え、一代だけのそれであったとしても、その生涯は間違いなどではないのだから。
「勝つのは、
「――ああ、そうかもしれない」
だが――。
「けれど、勝つのは
魔力が猛る。
莫大なまでの魔力の奔流に、あらゆる全てが滑り墜ちた。
もはや互いに互いしか見えず、己の究極の一撃をぶつけ合うのだ。
「我らが築き上げた帝国は不滅だ。ローマは此処にある! 勝つのは、余だ!! ――
それこそは、トラヤヌスが生前死ぬまで使用した長剣。
死後のローマ市民による神格化、後世の評価、様々な要因、諸人の希望と勝利の願いによって構成された概念結晶宝具。
内包された勝利と栄光を願う人々の願いによって拡大変容し、立ち塞がるあらゆる敵の総量よりも常に巨大であり続ける無双の剣。
その最高到達点こそ、彼の国、最大版図を達成した彼のローマ帝国そのもの。つまりは、この一撃こそ、彼のローマ帝国をぶつける超質量攻撃に他ならない。
黄金の如き帝国は、あまりの超質量に光と化して放たれる。この光こそ、まさしく絶対致死の光。ローマ帝国という概念そのものを放つ
「小碓――!」
「問題ない。我が主、我が
剣が展開される。
剣能解放。
機能解放。
龍脈解放。
「大いなる龍は天翔し
放たれる虹の極光。それこそこの国の龍そのもの。この国を支え、流れる龍脈。つまりは大和の国そのものである。
この剣こそ、過去、現在、未来に渡りすべての天皇が所有したもの。形が失われ、概念だけになろうとも、この大和という国の皇が持ち続けた刃。過去、現在、未来へとつながる日本という国が武力の総体。
まさしく、大和という国の武であり、この国そのもの。
倭建命は、この剣に未来を視た。
いつかこの国が至る未来を視た。
故に天叢雲剣から
そして、種梛転じて、草薙へ。
名は変わっても、祈りは変わらない。
倭建命が剣に託した、これから続いて行く子孫たちに、神様の守護が得られますようにという、願いは変わらない。
その祈りがある限り倭建命は、戦える。
「それが貴様の
「それが貴方の
どこまでも広く広がったローマ帝国。
どこまでも長く紡いだ大和。
その差は、小さくも平和であったことか。
「なるほど、そうか。あいつの言っていたことを今更ながらに理解した――良かろう。
「主の命ずるままに世界を救おう」
龍が竜を喰らい、閉塞暗夜は終わった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
暗がりの中。
暗がりの中に沈む平城京。
時の為政者が住まう平城京北端に位置する平城宮は、今や闇の中に沈んでいた。終わらぬ闇夜。閉塞した暗夜には、ただ声だけが響いている。
語られる暗殺御伽草子。
それは悲願。
それは熱願。
それは夢だ。
「邪魔者が消えたか。我が宝具の影響下にあって、あそこまで抵抗するとはな。だが、それもなくなった」
闇の中で、声が響く。
底冷えする空間の中、冥府の如き部屋の中で声が響く。それはまさしく死者の声。
「すぐに彼女は戻るだろう。彼女は語らねばならぬ。この国の歴史を。
だからこそ、殺せ」
冷たい声に熱がともる。それは、まぎれもなく憤怒の熱。憎悪を燃やして放たれる灼熱の命令だ。
「貴様らの悲願を達成するが良い」
暗殺御伽草子を語れ。
閉塞暗夜にて、自らの悲願を達成するが良い。
それこそが、世界を破滅させる刃。
それこそが、歴史を殺害する刃。
「全ては、我が悲願の為に」
放たれる刺客は、四人。
これより始まるのだ。
闇夜にて繰り広げられる、絶体絶命の暗殺合戦が――。
次回、暗殺合戦開始。
これより派手さ皆無の暗殺合戦が始まります。
これが今年最後の更新になるでしょう。
不定期更新になりますが、新年もまたよろしくお願いいたします。