忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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魔術と癒しと思いやりの心

家の中、小傘が一冊の本を手に取り寝転がりながら読んでいる。

多少だらしない姿だが、リラックスする時間とは得てしてそんな物なのだろう。

 

「はぁう、わぁ~かわいいよぉ~」

ころころと転がり身もだえしながら、その本をパラパラとめくっていく。

そしてピタリととあるページで手を止めたかと思うと――

 

「ああぁああ!!もう!!ふわふわ、もふもふ~~~~~!!!

もう、かわいい、かわいい!かわいい!!かわいい!!!かわいいよぉ~~~!!!」

再度その本を胸に抱きゴロゴロと転がった。

 

 

 

「小傘よ。その過剰なまでの同語の連呼は何だ?

新手の知能指数を下げる呪いにでもかかったか?」

机の上の本が勝手に開き、半霊体化したオルドグラムが姿を見せる。

小傘はその姿を一瞥して、一瞬だけ恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

「ンなわけないでしょ?これこれ、外界にある動物の図鑑!」

小傘が見せるのは犬や猫が大量に描かれた雑誌。

どうやら、外の世界のペットの写真を集めた雑誌の様だ。

 

「ほぉう……外界では、生物の改造が流行っているのか……」

 

「改造って何よ!改造って!!」

オルドグラムの言葉に小傘が過剰に反応して見せる。

どうやら、すっかりペットたちに夢中なようだ。

 

「はぁうぅ……ちわわちゃんかわいー、だっくす?って言うのもかわいー!!」

再度本を眺めて身もだえする。

 

「犬――というのは様々な品種改良がなされている、というのを知っているか?

ふむふむ、これは番犬用でも狩猟用でもなく愛玩用の犬か……

これらは、特に品種改良が顕著だ。

例えば、この犬はより体躯が小さくて足の短い者同士を掛け合わせ、その過程で大量の失敗作が生まれ処理されている。当然だが本来自然界では淘汰されるべきマイナスの進化をあえて残しているからな。基準を満たす個体数はより少ないだろう。

この犬は、無数の失敗作たちの屍の上に立って――」

 

「やめて!!そんな事言わないで!!」

オルドグラムの言葉に、小傘が本を閉じて聞きたくないとばかりに耳を抑える。

 

「小傘よ。なぜ真実から目を背けるのだ?何も知らない事は確かに幸福なのかもしれん……しかし、それから目をそらすというのは――」

 

「もういいから!!普通に見させてよ!!」

小傘が本を置いて、オルドグラムに怒鳴った。

 

「全く!!オルドグラムには他人を思いやる心が足りないんだよ!!

いい!?普通他人を思いやる心は誰にでもあるし、その助けあいこそが大切だと私は――」

 

「ふっ、それは弱者の話だな。

天才とは、たった一人で孤高なのだよ。多くの者が我に助けを求めるが、我はその全てに構っているほど暇ではないのだ。

なぜなら、我にはすべきことが有るから。助け合いは十分なお考えだが……

残念なことに、馬鹿どもは我を助ける能力など無いのだよ!!

いや、それ以前に?我が困っていることを凡人ごときが解決できるはずなどないのだ!!はぁーっはっはっはっは!!はぁっはっはっはっは!!」

いつもの様に過剰なナルシズムを見せるオルドグラムに、小傘は辟易とした。

質が悪いことにオルドグラムの言う自身の評価はおおよそ正しいのだ。

紅魔館の魔女ですら、舌を巻く魔術の力。自身の魂を道具に封じて数百年を生きる術など小傘には理解の及ばない力ばかりだ。

 

「根本的に考え方が違うのかな?」

 

「ふっ!そうだ!!天才たる我が凡人などと同じはずがなかろう!!」

自慢げに話すオルドグラムをみて、小傘は密かに頭を抱えた。

 

 

 

 

 

翌日――

 

「ふむ、どうにも気分が鬱蒼としている。少し散歩にでも行くかな……」

オルドグラムがそう言うと、自身の体を実体化させる。

 

「それなら、雨降ってるし――」

 

「そうだな。実体化(リアライズ)はやめておくか」

そのままオルドグラムは壁を透過して出て行ってしまった。

 

「あ、あ……」

散歩と聞いて使ってもらう気満々だった小傘が、小さく声を漏らした。

小さな一言で、小傘のいわゆる『使ってもらう意欲』とでも云うべき物が多分に高められたが、結果はこの通りだ。

振り上げた意欲をどうするか、小傘は一人消沈した。

 

「全く!本当にオルドグラムは人の気持ちが分かんないんだから!

やっぱり、何か庇護する物をかわいがることでそういう気持ちを育てるべきだよ!」

ぷんぷんと怒りながら、昨日自分が読んでいたペットの特集の外界から来た雑誌に視線を投げかける。

 

「こういう、生き物を飼ったするワケないか……」

自分でもおかしなことを言ったと、自嘲気味に笑う小傘。

 

 

 

 

 

数時間後――

 

「小傘よ、我は愛玩動物を飼うことにしたぞ」

 

「は?」

散歩から戻ってきたオルドグラムの言葉を聞いて、夕飯の準備をしていた小傘が手に持った手袋を落とす。

 

「こう――我も初めての体験なのだが……胸に湧き上がる庇護欲求が押さえきれなくなってな?飼い主も居ない様なので、そのまま連れ帰ってきたのだ」

 

「お、おー、良いんじゃない?いわゆる一目惚れって奴でしょ?

うんうん、本にも書いてあったよ。『大事なのはふぃーりんぐ』だって。

言葉が通じなくても心で通じ合うことが――」

 

「見ろ。そこで拾った小人だ!」

小傘が朗々と語る中で、オルドグラムが自身のグリモワールから、小さな人型の、頭にお椀の蓋をかぶった少女を取り出した。

 

「アウトォ!!オルドグラム!!アウトォぁおおおおおお!!!

それ、誘拐だよ!!拉致監禁のち誘拐!!」

全力で小傘が親指を下げるが、オルドグラムは全く持って気にしない!!

 

「ちょうど、そこの角で猫に襲われていたのでな。

見よ!この愛くるしい姿!庇護欲求をそそる容姿!!

我はコイツを、別れの時まで飼育することにしたぞ!!」

 

「だめでしょ!?犯罪、犯罪だから!!里の自警団来るから!!」

 

「む?だが小傘よ。あの……僧侶の女のいる寺にも、愛玩動物がいるではないか。

毎日の寺の掃除に来客者への挨拶、非常に良く躾けてあるな」

 

「響子ちゃんはそんなんじゃないから!!確かに人懐っこいし、犬っぽい所あるけど――決してペットなんかじゃ無いから!!」

ダァン!!と小傘が勢いよく拳をテーブルに叩きつけると、小人がビクンと震える。

それに気が付いたオルドグラムは急いで、震える小人に指を差し出した。

 

「おお、すまない……驚かせてしまったな……よしよし」

頭を撫でて、涙目になってる目じりから涙をぬぐった。

慈しみを持ち、相手を慮る姿――

いつも唯我独尊を地で行く彼らしからぬ所作だった。

 

「ふぅむ……名前は後でつけるとして……

まずは、育成の為の空間……いわゆる小屋だな……使える物があったか?」

考え込むと、自身のグリモワールの中へとオルドグラムが入っていく。

 

 

 

「あーえっと……大丈夫?」

なんと声をかけて良いのかわからなかった、小傘がとりあえず目の前の小人(仮)へと無難な言葉を投げかける。

その瞬間、弱っていた小人がクワッと目を見開いた!!

 

「大丈夫な訳ないでしょ!?人が散歩してたらいきなり猫が襲い掛かってきて……!

いや、これは稀に良くある事だからいいとして……

けど、とりあえず何とか撃退したと思ったら『ふぅむ、珍しい。気に入った』の一言で誘拐だよ!?

どうなっているの!?」

どうやら小人(仮)は大層お怒りらしい。

まぁ、いきなり連れてこられて『飼育したい』ではこうなっても致し方ないだろうが……

 

「えっとね?あの人は『オルドグラム』っていう魔法使いで、過去に国を滅ぼした疑いが有って、魂だけでしぶとく生き抜いてて、他人の事や痛みが一切分からなくて、唯我独尊で自分大好きだけど、いい人なんだよ?

きっと、小人さんを拾ったのは純粋な興味で、悪意は――」

 

「その説明から、悪意以外の物を感じ取るのは不可能なんだけどなー?

あと、小人さんじゃない!!針妙丸!少名 針妙丸!!」

針妙丸はそう言って、小さな体躯でほほを膨らませて怒りを表現する。

 

「あ、そっか。ごめんね?私は多々良 小傘だよ?」

あまりにもかわいい針妙丸の動作に、小傘が思わずほほを緩めてしまう。

なるほど、オルドグラムのお眼鏡に叶った存在であるだけある。

 

「えーと、何とかオルドグラムを説得して……出来る気がしないなぁ……」

自身の言葉を口の中で何度か転がして、不可能を悟る小傘。

その時、グリモワールが開きオルドグラムが再度姿を見せた。

 

「待たせたな。さぁ、これがお前の新しい家だぞ。

そうそう、とりあえず食えそうな軽食も用意したぞ」

そう言って、オルドグラムが針妙丸の前に置いたのは巨大なドールハウスとサンドイッチだった。

ちらりとドールハウスの内部を見ると、家具まで精巧に作りこまれていて、とてもあの数分で用意したしたとは思えないクオリティだった。

 

「ふふふ、驚いたか?これは少し前、鈴奈庵の本の内容を模して我が手心を加え制作した玩具だ。

最終的には複数の魔力プログラムを投入して、一時的なシェルターとしようとした物だ」

鼻高々と云った様子でオルドグラムが話す。

 

「あー、オルドグラム?ご高説中の所悪いんだけど……針妙丸ちゃ――じゃなかった。小人の子にも今の生活があるから勝手に飼育するのは――」

 

「わーい!豪華なお家ー!!

私ここに住みたーい!!」

針妙丸が素早くドアを開けて、屋敷の中へと入っていく。

 

「ちょ、ちょちょっと!?良いの!?良いの!?」

見事な手のひら返しに、小傘が声を荒げる。

その時、ドールハウスのバルコニーから針妙丸が姿を見せた。

 

「いやー、こんなお家用意してしてもらったし、住まないのは逆に失礼かなって?」

早くも適応したのか、バルコニーに備え付けられた椅子に腰かける。

 

「ほぉう……話すだけの知能はあるのか?」

オルドグラムが話し始めた針妙丸に興味を抱く。

 

「ちょっと、私をバカにしないで!こう見えても一寸法師一族の末裔なんだからね?

知能の無い獣上がりの妖怪と一緒にしないで!」

ぷんすかと今度は怒りを見せて、オルドグラムをさらに驚かせた。

 

「…………ふぅむ???」

困ったようにオルドグラムが固まる。

 

「ねー、このお家もらっていいんでしょ?

いやー、最近神社も住人が増えてきて……追い出されはしないけど、食糧難気味なんだよねー。

ここは新生活を送ってみるのも良いかなーって思えてきたよ!」

針妙丸が、部屋の中に入りベールで被われたベットにダイブする。

ふかふか~と、嬉しそうに声を出すが、すぐに起き上がる。

 

「あ!そうだ!ちょうどお腹も空いてたし、アレ食べてみようかな!」

針妙丸がバルコニーから、下にある皿の上に飛び降りる!!

 

「おおー、いい匂い……」

出来立てなのか、サンドイッチのにおいに針妙丸が鼻を鳴らすが――

 

ひょい!

 

「あー!返してよ!」

オルドグラムがサンドイッチを取り上げる。

針妙丸はそれに対して、避難的な言葉を向ける。

 

「かえっていいぞ」

 

「は?」

 

「は?」

オルドグラムの言葉に小傘、針妙丸の両名が同時に声を上げる。

 

「思ったよりかわいくなかったのだ。いや、サンドイッチはやる。

自由だ。好きに生きろ」

しゃべるのがいけなかったのか、それとも態度がいけなかったのか。

兎に角針妙丸はオルドグラムの気分にはそぐわなかった様だった。

 

「は、え?」

手早く針妙丸にサンドイッチを包んで持たせると、家の外へと逃がした。

 

 

 

 

 

「ふぅー、まさかしゃべりだすとはな……

もっと、純粋な癒しの動物を求めていたが、失敗だ」

ため息をつくオルドグラム。その姿は珍しく意気消沈しているように見えた。

 

「いや、あれくらいの知能はあるのでしょ?

あと、すごい扉叩いているんだけど……」

 

どんどん!!

 

「(あけてー!!針妙丸だよー!!オルドグラムー!!お家で私を飼ってね!!今ならかわいい芸とか覚えるから!!覚えるから飼ってね!!)」

 

「ほおっておけ、そのうち帰るだろう」

つまらなそうにオルドグラムはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、暇だなー、旦那でも冷やかしに――」

正邪が暇を持て余し、オルドグラムを訪ねようと進んでいくと、彼(正確には小傘)も家の前に、小さな見覚えのある影があった。

 

「あけてー!!針妙丸だよー!!オルドグラムー!!お家で私を飼ってね!!今ならかわいい芸とか覚えるから!!覚えるから飼ってね!!」

 

「何やってんだよアレ……」

非常にアレな内容を口走る針妙丸をみて、正邪は茫然と立ち尽くした。

 




作者は犬派。お菓子はキノコ派です。
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