読者の皆さんは、どのタイプですかね?
「むぅー!」
「…………」
小傘の家の中、また何かガラクタをいじっているオルドグラムに対して、小傘が露骨なまでに自身の不機嫌を訴え、ほほを膨らませている。
「…………ふむ」
ちらりと一瞬だけ、小傘のほうを向くと再度自身の触っているガラクタへと視線を戻す。
「むぅぅぅぅぅぅぅーーーー!!」
「鬱陶しい!!」
尚も膨れる小傘に対してオルドグラムの激が飛んだ!!
「まったく……今度は一体何が不満だというのだ?」
「この前のサンドイッチ……」
「サンドイッチ?……ああ、針妙丸に作ってやった奴だな」
オルドグラムがほんの数日前の出来事を思いだす。
散歩中にオルドグラムが発見したのは、初めて見る小人という種族の生き物。
人間に近く、それでいて明らかに違う種族である小人を見たオルドグラムは、その好奇心が刺激され、思わず『飼い小人』にしようと家に連れ帰ったが、肝心の針妙丸は小槌の影響で小人化しただけの存在と知り、露骨にがっかりして放流したのだった。
興味が無くなった針妙丸に手土産として、小人の餌用に作ったサンドイッチを持たせて返したのだった。
「それがどうかしたのか?」
意図が読めないと、オルドグラムが小さくうなる。
針妙丸にやったサンドイッチと小傘の不機嫌。いったいどんな因果関係があるのか。
「私は、一応オルドグラムの所有者よね?」
「そういう事になっているな。我が魔力を抽出する妖力の大本の供給源だ。
お前の存在のおかげで、我はこの体を維持する力が手に入っている。
それがなんだ?」
ギブアンドテイク。お互いが持ちつ持たれつする関係だ。
二人の間にはそんな約束が交わされている。
「私、オルドグラムのごはん食べたことない!!」
「だから、なんなのだ?」
今後の展開を予想した様で、非常にめんどくさそうに話す。
「私にもごはん作って!!ごはん!!」
まるで小さな子供の様に、駄々をこね始める。
「……仕方ない……な」
ギブアンドテイク――二人の間の約束だ。
日常的に妖力を貰っているオルドグラムは、決して本心を口に出しはしないが大きく借りを感じている。
自身の欲求に素直、というのが魔術師の性格ならば、また契約に忠実というのも魔術師の性格だ。
オルドグラムはそのどちらの性格も、しっかりと持っていた。
「明日の朝食は我が作る――それでいいな?」
「うわぁーい!楽しみにしている!!」
オルドグラムの言葉を聞いた小傘は嬉しそうに笑みを浮かべた。
翌朝――
「すんすん……いい匂い……」
眠い目をこすりながら小傘が、目を覚ます。
部屋の中には嗅いだことのない、何とも言えない香りが満ちていた。
「起きたか?丁度完成したところだ」
いつもの服装ではなく、白いコック帽にエプロンを付けたオルドグラムが皿を持って来た。
「…………ベルトは一緒なんだ……」
いつもの服についている無数のベルト。
コック帽どころか、エプロンにまでついているのを見て、小傘が何とも言えない顔をする。
「ん?何か言ったか?」
「ん、んん!何でもない!それより献立はなに?」
興味が押さえきれないといわんばかりに、用意されたテーブルまで走っていく。
「走るな!埃が飛ぶだろう!」
「あ、ごめんなさい……」
「では、改めて――朝食だ」
コト――
「おー!」
小傘が目の前の料理に目を輝かせる。
「献立はクロワッサンと、シーザーサラダ、フライドエッグにベーコン、最後にポテトの冷製スープだ。
飲み物は?」
見たこともない料理に迷う小傘の目の前に、オルドグラムがオレンジジュースとミルクとコーヒーを並べる。
「えっと……」
「おすすめはコーヒーだな」
迷う小傘の前に、ミルクで割ったコーヒーを差し出す。
「あ、ありがと……
みんな見たことが無い料理だね。パンってやつ?だよね?」
興味深そうにクロワッサンをかじってみる。
「おー!ふわふわだけど、サクサク?ナニコレ!!
オルドグラムは料理も出来るんだね!!」
「調理とは、調合に近い部分もあるからな。
決められた材料に、決められた分量、そして決められた手順。それさえ守ればこんな物容易いわ。もっとも、我が望む食材を手にするのに、右往左往することになったがな……」
褒められてまんざらでもないという表情をして、オルドグラムも自身の席に座る。
「んー!どれもこれも初めて見る物ばっかりだよ!
あ!これは知ってる、目玉焼きだ」
小傘が半熟の目玉焼きを見る。
「この国では、それをそう呼ぶらしいな。
我としてはフライドエッグ・サニーサイドアップというのが、なじみ深いが……」
フォークでサラダをつつきながら話す。
「えー、名前長い!へんなのー!」
小傘が笑いながら、慣れないフォークを使うが――
「む――!?」
「どうしたの?」
オルドグラムが突如、手を止める。
その様子に気が付いた小傘は、不思議そうに尋ねる。
オルドグラムの視線は、小傘の皿に注がれていた。
「オルドグラム?」
「小傘よ――お前は、そうやって食べるのか?」
オルドグラムの指さす小傘の皿の中、そこには――
「え?別に普通じゃない?」
潰された黄身に浸されたベーコン、そしてフォークの先には流れ出た黄身を付けた白身の部分。
「なに……!」
対してオルドグラム皿には、見事に白身だけが食べられた目玉焼き。
病的なことに、黄身の表面の薄い白身すらも器用にはがして食べている。
「最後に丸々食べるつもり?」
「そうだ、もっともうまい部分は最後に……それ以外の黄身はすべてはがして――」
「なんか、みみっちいね」
小傘が何気なしに、そう言った。
「み。みみっち――!?
我が、みみっちいだと……!
あり得ん……フライドエッグはこの食べ方こそが、スタンダード……そうだ。
そうに決まっている!!我は常に正しい!!」
「えっと、オルドグラム?」
雲行きが怪しく感じてきた小傘が、手早く食べ終わった皿を流しに持っていく。
なにか、碌でもないことが起きるのではと、一人オルドグラムから逃げる様に去っていく。
「小傘よ!!」
「ひゃ、ひゃい!?」
逃げようとした時、背中にかかった声を聴きびくりと身を震わせた。
「我は調べることが出来た。今日は出かけてくるぞ――片付けは任せた」
そういうと食べ終わった皿を流しにおして、素早く出かけて行った。
「あちゃー、なんか、やばいかんじー」
ぶつぶつと何かをつぶやきながら出て行ったオルドグラムを見送って小傘は小さくため息をついた。
「なぜだ……!
なぜ、このような――!」
路地の裏を目的もなく走るオルドグラム。
自身の中から湧いてくる、当然と思っていた物にヒビが入る感覚。
そして、小傘の『みみっちい』という評価。
たかが目玉焼きの食べ方だと、言われればそこまでだ。
だが、それでも自身の胸の中に沸いた言いようのない、不快感は拭えなかった!!
ドン――!
角を曲がった時、不意に何者かとぶつかってしまう。
瞬時にオルドグラムは体制を立て直したが、相手は路地の家の壁にぶつかってしまう。
「ん?」
オルドグラムはぶつかった相手の、特徴的な髪形に見覚えがあった。
「んじゃねーよ!テメェ!どこ見て――あ、旦那……!」
「おお、正邪ではないか」
尻もちをついて、悪態をついた事に対してか、しまった。と言いたげな表情をする彼女に手を差し伸ばす。
「旦那こそ、こんな朝っぱらからなにを?」
正邪の言葉に、何かを一瞬思案するように腕を組み――
「少し、考え事だ。時に正邪よ。お前――朝食は済ませたか?
まだなら来い、そこの店で何か食わせてやろう」
不自然なまでの作り物っぽい笑みで正邪を誘った。
「だ、旦那?悪いけど、アタシはお尋ね者だから、店は――」
オルドグラムの笑みに何か、よからぬ物を感じた正邪が身を引こうとするが逃がさないとばかりに正邪の前にオルドグラムが回り込む!!
「構わん!容姿は気にするな。手はいくらでもある」
オルドグラムが自身の胸ポケットに、赤いバラを差す。
それだけで、正邪の視線はオルドグラムに釘付けになる。
正邪には花を愛でる趣味など無いが、不思議なことにその花並びにその花をつけているオルドグラムから目を離すことが出来ない。
「旦那、これは――?」
「魔道具の一種だ。『
むかし、虚栄心の強い男に頼まれて制作した物だ。
我が目立つことで、お前は相対的に目立たなくなる。これでいいか?」
「あ、ちょっと――旦那!?」
正邪の首を掴み半場無理やりと言った様子で、近くの定食屋へと足を運んだ。
「いらっしゃいませー」
店員の女性が、お盆を持ってかけてくる。
接客慣れしているが、その視線はオルドグラムをみて離さない。
ちらりと一瞬だけ、店員が正邪の顔を見る。
「だ、だんなぁ……」
「二人だ。席に案内しろ。注文は目玉焼き定食だ」
不安げな正邪を無視して、オルドグラムが口を開く。
「はい……」
何事もない様に、店員は二人を席に付けて注文を受け取ると水を置いて去っていった。
「本当に気が付かないのか?」
未だにびくびくとする正邪をみて、オルドグラムが小さく笑う。
「ふっふっふっふ……『灯台下暗し』なる諺を聞いたが実際にその通りという事よ。
我には無数の注目が集まる、そしてそのすぐそばに居る貴様にはその分集まらんという事だ。見て見ろ、水は一人分のみだ、それだけではない、今の店員はお前の分の注文を取ってすらいない。
お前が完全に、意識下から消失しているのだろ」
「マジかよ……
便利な道具もあるモンだなー」
興味深そうに正邪がオルドグラムの胸の花を眺める。
「正真正銘、普通の花みたいだけど……そんな道具もあるんすね」
正邪が以前自分の貰った、部屋の形を写し取る魔道具『偽室錠』を思い出す。
「まあな、我が生前、制作たした道具だ。現在の様に魔力のセーブの必要性が無かった為複雑な魔術プログラムが作れたが……
今は、大した物は作れん。歯がゆいことにな……
花と言えば、そうだな……面白い話がある。
むかし、我がとある人物に頼まれて制作した花の魔道具が有るのだが――」
「お待たせしました。目玉焼き定食です」
その時、オルドグラムの話を遮るように、店員が料理を机の上に置いた。
「……まぁいい、まぁいい。どうせ、出会いはしないはずだ……
『アレ』を誰かが仮に手に入れたとしても――」
数瞬考えた後、オルドグラムは正邪に自身の料理を差し出す。
「食え。我がおごろう」
「あざーす!」
すっかり今の状況に慣れたのか、物おじせずに正邪が目玉焼きに手を伸ばす。
掴んだ箸が一切の躊躇なく、白身と黄身をばらし始める。
「おお!正邪、お前はやはり黄身を残すのだな!」
「あ、え、旦那?アタシはこうやって――」
露骨に機嫌を良くしたオルドグラムの目の前で、正邪は白身の部分を米に乗せ、そこに黄身を乗せ醤油をかけて――
グっちゃ!グッチャ、ぐちゃ!
「混ぜるのか!?米に、フライドエッグを!?」
「ふらいど?なんなのか、知りませんが、アタシはこうやって全部混ぜて食うのが好きですぜ?」
「待て、全部、だと?」
信じられないと言わんばかりの、オルドグラムの目の前で正邪はさらにみそ汁のお椀を持ち上げ――
じょばじゃば……ぐっちゃ!ぐっちゅ!!
ずずずず~!!ずずず~!!
「ぷはぁ!まずまずだな!あれ、旦那?」
完全に固まったオルドグラムを見て、正邪が小首をかしげる。
「最後に、黄身を残して食う気は、ないか?」
「まさか!そんな、みみっちい食い方しませんよ。
はっはっはっは!」
笑いながら、つまようじを手にする正邪を見てオルドグラムは静かに立ち上がった。
「あれ?旦那?」
「我は……我は、みみっちくなどないわぁ!!」
机に叩きつける様に代金を残し、オルドグラムがすさまじい勢いで逃げ出した!!
「旦那ぁ!?どうしたんだ?まったく、偉大な魔術師様の考えることは、いまいちわからな――」
「お前は!?お尋ね者の妖怪!!」
「来てくれ!!妖怪がいるぞ!!」
「しまったぁ!?」
魔道具の効果が切れた正邪はあっという間に、店に偶然いた退魔師に取り押さえられた。
「まずは、里中の人間の意識を変化させて……そう、洗脳術を利用することで、黄身を残すのが暗黙の了解に――」
ぶつぶつとオルドグラムが危ないセリフを吐きながら、紙に複雑な魔法陣を書いていく。
「オルドグラムー?おーい?」
帰ってきて以来、ずっとこの調子のオルドグラムを小傘が心配そうに見る。
正直な話、心配なのはオルドグラム本人よりも、本人がやろうとしている事だが……
「ねぇ、オルドグラム!ねぇ、ってば!!」
「なんだ、小傘よ我は今忙しいのだ」
露骨にめんどくさそうな顔をして、オルドグラムが振り返る。
「たかが卵の食べ方だよ?そんな、統制する必要ないでしょ?
それとも、偉大な魔術師様は自分の価値観以外認められないのかな?」
それは半分、挑発ともとれる言葉だった。
「小傘……」
「まったく、いい年して、卵位で!
そんな事より、お昼の準備してよ、前々から興味ある言ってたお蕎麦、作ってあげるから」
小傘に言われて気が付くと、いつの間にか昼どころか夕飯のほうが近いほどの時間になっている。
どうやら、ずいぶんくだらないことで夢中になって居た様だ。
「ふっ!そうだな……ずいぶん無駄な時間を食った。
くくく……いかんな、考えがすっかりこびりついてしまったわ」
「くすす、さ、ちょっと遅めのお昼にしよ?
ぶらんちって言うんだっけ?」
「ふむ、あながち間違いではないな」
オルドグラムが魔法陣の書かれた紙を片付け立ち上がる。
「さて、この国のパスタ、楽しみにしているぞ!」
オルドグラムが楽しそうに小傘の、後ろをついていく。
「不味い……史上稀に見る不味さだ……こんな物を良くも……!!」
ちゃぶ台の向こう、小傘をにらみオルドグラムが全身から怒りと魔力を放つ!!
「いや、だから、ぱすたじゃないって、なんども……」
説明をしようとする小傘に、聞く耳などないとばかりにオルドグラムが怒りを滲ませる!!
「すべてが不味い!!スープに、サラダに、パスタ!!
良くもこんな物を!!」
「だから、これはツユと薬味と、ざるそばだって!!」
「やはり、人里の人間の意識を変える必要がある!!
魔術式展開――!!」
「やめて!!お願いだからやめてー!!」
オルドグラムの怒声と小傘の悲鳴が重なった。
個人的に目玉焼きの食べ方は、非常に細分化しています。
米が主食で、オカズが油っぽくないときは、マヨネーズ+ソースです。
オカズがコッテリしてるなら、シンプルに塩ですね。
パンなら、基本塩コショウ。
めんどくさい?食べるのは私だからいいんですよ。