心機一転で頑張っていきます。
作中に作者の、他の作品キャラが出ますが物語自体に関係はない別人です。
スターシステムという奴ですね。
紅魔館の図書館の一室。
自身に貸し与えられた部屋で、パチュリー・ノーレッジは一冊の
「ケホっ……」
持病の喘息を気にしつつも、埃臭い古びた魔術書を幾重にも重ねた魔法陣の中に置く。
「これで――っ!?」
自身の書いた魔法陣と、魔導書その物が激しく反発して余剰魔力が部屋にあふれる。
「くっう!また!!」
若干の苛立ちと共に、すさまじいスピードでスペルを唱え部屋の魔力を安定させる。
「いい加減に――!!」
ピシィ!!
「しまッ――!!」
最後の一瞬、パチュリーが気を抜いた瞬間、目を眩むほどの閃光が魔導書から迸り――!!
ドゴーン!!
「うひゃ!?パチュリー様まだ、やってるの?」
図書館の司書を務める小悪魔が、何かが爆発したような衝撃で持っていた本を取りこぼす。
この爆発は今月に入ってもう10回以上だ。
「小悪魔ーッ!!お茶!!お茶を頂戴!!」
のしのしと部屋から出てきたパチュリーは煤だらけで髪は傷んで服はボロボロになっている。
「はいはい、今すぐにー!!」
パタパタと小悪魔が紅茶を手に走る。
「遅い!!まったく……」
苛立ちをぶつける様に、怒鳴ったパチュリーは小悪魔から紅茶をひったくると大きな口で一気に飲み干した。
「パチュリー様?もうあの魔導書に関わるの止めません?」
「止める訳ないでしょ!!800年も前に途絶えた魔術士の魔導書なのよ!?
突如彗星のごとく現れ、様々独自の魔術を作りそして誰にも伝えることなく消えた忘れられた魔術師の魔導書なのよ!!
なんとしても、絶対に読んでやるんだから!!」
ソーサーにたたきつける様に、パチュリーがカップを戻す。
いら立つパチュリーを小悪魔が不安そうに見る。
事の初めは約3か月前、とある事情で紅魔館の壁の一部が壊れたのだが、その奥に古い羊皮紙にくるまれた一冊の魔導書が見つかったのだ。
作者のサインは載っているが、聞いたこともなく。
それでも気になった所、僅かに、ほんの僅かに残された古い文献にその作者の名があった。
あまりに異質な魔術の系統に、パチュリーは夢中になった。
元来知識を好む性格の彼女だ、誰も知っていない知識をほおっておくはずなどなく――
しかし――
「なんでこうも、トラップが多いのよ!!
防衛にしてもやり過ぎでしょ!!
読む前から分かるわ!!この魔術師はよっぽどの偏屈か、変り者か、へそ曲がりよ!!」
罵詈雑言を持って来ていた件の魔導書に投げつけるが――
「あれ?魔導書は?」
さっきまで、魔導書を置いていたハズの机にない。
「なんで!?どうして!?漸くトラップを解除したのに!!
後ほんの少しで、異端魔術の力が私の物になるのに――」
「へぇ?これ、そんなすごいモノなのか」
図書館に響く活発な声。
まずい――彼女は非常にまずい。
パチュリーがそんなことを想って振り返った先に居たのは、金髪の髪の魔法使い。
「魔理沙!!その魔術書を返しなさい!!貴女には手に余るわ」
「へぇん!や~だね。それにそんなすごいモノなら私も興味がある!!
という訳でだ。借りておくぜ~」
魔理沙が箒に跨ると、魔力を放出しながら図書館からすさまじスピードで逃げていく!!
「ま、待ちなさい!!今回だけは、許さないから!!」
パチュリーが自身の周囲に魔法陣を展開して、同じくすさまじいスピードで追い始める!!
魔術師同士の、追いかけっこだ!!
「うお!?まだ追ってくるのか!!」
「当たり前でしょ!!そいつを開ける為に、もう一週間以上寝てないのよ!!」
空の上で、逃げる魔理沙をパチュリーが追う。
狼藉者を捉える為、無数の弾幕を持って魔理沙を攻撃する!!
「おとと、やる気か?良いぜ相手に成ってやる!!」
好戦的な笑みを浮かべ、魔理沙が空中でミニ八卦炉を構える。
のだが――
「ありり?」
「ん、何よ?」
困惑する魔理沙にパチュリーが攻撃の手を休める。
固まった笑顔のまま、魔理沙が自身の体をまさぐる。
ゆっくりと、ゆっくりと冷たいモノが魔理沙の背筋を登っていく。
「ない……」
「は?」
「魔導書が……ない!!」
「ちょっとー!!も、もっとよく探しなさいよ!!
此処は!!そっちは!!」
パチュリーが空中で魔理沙に詰め寄り無遠慮に魔理沙の体を同じくまさぐる!!
「ちょ!?ヤメロ!!そっちは――ひゃあ!?
どこ触ってるんだぜ!?」
「何その口調!!良いから、見つけなさい――げっほ!?ごっほ!!死ぬ!!」
「あわわ!!パチュリー!?」
木の影にとある妖怪が隠れる。
(近い――!)
道行く男にその妖怪が狙いを決める。
今日の食糧に選ばれた哀れな犠牲者は、その男の様だ。
パキッ――
タイミングを見計らうため用意していた、木の棒を踏む音がする。
これにより、獲物がどの位置に居るかが確実に分かるのだ。
大きく息を吸い――
「驚け――イダイ!?」
飛び出す瞬間、頭に本が落ちてくる!!
「なんだ?大丈夫か?」
一瞬心配した物の、男はそのまま歩いていってしまう。
「ぐす……なんなのぉ?一体?」
妖怪が頭をさすりながら、起き上がる。
青い服にスカート、地面に落ちるのは紫色した目と舌のある傘。
涙ぐむ目は赤と青のオッドアイ。
彼女の名は、多々良 小傘。
忘れられ、捨てられた傘が妖怪化した付喪神の一種だった。
「えっと……本?ぐ?げ?」
ぶつかった頭を擦りながら、落ちてきた本を見る。
外来の言葉で何か書かれているが、小傘は読めなかった。
「グリモワールだ。グルモワール・オブ・オルドグラム」
渋い声が、小傘に説明をする。
「ああ、そっかぁ。グリモわーるか、私外来語わかんないから――え?」
「ん?どうした?外来語は苦手か?
だが、他の国の言葉が出来ると自身の世界が広がるぞ?」
小傘のすぐ後ろ、長身の男が身を竦めてグリモワールを手にしていた。
「だ、誰ですかー!?」
怪しい男の出現に小傘が勢いよく飛びのく!!
「むぅ?驚かせてしまった様だな……
おっと、いかんいかん。自己紹介を忘れていた。
我が名はオルドグラム・ゴルドミスタ。
魔術師にして錬金術師だ、我が封印を解いたのはお前か?」
尻餅をつく小傘を除き込む様に、オルドグラムが顔を近づける。
外が黒く、内側が紅いマント。黒い服に紅いベルトが足に数本、胴体にも数本、腕にまで数本と全身紅いベルトだらけ、腰にはシルバーのステッキが侍の刀の様にぶら下がっている。
顔のモノクルが怪しく光を反射した。
「ち、ちがう、違う!!距離が近い、近い!!」
初対面の男の近距離に小傘が地面を引きずって下がる。
「ふぅむ……その様だな。
魔力を感じない。いや、そもそも人間ではないか――
お前、妖怪だな?ならば――」
あごに手を当てぶつぶつと独り言をつぶやく。
「あ、あの!!封印とか、いろいろ何なんですか?」
「む?」
小傘の言葉にオルドグラムが止まる。
様々な事が起きるが、小傘はその好奇心に耐えきれなくなったのだ。
「説明が必要か……良いだろう!!説明してやろ――っ!?
しまった……魔力が不足している……おい、そこの。
我をどこか落ち着ける所へ連れていけ」
「え、え、え?」
いきなりの言葉に慌てふためく小傘。
それと同時に、オルドグラムの姿がうっすらと透ける。
半透明で、向こう側が透けている。
その姿はまるで――
「幽霊!?」
「そうだな……うむ、近いというよりそのものだ。
我が肉体は800年の昔に死滅している。
今は魂をこの魔導書に書き込んでいるのだ」
とんでもないことを平然とオルドグラムが言い放った。
「えーと……けっこう、コレ危ないのかも……」
僅かに冷やさせをかきながら、小傘が歩き出した。
「馬鹿者!我の本体を置いて何処へ行く気だ!!
本を運ぶのだ。傷など付けぬ様にな」
「え、私が?」
なんとも言えない気持ちに成って、仕方なく小傘がグリモワールを手にした。
「ここで良いかな?多分今日は誰も来ないから」
「ほう、悪くないな。
何かの工房か?」
人里の一角、小さな工房の様な場所に小傘がやってくる。
部屋の隅には、釜戸と金鎚が有った。
「工房って訳じゃないけど……一応、私の鍛冶場……みたいなものだよ」
恥ずかしいのか、小傘が頬を掻きながら説明した。
「ふむ、貧相な見た目をしていたので、てっきり野良妖怪だと思ったが生活は出来ているのだな」
「んな!?初めて会った子にそれは流石に失礼じゃないかな!?」
あんまりな言い分に小傘がオルドグラムを叱りつける。
しかしオルドグラムはそんな小傘を無視して、霊体状態で工房を見る。
「ふぅむ……ほう、鍛冶場か……」
興味深そうにあたりを見る。
「ねぇ、オルドグラムって――」
「なんの用だ?
「え、坊主?」
ガサッ!!
小傘が不思議に思った瞬間、小傘の後ろの畳を跳ねのけ、一人の少年が飛び出した。
「妖怪傘!!お前の命をもらう!!」
「え?」
人は死ぬ寸前に世界がスローモーションに成るという。
小傘は人間ではないが、それと全く同じ感覚を味わっていた。
少年の手に冷たい輝きを放つ針が握られている。
(針、危ない、やられる、どうして、なんで――)
シュン!!
小傘のすぐ横を、針の何倍も大きな鉄が通り過ぎて少年の腕の針を叩き落した。
それはオルドグラムの持つステッキだった。
「おっと、友人だったか?反射的に攻撃したが――」
小傘を守る様にして、悠然とオルドグラムが少年の前に立ちふさがる。
いつの間にか実体化をし、投げたステッキを拾いなおしている。
「大丈夫!!全然知らない人だから!!」
「そうか」
小傘の言葉を聞いて、冷ややかにオルドグラムが目を細める。
「わずかな霊力……ふむ、退魔師か?
どうやら駆け出しの様だが……なんの用だ?」
「よくわかったな、俺は退魔師の一人だ。
俺の力を試してみたくなったんだよ、だからさ。
そこ、退いてくれよ。まずは弱い妖怪で様子見だ」
「な!」
あんまりに自己中心的な言葉に小傘が言葉を失う。
自身の力を試したいがために、自分が襲撃されたのだ。
平然と語る若者の態度に、小傘はうすら寒いモノを感じた。
「ふぅ、下の下……いや、下の下以下だな。
自身の力に溺れた貴様には力を使う資格はない。
謙虚に生きる事だけを考える事を勧めるぞ?」
ため息を付いて、オルドグラムが話す。
「うるせぇ!!俺は、この針で退魔師になった!!
これからは俺の時代だ!!」
少年が手に持った針を振りまわす。
そして――
「邪魔をするならお前も容赦しない!!」
針を持ったまま、アルドグラムへと走る。
だがオルドグラムは胡乱な顔、ひどく退屈そうな顔をしたままゆっくりと口を開いた。
「警告はしたぞ?したからには――容赦は無い!!
我が魔術の礎と成れ!!」
キィン!!
オルドグラムがステッキを構える。
侍の様に、居合の様なポーズを取る。
正面に居る男に見えるか分からないが、後ろから見ている小傘からは赤褐色の色が銀のステッキにまとわりつくのが見えた。
「用心棒の積りか!!俺に届く訳がないんだぁああああ!!!」
男が手に持った、針を構えて振り上げた。
そして――
ズッパァアアアアアアアン!!
横薙きの一撃が振るわれた。
その瞬間室内であるにも関わらず強い風が吹きつけた。
「嘘でしょ……?」
目を開けた小傘が前の惨状のに震える。
壁も扉も、巨大な剣で切り付けられたかのように真っ二つに。
そして、さっきまでこちらに向かっていた男
「な、なにがぁ?」
振るえる男、さっきの一撃は確かに男を捉えていた。
その証拠に男の上着はちゃんと上下に切断されている。
男の持つ針をオルドグラムが拾うと、すさまじい勢いで錆びていき塵となった消えた。
ドサッ!
男が腰を抜かし、そこに倒れる。
オルドグラムの視界の中、男の体だけが唯一無事だった。
「見ての通りだ。加減してやったのだ。
我はお前を消そうとすれば、一瞬で十の苦痛を与え、百に切り刻み、千の地獄を見せてやれるぞ?」
「ひぃ、ひぃあ……」
振るえる男の顔をオルドグラムが覗き込む。
冷酷な魔術師の顔がそこに有った。
「しかし、今日は気分が良い。
逃げろ。見逃してやる。無様に負け犬の様に尻尾を巻いて逃げろ」
「あ、あひ、あひぃいいいいい!!!」
這う這うの体、まさに這う這うの体で男が背を向けて逃げ出した。
「ふぅ、ざっとこんなモノだな」
一仕事終えたオルドグラムが座布団に座る。
カァンと音をたて、ステッキを畳みに突き立てる。
「……オルドグラムって実はすごい強いの?」
「ん?当時のギルドの精鋭を返り討ちにする程度の能力は有ったな。
強いかは知らんが」
そう言って、再びオルドグラムが半透明――霊体の姿へと戻る。
「すごい!!ただの性格が腐った男じゃ――えう!?」
ドサッ――!
突如体から力が抜けるのを感じ、小傘がバランスを崩し倒れる。
なんと言うか、すさまじい空腹感が襲ってくる!!
「なん、で……?」
「貴様の妖力を魔力に変換した。
恐らくそのせいだろう」
「へぇ、私の妖力を魔力に――なんて事してるの!!」
一瞬さらっと流しそうになった小傘が突っ込みを入れる!!
「落ち着け、落ちつくのだ。
さっきの男、崩れとは言え退魔師だ。妖怪のお前に勝ち目は薄いだろうな。
そこで、私がお前の妖力を借りて代わりに戦ったのだ。
助けてやったのだ、感謝すべきではないか?」
尚も霊体のまま踏ん反り返るオルドグラム。
「じ、自分の魔力を使いなさいよ!!」
「ふッ、この本は魔力生成が有る程度出来るがそれでも、この体を維持する程度が限界だ。
つまり外からの何らかの力の供給が必要不可欠なのだ」
小傘の中に、嫌な予感が走る。
「ちょっとまって!?魔力切れなら、壊した扉とか壁とかどうするの!?
直せるんだよね?それが分かってて力、使ったんだよね」
その時扉が小さく音をたてて倒れた。
「あ……喜べ忘れ傘よ!!我がグリモワールの力の一端を貸してやろう!!
お前は他者の驚きの感情を食らうのだろう?
我が魔術を見せる事で、そんな物はいくらでも手に入るぞ?
我は魔力に変換する、何らかの力が欲しい。
そしてお前は、他者を驚かす力が欲しい。
ふふふ、ギブ&テイクという奴だな?」
「か、勝手に決めないで!!っていうか、扉なーおーしーて!!」
「ふふふ、これからよろしく頼むぞ
ふふふ、ふはははははっは!!ふははっははあははは!!
おっと、残念だが魔力切れだ!!
再び会おう!!ははははっは!!!はぁはははははは!!」
そう言うとオルドグラムはパッと消え、本だけが床に残っていた。
「こんなグリモわーる……こ、こんな驚きいやー!!!」
ぎゅるるるるるるるる……
小傘の叫びと、空腹を訴える腹が切なげに鳴った。
しかしその声に応えるモノは無く、真っ二つにされた壁と扉から寒い冬の冷気が流れてきただけだった。
基本ハートフルでやっていきたいです。
小傘はハートフルボッコになりそうですが……