忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さてさて、鏡の迷宮編はこれで終わりです。
なかなかに、癖のある道具ですが、上手くそれを生かせましたかね?


魔術と死闘と運命の出会い

すぅー……ふぅー……

 

「こっちだったか、遅れるなよ?」

無音の廊下の中、オルドグラムの足音と呼吸音だけがひどく感覚に触る中、小傘がゆっくりと彼の足取りを追う。

 

「ね、ねぇ……本当に大丈夫?」

もう何度目になるか分からない小傘の質問。

まるで迷子になった子供の様に、不安げにオルドグラムのマントの端を掴み、キョロキョロとしながら後をついていく。

 

「正直な話、あまりいい状況ではないな。

我とて、数度本を借りに来ただけの身。

到底屋敷の全容は知らん。加えて『鏡の迷宮』の効力で屋敷の左右は反転している。

更に言うと、このステージから脱出するための(コア)がどこにあるかわからん」

 

「こあ?」

小傘がいまいち理解できないというように、首をかしげる。

 

「この魔道具は言うなればただの『ゲーム』だ。

数人の魔導士や貴族などが家に集まった時、楽しむ物だ。

何度も言うが、害を与える目的はない」

気楽にかまえろ。とオルドグラムは言うが――

 

「うー!!私は散々だったんだけど!?いろんな意味で私傷ついたんだけど!?」

先ほどの自らの痴態を思い出し、小傘が目に涙を溜める。

 

 

 

 

 

「まったく……ここは、一体どこなのかしら?」

かわいらしい顔をしかめて、レミリアが一人廊下を歩く。

図書館で親友の魔法使いの道具が急に光ったと思えば、気づけば自身の屋敷とは似て非なる場所。

恐ろしいほど精巧に作られた、しかし明確に違うと分かる鏡映しの屋敷。

鏡映しの真っ赤な屋敷の、どこかの廊下にレミリアはぽつんと一人立っていた。

 

「スンスン……自分の屋敷に言うのは何だけど……不気味ね」

鼻をわずかに鳴らしてレミリアが、照明のランプを見る。

この屋敷に香りは無かった、観賞用の花も、慣れ親しんだ紅茶の茶葉も、香水瓶はただの無臭の液体に代わっていた。

そして、全く揺れ動く事の無いランプの炎。

 

「咲夜もパチェも、どこかへ居ちゃうし……

全員何処かへ飛ばされたのかしら?」

小さく考え事をしながら、レミリアが()()()()()()()()()()()()()()を歩く。

 

「あら、ここは――」

とある部屋の前、レミリアが足を止める。

そこは何度も自分が来た部屋、たとえ左右が反転しても忘れるはずのない部屋。

 

「私の部屋ね」

この現状で、自身の部屋はどうなっているのかと、好奇心が湧いてドアノブに手をかけて開くと――

 

「すぅー!すぅー!お嬢様の香りがしない!!やはりこの部屋は偽物!!

服も、お布団もお嬢様臭がしないなんて……!!

一体なんの意味が!!」

 

パタン!

 

「…………………………何だったのかしらあれ?」

自身の部屋の扉を閉めたレミリアが冷や汗を垂らす。

 

「OK……少しずつ、思いだしていきましょう?

此処は鏡世界(今、命名)の私の部屋……

確認したから、間違いはないわ……そして、さっきの部屋に居た銀髪のメイドは……」

自身のすぐそばに置いている、時を止めるメイドだ。

人間でありながら、世界すべてに作用する途方もない力をもった、彼女の従者。

 

「あの子はクールな子よ……瀟洒でなんでも小粋にこなす、優秀なメイドよ」

レミリアの中で、彼女の評価は非常に高い。

笑う事は少ないが、それでも美貌を感じさせる容姿に、命令に忠実でさりげなく気が利いて、目立つ欠点が無い優秀な存在。

 

「そう、そうよ。さっきの奇行を行ってたのは……えっと、そっくりさんよ!

或いは私が見た幻……そう!幻よ!!」

必死で自分を納得、又は誤魔化して再度自身の部屋のドアノブに手をかける。

自身でも分かるほど汗が手に浮かび、ゆっくりと音を立ててドアを開く。

 

「お嬢様、いらしていたんだすね」

ドアの向こう、優しい微笑みを称える自身の従者。

 

「ああ、咲夜か。なるほど、鏡世界でも、私は私の部屋に来ると踏んでいたのか。

やはりお前は賢いな。その甲斐あって、見事に合流できた訳だ。

パチェを見ていないか?魔法の類は、魔女に聞くのが良い」

咲夜の普通の姿をみて、妙に安心したレミリアがため息をつく。

そして思い出し方の様に、カリスマを見せるような話し方に戻る。

 

「すいませんお嬢様。未だにパチュリー様の行方は知れず、私も気が付いたときは食糧庫の中に飛ばされていたのです」

 

「食料庫……なるほど、地上部だけでなく地下にある部分も、まねているのか」

食料庫の位置から逆算して、屋敷の広さを予測していく。

 

「それと、中庭に出ようとしましたが、出られず、ほかの部屋に飛ばされました。

この部屋に入れたのも、それのおかげです」

 

「あくまで部屋のみ……外に出る入口は、ほかの部屋にランダムで飛ばされる、のか……」

咲夜の言葉に、レミリアが顎に手を当てて試案する。

自分たちはパチュリーのいる図書館から、飛ばされた。おそらくだがパチュリーも何処かに居るだろう。

 

「状況は不明、パチェの居場所も不明、規模も不明……

なるほど、()()()()()()()わね」

牙を見せ、瞳を赤く輝かせレミリアが指を鳴らした。

 

「これで、いい。これで全て終わるはずよ」

『運命を操る』それが彼女レミリア・スカーレットの能力だった。

彼女はたった今、自身に『友人と再会して無事に外に出る』という運命を作り出した。

たったこれだけで、事態は偶然を含めゆっくりとレミリアの望んだとおりの結果へと進んでいくのだ。

 

「流石です。お嬢様」

 

「ふふふ、魔術師程度の玩具で私が縛れる訳ないわ。

さ、私たちはゆっくりと、時が来るのを待ちましょうか――」

レミリアが咲夜を伴って、自室に入ろうとした時――

 

『うーっ!にがーい!!こんなのむりぃ……』

 

「ハッ!?」

突如聞こえた、声にレミリアが固まる。

その声は、確か自分の声で……

 

「お、お嬢様……」

咲夜の視線の先、部屋の姿見にレミリアの姿が映っており……

一人部屋の中、黒い液体に口を付ける姿が見える。

 

「あれは、コーヒー……?」

 

「あわわわわわ……」

その姿に慌てるレミリア!!

 

『うー、けど……コーヒー飲めるとかっこいいし……

そうよ!カリスマお嬢はブラックコーヒーなんて……うー!にがい……』

何度も果敢にコーヒーに手を伸ばしては、悶絶するレミリア。

 

「お嬢様……その、プ、くく……ほ、微笑ま、しい……です……よ?」

自身の腿をつねり必死に笑いを誤魔化す、咲夜がいた。

 

「み、見るんじゃないわよー!!」

必死になって、声をレミリアが荒げた。

その時、再度扉が開いて――

 

「レミィいる?……あ」

パチュリーが姿を見せて、鏡の映像を見て不味いものをみた、と苦い笑みを浮かべる。

 

「見ないで……見ないでぇええ!!」

再度レミリアの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

運命というのは、不思議な物である。

レミリアの敷いた『出会う』運命は、本人すら知らない部分に作用していた。

 

「貴方、だぁれ?」

金色の髪が揺れ、背中の宝石を思わせる羽が光を反射する。

 

「妖怪……いや、これは?」

廊下の真ん中、暗がりから一人の女の子が出てきた。

赤いスカートに、特徴的な羽が印象深い。

 

「私はフランだよ?ここは何処?お屋敷から急に飛ばされたんだけど?

あなたはだぁれ?」

不安げな様子で、フランが名乗る。

 

「(どうしよ、どうしよ……!)」

フランの噂を知っていた小傘はとっさに、家具の影に隠れていた。

彼女は有名だ。遠く離れた人里でも狂気を持つ吸血鬼の話は聞こえてくる。

 

「落ち着け、落ち着くのだ。ここは魔力で作られた屋敷の内部だ。

不安がることはない、いわば遊び。

身に危険が降りかかることはない」

 

「ほんと?ここお屋敷じゃないの!?やったー!」

何がうれしいのか、フランがぴょんぴょん跳ねる。

 

「ゲームなんだー、お屋敷じゃないんだー

なら……お姉様にも怒られないよね!いっぱい、いっぱい()()()()良いよね!!」

 

「なに?」

オルドグラムが聞き返すより先に、フランの瞳孔がキュッと締まった気がした。

 

「えーい!」

振るわれるのは齢10にも満たない見た目の少女の蹴り。

年齢差を加味しても、オルドグラムに傷一つ付かないであろう一撃だが――

 

ドガァサァアアアアアアン!!

 

けたたましい音と共に、オルドグラムが屋敷の壁に叩きつけられた!!

廊下を覆うような煙が上がって小傘の視界を隠す。

 

「オルドグラム!!」

小傘が思わず、飛び出てフランに見つかりそうになり、再度身を隠す。

 

「あっはっはは!もう、壊れちゃった?

けど良いわ。もう一人居るみたいだし、今度はそっちを――ぐぇ!?」

煙の中、一本の腕が伸びフランの首を捕まえる。

 

「へぇ、壊れなかったん――だ!!」

フランが再度オルドグラムを蹴り飛ばす。

再び破壊音が響いて、今度は壁の向こうの部屋まで蹴飛ばされたのだと、小傘が理解する。

 

「あ、せっかく出られたと思ったのに、またこの部屋?

どうしても、好きになれないのよね……なら、この部屋ごと……」

フランが右腕で何かをつぶすような動作をする。

その瞬間、部屋の天井が崩れ去り中に居るはずのオルドグラムと共に、部屋が崩壊した。

 

「はーい、おしまいっと!」

フランが一仕事終えた、と言わんばかりに手を叩くが――

 

「それはどうかな?」

指を鳴らすような、音と共に部屋をつぶしていた石が煙の様に霧散した。

その奥から服についた埃を払いながら、無傷のオルドグラムが姿を見せた。

 

「我を舐めるなよ……!

異形の吸血鬼よ!!」

 

「な、なんで!?」

吸血鬼、フランドール・スカーレットは自身の能力に絶対の自身を持っていた。

それもそのはず、彼女の能力は『ありとあらゆる物を破壊する』という、危険極まりない物だった。彼女が少し能力を行使すれば破壊できない物はないはず、だった。

フランが驚愕するが、オルドグラムは意にも返さない。埃が付いたのを気にするかの様に、再度服をはたく。

 

(う~、なんでこんな事に……)

廊下の影に隠れる小傘が、ちらりと二人の方を見て自問する。

さっきから、凄まじく物騒な音がして家具や壁が壊れていくがやはりオルドグラムは無傷。

フランはムキになっているが、小傘は回避のトリックはもうわかっていた。

 

(あれって……霊体化しているだけだよね?)

オルドグラムは物に触っているし、食べ物も食べるが立派な幽霊だ。

自身の本の取り付いて、霊体として外に出ている。

何かに触れる時は、それ用の魔法を使い、食べた食べ物は微量だが魔力と吸収されると教えられていた。

 

(つまりあれは、水に映った月の様な物……本体であるこれさえ有れば!)

オルドグラムの本体であるグリモワールを小傘がギュッと握る。

だが、同時に小傘は気が付いていた。

自身が感じるけだるい感覚、おそらくオルドグラムは妖力を魔力に変換して立ち回っているのだ。

だが、この調子では後どれ位、魔力が持つか分からない。

 

「一気に決めるぞ――!

小傘!気張れぇい!!」

 

「え――う、うん!!」

突如飛んできたオルドグラムの激励。

まさかそんな風に声をかけてもらえるとすら思っていなかった、小傘は気力を振り絞りグリモワールを胸に強く抱いた。

 

「へぇ――私に勝つ、つもりなんだ?」

オルドグラムの言葉に、フランの瞳孔がきゅっと閉まる。

人とは明らかに違う、魔に属する存在の目だ。

 

「無論。貴様に負ける理由など何一つ無いのだからな」

だがオルドグラムはひるまない。

そのままステッキを構えて魔法陣を展開しつつ、フランに飛び掛かる!!

 

「吸血鬼の弱点は、心臓に銀の杭を打ち込む事だそうだな」

オルドグラムの全身のベルトが、うごめき始める。

そして、ステッキを振りかぶると同時にベルトが意思を持っているかのように射出された!!

 

「な、なに!?」

大仰な魔術が来ると踏んでいたが、咄嗟の手にフランが慌てる。

そしてその隙にベルトが、フランに何重にも巻き付いていく!!

 

「こ、れ――くるし、い」

首や胸のベルトが容赦なく、呼吸器官を圧迫する。

動きが止まったのを確認して、オルドグラムは展開していた魔法陣を消して天井に向けて飛び上がる。

そしてステッキの先端をフランの心臓があるであろう場所に向けたまま、飛び降りた。

狙いはもうすでに分かり切っている。

 

「心臓!?」

自身の弱点を狙われたフランが、一瞬だけ冷や汗をかくが――

 

「あはっ、引っかかった!」

 

ブチチチチッ!!

 

オルドグラムの目の前で、ベルトが吹き飛び自由を手にした、フランが再度凶悪な目つきで笑みを浮かべる。

 

「さよなら、魔術師さん!!えーいッ!!」

フランの手に炎を纏う杖にも剣にも見える曲がった棒。《レーヴァテイン》が現れ、天井から落ちてくるオルドグラムに振り上げた!!

 

「ぐぅ!?」

ステッキをとっさに離してオルドグラムがフランの攻撃上から離れるが、傷は深い様だった。

攻撃の為、実体化してた所を見事に突かれた様だ。

ゴロゴロと床を転がり、すすけた服からわずかに煙が上がっている。

 

「オルドグラム!!」

 

「出てくるな!!」

心配する小傘をオルドグラムが叱り飛ばす。

 

「へぇ……雑魚妖怪に似合わない魔導書……

あはっ、そっか!あなたの不死身の理由はそれね?

なーんだ、私ずっと、幻覚と戦わされてたのね?

それって、それって、すっごく――()()()

フランが再度レーヴァテインを呼び出し、地面を削りながら歩いていく。

 

「それ、出して。燃やすから」

レーヴァテイン片手に、フランが小傘に迫る。

 

「あ、ああ……」

がちがちと歯が震える。

理解できる。妖怪としての差を……

うち捨てられた道具が、意思を持った自分とは違う。

妖怪として生まれ、妖怪として育ってきた混じりっ気のない、純粋な『畏れられる存在』だ。

 

「出せ!!」

 

ドォーん!

 

フランが癇癪を起す様に、地面を踏みつける。

地下が震え、パラパラと埃が落ちる。

 

「だめ……これは、絶対渡さない!!」

小傘がオルドグラムのグリモワールを抱きしめた。

 

「あっそ、なら貴女ごと――」

 

「異形の吸血鬼よ。鏡は見たことが有るか?」

レーヴァテインを振りかぶったフランの耳に、オルドグラムの声が届いた。

オルドグラムが体を大の字にして、呼吸を荒げて床に寝そべっている。

 

「鏡?あるよ。普通吸血鬼は鏡に映らないけど、屋敷の鏡はパチュリーの魔法がかかっているから、見れるよ。

それが何?」

 

「貴様の正面に鏡、背面、左右そして斜め4方向と上下。

計10枚の鏡で隙間なくお前を取り込んだ場合、何人のお前が鏡に映ると思う?」

 

「は?時間稼ぎ?そんな下手な手には乗らないよ。

どうせ、鏡が永遠に反射しあって無限に私が出てくるんでしょ?」

勝利を確信したフランが、オルドグラムに言い放った。

 

「不正解だ。答えはゼロ。鏡は光源が無ければ、像を作り出せない。

つまり鏡が何かを映す時、必ず光がある。

無論、鏡の中であるこのゲーム場も光を取り込んでいる」

 

「は?一体何を言っているの?」

オルドグラムの言葉にフランが首を傾げた。

 

「分からんか?この鏡世界は完全に外部と隔たれた訳ではないのだ。

鏡を使う都合上、外部から『光』を取り込んでいる。

つまり、お前が散々屋敷を壊したおかげで――」

 

カッ……ドサ……!

 

天井の一部が、壊れて落ちてくる。

 

「そんな、まさか……!!」

 

「日光浴は好きか?吸血鬼よ?」

オルドグラムの言葉と同時に、天井と壁の一部が壊れ、鏡面世界の外部から取り込んでくる光が容赦なくフランに降り注ぐ!!

 

「ぎ――いやぁああああ!!!やけ、焼ける!!わたしが、私が焼ける!!」

日光に焼かれたフランが、自身の部屋から逃げる!!

 

「はぁー、はぁー……よくも……よくも!!」

日光でボロボロになったフランが、廊下で小傘をにらむ。

 

「日の光なんて……大っ嫌いよ!!けど、逆転は無かったわね!」

フランがボロボロの体のまま立ち上がろうとした時――

後ろから誰かが小傘を抱き寄せる!!

 

「無論逆転するのは、ここからだ」

そう笑うオルドグラムの顔には自信が満ち溢れていた。

抱き寄せられた小傘は、思わず自身の顔が熱くなるのを感じた。

オルドグラムがステッキをふるうのと同時に、フランの片方の羽が落ちる。

 

「ッ!?」

 

「知っているか、吸血鬼よ。我は様々なエネルギーを自身の魔力へ変換する力を持っているのだ。

最近は妖力を魔力に変えるのが、上手くなってな?」

オルドグラムが切り取ったフランの羽を握ると、木の枝と宝石の様な翼が瞬く間に黒ずんで、木の様な部分は枯れていき、宝石の様な部分はひび割れ壊れていく。

それと同時に、オルドグラムには大量の魔力が込められていく。

 

「ちょ、ちょっと……?」

あまりの魔力の巨大さに、フランが冷や汗を流し引きつった笑みを浮かべる。

 

「さて、吸血鬼よ……貴様の羽はもう一本あるな?

つぎはそれを貰う。そして、もう片方の羽が再生したらそちらも貰う。

欠けた翼で我から逃げれると思うなよ?」

圧倒的なプレッシャーを放って、フランを壁際に追い詰める!!

 

「ご、ごめんなさい!!ゆるして!!もう、痛い事しないで!!」

勝てないと悟ったのか、フランが降参とばかりに両手を上げた時、両手を縛る様にベルトが絡みついた!!

 

「あ、え!?」

 

「さて、妖怪を倒すには、心を折るのが一番だったな?

小傘よ。確か近くにトイレがあったはずだ。そこから鏡を持ってきてくれ」

 

「はーい、すぐに行きまーす!」

一瞬でオルドグラムが何をしようとしているのか、気が付いた小傘は急いでトイレの鏡を外しに行った。

 

「え、なに、なに?な、なにするの!?」

数秒後、フランの泣き叫ぶ声が聞こえたのは、想像に難くない。

 

 

 

 

 

「ふぅ、ようやく出られたな……」

紅魔館を後にして、オルドグラムが歩く。

結局、エントリーの為のコアは見つからなかったが、予備の『偽室錠』で空間に再度穴をあけて、戻ってきたのだった。

散々フランを笑いものにし、円満の笑みでオルドグラムは『鏡の迷宮』から脱出した。

今頃自身の部屋で、枕相手に涙をこぼしているだろう。

 

「それにしても、よく勝てたね……?

私生きた心地しなかったんだけど」

恐る恐る、陰で様子をうかがっていた小傘が話す。

 

「フン、吸血鬼は我が活躍していた時代にもいたのを覚えている。

記憶は多少飛んでいるが、魔術の材料として良く魑魅魍魎の類を狩ったものよ」

 

「え”!?」

自慢げに話すオルドグラムに言葉に、小傘が固まった。

 

「知らぬか?龍の牙や鱗、マンドラゴラや狼男の毛皮。

いずれも多くが狩られてきたのだ」

 

「……外の世界で、妖怪がいなくなる理由が分かった気がするよ……

ねぇ、前にも言ったけど、他人を――」

 

「『傷つけるな』であろう?わかっている。だから、殺さず羞恥を味合わせるに済ませたのだ。

我とて、むやみに敵を作る気はない、『郷に入っては郷に従え』という言葉もある。

だが、今回の様にお前を傷つけるものは別だがな?」

オルドグラムが小傘の頭を優しくなでた。

 

「あ、ありがと……それと、助けてくれて……」

なんだか気恥ずかしくなった小傘は、頬を染めてうつむいた。

オルドグラムは血の様な夕焼けに小傘の顔が照らされて、気づくことは無かった。

 




咲夜は主に行き過ぎた忠誠心がある気がしますね。
しかし、本人はそれを恥と思っていないので、鏡には映らないでしょうね。
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