今回は以前募集した道具の一つが出てきますよ。
「ふむ……ふむ……ふむ……」
朝食の準備された机の上、オルドグラムが文々。新聞を広げ小さくうなっていた。
時折ちらりと、視線を新聞から外し小傘を見るが、視線が合いそうになるとすぐに目をそらしてしまう。
「ねー、オルドグラムー、ごはんだよー?」
「断る。我は霊体。よって食料は不要だ」
新聞を盾の様にしながら、ぴしゃりと小傘に言い放った。
「けど、食べ物から魔力を作ってるんでしょ?かろりー?ねつりょう?だっけ?を魔力にしてるんだっけ?
だから、食べなよ」
小傘の言葉に、オルドグラムが新聞を畳む。
「我は、そのような物は絶対に口にはせん!!」
オルドグラムが指をさすのは、小傘の茶碗。
そしてその茶碗の上で、糸を引く納豆。
「いや、おいしーんだよー?ねばねばしてー」
「いぃいい!!糸を引いておるではないか!?
どう見ても、店の店主に騙されたに違いない!!貴様が妖怪という事で、腐敗した豆を渡したに違いないぞ!!」
「ンなこと無いって、私かれこれ数十年たべてるけど、お腹壊したことないよ?」
納豆をお変わりしながら、小傘が笑みを浮かべる。
傍若無人、唯我独尊、大胆不敵、尊大で、傲慢な魔術師であるオルドグラム。
そんな彼の弱点ともいえる場所を見つけて、小傘は上機嫌だった。
「ほらほら~」
彼の目の前で、見せつける様に納豆を食べて見せる。
「むぅん……そのような物を好む理由が知れん……」
数時間後……
「う、うーん……お腹いたい……うーん。
オルドグラム、胃腸薬だして……」
「そんなものはない!!明らかに貴様の食べすぎだ。
納豆とやらが好きなのはわかるが、分量を考えろ」
未だに納豆のにおいのする小傘に近づきたくないオルドグラムが、距離を開けて話す。
「う~ん……実の事言うとあんまり、納豆も好きじゃないんだよね……あれば食べる程度?」
「貴様……!なるほど、先ほどまでの行為は我に対する嫌がらせという訳か……
ほう……?さて、どうしてくれようか?今の我でも、食べすぎて腹痛を起こす間抜けな妖怪に手を下すのは容易いぞ?」
ゴゴゴ……と後ろからオーラを出しながらオルドグラムが両手の指をぽきぽき鳴らす。
「ご、ごめんなさーい!!」
とりあえず小傘は謝る事にした。
「まったく、この妖怪は……」
「うう……調子のりました、ごめんなさい」
結局出してくれたクスリを飲んで小傘がうなだれる。
「さて、と……心配する事ではなかったな……」
何処か安堵した様な顔をして、オルドグラムが新聞を片付ける。
「ん?何のこと?」
「最近、里の外でおかしな現象が流行っているのだ。
夜間の外出に、意識の混濁、多くの人間はまだ目を覚ましていないらしい」
オルドグラムが新聞を小傘に向かって差し出してくる。
「えっと……なになに……
『早くも第3の犠牲者、依然深まる謎』?」
新聞のセンセーショナルな見出しに、小傘が興味を引かれる。
「『近日人里の外での意識不明事件が相次いでいる。多くの人間が夜何らかの理由で出かけ、何を思ったかそのまま危険な夜の里の外にまで出かけ、そこで意識を失う事件が相次いでいる。不思議なのは、明かりをともす道具も持たず、暗闇を月あかりだけで進んできた事になる。
何の力も持たない人間にとって、まさに「私を食べて」と夜の妖怪に言っているような物で、実際に分かっているだけでも3人の犠牲者が妖怪のお腹に収まっている。
夜食を楽しみにしているのは、人間だけではなく、妖怪も同じようだ』だって!」
小傘が読んだ内容を直接口にだす。
「小傘よ。一つ聞きたいのだが、夜の里の外はそんなに危険なのか?」
「あったりまえだよ!!っていうか、基本安全なのは里の中だけで、外は妖怪が自由に人を採って良い事になっているんだよ?特に夜は妖怪が活発化するから、絶対に出ないってのが常識なんだから!」
語気を強めて、小傘がオルドグラムに説明をする。
「ほう……我は良く夜の散歩に行くが、身の危険を感じた事は無いぞ?」
「それは、オルドグラムの運が良かっただけ!
良い?まだ獣の様な妖怪は良いよ?けど、人間の姿形を持ったのは危ないんだから!
小さな女の子に化けて、すーっと近づいて……」
語っているウチになんだか興が乗ってきた小傘、怪談話を聞かせる様に声色がだんだん恐ろしいものへと変わっていき……
「『あなたは食べても良い人間?』と問うのだろう?」
「ありゃ、オチ知ってたの?っていうか、知り合い?」
「うむ、依然我の前に、無力な子供を装って近づいてきたのでな……
軽く
口調の一部にやけに重みを入れてオルドグラムが話す。
「お、おう……」
小傘はその『可愛がる』の部分は自身の精神衛生的に聞かない方が良いなと、理解して口をつぐんだ。
「話を戻そうか。では幻想郷の者は皆、夜間に外に出る事の危険性を知っているのだな?」
じっと小傘に視線を投げかけるオルドグラム。
何時になく真剣な目つきに、小傘が小さく唾を飲み込んだ。
「うん、そうだよ。普通はどんなことが有っても、命が惜しければ里の外には出ないよ。っていうか、灯すら持たないなんて、単純に自殺行為……
だからこれは本来あり得ない事件なんだよ」
小傘の真剣な説明を聞いて、オルドグラムが黙りこくった。
腕を組み、顎に手を当て小さく深呼吸をする。
「ふむむ……そうまでして出る理由……逆はどうだ?
妖怪が外から、何らかの方法で人間を外に呼びつけたというのは?」
「多分だけど、無いよ。人里はいわば中立地帯。
勝手に里で人を襲えば、巫女が退治しにくるから。
そこまで知能が回らないやつなら、もう見つかって巫女に倒されているはずだよ」
小傘のここまでの説明を聞いて、オルドグラムは凡そのめぼしを付けた。
「そうか、妖怪の関与しない事件……ならば、我の魔道具か」
「!?」
オルドグラムの言葉を聞いた小傘の体に、緊張が走る。
記憶にあるのは、数日前の紅魔館での出来事。
オルドグラムの道具は、あの広大な屋敷を丸々コピーして、更には他者のこころの内を読むなんて事までやってのけた。
もし、そんな力を持つ道具が、悪意ある誰かの手に渡ったのなら……
「調査にでる必要がある、な」
オルドグラムが立ち上がると、一瞬で服装が変わる。
黒いシャツにズボン、そこに無数の赤いベルトが巻き付き、内が赤、外が黒のマントに、同じくベルトが巻かれたシルクハット、腰にはシルバーのステッキに、右目にモノクルが装着される。
文句なしのオルドグラムの全装備だ。
「出かけてくる、今日の夕飯はいらん……」
「待って!!」
壁をすり抜けようとするオルドグラムを小傘が、マントを掴んで製紙する。
「なんだ?」
「一人で行かせるなんて、出来ないよ!!だって、危ないんでしょ?それに……」
小傘は自身の部屋の隅にある、傘を見た。先日オルドグラムが直したそれは、大まかな魔術を使っての事らしい。
つまり、強がっているが、今のオルドグラムにどれほどの魔力があるか分からない。
「お前を守っての戦闘は、不可能だ。場合にも寄るがな?」
「いいよ!私なんて守んなくても!自分の身は自分で守るから!!」
小傘の強い意志にオルドグラムが気おされる。
どう見ても強い決心をしている様で、何を言ってもついてくるのは譲らない気だろう。
「……ふむ……言いにくいのだが……小傘よ、貴様は勘違いしてるぞ?」
「勘違い?」
オルドグラムの言葉に、小傘が首をかしげる。
「この装備は、偶には体を動かそうと呼び出したものだ。
今回の探索に必要なのは……これだ」
オルドグラムが自身の目に付けていたモノクルを外して小傘に渡す。
「えっと、コレだけ?」
「コレだけだ」
自身の手の中のモノクルを見るこがさ、丸いレンズに金色の淵、そしえ涙状になった飾りが垂れている。
「これはプログラム『見破る』が施された魔道具だ。
魔術、霊力、妖力、龍脈、温度、長さ、重さ様々な物の情報を見ることが出来る道具だ」
そう言って、小傘の目にモノクルを装備させる。
「え、ええ、?」
「ほれ」
オルドグラムが指先を立てると、白い筋が見えて星の形を作る。
小傘が右目をつぶり、左目で見ると何もない。
「それでだ。今回の魔道具は恐らく『
我の作った道具の中で探索することに、長けた道具でな。ランプ……この国でいう明かりを取るための道具で、中身の炎が本体なのだ。
使用プログラムは『探索』でな、持ち主の求める物を自動的に――」
「ちょっと、待って待って!!」
オルドグラムの説明に、小傘が待ったをかける。
「なんだ?」
「えっと、今回の事件って、かなり大がかりな事件だよね?
原因不明で、犠牲者も出て……新聞も取り上げてるし、多分巫女もそろそろ動き出す頃、何だけど……コレ一個で解決するの?」
小傘が自分の目に付けたモノクルを指さす。
「するぞ?『彷徨灯』が特殊なのは、その隠匿性だ。
使用者をトランス状態にして、精神力等の力を使用して、それぞれの目的地まで連れていく。
だが、使用者が気絶などで倒れると、他の人間のいる場所にワープしてしまうのだ。
使用者が明かりもなく、気絶したのはそのためだろう。
だが、そのモノクルには魔力を察知する機能がある。今回は『彷徨灯』にチューンナップしたため、半日もかければ見つかるだろう」
たのむぞ?と言いながらオルドグラムが小傘の肩に手を置く。
「……あ、うん?私、行ってくればいいんだよね?」
「ああ、そうだ。『彷徨灯』に火を付けなければ、問題は無い。
終わったら、机の上に置いておいてくれ」
手早く状況を教えると、オルドグラムは今度こそ出かけてしまった。
「とりあえず……行こうかな……」
場合によっては、大変な事が起きるだろうと、気合を入れていた小傘だが、ものの見事に空回りして、肩透かしを食ったような気分だ。
「なんだかなぁ……」
どうにも釈然としない表情で、モノクルを手に小傘が歩き出した。
「たのむぞー」
オルドグラムは小傘を見送ったあと、急激に走り出した。
そして、日暮れ前にと人里を出て空中に何かを走り書きし始める。
「我としたことが、手間取ったな。
小傘め、おかしなところでアイツは勘が良いのだ」
指をふるうと現れるのは、気絶した人間が発見されたポイント。
それぞれバラバラだが、条件を変えると、見え方が変わってくる。
「今回必要なのは、情報だ。
まず、人里から直接出た者」
オルドグラムの読んでいた新聞には、詳しい事件の概要がかかれていた。
そして、その犠牲者のおおよその発見場所も。
名前と場所を丸く円で過去み、人里から直接線結ぶ。
皆人里から同じ方へ向かているのが分かる。
「次は、里の外から」
今度は里の外から、気絶した地点へ向かったと思われる者達。
例えば畑、例えば釣りなど、オルドグラムはその人物の家族や近い人物から、前もって情報を集めていた。
「釣り人……そして、こっちは里の外の畑……」
それらも里の時の様に、もともといた場所の発見された場所を線で結んでいく。
「『彷徨灯』は力ある物の所へ誘う、いわば探知機の様な道具……
この複数の線を結べば……」
オルドグラムの目の前、複数の線はとある一点で交わった。
「ここだ、急ぐか!!」
オルドグラムが少ない魔力に、鞭を撃って走る。
本人は気が付いていないが、その先は妖怪の山の近くに来ていた。
「ん!?貴様は……!!」
オルドグラムが目の前に現れた人物を見て目を丸くする。
目の前の人物は、人間ではなかった。黒い羽に人里では見た事も無い服装。
「天狗……か?」
噂には聞いていた種族を思い浮かべるが、その天狗は無反応のまま地面を手で掘っている。
傍らには、小傘に探しに行かせた『彷徨灯』があった。
「くっ、人間だけではないという事か、明かりを必要とするのは」
そして心の中で、妖怪なら人の様に気絶することなく、ここにたどり着けるだろうと、密かに納得していた。
失念、圧倒的な失念。
「くそ……!我としたことが、心にまで脂肪を付けたらしいな……
天狗!!その道具を渡してもらうぞ!!」
オルドグラムが飛びかかた時、天狗の羽が羽ばたき、オルドグラムを吹き飛ばした!!
「あげ、ませんよ……これは、スクープです……えへへ、こんな道具が有るなんて……私知りませんでしたよぉ……」
正気を失った濁った瞳をこちらに向けて、天狗が笑う。
カリッ!
「あ、み~っつけた!」
天狗の指先が、何かを触る。
それは箱根細工の様な、ち密な装飾のされた箱。
泥で汚れているが、オルドグラムがその道具を見間違えるはずはなかった。
「『魍魎獄』っ!!触るな!!それは――」
オルドグラムが叫ぶがもう遅かった。
天狗は、その箱をわずかに指で開いてしまった!!
「な、なに、なに、何なんですか!?」
その瞬間、箱の中から黒いナニカが吹きだした!!そのショックか、天狗が一瞬だけ正気を取り戻す。
それは霧にも、靄にも、煙にも見える危険な物体それは……
「に、人間の魂……です、か!?」
天狗が浮かび上がり、その体に無数の人の魂。
閉じ込められ封印された、長い年月をかけて熟成された、人の怨嗟の地獄が天狗に取り付いた。
「いかん!!この道具だけは、破壊しなくて――」
「むぼうだ」
天狗が再度羽ばたいた。
そしてオルドグラムも再度飛ばされる。
「じゆうだ、わたしは、おれは、われは、じゆうだ」
無数の悪霊の顔が背中越しに浮かび上がり、その悪意に飲まれた天狗は何処かへ逃げ去ってしまった。
「くそう……!!これが、これが妖怪か!!」
オルドグラムはこの日初めて、妖怪の恐ろしさを目の当たりにした。
プログラム『誘引』
道具名『彷徨灯』(ほうこうとう)
ランプが本体に見せかけて中の灯火が本体の魔法具。
強い力の道具のもとへ運んでくれるが、使用者の魔力や生命力を吸い取るいわくつきの道具。
何の力もない、人間が使っても途中で気絶して力尽きるだけだが、妖怪なら可能なようだ。