忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さて、今回も投稿していきましょうかね。
ゆっくりと、リクエストをつかっていきたいです。


魔術と進化と研究室

「……ん、ん~あっつい……あー……汗でベタベタす――おおぅ……」

寝苦しさで目を覚ました小傘が、自身の家の壁に昨日までなかった豪華な扉を見つけ、小さく声を出す。

今までも、起きたら部屋の中に何か道具が増えているという事はあった。

だが、扉というのは小傘にも初めてのパターンだった。

 

「今度は何したの……?」

眠い目をこすりながら、すぐそばにあるはずの魔導書を探してキョロキョロと辺りを見回すが、当然の様に件の魔導書はいない。

となれば、答えは限られてくる。

 

「この中……だよね?」

着替えをしながらも気になるのは、やはり例の扉。

十中八九どころか、ほぼ100%『彼』の仕業だろう。

 

「なら、開けてみますか!」

好奇心が刺激された小傘が、壁の扉のドアノブに手をかける。

キィと小さく音がして、ドアが開く。

 

「わぁ!」

扉の向こうを見て、小傘が目を輝かせた。

白い煙を吐く液体に、くるくると回る謎の装置、壁に掛けられた紙には図形にも計算式にも見える模様が掛かれている。

 

「わぁ!ナニコレ!!ナニコレ!!」

見たこともない道具を見て、辺りを歩く。

部屋自身は雑多な物が置かれているせいで、狭く感じるが実際は相当広い様だった。

 

「わぁー、へぇー――――あ”!?」

その中の一つ、天井から地面まで伸びる巨大なガラス管の中身を見て、小傘が声を上げる。

それはひどく見覚えのある()()()()()

 

「わ、私の傘~~~~!!」

 

『んべぇ~~~』

巨大なガラス管の中にあったのは、小傘の体の一部でもある紫の傘の部分!!

透明な水の中で、泡を受けながらゆっくりと舌を出して揺蕩っている!!

 

「わわわ、な、なんで!?どうしよ!?とりあえず出さなきゃ!!」

慌てて駆け寄る小傘が、ガラス管を手で叩くと……

 

「動くな――動くと命は無いぞ?」

 

「むぐぅ!?」

突如後ろから抱き着かれて、口を手でふさがれる。

そして首には鈍い色をしたステッキが付きつけられる!!

 

「む、誰かと思えば小傘ではないか。こんなところで何をしているのだ?」

自分が締め上げている相手に気が付き、オルドグラムがゆっくりと小傘から手を放す。

解放された小傘が、酸素を求めて激しくせき込んだ。

 

「ごっほ、ごほ!!いきなり何をするのよ……」

 

「すまない。我が研究室に不正侵入が確認されたんでな。始末しに来たのだ」

部屋の中だからなのか、何時も被っているシルクハットを付けていないオルドグラムがコンコンとステッキで地面をつつく。

 

「警告でも、確認でもなく、確定で『始末』なんだね……」

 

「無論だ。お前でなければ誰だろうと、始末していたな」

 

「冗談に聞こえないよ……」

自身の首に向けて、手刀をふるうジェスチャーをオルドグラムがして、その様子を小傘が苦笑いと共に見る。

だが、それも一瞬、小傘が再度厳しい顔をして、オルドグラムに詰め寄る。

 

「それよりも、コレどういう事よ!!」

バンバンと掌を叩きつけるのは、水で満たされたガラス管の中で泡に吹かれる自身の傘の部分だった。

 

「ああ、それか。経年劣化と、虫食いが有ったので修理してんだが……よっと」

オルドグラムがそばにあった記号の書かれたサークルに手を当てるとガラス管の中の水が吸い込まれていき、ガラスその物が地面に向かって下がっていく。

 

「ほら、おわったぞ」

オルドグラムの渡してきた傘は、壊れた部分や水が少し染みてきた部分まですっかり新品同様に修理されている。

心なしか、傘の部分もいつもより笑顔な気がする。

 

「あ、ありがと……」

勘違いで怒ってしまったことを考えて、小傘がばつが悪そうに返事を返す。

 

「何、気にするな」

そっけない態度でオルドグラムが傘を返す。

 

「ね、ねぇ。そう言えばさ、この部屋急に出てきたよね?

朝起きたらドアが、バーッて!」

自身の早とちりを誤魔化すように、小傘がこの部屋、強いては自身の部屋に現れたこの部屋への入口の扉のことを問いただす。

 

「ああ、そうだな。説明がまだだった。

だが、その前に場所を移そう」

 

パチィン!

 

オルドグラムが指を鳴らすと、一瞬にして場所が書き換わった。

次に小傘が目を開けると、そこは紅魔館の様な洋風の屋敷の一角だった。

壁の燭台に、長いテーブルにはシミ一つないクロスが敷かれ、豪奢なシャンデリアが怪しい明りを灯す。

個々のパーツは素晴らしい。しかし、なぜかこの空間に圧迫感を感じずにはいられないのはなぜだろうか?

不思議な不快感を感じながら、小傘が自動で動く椅子に腰かける。

 

「あう……?」

テーブルの先、いつの間にか着替えてシルクハットとマントを装備したオルドグラムが、蝋燭の明かりに照らされて顔に影が掛かったまま座っている。

 

「ふぅ……ようやく復旧が出来た」

 

「復旧?」

小傘の問いかけにオルドグラムがゆっくりとうなづく。

 

「そう、ここは我が生前、使ていた魔術の研究室なのだ。

何処という場所を持たず適当な空間に、上塗りするように出現させるのだ。

本来は、グリモワールの中にデータとして存在して、さっきも言ったように場所を乗っ取り作りだすのだ」

 

「っていう事は、ここオルドグラムのお家?」

話は半分も理解できていなかったが、辛うじて分かった場所から推理して小傘が口を開く。

 

「まぁ、間違いではないな……」

一瞬だけ考えて、オルドグラムが答える。

 

「ねね!!探検させてよ!!!探検!!!」

キラキラした目で小傘が、その身を乗り出す。

 

「却下だ。ここは我の研究室兼自宅兼書庫だ。

決して他人がズカズカ入ってきてよい場所ではない。

無論、お前とてな……」

鋭い視線を向けるオルドグラム。

小傘はその視線にわずかに、身じろぐ。

 

「うぐ……」

無意識に自身の首に手を当てる。

先ほど、オルドグラムに突き付けられたステッキの感覚が思い起こされた。

オルドグラムの態度には、静かだが非常に強い意志が感じられる。

 

「無論、理由はそれだけではない。素人のお前では危険な道具がどこに転がっているかわからんだろう?

何気なく触れた道具が、命を脅かすほどの危険な物である可能性も多々ある」

オルドグラムが真剣なまなざしで、そう教えてくれる。

 

「危険って……そんなの滅多にない……よね?」

確認するように、半場怯えたように小傘が尋ねる。

 

「……この部屋だけで、大小含め、軽く20はあるな」

 

「うそ!?」

驚愕の真実に小傘が立ち上がろうとしたが、足が椅子にくっついて立ち上がることが出来ない!!

どころか、椅子から背中をはがす事自体が不可能だった。

 

「う、動けな、い!?」

 

「まずはその椅子。他者を拘束する為の道具だ。

ちなみにテーブルクロスは、汚れを吸収して一か所の放出する道具だ。

無論、()()()()()()()も綺麗に掃除出来るぞ?」

 

「な――なんでそんな物騒なものばかり有るのよ!?」

椅子をガタガタと震わせながら、小傘が叫ぶ。

 

「ん?なんだ、気づいてなかったのか?

この部屋が、何の為の部屋なのか」

オルドグラムが含みのある言い方をする。

 

「え、え?あ、ドアが……」

それと同時に、小傘はこの部屋にあった閉塞感の正体を掴む。

それはこの部屋には、窓が無いという事、それどころかドアさえも無い。

これでは満足に出入りする事すらできないではないか。

 

「な、なんで!?」

その時、小傘の中で今までの出来事が連続してフラッシュバックする!!

自由に出入り出来るのはオルドグラムだけ、そうなるとこの部屋に入れるのは今回の自分の様に、()()()()()()()場合のみ。

一度座れば、満足に移動すらできなくなる椅子に、血なども綺麗に落とせるクロスに部屋の中に無数にある、危険な道具。

ここは、決して客間などではなく――

 

「ご、拷問部屋!?なんでこんなのが!??」

 

「ようやく気付いたか。ここは我に逆らったやつらを拘束し、時に尋問する為の部屋だ」

 

「なんて所に連れてくるのよ!!」

見た目だけは豪奢な部屋な為、その裏切られたと思う感覚は大きかった。

 

「ここが一番、見た目が良いのだ。

ちなみにあのシャンデリアは自在に相手の頭上に落下させられる道具だ。

ギロチンというものを参考にした」

 

「いやぁあああ!!!離して!!!はーなーしーてー!!!」

拘束された小傘が、必死にガタガタと椅子を揺り動かす。

 

「はっはっはっは!安心しろ。我がお前に危害を加える事などないわ」

たとえその言葉が真実であろうが、居心地が悪い事には違いは無い。

 

「ほら、もう良いだろう」

再度オルドグラムが指を鳴らすと、小傘の手足が椅子から離れる。

 

「はぁ……自由自在に出せる場所に、なんでこんな所を……」

 

「ふん、我ほどの魔術師になると、敵も多くてな。

このような部屋が必要になるのだ。

ちなみに他の部屋は――」

こまったこまったと、やや演技かかった口調とポーズで話す。

 

「そろそろ、かえっていい?私もう疲れちゃった……」

 

「なら、椅子に座るが良い!!」

オルドグラムの言葉と共に、椅子が小傘を無理やり座らせる。

流れるような拘束の形に、小傘が諦めの境地に達する。

 

「ああ……私はとんでもない物に手を出してしまったんだね……

最悪の魔法使いの復活が私のせいで……」

遠い顔をして、小傘が黄昏る。

 

「ふぅ、長かった…実に長かったぞ?

妖力を魔力に変換するシステムの完成が、遅れていたらどうなっていたか。

いや、あのフランドールとかいう吸血鬼の羽が手に入ったのが大きかったな。

巨大な魔力が生成出来た。だが――」

 

「?」

小傘が、疑問を口に出そうとした瞬間、再び部屋の様子が変わる。

風景が溶ける様に消えていき、残ったのは小傘の家の部屋の中。

 

「あれ?」

いつの間にか再度自由になっていた、小傘が周囲を見回す。

 

「とりあえず、あの部屋は置いておこう。残念な事に維持するにはまだまだ魔力が足りんからな。それに――

今は、お前の手助けをするのが、先約だからな」

そう言って、オルドグラムはさっきの小傘の傘を差しだしてくる。

 

「えっと、これは……」

 

「この傘の経年劣化は酷くてな、道具の特性上仕方ないとはいえ、修理の為に魔力処理で直した。

だが、その為には、どうしてもあのラボを呼び出す必要があったのだ」

先ほど見せた小傘の一部、新品同様の姿を見て……

 

「まさかだけど……これ、直す為に、あんな大がかりな事したの?」

 

「そうだが?」

オルドグラムが勝手に急須でお茶を入れて、飲み始める。

その後ろで、今朝がた出現していた扉にゆっくりひびが入り崩れていく。

 

「うそ……」

小傘が傘を見ながら、茫然とする。

オルドグラム、いや、魔女や魔法使いにとって魔力とは自身の技能を行使するうえで必要最低限の物。

小傘はオルドグラムが、その魔力の少なさに四苦八苦しているのは知っていた。

そして、前回フランドールとの戦いで漸くまとまった魔力を手にした事も。

 

「私を治すために使ったの?だって、完全に壊れたわけじゃ……」

 

「何度も言わせるな。我はお前に協力するといったのだ。

自身の半身が壊れていくのは、好ましい事ではないであろう?

――む?」

気が付けば小傘はオルドグラムに抱き着いていた。

 

「何をする、離せ。この国の夏はただでさえ熱いのだ」

オルドグラムが言い聞かせるように話すが、小傘は尚もオルドグラムから離れない。

そのままたっぷり3分ほどだろうか?

ようやく小傘が、オルドグラムから離れた。

 

「ありがとう、オルドグラム!さっきは酷い事言ってごめんね?

私、すっかり見直しちゃった!

待ってて、今日の夕飯はごちそう作るから」

早口でそう言って、小傘は財布も持たずに出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

その日の夜――

 

「ふむ……」

星見盤を眺めながら、オルドグラムは屋根の上から空を見上げていた。

 

「『ありがとう』か……我の記憶は大きく欠けている為、正確な事は分からんが……

はて、そのような言葉、言われたことが有ったかな?」

自身の過去を思い出すオルドグラム。

罵声や怒号、そして倒れふす相手の断末魔ならば、いくらでも思い出せる。

だが、礼を言われた記憶は一切なかった。

 

「最悪の魔法使いも、ずいぶん丸くなった物だ」

手の中の星見盤を弄びながら、オルドグラムは自身の視線を隠すように帽子を深くかぶった。

もしも、もしも自分がこの世界で平和に過ごせるなら。

争う必要も奪う必要も無いのなら――

 

「我は、新しい生き方を見つけるべきなのかもしれん……」

星見盤を消すと、オルドグラムは屋根から飛び降りた。

そして、自身を待つ家の明かりへと歩を進めた。

 

 

 

 

 

人は変わる。時の変化と共に。だが、過去は変わらない。

過去から目覚めた道具たちも、()()()()()()()()

 

キィ……キィ……

 

何処か錆びた歯車が回るような音を立て、一つのランプが森の中を浮かんでいた。

登頂部には丸い鉄の輪が持ち手としてあり、4方向に広がる屋根に、ガラスで覆われた金属皿の台には紫の炎が揺らめいている。

 

「う……あ……」

そのランプに照らされて一人の男が、森の中を歩いていく。

精機の無い顔、おぼつかない足取り、何度転び、何度顔を地面に打ち付けようとも、なおも明かりを求める虫の様に歩いてく。

 

だが、それも限界の様だ。

 

ドさっ!

 

男がむなしく倒れると、明かりが空中で停止する。

数秒の静寂の後、ランプが男を見捨てる様に、姿を消した。

暗い中で、明かりを失った男がゆっくりと意識を捨てていく。

その男が次に目覚めることは、もうなかった。




妖怪は変化を捨てた事により、長寿を得るそうです。
変わらないという事は、壊れないという事ですよね。

けど、弱い妖怪はずっと弱いままなんでしょうかね?
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