人気とか、あんまり考えず好きなことしてるだけなのにうれしいですね。
これからもよろしくお願いします。
一人の妖怪が、人里の人込みを縫う様に走る。
そのスピードは尋常ではなく、道行く者の服が走った風圧でめくれ、商品として陳列している野菜などが、そばを通るだけで吹き飛んでいく。
「は、ははッ……!ははッ!!すげぇ……すげぇぜ!!オルドの旦那!!」
妖怪――鬼人 正邪は湧き上がる力を興奮気味に笑って話す。
(あまり無茶はするな……今我がお前の妖力を調整しているのだ……)
脳裏に響くオルドグラムの声を感じて、正邪は尚も力を誇示するように走る。
「とまれ――」
「お断り!」
「ぐぅあ!?」
立ちふさがった人里の自警団を軽く捻ると、蹴飛ばし適当な店に頭から投げ飛ばす。
あふれる力が正邪に、高揚を与えていた。
間違いなく正邪は強大な力を手に入れていた。
「貴様!街中でこんな事を――!」
騒ぎを聞きつけたのか、長い髪の青いドレス姿の女が走ってくる。
正邪は知っていた。彼女は上白沢 慧音。半妖にして人里の守護者を名乗る寺子屋の先生だった。
「おやおやぁ?これは寺子屋の先生様じゃないですかぁ?
お勉強は今日はお休みかな?」
正邪は挑発するように、舌を出して中指を立てて見せる。
「やれやれ、以前の事で懲りたと思ったんだがな……?」
ギロっとした目を正邪に向ける慧音。
確かに以前、正邪は人里で捕まり、慧音にお仕置きと称して頭突きを食らったことが有る。
「あの一発は痛かったぜぇ~?」
思い出すだけでもズキズキと痛む頭を押さえて、正邪が今はこれがあると言わんばかりに腰に巻き付いたグリモワールを撫でる。
「今度は一発では済まさん!!」
勢いをつけて、慧音が飛び上がる!!
「へぇ?ゆるさいなってか?」
グリモワールを指でなぞった瞬間、手に銀色のステッキが現れる。
それはオルドグラムがいつも持っているのを正邪様にサイズを変えたような存在だった。
「へいよぉ!!」
「何!?」
ステッキをふるって、簡単に慧音の攻撃を止める。
明らかに今までの正邪とは違う、底知れなさに慧音が小さく汗をかく。
「かも~ん?せ・ん・せ・い?」
指を振って再度挑発して見せる。
ステッキには赤い布が現れ、外界にあるというマタドールの様だった。
「せいよ!」
正邪は布を使って、本物の闘牛士の様に慧音を翻弄する。
「くそ!!何なんだ一体!!」
独特の動きに、主導権が握れない慧音が苛立たし気に声を上げるが――
「この――っとっと!?」
攻撃を交わされた先に、子供の顔。
そこに突っ込みそうになった慧音が全身にブレーキを掛ける。
もしあたりでもしたら、子供も無事では済まないだろう。
間に合うだろうか?慧音の額に焦りの汗が流れる。
ドォん!!
「――」
「だい、じょうぶか?」
慧音の数センチ前に子供の顔がある。
建物に両手をついて、その間に子供がいる状態だ。
「はいどーん」
「わっと!?」
後ろから正邪に押され子供に抱き着いてしまう慧音。
「うわー、壁ドンからの押し倒しとは……寺子屋ってこんなことも教えてるのか?」
「き、さまぁ!!」
慧音が振り返るが、そのに正邪の姿はもうなかった。
後に残ったのは嵐が通った後のような、不自然なほどの静けさだった。
「よっ……と!」
正邪がマントを翼の様にはためかせ、人里から離れた場所にある木の上に止まる。
その顔には何時より5割増しの笑みが張り付いていた。
「なぁ、旦那!やっぱ旦那はすげーよ。
見たかよ、あの半妖の顔、里の奴らの顔!
あー、すっきりしたぜ。旦那、また頼むぜ?」
「ふん、これくらいは容易い事だ」
木の上で胡坐を組む正邪の後ろに、霊体化したオルドグラムが姿を見せる。
「旦那ぁ?どうだい?アタシの仲間になんないか?
旦那の力さえあれば、幻想郷をひっくり返すことも簡単だぜ?
なぁ、一緒に下克上しようぜぇ?ほら、このとーり!」
パンと手を合わせてオルドグラムを拝み倒す。
「ふん、それも悪くないな」
気を良くしたオルドグラムが笑みを浮かべる。
「だが先に行く場所がある。正邪、構わないな?
魔女が住まうという、その館の場所……わかるのだろう?」
「もちろん、あの真っ赤な色した屋敷の奴らの顔を真っ青にしてやれると思うと今からニヤケが止まらないわ。
んじゃ、さっそく善は急げっていう事で、さっそく襲撃だ!!」
「うむ、構わんぞ!」
オルドグラムが頷き、正邪の両肩にオルドグラムのマントが出現する。
そしてそれを翼の様にはためかせ、風を切り大空へと飛び出した!!
そのまま風に乗り、一気に目的地の紅魔館上空へとたどり着く。
そして、一気に正面の窓を突き破り侵入する!!
「きゃぁあああ!!」
「いやぁああ!!」
妖精メイドたちが急な襲撃に、おびえて逃げ出す。
その様子を見て、正邪が笑う。
「ひっひっひ……さぁて、見下ろすのはなかなか気分が良いな……
今日からここが新しい基地に――」
「うむ、正邪よ、よくやった。
ここまでで
「へ!?」
するりとオルドグラムが正邪の腰から離れ、グリモワールのまま飛んでいく。
「あ、ちょっと!?旦那!!おい!!
まったく……まぁいいや、すぐに追いかけて――」
カチっ!
正邪の後ろに立っていたメイドが、時計を止める。
すると正邪の動きも止まり、その様子を見たメイドは腿にある銀のナイフを抜いた。
「ん――――誰か、来たのかしら?」
膨大な蔵書を誇る紅魔館の図書館で、一人の魔女がピクリとまゆを動かす。
一見して寝間着にも見える服を着た、日に焼けていない肌を持つ少女が、この図書館への侵入者に気が付く。
「また魔理沙って訳じゃないみたいね……あの子はもっとわかりやすいもの……
これは……ひどく、そう、存在自体がひどくあやふやな――」
「ほぉう……大した蔵書だ」
魔女パチュリー・ノーレッジのすぐ後ろに出現した男に、パチュリーが珍しく機敏な動きで反応する。
「!? 貴方、誰……いや、それよりも……」
突然の侵入者よりも、彼女の興味はその男の腰にぶら下がる物に釘付けだった。
「グリモワール・オブ・オルドグラム……なんで貴方が、ここから失われた物を?」
「『ここから失われた』だと?違うな。これは我が知識と研鑽の結晶だ。
あたかもこの図書館の蔵書の一部の様に扱うな」
オルドグラムの言葉にパチュリーが息を飲むのが分かる。
「あ、貴方は本当に『最悪の魔術師オルドグラム』なの?」
「最悪の魔術師?はて、知らんな」
オルドグラムの言葉に尚も警戒心を抱きつつパチュリーが構える。
「そうよね。その呼び名は貴方の死後についたもの……本人が知る由もないわね。
けど、貴重な貴方が出てくる資料でも、良い呼び名は無いわよ?
『異端五属の使い手』『生命喰らいのオルドグラム』『
どれもこれも物騒な手柄ね……」
「ふぅむ……困った。どれもこれも身に覚えが全くないな。
あ、いや。異端五属ならわかる、当時研究していた物だ」
「…………」
「…………」
パチュリーとオルドグラムの視線が空中で絡み合って、数秒の時間が過ぎる。
それは達人同士が相手の動きを予知して、互いに動きが止まる状況に似ていた。
「悪名は尾ひれが付くものよね、ようこそ。紅魔館の図書室へ、レミィ――紅魔館主に代わって挨拶しておくわ」
「オルドグラム・ゴルドミスタだ。まさか極東の島国でかような魔女に会えるとは光栄だ」
オルドグラムがお辞儀をして見せる。
やけに丁寧な所作にパチュリーが小さくため息をつく。
「あら、ずいぶん礼儀が良いのね?どこかの魔法使いとは大違い――っと、話が逸れたわね。本題に入りましょ?貴方の目的は何?」
「我について知りたい。我がグリモワールに欠損が見られる。
いや、正確には我が作った覚えの無い道具を見つけたのでな。
我のしたことを客観的視点から見るために資料を欲している。
もっとも、貴女の話を聞く限り、あまり成果は期待できそうにないが……」
対して困ったようでない様だが、大げさにリアクションをとって見せる。
「貴方の事の本なら、ここからまっすぐ行って58個目の本棚の8、9列に少し……
詳しくは小悪魔に聞くべきだけど……
私にちょっとした、考察があるの。どう?紅茶でも飲みながら」
「考察?」
パチュリーが指を鳴らすと、小悪魔がタイミングよく2人分の紅茶をテーブルの上に置いた。
「貴方……霊体よね?おそらく自身をグリモワールに魂ごと書き込んだ……
魔理沙が来る前に調べられたら良かったんだけど……
一番に考えられるのは劣化ね。永遠なんて物は存在しない。
たとえ魂を本に移しても、必ずどこかでほころびが生まれるのよ。
もっとも、そのほころびの対策をしてるんでしょうけどね」
いけないいけない、また話が逸れた。と言って紅茶を口に含んだ。
「貴方はこの図書館に封印された本から出てきた……まだ封印の力が残っているんじゃないかしら?劣化したのか、まだ本調子ではないのかわからないけど……
そしてもう一つは……貴方が本当に『忘れた』という事」
「忘れた?」
「魔術師は膨大な魔法を扱う、作って忘れた物なんていくつあってもおかしくない。
けど、この世界に貴方が復活したことで、同じく眠っていた道具たちも目を覚ましたと考えられないかしら?
ここは忘れられたモノが集う場所。忘れられ歴史に埋もれた道具が貴方の目覚めで一斉に目覚め始めた……そう私は思う。」
パチュリーが再度紅茶を口に含んだ。
「なるほど、良い考察だ。その案は大いにあり得るな。
……一先ずは納得した。帰るとするよ、また会おうパチュリー・ノーレッジよ」
紅茶を飲み干すと、立ち上が去っていく。
「うまい紅茶だった」
最後に小悪魔に一言声をかけるとそのまま姿を消した。
「パチュリー様、返して良かったんですか?
あの魔導書……」
小悪魔が紅茶を片付けながら訪ねる。
「ええ、どうもアイツは好きになれそうにないわ……
技術自体は目を見張るものが有るけど……アイツだけはね?
魔術の趣味も、紅茶の趣味も合いそうだけど、友人としては絶対に合わないわね」
パチュリーの言葉に、小悪魔が何度もうなづいた。
がらっ!
「ふぅ、やはり実家が一番というか、魔術に関係の無い場所でもここは落ち着くな」
扉を開け、オルドグラムが背伸びをしながら部屋へ帰ってくる。
「え……あ、……オルド……グラム?」
「ん?どうした、小傘よ?」
呆けたような顔をする小傘の前にたたずむオルドグラム。
「お、おるどぐらむー!!」
「汚らしい」
「ひどい!?」
涙と鼻水ですごいことになっている小傘を華麗にスルーするオルドグラム。
勢い余った小傘は、壁に自身の額を叩きつけてしまった!!
「ちょっと!!なんで避けるのよ!!
心配……心配したんだから!!捨てられたと思ってすごい不安だったんだから!!」
顔を手で拭いながら小傘が、ぽかぽかとオルドグラムを叩く。
「むぅ、捨てた?置手紙をしておいただろうに?」
「あの手紙って、私を捨てるって事じゃないの?」
部屋の隅に丸められて、捨てられた手紙を小傘が広げる。
「いや、そのような意図は全く無いが?
その手紙はこれから出かけるという事と、お前はその間自由に過ごせという意味なのだが……?
この国の言葉は難しいな……合っていると思ったのだが……」
「そんな訳ないでしょ!!むしろアレじゃ、今生の別れっていうか……」
泣いていたか顔が今度は怒り顔に代わり、ぷんすかと怒り始める。
だが、それも一瞬の事。
「あ、そうだ、さっき出かけた時お茶の葉を買ってきたの、一緒に飲も!」
そう言うと、オルドグラムの返事も聞かずに台所で世話しなく走る小傘。
その背を見てオルドグラムが思い出すのはさっきの小傘の言葉。
(心配したんだから!!捨てられたと思ってすごい不安だったんだから!!)
「心配をかけた。すまない小傘」
「ん?なにか言った?」
後ろからかけられたオルドグラムの言葉。
しかしそれは、忙しく動き回る小傘には聞こえなかったようだ。
「いいや、何でもない気にするな」
オルドグラムはそう言って、小さく微笑んだ。
「お嬢様。屋敷に侵入した天邪鬼を捕獲しました。いかがしますか?」
「死刑」
「おぉおおおおいいい!!ちょっと待てよ!!ちょっと、まてよぉおおおお!」
屋敷の内部で正邪の悲鳴が響いた。
正邪はオチ要因なのか?
紅魔館のメンバーはもっとしっかり後日出ますので、ご心配なさらずに。